海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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お気に入り300件突破ありがとございます。きづいたら捕虜編が航海編より長くなってて、タイトル詐欺じゃないかとか思い始めたメーメルです。

では、どうぞ。


第七十一話 独房明け

帝国暦453年 8月18日 ジャムシード第1捕虜収容所

フォン・オイレンブルク中佐

 

「悪かったな、大尉。私の身代わりの独房暮らしはどうだった?」

 

日光の制限された部屋で青白い顔になってしまった彼を出迎える。髭も伸び放題で一気に10歳くらいは歳をとったように見えるがその奥の目はまだまだ若々しい輝きを失ってはいない。

 

「硬い寝床が辛かったくらいです。…昔、確か西暦時代の東洋辺りには硬いベッドに寝ると闘志が湧いてくるなんて意味の言葉があった気がしますが、昔の人間は的を得た事をいうもので、その通りですね。次はどうしますか。」

 

「そう、独房組が全員出てきたら言おうと思っていたんだが、所長としては我々にもっと『捕虜らしく』生活して欲しいんだそうだ。」

 

「所長の冗談にしては余り出来が良いとは言えない提案ですね。これまでも随分そうしてきた気がしますが?」

 

「それで不足だと言うんだから仕方ないだろう。まぁ人間というのは満ち足りるという事を知らない生物であることだし、こっちも彼の期待に応えてやるのは嫌って話でもないからな。ただ、今後そうするにあたっての問題が1つ2つあるんだ。」

 

大尉に警備体制が強化されたこと、結果としてしばらくトンネルが掘れていないこと、おまけに外出が禁止されたために物資も情報も前のようにはいかなくなりつつあること、1ヶ月前の一件から悪化した状況を説明する。

 

「…所長の方も中々仕事が早いですね。冗談の才能の方を実務に振り分け直したんですか。ずいぶん器用な真似ができるもので。」

 

「しかしな、面白い事に嫌なことが起こるとその分いい事も起こるんだな、これ、読んでみたまえ。」

 

そう言ってとっておきの朗報を差し出す。数日前に収容所に生活物資やらを納入している業者の男が部下に渡したものだが、懐かしさを感じると共に自分の運命の浮き沈みが怖くなってくるような代物。

 

「…艦長さんへ?…セネット…ああ!あの酒で買収したセネット氏ですか!?」

 

「少し声が大きいぞ。そう、あのセネット氏だ。内容もなかなかいいものだぞ。曰く、『あの冒険行のおかげで名も売れた、しかも保険も下りて社員ともども五体満足、非常に助かっているとさ。どうやらSPUの連中にも我々がジャムシードでこういう境遇にあるって事は伝わっているらしいし、最後の所を見たまえ。『何か不自由なことがあれば言ってもらえれば…』とある。」

 

「外出が禁止されたと聞きましたが、つまり収容所から出て行く代わりに今度は外部の方から接触があったという訳ですね?」

 

「その通り、連絡手法は納入業者の…まだ大尉は会っていなかったな。多分金を貰ってやってるんだろうが、若い男を通してだから一度に多くの情報や物資を手に入れる、というのは難しいが、それでも完全に…そうだな、いわば補給路が断たれたとは言えない状況になった。」

 

「それは嬉しいですね。やはり他人には親切にしておいて損はないというのは至言と言えます。」

 

「そう、それでさっき話した問題の一つは部分的な解決が見られたと言ってもいいだろう。あとは監視の強化の件だが、独房組が出てきたからこっちの解決策のほうも本格始動だ。」

 

「何かいい作戦が?」

 

「作戦と言うほどのことでもないがな、言ってみれば所長の願いを叶えてやるのさ。」

 

ーーーーー

翌日 朝

A・ビュコック少佐

 

『やっと通ったよ。これで少しは楽になるだろう。』

 

『人員増加の件ですね。良かった、もう眠たい夜に無理矢理カフェインの力を借りる日々とはおさらばできるんですね。』

 

『だからといって気を抜くんじゃないぞ。今まで子爵やら他の捕虜が大人しかったのは反省しているからじゃない、独房に主要メンバーが隔離されていて反抗するにしても統一行動が上手く取れなかったからだ。それで昨日が釈放日、せめて増援が一人前になれるまでは静かに…』

 

言いかけた所で外から朝の点呼に出かけて行った兵が拡声器越しに怒鳴る声がする。

 

『できないようだな。…まぁいい、向こうがその気ならこっちだって鬼になってやるからな…』

 

帽子を被って外に出てみると、小雨が降る中、軍用合羽を着たロングレイが気づいて敬礼してくる。彼と同僚以外に人影がない所を見るに点呼拒否か。まぁスタンダードな反抗といった奴だな。

 

『出てこないのか?士官棟の連中も?』

 

『ええ、今見たら窓もシーツで塞いであります。まさか全員寝坊してるって結末はないと思いますが。』

 

『もしそうだったら笑い話だがな。…ロングレイ、君はここで待機して呼びつつけろ。私は首魁と談判だ。』

 

見れば、士官棟の方も窓が同じようにして塞がれている。カーテンを取り上げたからと言って今更プライバシーを気にする連中でもないだろうに、よほどそれが気に食わないとみえる。

 

『子爵!何のマネです!?もう起きる時間ですよ!』

 

ドアを叩けば、中からすぐに返答がある。

 

『やぁ、所長!あまり大きな声を立てないでもらえるかな?』

 

『好きで大声を出してる訳じゃなくてですね。正当な理由なく点呼に応じないのは規則違反となる事はとうに知っていると思っていましたが!?』

 

『何を常識的な事を言っているんだ、それくらいのことは分かっているさ。』

 

『そうですか、了解してるならもう一度通達しますがね、今は6時を12分も回ってしまっていますよ!』

 

『ほぉ、6時12分ね。…じゃあ、ご苦労様。』

 

『は?なんです?』

 

『老化現象の第一歩は人の話が聞けなくなる事と固有名詞を覚えられなくなる事から始まると言うな。気をつけたまえよ。ご苦労様。』

 

『子爵!ふざけるのはやめていただきたい!』

 

『なんだ、わざわざ時報に所長自ら出張ってきたと思ったのに違うのか。』

 

『ええ違いますとも!これ以上出てこないようならドアを破らざるを得ませんよ!そうすればカーテンなしよりよほどきつい生活になるでしょうね!』

 

『あぁ、分かった分かった、いつからそうすぐ手が出るようになったんだ?いや、我々が出て行かないのは君たちの事を思って、そう、善意からくる行動なんだよ。』

 

『善意から規則違反をするなんて事件は聞いた事がありませんがね。』

 

『じゃあ今日は君にとって新しい知見が得られる日だ。良かったな。それで理由はな、どうも独房から帰ってきた連中の調子が悪いんだ、それに加えてこの健康体でも何かすると風邪をひきそうな天気に防疫という言葉を知らないやつが作ったんだろうという収容棟だ。つまり…?』

 

『捕虜が出てこない理由は収容所に病気が蔓延するのを防ぐためだと?』

 

『大正解、いわば自主隔離だ。』

 

『ではその心配はご無用、我々は捕虜から離れて点呼を取るので、5分後にはいつも通りに整列しておくように。』

 

『…手厳しいね。結構、ドアをなくされて風邪が悪化しても困るしな。』

 

ーーーーー

 

そのあと、子爵が士官棟から出てきたのを見るや他の捕虜たちも出てきて点呼に応じ始めた。この様子では閉め切っているようで壁一枚向こうでこっちの様子をじっくり見ていたに違いない。さらに気になる事には独房暮らしで青白い顔をした奴はいても、風邪をこじらせて外に1歩も出られないなんていう雰囲気の奴が1人もいなかったことだ。

 

『…点呼拒否の目的は何かな?』

 

『ただ単に独房に入れられたのが気に食わなかったとかですかね?』

 

『うん、それもあるか。「あれくらいの罰じゃ屈さない」と言いたいのか、それとも「もっとやってみろ」という意味の挑発か。どちらにしろ悪い傾向だな。』

 

『また何人か独房行きを出しますか?』

 

『あまり罰を濫発しすぎてそれ自体の価値が霞むのもな…とりあえずしばらく今日みたいな事があるかもしれないが、乗せられないように気をつける事。裏でまたトンネルでも掘られたら敵わないからな。』

 

退屈はしない、それはいいが一つ間違えればゲームオーバーというのも中々に精神にくるものだ。さて、新人の育成計画でも練るか。

 

続く

 

 




大尉の言ってた固い寝床うんぬんは臥薪嘗胆ってことを言いたかったらしいです。あの時代になっても東洋とか西洋とかのアイデンティティが残ってるの考えたらすごいですよね。

今回もご意見ご感想お待ちしております。
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