なんかタイラントになってしまったんだが。   作:罪袋伝吉

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いつも感想と誤字訂正ありがとうございます。

ネメシスの治療には様々な困難が……。

ちらりと新入社員の名前が出てき始めるよ?

虫下しチョコの前に、蟯虫検査セロファンだよなぁ。


ネメシスの治療~虫下しチョコ開発。

 

「ネメシスの治療には外科的手術が必要だ」

 

 俺はナスターシャ博士にそう告げた。

 

 ここは医務室の、本来医師が座る診察室である。ネメシスの治療とは、T-ウィルスの駆除ともう一つは寄生生命体型B.O.W.『NE-α』の駆除並びに除去である。

 

……まぁ、顔の手術痕や『NE-α』の寄生による顔の皮膚組織や鼻腔、前顎下の口蓋裂様の亀裂等への形成術も今後やらねばならないだろうが、それは今、語るべき事ではない。

 

 T-ウィルスの駆除は比較的に好調に進んでおり、そちらは全く問題は無かった。

 また幸運な事に寄生生命体『NE-α』はその神経足をほとんどネメシスの中枢神経や脳に伸ばしておらず、その増殖も見られてはいない。

 

 その原因はいくつか考えられるが、まぁ、ぶっちゃけ言って、セルゲイのホモ野郎の失敗だ。

 

 セルゲイは自分の細胞をアンブレラに売り渡し、タイラントの量産を可能にしたという功績で幹部になったという話(ナスターシャ博士談)だが、ゲイ野郎は自分の遺伝子以上の適合率を叩き出した俺の遺伝子に危機感を抱いたらしい。どうやら俺の遺伝子が自分の地位を脅かすと思ったようだが、そんなん知らんわい。

 

……というか人の迷惑とかそんなん考えたこと無いやろオマエ。

 

 ホモ野郎は、そこで俺の遺伝子製の全てのクローンやその派生であるネメシスをとにかく抹殺するために様々な手を使ったらしい。

 

 ナスターシャ博士の話では、俺のクローンやネメシスタイプも全て暴走したという理由により廃棄され、性細胞はフランスにあるアンブレラの研究施設にのみ保存されている、との事だが、それは反セルゲイ派閥に所属しているモーフィアスという幹部研究員が死守しているとの事だ。

 

……一言言わせてもらえば、出来れば死守なんてせずに、丁重にティッシュにくるんでゴミ箱に捨ててくれた方が俺としてはありがたいと思うんだ。だいたい、俺の遺伝子なんて、そうやって過去に何度も何度も……いや、げふんげふん。

 

 話が逸れた。

 

 セルゲイ派は最後にネメシスを始末するためにNE-αが脳神経を掌握しきっていない状態でアメリカに投入させたわけだが、まぁ、その後の展開は皆様ご存知の通り。ネメシスは俺からワクチンの接種を受け、その結果としてNE-αは成長を阻害され、触腕や神経を伸ばす事が出来なくなったのである。

 

「で、だ。NE-αを完全に殺す薬品はもう完成している。無論、この薬はネメシスの身体には全く害は及ぼさない」

 

 俺はナスターシャ博士の前に、ころんとその薬を置いた。

 

「……えっと、これはチョコレート?」

 

「そうだ。日本で主に児童に処方されていた虫下しチョコ、正式名称『アンテルミン・チョコレート』を真似て作ってみた」 

 

 アンテルミン・チョコレートとは、かつて昭和の時代に児童用に作られていた蟯虫、回虫を駆除する為の『虫下し』であり、キューピーさんの絵でお馴染みの蟯虫検査セロファンとワンセットみたいなアレである。

 

 なお、アンテルミンとは『アンチ・ヘルミンス』、つまり対寄生虫を略した造語だ。さらにもっと言えば蟯虫検査セロファンの名前はポキールではない。正式名称は『ピンテープ』で、ポキールは虫下し薬のことだ。念の為。

 

「まず、なんでチョコレート味にしたのかと言えば、完成した対NE-α薬は殺人的にクソ不味かった。味と言い臭いと言い後味まで最悪だった。無論、人体には無害な成分ではあるが、ちょっとでも口に入ったら確実にその不味さで吐く。間違いなく吐く。何度も試行錯誤して試した俺がいうから間違いない。オブラートに包もうがカプセルに封入しようが、胃液でそれが溶け出した時点でなんか気分が悪くなり吐きそうになる。そんなもん子供に与えられるわけは無い。可哀想なのもあるが、吐いたら薬の効果など見込めないからだ」

 

「そ、そこまで不味いんだ……、NE-αのお薬って……」

 

 ナスターシャ博士はチョコレート味のその駆除薬を見ながら絶句していた。

 

 そう、胃の中に入ればその気持ち悪さから吐き、吐いたそれが口の中を汚染し、余計にえづいて吐きたくなる。地獄の薬、それが対NE-α薬だった。

 

 大げさだと思うかい?じゃあ飲ませてやろうか、なーに人体には全く無害なんだよこの薬は。ほら、口を開けやがれ、お前にも俺が味わったこのクソ苦くて臭い地獄を体験させてやる!!そう、言葉よりわかる、飲んでみさえばすぐに。エンドレスゲロワルツ!

 

……いやいや、取り乱してしまったようだ。というか俺は一体どこの誰に話してるんだろうな。たまに第四の壁を越えてしまいそうになるときがあるんだが……いかんな。うむ、気をつけよう。

 

「……そこで、だ。昔にとある会社が作った虫下し薬に、チョコレート味のものがあったのを思い出したんだ。俺は味をなるべくマイルドになるように成分調整を行い、市販のチョコレートを混ぜて作ってみたんだ。そして作っては吐き、作っては吐き……。やっと、普通に食えるものを作り上げた。ただ、自分だけではある程度味に慣れてしまっている可能性があり、エイダに虫下しであることを全く教えずに食べさせた。……まぁ、成功したよ。あとでバレてしばかれたがね。フフフフフ」

 

 エイダの評価は『ビターな香りが強いのにやたら甘過ぎる味に違和感がある』というものだったが、子供用だと伝えたら『ならこれでいけるでしょ。子供は甘いの好きだから』と納得してくれた。

 

「故に、NE-αを殺すのはいつでも出来るようになったわけだ。だが……」

 

 そう、思わぬ所で苦労したが、しかしそこをクリアできても次の問題がまた俺の前に立ちふさがったのである。

 

「殺した寄生生命体の死骸がネメシスの身体に残ると、ネメシスの身体はそれを異物として認識し、拒絶反応を起こすだろう。つまり、脊髄付近でそれが起こると神経にダメージが出る可能性が大きい。また、溜まった膿による神経圧迫や……ようするに手術をしてすぐに取り除かないと大変な事になる」

  

 そう、殺したNE-αの死骸をすぐに取り除かねばネメシスの身体が危険なのである。

 

 まだ生きているうちはNE-αは宿主に対して拒絶反応を示さないようになんらかの分泌物を出して宿主の免疫系を騙しているのだが、死ねばその分泌は止まる。

 

「……でも、ネメシスの身体の中のNE-αはまだ未発達とはいえ、広範囲に巣くっているわ。かなり困難で繊細な手術になるはずよ。アナタは医師だけど、専門は内科、だったわよね?」

 

 ナスターシャ博士の指摘どおり、俺は手術をする事は出来ない。俺は内科医としての知識は持ち合わせているが、外科的なスキルはない。

 

 だが、ネメシスの執刀医はもうピックアップ済みだ。

 

「明日、ネメシスの手術を依頼しようと思っている医師をここに呼ぶつもりだ。名前は『ジョージ・ハミルトン』。今朝にようやくコンタクトを取ることができたんだ。ハミルトン医師はラクーンシティから逃げ延びた生存者で、アンブレラから追われてこの中南米へ来ているそうだ」

 

 俺は大統領から渡された赤い人物ファイルをナスターシャ博士に見せた。

 

「……あの子は、幸運に恵まれてる。ハミルトン医師は米国医学界で名医百選に名前がノミネートされている程の人物で、幾度となく困難な手術を成功させている。彼は俺の話に応じてくれたとも」

 

 俺の話に、ナスターシャ博士は、ぽろ、ぽろと涙をこぼした。ひぐっ、ひぐっ、としゃくりあげながら言葉をはっする。

 

「ううっ、アナタのおかげよぉ……。アナタと出逢えてなければ、あの子も私も殺されてたし、アナタがワクチンを打ってくれてなければ私はゾンビであの子の脳はあの寄生虫に乗っ取られてた……!ううっ、それに手術の手配まで……!私、最高の旦那様と会えてぇ、幸せだわぁぁっ」

 

……いや、何言ってんのあんた。俺、君の旦那ちゃう、他人やがな。

 

 そうは思うも、泣いている彼女にはそんな事をいえるはずもない。

 

「とりあえず、まぁ。ほれほれ、ティッシュティッシュ。鼻かんで、涙拭いて。とりあえず落ち着いて、な?な?」

 

 俺はナスターシャ博士の鼻をチーンさせると、よしよし、よしよし、と頭を撫でるのであった。

 

 




・間違いなく、虫下しチョコは昭和の製薬史に名を刻む商品であると思う(真面目な話)。なんせ、本当に虫下し薬の味はエンドレスゲロワルツなのだから。

・本来、エンドレスゲロワルツは酒を飲んだ時に〆で麺類くったあと、吐いた時の状態を指す身内ネタであり、ガンダムのアレとは無関係です。多分。

・次回、アウトブレイクの生存者達が来るよ?多分。

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