……子供の夢は、壊しちゃダメだよね、という話。いや、それだけじゃないけどさ。
おっちゃんなぁ、なんやクレアちゃんにやたらタイラントくん見られとるんやけど、なんでああいうときに限ってクレアちゃんおるん?俺、なんかバチ当たるようなこと、したんやろかなぁ。つか、クレアちゃんやたらとマジマジ見とったんやけど、やっぱりクレアちゃんも性に興味が出るお年頃なんやろか。つかあかんて、おっちゃん、女の子はやっぱり慎みとかそんなん大切にせんとあかん思うんや……。
はっ?!
いかんいかん。あまりのショックに体育座りして、るーるーるるーなどと歌っていてはいかんのだ。
まだまだ俺達に降りかかる災難は終わっていない。そして最も最悪な厄介事が脱出出来たその時に起こるという予測が立ったのだ。
「予測で立った……うん、すごかった」
「いや、そうじゃない」
クレアは両手を頬に当てて紅潮した顔でいやんいやん。
そんなクレアをシェリーとアネットは変な物を見るかのように……いや、変やけどな?……見ている。
「……ダメだ、ポンコツになっとる」
俺はがっくりとうなだれた。いや、一番君がしっかりしとったハズやのに。
「そういえば、アネット、レオンとエイダの姿が見えないが?そろそろこの先頭車両に来ないと後ろはヤバい」
運転席のアネットに聞いてみる。
「……あの若い警官が話があるとあのスパイを後ろの車両に連れて行ったわ」
アネットは忌々しい、と吐き捨ててそう言った。アネットからすれば企業スパイのエイダはG-ウィルスを盗み出しに来た泥棒であり、そりゃあ忌々しい存在だろうが俺からすれば俺をこんな身体にしたT-ウィルスを研究していたあんたら研究者は俺にとって忌々しいけど、それに関してはどう思ってんだ、おい。
無論、幼いシェリーの前では言わない。子供には関係無いのだ、そういうのは。だが、子供の前でそういう事を言えばそれは大人になったときに良くも悪くも影響するのだ。子供は親の映し鏡なのだから。
「アネット、出来れば娘さんの前ではそう言うことはあんまりいわない方がいいと思うぞ。気持ちはわかるが」
この場合の気持ちはわかる、は俺も『あんたに対して忌々しいと思っている』という意味も含む。俺は聖人じゃない。
「……そうね」
アネットはそういい、側に来たシェリーの頭を撫でる。
……俺もアンブレラの関係者と言えば関係者である。
とはいえ、元々俺は一年前にアンブレラ日本支部に買収され子会社化した日本の小さな製薬会社である『ハチマン製薬』の研究者だった。
それでも世間は俺をアンブレラの研究員と見るのだろうな。正直、先代のハチマンの社長が亡くなった時に辞めるべきだった。もしくはあの今のクソ社長がアンブレラに会社を売り渡した時に。
長年の伝統、明治時代から続く日本の『ハチマン製薬』。『蚊に刺されたかゆいかゆい、ハチマン・カンキツ塗りましょう~、すーっとすっきり、ハチマンカンキツ、いい薬~♪』とか『冬のあかぎれ湿疹に、ハチマンH軟膏』とか、日本の皆様なら聞いたことのあるフレーズだと思う。
『人の命を直接救うような薬は作っていないが、人の生活に寄り添うハチマン製薬』。それが社訓だった。
……先代が亡くなる前に
『君がいなくなれば歴史あるハチマンは終わる。頼める筋合いではないが、息子を支えてやってくれないか』
と言われ、俺は会社に残った。先代には恩がある。だが……。いや、言うまい。時は戻らないしどうしようもない。
……とはいえいずれあのバカ息子に落とし前はつけさせてもらうが優先順位はかなり低い。
いや、それは今考えるべき事ではない。今は生き残る事を優先せねばならないのだ。
俺はアネットに二人を連れてくると言って後ろの車両へと行った。
あの二人が一番後ろの車両に行ったのは、おそらくクレア達に聞かせたくない話があるからなのだろう。まさかイチャコライチャコラはしとらん……と、思いたい。よしんばイチャコラしとったとしてもとっとと先頭車両に連れて来ねば最後尾の車両は危険なのだ。
みんな忘れているかも知れないが、施設は爆破されるんだぞ?つーか、かなりのスピードのこの列車は走っているわけなのだが、あの規模の施設が爆破されるとして、さてこの列車はどこを走ってるでしょうか?
答:深ーい地下の、細長ーい密閉空間。
簡単に説明すると、拳銃とかライフルなどの銃火器を想像してくれたまい。火薬が爆破するところがあって、そしてバレルがあるじゃろ?で、それを例えて、火薬が爆発するところが、研究施設で、バレルがこの列車が走っているこの地下の線路内。
俺の計算では勢いよく爆発した施設の燃焼ガスは確実にこの列車のところまで来るだろう。
ゆえに運転席のアネットには最大速度で飛ばしてもらっているわけだが、俺の計算では最低でも摂氏1200℃ほどの熱と爆風がここまで来ると出ている。
さらに破片も飛んでくる。燃焼室とバレルの間にある瓦礫やらなんやらが弾丸と言うわけだ。
で、後ろから三両の車両は先頭車両の盾であり、弾避けとなるわけだな。ああ、三両の車両を捨ててもっとスピードを上げれば?と思った人もいるかも知れないが、残念な事にこのディーゼル車には事故防止の、ある種のリミッターがあるから軽くしてもさほど早くはならないし、牽引する車両が無ければ安定しないし、さらには置いて行った後ろの車両のでっかい破片などが爆発でこっちに勢い良く飛んでくるまであるのだ。
つまり、そういうことなのだ。
後部車両に入ると、
「では、君はトライセル社のスパイなのか?」
などと警察官であるレオンがエイダを問い詰めていた。いや、警官プレイとかそんなんではなく、彼は本職の警官で正義に燃えるタイプの『ひよっこ』警官なのだ。
「アンブレラの開発した新型のウィルスを奪取するのが私の任務だった。失敗しちゃったけど」
レオン君は悪い女に騙されるタチだなぁ。めっさ虚偽の供述をしとるぞ、それ。しかもエイダはとても楽しそうだ。つか遊ばれとるがな。
正直、レオンには警察官として新人故にスキルが足りていない。いや、エイダちゃんのが上手過ぎるとも言えるだろうが、レベル差とすればレオン君がだいたいレベル25の冒険者、エイダちゃんは中ボスの四天王よりさらに上のラスボス側近クラス、だいたいレベル70くらいだ。
冒険者のレベルが70でも、ボスキャラが70の場合苦戦を強いられると言うのに(例外はあるが)、そりゃあレオン君がかなうわきゃないわなぁ。
……つうか、ボスキャラが低いレベルの冒険者に恋をした、的なラブロマンスなんよなぁ、こいつら。
エイダの頭に長い悪魔の角とか生やしても似合うきがする。
エイダは所々に嘘を入れ、しかも尋問している人間のミスリードをワザと誘うような話し方でレオンを振り回している。
人を騙すコツはうまく真実に嘘を混ぜることだと言われるが彼女はそれを巧みに実践しているし、おそらくこうして尋問されたときの為にしっかりとカバーストーリーを作っており、さらには聞かれることを想定してどう答えるかまで想定して用意しているのだろう。
おそらく、俺に『スメル・センス』という特殊能力が備わっていなければレオン同様、彼女の嘘は見抜けていない自信がある。なにしろ俺は警察官でもスパイでもない、ただの水虫の研究員なのだからな。
しかし、昔に俺の水虫薬を盗みに来た女スパイとはエラいちがいだ。エイダがレベル70ならアレはレベル1……未満かもしれない。
昔に俺につきまとって来た美人局系女産業スパイなど、どこの恋愛シミュレーションゲームを見て研究してきたんだというぐらい設定盛って来て、そりゃあもう怪しいどころの騒ぎじゃなかったからなぁ。
まず、俺の職場の付近には全く高校なんぞなく、さらには外国人学校もなかったわけだが、そんなところでセーラー服を着た女子高生が出没し、パンを咥えて
『遅刻、遅刻アルー!』
と言いながら真っ直ぐの道を走って来て、避け続ける俺に、あたかも追尾ミサイルの如く突進してくる中国人女性なんぞ、誰だっておかしいと思うだろう。
つうか、通勤の電車でやたら会ったり、アパートの近くのコンビニで待ち伏せされたり、昼に飯を食いに行った中華料理屋にいたり、『偶然アルね!』。
そんな偶然あってたまるか。
しかも
『私の父が不治の病で……。頭に水虫がわいて、お医者さまの話じゃ、あと半年保つかどうかわからない……アル、の事よ?(ちらっ)』
なんぞと言いやがる。
水虫が頭にわいてたまるか。というか水虫は虫じゃなくてカビの一種だと指摘したらいきなり癇癪起こして中国製の消音機構が仕込まれた25口径の銃を俺に突きつけ、
『あーもう、めんどくさい!!オマエ、とっとと薬を寄越せ、この冬瓜(ドングァ)!!』
と言い、俺のズボンのポケットからブドウ糖補給用に持っていたお菓子の錠剤型のラムネを盗って行きやがったわけだが普通は開発中の薬を持ち歩く奴はおらんやろ。アホか。
その後、そいつとは二度と会うことは無かったが多分上司に怒られて任務から外されたのだろうなぁ。
……まぁ、あのアホとは比べものにならない、というか比べては思い切り失礼と言うものだろう。彼女はハイスペックな女スパイかつ工作員だ。
あのアホな鶏ガラ胸のオカチメンコとは違って胸にパッドなど入れず、また手術なんぞもしていない。尻も同様だ。これで匂いが完璧なら俺も危なかったかも知れんが、裏の世界に身を置きすぎて荒んでしまった感じのそういう匂いはどうしても出てしまうのだろう。
……その荒んだ匂いは嫌いなんだよなぁ。
とはいえ、レオンといるときは何故かその匂いはやや晴れて、なんというかいい感じになるのだ。シェリーにチョコをやったときに感じる匂いと似た、これは嬉しいという感情の匂いかも知れん。
……エイダちゃんの好物はレオン君か。なるほどなるほど。
「いいや、君を雇ったのは『H.C.F.』だろ。顔に書いてあるぞ」
俺がレオンの後ろからそう言ってやった。当てずっぽうだが、果たしてエイダの顔、いや匂いは驚いた時に良く出るものに変わり、そして怒りの香りが混ざる。
「やっぱり、アナタ何者?普通の……いえ、タイラントだけど、まさか御同業がバケモノに転職したの?」
……ビンゴ。なるほど、『H.C.F.』か。
医療系、それもアンブレラと対立し、そして規模的に対向出来る企業は多くない。そしてあまりいい噂を聞かない会社を絞れば、アンブレラと比べれば若干規模は劣るもののトライセルとH.C.F.ぐらいとなる。まぁ、エイダは中華系なので中華人民共和国そのものという線も考えたが、どうもエイダの雰囲気はそれではない。
エイダの言葉にレオンは緊張を走らせて振り返って俺を見る。いや、俺は敵じゃねーぞ、こら。
「まさか。俺の直近の目的はおまえ等を先頭車両に呼びに来た、ってところだ。時計を見ろ。もうすぐ施設の爆破のタイムリミットだ。地下線路で加速された燃焼ガスで丸焼けになりたくなかったらとっとと来い」
俺は二人を連れて先頭車両へと戻った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……で、あんた何者よ」
エイダは流石にしつこい。移動している間も今も何度も聞いてくる。
「日本からやってきた正義のスーパーヒーロー、フンドシマンだよ?服を脱いでパワーアップ!」
スパイにわざわざ言うわけねーだろ。つーか流石に俺という存在の価値は自分でも理解している。
アンブレラはあのアホなタイラントを現時点では、だが完成型みたいに扱っている。あんなん造るために1000万人に一人の適合者をわざわざ探し出したぐらいなのだ。
……たしか、ゲイとかホモとかなんとかいうロシア系の軍人だっけか?
なら、奴らにとって俺の価値はいかほどだ?で、それを知った他社はどうすると思う?
ああ、非常に厄介過ぎる。アンブレラだけでも厄介なのに他社まで出て来たらスペンサーの居場所を探し出してぶっ殺すのに支障をきたしてしまうではないか。
「必殺技はフンドシフラッシュとケツほいランサーだよ?」
フンドシフラッシュの辺りでクレアが何故かゴクリと喉を鳴らし、ケツほいランサーの辺りでレオンが自分の尻を守ろうとしたが、そんな事はどうでもよろしい。つかおまいらって……。
「ふざけないで!」
エイダはなおも詰め寄るが、そんな事を話すためにここにみんなを集めたわけではない。無論、施設爆破の噴射ガスを避けるためもあるのだが。
「……まぁ、おふざけはここまでにしよう。まぁアンブレラとその他のライバル企業に俺の存在がバレるのは時間の問題、というか少なくともアンブレラはもう知っているはずだ。それも俺達の今後に影響を与える可能性は大、と俺は考えている」
俺は、声のトーンを落とし、感情のない無機物のような感じで淡々と話し始めた。
「奴らは俺達が列車に乗って脱出しようとしている事を知っている。地下研究施設にあれほどのゾンビ、いや人間はいなかったはずだ。それにあのゾンビ達の着ていた服装は研究員でも警備員でもなんでもない、普通に街の住人が着ているようなものだった。つまり、他の出入り口……搬入口のような大型の直通の通路か何かが存在し、何者かが俺達の脱出を阻止するためにそこを解放した、と俺は考えている」
アネットはゾンビの入り込んで来た直通ルートに心当たりがあったようだが、
「一体、誰が?ハイヴのメインコンピューターにログインしなければ無理だし、緊急事態の時にそれが出来る人間は上層部でもごく限られた人間でしか……!」
俺はアネットの言葉を遮るように言った。
「アネット、それは安全を確保出来た後に考えるべき事だ。まだ俺達は危険地帯のど真ん中にいる」
今は誰がどのようにしてゾンビを列車のホームに招いたなんて考えても仕方がないし、今必要なのは生存して奴らの手から逃れるための算段を立てる事だ。
「つまりアンブレラ上層部の奴らに俺達の生存はバレているって事だ。で、次に奴らはどんな行動をする?一番やりそうな事は、事件の調査に押っ取り刀でやってきた軍隊に擬装して、もしくはアンブレラの息がかかった軍隊が脱出口で待ってるってのが俺の予想だ。俺達は脱出するのに疲弊していて、かつ脱出の喜びで気も抜けてる。奴らにとってはさぞかし狙いやすいだろうな」
「そんな……!戦うにしてももう銃の弾も残り僅かだわ。それに軍隊相手なんて!」
さっきまでいやんいやんしていたクレアがようやくまともになった。というか君、出会った最初はそんな子やなかったやろ。危機的状況のストレスやろかなぁ。
「何か交渉は出来ないかしら。せめてこの子だけでも……!」
アネットはそう叫ぶように言う。だがエイダは冷ややかに、
「交渉というのは、対等の相手同士で行うものよ。優位のハンターが弱った獲物の命乞いなんて聞くとでも?」
といってまるで他人事のように否定した。まぁ、この女スパイは途中で俺達をほっぽりだして逃げるつもりなのだろうからそうなのだろう。この余裕ありそげな態度とこの匂いでよーくわかる。
だがそんなコトを俺が許すとでも?
「まぁ、君もここにいるという事は一蓮托生で獲物側だ。ああ、そうそう、君が持っていたG-ウィルスは捨てて来たからね?そうだね、ちょうど今、施設の爆破ですっかり跡形も無く消滅してる頃だよ?あとは……」
ほい、とエイダが持っていたワイヤーガンをコートのポケットから取り出して、目の前でぐしゃっと握り潰して、歯を剥いて凄みをきかせた笑みを浮かべて言った。
「仲良くしようぜ?なぁ、エイダのねぇちゃんよぉ、脱出する算段、持ってんだろ?吐いた方が……身のためだぜ?」
ちょうど、ずどぉぉぉぉん!!と施設の爆破の爆炎が列車に到達し、激しく車両を揺らす。
ごぉぉぉぉっ!!とジェット噴射の如き炎の奔流が窓を炙り、高熱にさらされた強化ガラスがバシバシバシっと亀裂を走らせた。
「レオン君のように俺は騙されないし君の思考はとっくに掌握済みだ」
我ながらなかなかドスがきいた声が出せたと思う。ふっふっふ。
「こ、このバケモノっ……!」
「そうだ。俺をなんだと思ってた?カッコいいジャパニーズヒーローとでも思ってたか?」
フハハハハハ、と悪役っぽく笑う俺のコートを、ふいにツンツンと誰かが引っ張った。
嗤うのを止めてそっちを見れば。
「えっと、フンドシマンは正義のスーパーヒーローじゃ無かったの?」
シェリーがなんか悲しそうに俺を見ていた。
……いかん、この子はさっきの俺の冗談を間に受けていたか。
「……ごほん。俺の名はフンドシマン!日本から悪い奴を倒すためにやってきた正義のスーパーヒーローさっ!」
子供の夢は壊しちゃなんねぇ。
シェリーはにっこり笑って
「そうだよね、おじさんは正義のヒーローだよね」
……つ、つらい。この無垢な笑顔がつらい。
まぁ、そんなわけで、俺達はエイダから脱出ルートを聞き出す事にしたわけだが。
「フンドシパンチ!フンドシキーック!フンドシマーン・ガッツポーズ!ふん、とりゃあ、はぁぁっ!!」
「きゃっきゃっ!」
俺はシェリーの相手をせざるを得ず、だいたい、脱出ルートはレオン君が聞いてくれましたとさ。
バイオハザード2編も終わりが近いですね。
いろいろ盛ったら、ラストが妙に文章長くなってしまって。
次回のフンドシマン『ええっ?!戦車と触手と小悪党』でまた会おう!(嘘)。
フンドシマーン、ガッツポーズ!!(キャプテンラ○チ風に。そして超兄貴風にダブルバイセップスでキメっ。)
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