帝国暦453年 1月5日 ゾンタークスキント艦橋
フォン・オイレンブルク中佐
敵の臨検をうまく潜り抜けたはいいものの、あれ以来レーダーにも五次元解析装置にも船影の類はかからない。取り敢えずこの辺りの星図だけでも入手しないと、思わぬ隕石群やらブラックホールに突っ込む可能性が常について回る事になる以上、ワープ航法もおいそれとは使えない。何より退屈だ。若い乗組員連中はフランツィウス大尉の部屋で「士官と士官候補生のための勉強会」と称して小道具として揃えたいかがわしい本の回し読みをしているらしいが、まさか艦長がそこに混ざる訳にもいかないし、そんなものに鼻の下を伸ばす年齢でもない。
「そろそろワルキューレに出てもらうのもいいかもしれないな…おい、搭乗員詰所に繋いでくれ。」
「こちらは艦長だ。ワルキューレを索敵に出すことにした。今出せる機は誰の機かね?」
「はっ、現在のスクランブル当直は3番機予備員のクンツ一等兵であります。」
「ではクンツ一等兵、よろしく頼む。交代時間は大体3時間を目安にしてくれ。ローテーション組はそちらに任せる。」
「かしこまりました。1分以内に離艦します。」
「艦長より全艦、ワルキューレが索敵に離艦する。総員帽振れ。」
側面にⅢと書かれたワルキューレが一瞬視界に入ると、すぐに前方の1つの光点となる。1機出すだけでも単純計算で10光秒は索敵範囲が広がる事になる。これで見つかれば万々歳、見つからない場合は、もっと索敵要員を増やすか、だがあまりワルキューレに消耗と負担をかける訳にもいかない。取り敢えず様子を見てみるしかないのが現状だ。大神オーディンでもなんでもいいから加護が欲しいものだな。
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「艦長!索敵中のクルツ一等兵から通信です!読みます!『現在位置α158、β25、γ68。移動中の光点見ゆ。低速。』とのこと!」
ー低速、という事は軍艦ではない。もう一つの可能性のフェザーン籍商船はエネルギーの消費効率の最も良い中速から高速を使用するはずだ。つまり、獲物だ!
「クルツ一等兵には帰還を命じろ。おそらく目標は叛乱軍籍の商船だ。最大戦速を出して通報のあった方向に向かう。大尉、接敵までの所要時間は?」
「およそ1時間半!」
「結構。では1時間後に総員戦闘配置を下令する。その前に、バウディッシン中尉を呼んでくれ。」
「バウディッシン、参りました。」
「ご苦労。聞いての通りだと思うが、これより当艦は襲撃行動をとる。基本的に停船命令を出して敵の降伏ののちに君達移乗部隊に乗り込んでもらう事になるが、もし敵船が逃走するような事になれば強行接舷後、ヒートシリンダーを捻じ込んで白兵戦になる。装甲擲弾兵の中でも選りすぐりを頼むぞ。それから、叛乱軍船員の扱いに関してだが、我々は野蛮なただの宇宙海賊ではない。前にも申し渡した通り、暴行や虐殺の類いは最大級の言葉をもって禁じる。」
「了解しました。帝国軍人の名誉と矜持を傷つけるような行いは致しません。"綺麗な戦争"をやってごらんに入れます。」
「結構!では人選と準備にかかりたまえ。」
彼は善い男だ。言葉に嘘偽りはないだろう。だが、これから戦うのはこちらを殺そうとしてくる軍人ではなく、叛乱者とはいえ民間人だ。帝国軍人が言うのも大いなる矛盾だが、人死には出したくはないな…。
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「見えました!敵は正面を右舷方向から左舷方向へ移動中。」
「よぉし!速力そのまま、隣につける。取り舵25。」
例の襲撃部屋に入って目標を確認する。ー白い船体に2本赤いラインが入った小綺麗な一般貨物船。おそらく我が艦より少し小さい位だ。80万t級の中型。こちらの事はレーダーで捉えているだろうが、変針・増速する様子は見受けられない。完全に油断しきっている!
「敵の隣30kmまで寄せろ。敵艦に通信。『光パルスで直接伝えたい重要情報あり。接近を許されたし』、送れ!」
「送りました!…返信、『了解、当船に並航されたし。』」
「並航を許してくれたか。ならばお言葉に甘えよう。10kmまで寄せる。砲術、威嚇射撃の用意いいか?」
「右舷、1、2、3番砲用意よし。主砲1も右舷に最大射角をとっています。」
敵船のシルエットがだんだん大きくなっていく。心臓が早鐘を打つように鼓動する。こんな事になるのは初陣をあの汚い駆逐艦で経験した時以来かもしれない。
「光パルス回線を開け。」
同時に、向こうの船の船長らしき人物が艦橋モニターに投影される。40代くらいだろうか。顎髭を少し伸ばしている。
『重要情報とはなんでしょうか。まさか株価の大暴落でも起こりましたか。』
『いや、取り敢えず本船の方を見て頂きたい。そうすれば大体の事は分かると思います。』
怪訝な顔をして相手が外を見るのを見計らって、艦長席のボタンを押下し、着ていたジャケットを脱ぐ。
すると、艦側面の鉄板が上下に開き、奥から黒字に銀で書かれた双頭の鷲の紋章が出現する。同時に右舷砲が敵船の前方と上下に向けて放たれた。唖然とする船長に警告する。
『当艦は銀河帝国軍巡航艦、ゾンタークスキントである。直ちに機関を停止してこちらの指示に従え。電波の発信や逃走の兆候があれば即座に撃沈する!』
またもこちらを振り向いた船長は私の早着替えにも驚いたようで、目を見開いたまま固まる。彼の後ろでは『帝国軍だ!敵だ!』『殺される』『なぜこんな所に』等の悲鳴が飛び交い、軽い恐慌状態だ。続けて第2弾が発射され、今度は通信アンテナらしい構造物をかすめる。
『わ、分かった!指示に従う!降伏する!機関停止!停止だ!』
こうして、大変呆気ない形でゾンタークスキントの初陣は幕を閉じた。接舷し、装甲服を着込んで厳つさが数倍になったバウディッシン中尉が部下を連れて移乗する。
ー我々の最初の獲物はシロン自治共和政府籍の貨物船で、船名を『ヌワラエリア』、積載していたのは叛乱軍の一大ブランドらしい茶葉と、フェザーンで買い付けたという肥料類だった。乗員は合わせて25名。全て収容したのちに茶葉を少量と、エネルギー、周辺宙域の航路データだけ接収して6時間後にセットした時限爆弾を仕掛ける。船長のバクスター氏は震え声で、『紅茶と肥料は戦争には無関係だ』と抗議してきた。哀れだとも思うが、軍人は時に非情にならねばならない。
ゾンタークスキント航海日誌 R.C453.01.05
記入者 エーバーハルト・ツァーン少尉
(略)
本日午後4時30分、我が艦は初めての戦果を挙げる。敵船乗組員は全て本艦に収容済み。拿捕品目・粉砕茶葉800kg。消費弾薬・レールガン用砲弾6発。
周辺宙域のデータが手に入ったことで、ワープ航法が使用可能になった。明日からは交易ルートの交差点を重点的に哨戒する事になった。幸運が続く事を祈る。
続く
またもや色々あるんです。もう後書きが愚痴りコーナーになってますね。ご不快でしたら読み飛ばしてください。
宇宙空間での距離は実際どれくらいか分からないのでこの位かな?という感じに落ち着きました。宇宙で機関停止すると慣性で動いちゃうかなとも考えましたが、誰かが言っていた「俺の宇宙ではそうなるんだ」の精神で気にしないことにしました。
仮装巡洋艦で1番かっこいいシーンはやはり翩翻と翻る軍艦旗を掲揚する所だと思うんですが、なにしろ流石に「俺の宇宙」にも風まではないので、ああいった感じになりました。なにかもっとかっこいい演出が思い付いたり、ご指摘があれば差し替えます。一応「螺旋迷宮」でリンチ司令が白旗を上げるシーンがありまして、同じようにしようかと迷ったんですが、、、
それから、銀英伝のエネルギーってどうなってるんでしょう。奪還者の最後でコンテナに詰められたエネルギーを回収して…というシーンがありましたが、核燃料棒なのか蓄電池的なものなのか、規格は共通なのか否か、アニメ版重点で履修してると分からないことだらけです。
引き続き、ご指摘、ご感想、誤字指摘などなど、お待ちしております。