海賊子爵の航海日誌   作:メーメル

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お待たせしました、ギリギリ今日中です。

では、どうぞ。


第七十二話 なりすまして

宇宙暦762年8月25日 ジャムシード宇宙港

W・バクスター

 

欠航に欠航を重ねてやっとジャムシードに着いた。ロイドの船舶保険料が上がったからと言ってかなりの料金を取られたが、それでも艦長さんに会えるのなら痒いくらいのものだ。

 

『ははぁ、ジャムシードでは傘が土産物屋に並ぶって話は本当なんですね。カドルナ氏みたいな人もいるし、半分依存症みたいなもんなんでしょうな。』

 

『カーター、何も君までついて来なくても良かったんだぞ。元はと言えば私が手紙を失くしたのに理由がある訳だし…』

 

『一応私だってSPUの会員ですからね、半分観光旅行とSPUの親睦会も兼ねてると考えればいいじゃないですか。艦長さんだって怒ったりはしないでしょうし。』

 

『非難されないからといって謝らないままなのは好きじゃないんだ。筋は通さなくちゃいけないからな。』

 

そう言ってゲートをくぐれば、『歓迎 SPU初代代表』と大きく書かれたプラカードが見える。…歓迎されるのはいいが、隔離状態にあるらしい艦長さんにこっそり会いにきた私を目立たせるのはどうなんだ?

 

『おぉ!バクスターさん!久しぶりです!雨と湿気と失敗した惑星開発事業の残滓の地へようこそ!』

 

『セネット船長、大丈夫なんですか?収容所は警備が厳しくなったとか言ってましたが、それなのにこんな目立って…』

 

『…?あぁ!軍の連中ですか?大丈夫、昔の人はいいことを言ったもんですなぁ、『あちらを立てればこちらが立たず』という訳でね、新顔やらホームガードから監視要員を募ったりした割に強化されたのは捕虜の動きの観察だけ、まさか外から我々が何やら興味深いことをしようと思ってるとはつゆほども考えていない感じですな。』

 

ここまで言うからにはこの人も何か考えがあるんだろう。まぁ、『私にかかれば艦長さんに一目会うどころか一夜を過ごす事だって…』とまでの自信満々の発言に釣られてやってきた私も私だ。今更この人の方針に文句は言えない。

 

『それにしても、立ち話は腰と膝に悪いですから、事務所へご招待しましょう。どうも宇宙港はうるさくていけない。』

 

ーーーーー

 

連れてこられたのは中心街らしい場所から少しずれた位置にあるビルの中。さすがに恒星間航行のできる採掘船を持っていただけあって雑居ビルの一室という訳ではないようだ。名前からして自社ビルなんだろうし、実はこの人、かなりの身代があるんじゃないだろうか。

 

『狭い所ですがね、ドラークのろくでなしがいなければ中心街に御殿を持てたんだが…!』

 

ゾンタークスキントにいる時からそうだったが、そのドラーク氏とやらの話題になるといつも本題から脱線していく。人間同士の関係でここまで嫌いになれるのはそうそういないんじゃないかと感心するくらいだ。とはいえ、延々と間を知らない他人の悪口を聞かされ続ける訳にもいかない。

 

『それで船長、外部からの連絡も限られてるのにどうやって収容所に入るつもりなんです?』

 

『それはもちろん人類が存在する以上無くなることはないであろう悪徳の力を拝借するんですな、つまりは袖の下…』

 

参った、確かに手段を選んでいる場合ではないかも知れないが、商売を生業としている身としては賄賂で利得なり利益なりを得るのはいい気分のものじゃない。何か他の手段はないものか…

 

『と、こういうような胸くそ悪いこと言うのはドラークの方でしてな、何でもちょっと前に収容所の、あー、何とかって言う所長にそれをやろうとして叩き出されたとか!だからその作戦はもとより使えないんです。』

 

『それは…では、どうやって?』

 

『収容所、というか軍が管理する施設というのは部外者に関してはチェックというか、いやにしっかりしてるもんなんですが、これが身内だったり関係者だったりすると途端に甘くなるもんでしてね、今回はその習性を利用させてもらおうかと。』

 

ーーーーー

翌日 

 

『本当にバレないんですか?こういう視察とかいうのは事前に連絡やらがあって…』

 

『大丈夫大丈夫、人間の判断力と言うのは見た目が8割ですからな、白衣を着て、医療カバンを持って、さらに背中に『巻きつき蛇』を背負っていれば完璧に同盟赤杖人道社の関係者にしか見られません。それに自己紹介をするのは本物の社員ですし、我々一般人は彼の後ろについて行くだけ、もしそれが咎められたら、向こうが勝手に勘違いしてしまったって事で一つ。』

 

賄賂と身分詐称、どっちがマシな選択肢か考えながら車に揺られる。確かに向こうが勝手に関係者だと思い込んでくれるのならいいのか…?いや、なんだかそれで敗訴した裁判があった気もするが…

 

『あれが収容所です。まさか別れてからこんな近くにいるとは思いませんでした。』

 

『多分軍はゲストの多数がジャムシード出身ってことは考えてなかったんでしょうね。』

 

『だからこそこうして旧友と再会もできますから、間の悪さには感謝ですな。おっと、態度は堂々と、お願いしますよ。』

 

正門での少しの問答の後、若い士官が出てきて渋々と言った感じで門が開けられた。やはり人間はその印象で物事を判断するという事なんだろう。

 

『抜き打ち検査といいましてもね、うちは軍法に則った捕虜の扱いをしているって広報でも…』

 

『何でも裏付けというのは必要ですからね。では食事から見させてもらいましょう。…あの離れた建物は?』

 

『あそこは士官棟…あー、上級者の住んでいる建物です。どうぞ。』

 

ーーーーー

士官棟

フォン・オイレンブルク中佐

 

…どうも急に来る客というのにはあまり良い思い出がない。なんだあの団体は?

 

『白衣ですね、医者?でしょうか。』

 

『医者ね…仮病を使ったから健康診断でもするつもりかな。』

 

と、団体に先んじてヴィドック君が部屋に入って来る。彼も自分が責任者のときにばかり妙な客を受け入れるとは、可哀想な星の下に生まれたんだろうな。

 

『子爵、あれは…帝国ではなんていうか知りませんが、赤杖社と言ってですね、その…収容所に人道上の問題点がないかとかを視察にくる集団です。ですから、くれぐれもおかしな事は言わないように頼みますよ。』

 

『おかしな事?…分かった、ジョークのセンスはしばし封印するとしよう。』

 

『あのですね、本当にああいう集団は面倒くさいんですよ、助けると思って…とにかく頼みますよ?』

 

要するに査察みたいなものなんだろう。誰でもああいう組織には頭が上がらないんだろうな、面白い。

 

『士官棟です。暖房は集中管理のセントラルヒーティング、毛布も厚いものを支給してますし、凍える心配は万に一つもありません。食事もカロリー計算の元で十分な量を摂れるように…』

 

…動物園のガイドみたいな口調だ。さしずめ我々は檻の中の猛獣か。まぁ、確かにその通りだが。

 

「嘘つけ、この前はスープに映った自分の目玉が具かと思うような薄い出来栄えだったぞ!」

 

ニヤニヤしながらツァーンが茶々を入れる。まったく悪いやつだ。

 

『あの捕虜は何と言ったんですか?』

 

『ええ、その、ちょっと同盟の料理は口に合わない所がある、みたいな事を…』

 

『本当に?彼の部屋はどこです?』

 

『あ、あぁ、こっちですよ。でも本当に基準値は満たして…』

 

そう言いながら哀れな中間管理職は厄介な客とツァーンの部屋へ消える。彼の胃の健康状態が今から心配だ。

 

『艦長さん?艦長さん!お久しぶりです!』

 

横から声をかけられる。聞いた事のある、落ち着いた感じの声。

 

『…!何故こんなところに、いや、まずは久しぶりですね。』

 

『時間がありません、謝ることがありまして、最後に渡された手紙は…その、フェザーンにはつきません。申し訳ない。盗難に遭いまして…』

 

『いや、結構、そもそもが無理なお願いだったんですから、そんなにお気になさらず。…まさかそれを言うためにこんなところまで?』

 

『ええ、それと、こういう所の生活は不自由が多いでしょう?セネット船長も言ったようですが、SPUはカンパをしてでも必要なものはそろえます。送り込み方も考えてあるんです。赤杖社の包装は…』

 

『だから、ね。あの顔みれば分かるでしょう?冗談みたいなものですよ。』

 

どうやら友人との感動の再会は時間切れだ。それにしても、縁というのは不思議なものだ。バクスター氏が言いかけていた包装がなんとかというのは何のことだろうか?彼が言った事だ、我々に不利益があるようなことではないと思うが…

 

続く

 

 

 




途中でツァーンが食事についての文句を言ってますが、あれはほんとに冗談です。悪い奴ですね。

今回もご意見ご感想お待ちしております。
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