なんかタイラントになってしまったんだが。   作:罪袋伝吉

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今回、間が開いてすみません。

私は感染はしてないのですが、やたら周辺でコロナ騒ぎがあり、トラブルシューティングで忙しくて書けませんでしたm(__)m

毎回、感想や誤字脱字訂正等、ありがとうございます。

事後、ですなー。


ナスがママなら俺は旦那になっちまったようだ。

 

 結婚の言質取られたよ……。

 

 いや、マジで俺でええんかい、君。

 つーか人の心君知らずだ。

 

 つーか、俺はね、いろいろと君の事を心配していろいろ考えてたんだよ。というかそういうのって、上から目線みたいで自分で自分が嫌になるけどさ。

 

……無論、自分の保身もその中にあったが、それよりも、いや、こうなったらもう、そんなんもん関係無いのかも知れないが……。

 

 俺は、彼女を心配していたのだ。

 

 同じベッドで眠りについた彼女の頭を、髪を撫でながら思う。

 

 俺は、怪物なのだ。人として生きることは諦めてはいないが、だがたった数ヶ月前の自分とは……身体のデカさもそうだが、それだけでなく、本質的な感覚とでも言うのか……何もかもが違う。

 

 俺でも自分のバケモノさをかなりの部分で持て余してるのに、そんなんに嫁ぐなんてありえねーだろ、と今でも思っているのだ。

 

……君の遺伝子はまるで奇跡だ。その身体の発する匂いは俺の理性を狂わせる程に危険過ぎる。

 

 愛と呼ぶには本能的な衝動が抑えられずにこうなってしまったが、何もかも満ちたりたような自分のこの感覚が自分でも嫌になる。賢者タイム?そんなんじゃないんだ、これは。

 

 精神が脳の働きならば、この充足感は果たしてどの脳みそが得て肯定しているというのだろうか。

 

 俺のこの、自分で嫌気がさしているこれの本質は脳の変化にあるが、それが俺をまるで俺の思考を否定しているかのように感じる時がある。

 

 今がそれだ。

 

 まるで予定調和のように、あるべき結果のようにこの脳みそはこの状況を肯定しやがる。

 

 俺は彼女を俺のようなバケモノの慰み者にしたかったわけじゃない。そして彼女が初めてを捧げるに相応しいとも思ってはいなかった。

 

 彼女はまだ21と若く、まだまだこれからの人生があるのだ。俺みたいなバケモノに嫁ぐなど、そんな事はしちゃいかんともな。

 

 だが、なんだこの正しい事を行った、なされるべき事が一つ終わったというような、このクソ忌々しい新たな脳みそが発する、この充足感は。

 

……俺の脳みそは、クソ忌々しいT-ウィルスによってろくでもない進化とやらを果たしてしまった。

 

 人間の脳みそは、ざっくり言えば、生命が発生し進化して獲得してきたこれまでの脳を積み重ねた構造になっている。そして、これは前にも言ったかも知れないが、人類が獲得した新たな脳は生命体の持つ古い脳の働きを抑制し、その本能の部分を制御している。

 

 だが、俺の脳みそは確かに大脳皮質も強化されてはいるが、その他もまた強化されてしまったのだ。

 

 第一に、大脳皮質を不完全に覆う、人には有り得ない新たな脳の出現がMRIによって偶然、発見された。

 これはナスターシャがこのプラントにあった医療施設のMRIを整備してくれたときに、その動作のテストとして俺の脳みそなどを撮影した時に判明したのだが、まぁ、エイダやナスターシャは医学には疎い。俺の脳の変化には気付いていないだろうが、その映像を見た俺は愕然とした。

 

 不完全ながら、俺は新たな人類の進化を自分の中に見てしまったのだ。

 

 スペンサーが望む、新たな世界の人類の片鱗を。あの狂気の耄碌ジジィが求めて止まない、超人の持つ脳を。

 

 ああ、ふざけるな。こんなものが人の脳のはずもない。ふざけるな。人の持たざるこの脳の力の超常の力なんぞが人の進化の結果なんぞでありえてたまるか。

 

 なぜ、俺がT-ウィルスの特効薬やワクチンを、アンブレラの研究者達が作った物以上の高性能かつ高純度、高精度で造れたのか。ディライト以上にT-ウィルスに対して致死性を持ちかつ人体に無害なT-ウィルス駆除薬が造れたのか。

 

 全てはこの新たな脳が予知に近い形で自動的に正しい調合方法を導き出していたのだ。

 

 それだけでなく、普通考えてみても欲しい。たかが匂いだけでエイダの嘘を見抜いたり、人の行動を予測出来るはずも無かったのだ。

  

 全ては全く新しい脳の皮質の機能の一つだったのだ。

 

 しかも、あれから自分で様々な検査もしてみたが、この『上位新皮質』とでも言うべきこの脳みそは抑制された旧皮質すらも解放するような事までやらかしやがるのだ。

 

 ああ、この新たな脳みそはおそらくは俺の知識が増えるごとに、様々な分野を学ぶごとにとんでもない物をあみだすのだろう。

 

……知識を得る事が俺のストレスの元になるとは。

 

 最良の解を示すこの脳みそに俺は振り回されないように、俺は、周りの誰も不幸にならないようにと出来るだけ、深い接触を避けて来た。

 

 特に、ナスターシャとは。

 

 当たり前だ。プライベートで誰も介さずに彼女と過ごしたりしたなら、いや、これがその結果だ。

 

 俺の脳はもう、ナスターシャの感触を記憶してしまった。本能を司る脳と大脳皮質すら従える新たな脳。それがもうナスターシャを自分の伴侶だと認めてしまった。

 

……幸せそうに眠る、ナスターシャ。

 

 君の事は感覚でわかってしまった。

 

 家族を亡くして、家族を求めて、必死に自分に流れるその血と同じくする者を求めていたんだな。ネメシスに自分の家族達の面影を見ていたんだなぁ。

 

 ネメシスの父親にあたる俺に対する想いは、正直、俺としては複雑な物がある。

 

 何故、俺なんぞに惚れてくれたのか、その辺はどうも彼女に明確な何かは無かったみたいな感じなのだ。

 

 彼女は旧ソ連に攻め込まれ滅ぼされた少数民族の出であり、その民族の風習というか考え方がまず彼女の中にあり、血族や同朋に対する想いがかなり強く出ており、どうもその根底にあるのが、

 

『息子(ネメシス)の父親は自分の家族であるべきであり、それはすなわち夫に他ならない』

 

 というものらしい。

 

 また、ネメシスに対する俺の接し方がどうやら彼女の亡くなった父親と弟のそれを思い出させた、とか、抗体血清入りのワクチンを接種させて彼女の命を助けた、とか、彼女を始末しようとしたセルゲイ大佐の派閥のアンブレラの私設傭兵部隊を壊滅させた……というよりは、その指揮官の旧ソ連出身の『軍曹』をぶち殺した……事がやたらポイントが高かったらしい。

 

……前々から思っていたが、彼女は旧ソ連系の傭兵にはかなり辛辣だったが、国や親族を殺されたその記憶が彼女をそうさせるのだろう。

 

 逆に彼女はミハイル大尉には気を許しているが、それはミハイル大尉の奥さんがナスターシャと同じ少数民族であり、彼ら夫婦がロシアからの独立を目指して戦っていたからなのだろう。つまりはナスターシャはミハイル大尉に対して同朋だと考えているのだ。

 

 それはともかくとして。

 

 ナスターシャの事を考えて、いいや、自分の保身を含めて彼女との距離を、そう、ソーシャルディスタンスしていたのが引き金となるなんて流石の俺も読み切れ無かったのが敗因となるなど、俺としても思っていなかった。

 

 彼女は天才であり、さらに勘が鋭い。感覚人間と言うべきなのか、感覚的な天才だ。

 

 俺の態度に違和感を感じて、俺が悟られないように自然と離していた距離をあんな力業で詰めてくるなんてな。

 

……考えても見なかったが、ナスターシャはおそらくネメシスを育てているうちに、感覚的に俺達の弱点を知ってあんな行動に出たのだろう。

 

 おそらくは、俺にあるこのクソ忌々しい新たな脳はネメシスにも芽生えている。おそらく、産まれた時から。そしてネメシスは成長すれば俺以上にこの新たな脳を使いこなす事だろう。

 

……良かれ悪かれ、いや、俺と同じ『スメル・センス』があるならば悪の方には進まない、と信じたい。

 

 というか。

 

 なんだろうな、この大丈夫的だって感覚は。まったくクソ忌々しい。一人の女の子の未来の可能性を奪ったんだぞ、この脳みそめ。

 

……はぁ。しっかし撫でてると落ち着くんだよなぁ、このナス太郎め。

 

 俺は、深く息を吸うと同時にナス太郎の匂いを堪能すると、溜め息を軽く吐き。

 

「嫁にするからにゃ、幸せにせんとなぁ。俺が幸せになるかどうかは知らんけど」

 

 俺だってさ、ナス太郎がネメシスを見るときの目に、死んだ俺の母さんのそれを見ていた。飯を食わせてる時の仕草や、慈しむような目、何気ないその……。

 

 なんも似てねーのになぁ、外見。つうか母親ってのは世界共通で、そんなもんなんかなぁ。

 

 いや、マザコンちゃうぞ、俺。

 

 はぁ、いい匂いだよなぁ。つーか優しい匂いに感じる。つーか『女』なんよなぁ、匂いが。

 

 うーむ、と静かに唸って、頭を天井に向ける。

 

 とりあえず明日も早いのだ。ともかく眠なければならぬ。

 

 幸せなぁ。幸せってなんだっけ、なんだっけ。

 

……ぽん酢の読み方は、ぽん『ず』ではなく濁らない『す』が正しい。あと、醤油を混ぜてるのは『ぽんす醤油』であり、『ぽんす』は本来、醤油は入っていない。

 

 まったく意味の無い思考をしてとりあえず、またタイラント君が出しゃばらないようにしつつ。

 

「おやすみなさい」

 

 するりと俺は眠りの世界へと落ちていったのだった。

 




・なお、平さんはマグロでは無かった模様。

・話と話の間に、ぱいおつみーもーみーもー、しりおつみーもーみーもー、びーちくめーなーめーなー、とか色々してたよ?←をい。

・ファミリーが増えるかも知れないパンパン節を打ち鳴らす行為、略してファミパン。

・だいたい、風呂場での惨状が一昔前の、むらかみ某のエロアニメみたいな感じだったのでそら描写できんわなぁ。

・深い眠りなど訪れるはずもないさ、月が平さんをあざ笑う、のだ。

 次回、あのグラサン野郎が来襲の予定。


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