なんかタイラントになってしまったんだが。   作:罪袋伝吉

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いつも感想と修正ありがとうございます。

久々の平凡さん。

そして、とっくに白陽社の中に潜入しているフォックスハウンド。


共闘まであと数日~実は白陽社の内情は筒抜けでした

 無線で起こされる早朝というのは非常に、なんというか気分的によろしくないものだ。

 

 ナスターシャが無線の子機を取り、俺に渡してきたわけだが、彼女は俺が止める間も無くベッドから出て、すぐに服を着替えると、

 

「あの子(ネメシス)がそろそろ起きるから部屋に戻らなくちゃ。食堂に8時に来てね?」

 

 と言い、ハグして俺の頬にちゅーっとキスをして部屋を出て行った。

 

……うん、ちょっと気分が良くなったぞ。

 

 現在、中南米時刻で朝の6時半である。何事ぞ、と枕元の小型無線を取ると

 

 相手はヤザン大統領だ。

 

 オッサンからのモーニングコールとはなんともはや。とはいえおそらく重要な話だろう。

 

『おはよう、タイラー社長。昨晩そちらから送られた電信を読ませてもらったよ。社員の児童の保護のためキューバに迎えに行きたいとの旨だったが、その児童と児童を連れて逃げていた女性はフランスにて外遊に来ていたザンジバーランド民主主義連合国の外務大臣に保護され、現在その外務大臣の乗る同国の旅客貨物船『アウターヘヴン号』にてこちらに向かっている、との事だ。つまり、迎えに行く必要が無くなった』

 

「……へ?どういうことです?なんでまたそんなややこしそうな事に?」

 

『うむ、アンブレラのエージェントから子供を連れて逃げていた女性、『セシール・コジマ・カミナンデス教授』はザンジバーランド民主主義連合国の『ジョン・シアーズ大統領』や『マクダネル・ベネディクト・ミラー外務大臣』と非常に親しい。それもVIP待遇を受けるくらいに、だ。おそらくセシール教授はちょうどフランスに外遊に来ていたミラー外相に助けを求めたのだろう。で、ミラー外相の次の外遊地が偶然にも我が国だったのだが、ついでに二人を送り届けると先方から連絡があってね』

 

「……ザンジバーランドって、テロ国家指定受けてませんでした?ロシアと中華から」

 

 俺の記憶が確かなら、ザンジバーランドは国連未承認国であり、北はカザフスタン、南はアフガン、東はキルギス、南はカスピ海に広がる紛争地域をまとめたような国家であり、年がら年中、紛争とテロと内戦が巻き起こっているような場所である。領土問題でロシア、中華、トルコ、イランなどとも揉めに揉めており、中央アジアから中東までの火薬庫とすら言われている。

 

「それは一体何年前の話だね?タイラー社長、情報が古い……いや、そうか、君は日本人だったか。ふうむ、ロシアや中華のプロパガンダのせいだな、それは。ザンジバーランドは約2年ほど前から内紛を終結させている。また周辺諸国とも平和裏に交渉しつづけ、連合を組むに至った。その後国連加盟入りを周辺諸国の後押しもあって申請、ザンジバーランド民主主義連合国は数週間前に国連加盟国になった。また、ザンジバーランドに連合国として加わった国は、カザフスタン、キルギス、アフガニスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、パキスタン、そして飛んで南アフリカだ。これらの国々は同盟を結び、一つの連合国家となったわけだ。なお、モンゴル自治区、チベット自治区、ウィグルなども中華を離れてザンジバーランド入りを検討していると言われている」

 

……どんなけやねん。どんなけ領土広がってんのや。つーか、内紛終結させた?諸国諸国と連合?そんな世界的なニュースをやらなかった日本のメディアってなんやねん。中・露がテロ国家との戦いを宣言したとか報道しとったが、それ確か一年前やぞおい。

 

 それはともかく、ザンジバーランドは中央アジアからアラビア湾まで、ずどーーーん!とその国土を持ち、さらには南アフリカ共和国まで手を伸ばしている。

 

 元々、内陸部の国だったのにアラビア湾まで得てしまって、海への進出まで可能になっとるではないか。やべぇだろ、ロシアや中華が欲しくてたまらなかった海へのルートを抑えちまってるじゃねーか。

 

「いや、火薬庫どころか第三次世界大戦フラグまであるじゃないですか、それ?!」

 

「いや?むしろその火はとんと消え失せたように鎮火しているとも。騒いでいるのは中・露のみで、アメリカはおろかインド、トルコ、イランイラク、サウジもアフリカの各国もザンジバーランド建国を歓迎し支持し、世界的に中・露を非難している」

 

「……マジ?」

 

『マジだとも。今日の夜のテレビを見たまえ。ザンジバーランドの初の大統領の就任演説が報道される。歴史的な瞬間だぞ?……まぁ、本当は一昨日の演説だが、我が国ではテープが到着するのが今日になってしまったからなぁ』

 

 まぁ、テープを空輸する時間があるからそれは仕方あるまい。

 

……というわけで、ルポの子供に関しては直接ザンジバーランドの船でこのプラントに送り届けられる事になった。外相の乗る船はVIPの意向でご丁寧にもここへ来るらしい。

 

「……つうか、外相自らこのプラントに来ると?」

 

 俺達の意思とか無視して了承すなやおっさん。

 

『ああ、そうだとも。あと私も妻とそちらに行くよ。会談場所に君の会社の会議室を借りたい。あと、ミラー外相は君とも話をしたいと言っている。『ザンジバーランドでは良い水虫薬が手には入らない!』そうだ。タイラー君、商談のチャンスだぞ?』

 

……ああ、ミラー外相って水虫なんやな。

 

 まぁ、ハチマンも俺の開発した水虫薬を販売中止にしたし、そりゃあ手に入らないわなぁ。

 

「いきなり武装した連中がこのプラントに押し寄せてくるとかそういう展開は無いですよね?」

 

『それは無い。『XOF』じゃあるまいし。彼らは一国の外交使節団だぞ』

 

 俺と大統領は、二、三、いろいろと話をして通話を終えた。

 

 外相に出す料理は、ハンバーガーとボンカレー、飲み物はマウンテンデュー。いや、そんなん出してええんかい?!とか。

 

……流石に他の料理は大統領の所の料理人が持ってくるそうだが。

 

 俺やラクーンシティーからの生存者との対話を望んでいる、とか。

 

……なんか、きな臭い予感がするな、最後のは。

 

 そう思うも、俺はベッドから降りて服を着て、今日の予定を確認し、食堂へと向かった。

 

 おそらくルポも朝食をとりに食堂に来るだろう。彼女に子供の事を説明せねばなるまい。

 

 

 

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【白陽社・グレイフォックス視点】

 

 グレイフォックスは白陽社の食堂にいた。

 

 現在の彼の肩書きはラクーンシティーから逃げ延びた商社に勤めの事務員で『フランク・ハンター』と名乗っているが、彼の正体はMSFの傭兵であり、またアメリカの特殊部隊『フォックスハウンド』の隊員でもある。

 いや、どっちやねん、と思われるかも知れないが、彼はアメリカ軍内部の反アンブレラ派の協力者としてビッグボスからフォックスハウンド部隊の司令『ロイ・キャンベル大佐』の元に預けられた兵士である。

 

 彼はアンブレラの私設傭兵部隊『U.S.S.』の傭兵としてアンブレラが所有するロックフォート島に潜入し、諜報活動を行っていたが、ラクーンシティー事件でU.S.S.が投入され、そのままラクーンシティー事件でのU.S.S.の作戦に参加し、アンブレラの悪事の証拠の数々を入手、そのままゾンビパンデミックのどさくさに部隊を離れて一般人になりすましてラクーンシティーから脱出したのだが……。

 

 何故か、司令本部からの命令で他の生存者達を中南米に送る手伝いをさせられ、そのまま自分もこのプラント、つまり元カリブの旧マザーベースにとどまることになってしまったのであった。

 

 無論、タイラントと化した社長やその息子の動向やこのプラントでの様々な出来事を報告しろとか言われているが、身体はB.O.W.化しているが普通の人間として生活しているとしか言えない。つか、あの息子にしても精神年齢は幼い子供でお友達の女の子と普通に遊んでいる。あと、母親はダダ甘でなんかエヴァを思い出して少しウヘェっとなる。

 

 対T-ウィルス用の薬剤やワクチンなどを生産しているのは重要な情報だが、そんなもんヤザンがとっくにザンジバーランドやアメリカの『アダム・ベンフォード』に伝えている。というかアダム・ベンフォードがスカウトしたエージェントが社長秘書をやっているが、おそらくそちらからもアメリカには情報が行っているだろう。

 

……なぜ俺はずっとここに居なければならないのだろうか?

 

 グレイフォックスは、うーむ、と全く表情を変えぬ仏頂面面でうなりつつ、ボンカレーを朝から食っていた。

 

 このプラントには食堂はあるものの、つい先日まで料理人が居なかった。そしてまだ調理場は稼働しておらず、故にここの食料加工プラントで作られたものしか無く、出てくる物もそのプラントで作られたものや、そのレシピで作られたものしか出て来ない。

 

 とはいえ飯が食えるというのはそれだけで恵まれているとグレイフォックスは思っている。

 

……なにしろ、あの戦場では食うものにも困ったからな。飢えないというだけでもありがたい。

 

「おいおい、また朝からカリーライスかぁ?あんたそれ、好きだねぇ?」

 

 そう言ってきたのは黒人のジム・チャップマンである。ジムはトレイにハンバーガーとポテト、ペプシのゼロカロリーコーラを乗せている。

 

 なお、ここに来てからグレイフォックスは昨日の夕方と今朝のこれでカレー二回目である。

 

「……おまえも朝からハンバーガーじゃないか」

 

 グレイフォックスは伊達眼鏡をクイッとして、そのハンバーガーを見て言った。それはグレイフォックスも知っている『マクダネルバーガー』の初期のレシピのハンバーガーで、ミラー副司令が趣味で世界各国に展開しているハンバーガーのファストフード店のものである。

 

 なお、ハンバーガー用の冷凍のパックセットをジムは厨房で自分で調理したらしい。

 

 初期のマクダネルバーガーのハンバーガーは、まだマトモなレシピなのだが、今のマクダネルバーガーはやたら身体に悪そうな化学調味料や添加物マシマシなものに変わっており、食品安全管理局からレッドカードを出されて社会的な問題になっていた。もう、それは経営の危機にまで発展し、会社の存続の危機とさえなっているらしい。

 

……あのケミカルバーガーじゃなくて良かったな、ジム。

 

 グレイフォックスはそう思いつつ、ジム・チャップマンが向かい側の席に座るのを見ていた。

 

 なぉ、グレイフォックスはあまりミラーのサイドビジネスについては感心は無い。酔狂な、とは思うが個人的な趣味でやっているならどうでもいい。

 

 ただ、自分達を巻き込まなければ。

 

 たとえば、マクダネルバーガーのケミカルバーガーと呼ばれる化学調味料無添加マシマシなものを食わせたり、ミラーが経営するファミリーレストラン『ハンナ・ミラーズ』の、ヒラヒラでレースマシマシな扇情的なミニスカートの制服を女傭兵達や女性スタッフに着せたり、とにかくミラーは自分の副業関連でアホな事をやらかすのだ。普段は普通に副司令として優秀な男なのに。

 

……まぁ、どうでも良いんだが。

 

 グレイフォックスがカレーを食べているのは、単に他の食事に比べて栄養バランスがとれているから、という理由である。

 

 いや、ならレーションの方が良いんじゃないか?と言われるかも知れないが、レーションは飽きるほど食べて来てうんざりしているし、レーションを頼んで自分の経歴がバレる事を避けたい。

 

……グスタヴァの料理が食いたい。いや妹の料理も。

 

 グスタヴァとはグレイフォックスの恋人の名前である。また妹はナオミ・ハンターと言い、血の繋がりは無いが彼が大切に育ててきた最愛の妹で、二人とも料理の腕はよく、グレイフォックスの舌はこの二人によって肥えてしまっていた。

 

「へへへ、ここのハンバーガーは悪く無いぜ?というかマクダネルバーガーよりは各段に上だ」

 

 ジムは嬉しそうにハンバーガーにかぶりつき、

 

「ん~!この溢れる肉汁、最高だね!」

 

 いや、そのハンバーガーは初期の……と、思わず言いそうになったが、グレイフォックスは黙った。

 

 おそらく、マクダネルバーガーは、いやミラーはハンバーガー店の経営の方向性を誤ったのだろう。初志貫徹の精神で地道にやっていればよかっただろうに。

 

 と、そのジムの隣に配管工のデビット・キングがカロリーメイトブロックとカロリーメイトドリンクを持ってやってきた。

 

 それを見て、軍用携行食の一般向けな奴か、とグレイフォックスは顔をしかめた。不味くは無いが、無味乾燥過ぎる。彼、グレイフォックスのボスはそのカロリーメイトを絶賛していたが、食事としてそれは無いだろうと思う。普通に料理の形をしたものがあるのだから、わざわざそんな物を選ばなくても良いだろうに。

 

「おい、デビット、なんだそりゃあ?」

 

 ジムがデビットの持っているカロリーメイトを指さして言った。

 

「カロリーメイト……携行バランス栄養食とかいう物らしい……のチョコ味とドリンクだ。『日本のゲイシャガールやスポーツ選手もダイエットの為に食べてる』とあの女傭兵が言っていたから、どんなものかと思ってな……」

 

 あの女傭兵とは、バーサの事で、バーサはホットサンドとコーヒーのトレイをもっていたりする。

 

……騙されてるぞ、デビット。

 

 グレイフォックスは内心そう思うも、黙々とカレーを食う。辛さも甘味も悪くないが、そろそろ他の物も食べるべきだろう。少し飽きてきた。

 

「日本のゲイシャ?スポーツ選手?つかおまえ、日本好きだよなぁ?」

 

「……ああ。昔に留学していた。アサクサ・トーキョー、日本はとても良い国だった。養父に勧められて行ったがあれは魂のふるさとだ」

 

 しみじみデビットは言う。どうやら彼は日本好きなようだ。

 

「へぇ、行ったことかあんのか。つか留学は大学だろ?大学行ったのに配管工なんてしてんのかよ。変わった奴だな、おまえ」

 

「……養父が死んで、俺は無一文になったからな。俺は……配管工の親方に拾われたのさ。それからはずっとこの仕事さ」

 

 デビット・キングは寂しそうに笑いつつカロリーメイトを齧った。

 

「……不味くは無いが、口の中がパサパサする。ドリンクは……ごくり、このドロリとしたのを除けば味は……不味くは無いがなんか、うーん」

 

「ゲイシャガールもスポーツ選手も大変だな。いや、どこの女も体型維持とか苦労してんのかな?」

 

 ジムは向こうに座っているヨーコ達を見て、

 

「いや、奴らがっつり食ってんなぁ」

 

 女性達のトレイにはミートボウル、つまり牛丼が乗っていた。朝からなんてものを食べてんだよ、と思うが多分ストレスで大食いになっているのかも知れない。グスタヴァがそうだった。

 

……デビッド・キング。いや、この男の本名は『デヴィット・キング』。デイヴィット・オウ、つまりゼロ少佐の孫にあたる男だ。

 

 ゼロ少佐は、娘が敵対していたCIAの高官の手の者に殺された時に、せめて孫は自分のいる世界とは違うところで生きさせようと思ったのか迂遠な方法で軍とも諜報の世界とも全く関係の無い高名な芸術家に彼を引き取らせ、育てさせた。

 

 芸術家としての教育を受け、彼は若干10代で新進気鋭のアーティストとしてデビューしたが、養父の死後、芸術活動を休止している。

 

 デビット・キングは自分がどのような出自なのか知らないだろう。ゼロ少佐は彼との接触をしたがなかったらしい。

 

 だが、蛙の子は蛙と言うべきか。

 

 デビット・キングはあのゾンビパンデミックを戦って生き延びた。優れた判断能力と荒削りだが正確な攻撃手段で。

 

 グレイフォックスは、カレーを食べ終え、ふうっ、と息を吐いた。

 

「デビット、飲み物を取ってきてやろう。コーラか?マウンテンデューか?」

 

「すまん、ブラックコーヒーで。口の中がなんか甘過ぎる」

 

……かつて、ゼロ少佐はコーヒーを泥水みたいな物だと言っていたらしいが、皮肉にもその孫はその泥水が好きなようだ。

 

 グレイフォックスは肩をすくめると、

 

「もらってきてやる。というか日本が好きならボンカレーも悪くないぞ。パッケージには日本の女性……まぁ、妙齢な女性だが……が印刷されてる」

 

 と、言ってコーヒーのディスペンサーへと向かった。

 




・甘々な朝を期待してたら、大統領が邪魔をする。

・「白陽社の中に、フォックスハウンドがおる」
 「スネーク、ヒントを……」「おまえやー!!」

・デビット・キングさん、ゼロ少佐の孫だった(でっち上げ)。なお物語に関係しません。そっとしておく感じですなー。

 

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