エイダさんレオンとのラブラブな会話を晒され赤面悶絶。
平凡さん、キモイと言われる。
カズヒラ・ミラーから通信(ちらっとね?)
「……つまり、ザンジバーランドのミラー外務大臣はMSFの元副司令と?」
顔を真っ赤にして長机に突っ伏して頭を抱えるようにしているエイダに出来るだけ真面目に俺は言った。
ここは会議室である。
なぜ会議になったのかと言えばエイダからの情報、それもザンジバーランドの外務大臣の正体についての話から、緊急に行う事になったのである。
あと、何故エイダが赤面して突っ伏しているのかと言えば、それは会話ログをプロジェクターで壁に映し出しつつ会議を行っているからで、現在表示されているのは、エイダとレオンの通話ログだからだ。
そう、ラブラブな会話が思い切り他者の目に文章として晒されている状態、つまりエイダは THE晒し者!! という目にあっているのだ。
いや、俺達もそういう事がしたいわけじゃないし出来ればそっとしてやりたかった。
だが、重要な情報のやりとりの合間に甘ったるい会話が挟まるような感じでコイツらはやりとりをしており、さらに重要なところだけ抜き取る時間も無かったのだ。
この会議の意義は、これからの俺達の方針すらも左右するであろう人物、いや組織との邂逅に対しての、その対策を話し合う事のはずなのだが……。
……締まらんのよなぁ、これ。
つーか、コイツら情報の交換の合間にラブラブしてんのかラブラブの合間に情報交換してんのかどっちなんだよ、という感じの会話が文字でだーーーっ!と出ているわけで、正直なところ見ているだけでこっちが恥ずかしくなるような、砂糖に蜂蜜ぶっかけて泡立てて舌触りを滑らかにしてまったりとしつつ、大人なビターさもふんわりと醸し出しつつ、しかしやっぱり結局はダダ甘という、恋愛甘党な奴でもなければ胃がもたれそうな感じであり、そんなもんが文字で起こされて晒されれば、そりゃあエイダも赤面して頭抱えて突っ伏したくもなるわなぁ。
いや、これがもう少しラブ控えめな感じなら俺も、
〔やーい、恥ずかしいのう、恥ずかしいのう、エイダとレオンはアッチッチー!〕
などとはやし立てて弄る事も出きるのだろうが、ここまでだと、あまりに可哀想過ぎて流石の俺も弄れない。
つーか、居たたまれなさすぎて真面目に会議を進行するしかないのだ。
「……そうよ!というかザンジバーランドはMSFが建国したと言ってもいい国よ!」
顔を赤くしつつ、ヤケクソ気味に言うエイダだが、まぁ、そりゃあ恥ずかしいわなぁ。
……まぁ、エイダの名誉の為に、ここには記さないでおくが、レオンのキザでやたら女ったらしな言い回しと、エイダの夢見る乙女的な会話がなんともはや。
どこぞの恋愛ロマンス小説ですかこれは?もしくは宝塚系な歌劇ですか?
文字をスクロールして現在進行形で重要な情報部分を抜き出して、なんとかしようとナスターシャがしてやっているが、やはり、なんとも微妙な表情をしている。
エイダを からかうように会話ログの保存について言っていたナスターシャだが、まさかここまで甘々な会話をしていたとは思っていなかったのだろうなぁ。
また、アネットも、ものすごい痛々しいものを見るかのような目でエイダを見ており、その目は非常に同情的で生暖かい感じである。
元々アネットはエイダを嫌っていたが、いや、いくら嫌いな奴でもこんな晒し方されてたらそりゃあ同情的になるだろう。
「……えと、ごめんね?」
ナスターシャが文字列を送るたびに申し訳無さそうな顔をし、アネットが、
「情熱的な恋愛なのね、そう、私は素敵な恋だと思うわよ?ね?ね?」
と誰に同意を求めているのか……いや、俺の方を見ながら言うな……そう言いつつ、ものっそい居心地悪そうにエイダをフォローしようとする。
「くっ……!」
ああ、エイダがなんか涙目になってオークの軍勢に負けた女騎士みたいに、くっころな表情を浮かべてるぞ。
つうか、会議に不要な会話を省いてから会議を開ければ良かったが、それをする時間が無かった。
……おそるべしi-DOROIDの会話保存機能。破壊力抜群だ。
エイダがあまりにも不憫過ぎる。つか会議にならんぞ、おい。
とはいえ話を進めねば俺達のこれからの行動も決まらないし、予定していた社員達のオリエンテーションも行えないのだ。というかオリエンテーションを二時間遅らせての会議、ゆえにとっとと進めたい所だが……。
結局、会議が終わるまで三時間もの時間を要したのであった。
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「うううっ、どうせ私は色ボケ女なのよぅ……しくしくしく」
あー、これはいかん、エイダが泣いてしまった。
つーか、そこのナスとアネット!その、俺が悪いって感じの目を俺に向けるのをやめなさい。
つーか会話ログを確認しようとか言ったのおまえやろ、ナス太郎!
「いーけないんだーいけないんだー、せーんせーにー言ってやろー♪」
「いや、やめろ、小学生の頃のトラウマが蘇るからっ!!つか、なんでおまえ、日本のそういう いぢめ的な事を知ってやがるんだ?!」
違うんや、違うんやぁ、俺、○○ちゃんをちょっと驚かそうと後ろから、そう、ワァッ!とやっただけなんや……。まさかお漏らしして泣いてしまうて思とらんかったんやぁ!!
ああ、いらんことして女の子を辱めて泣かせてしまったあの小学3年の苦い夏。
結局、あの子は小学校を卒業するまで俺と話もしようとしてくれず、結局は中学校も別の所に行ってしまったのだ……。
って、幼少の頃のトラウマをフラッシュバックしとる場合ではない。というか、んな昔の苦い体験なんてどうでも良いのだ。今はとりあえずエイダをフォローせねばならんのだ。
「エイダ、おじさんの話をよーく聞きたまえ。いいかい、人を愛する事は悪いことじゃあないんだ。そりゃあ人に知られれば恥ずかしい事もある。だが、それは相手を大切に想って、その想いが溢れてくるからなんだと、おじさん思うんだよ……」
「……社長」
エイダが顔をあげた。
「うむ。エイダ、君はレオン君を大事に思っているんだね。それがとても今回よく分かったよ。君達は素晴らしい!」
俺は脳内のライブラリーにあるボキャブラリーを駆使しつつ、羞恥から落ち込んでいるエイダを必死に宥めつつ、そして力付けようとした。
しかし……。
「……キモッ(ボソッ)」
なんということだろう。よりによってコイツ、俺の心をエグりに来やがった!!
ぐふぅっ!!
「き、キモイとはなんだキモイとは!つーかいくら俺でもそれは傷つくぞ!?」
「いえ、なんていうか、その世紀末覇王みたいな顔で目をウルウルさせてそんな事を言われても……。あと、自分をおじさんとか言うのも、ねぇ?」
「誰がラオウじゃ。つか俺の顔がこうなったのは俺のせいじゃねぇ、アンブレラのせいだ。……つうか俺の優しさを返せ」
逆に俺が涙目じゃ。
「よーしよしよーし、アナタはキモくないわよー?むしろイカツい方が私、好きよぉ?」
ナス太郎はそう言って慰めてくれたが、いや、やっぱりお前もイカツい思とんのかい。いや、自分でも思うけどな?
とはいえエイダはとっくに立ち直っていたらしい。つーか、俺だけはせっかくエイダを弄ってやらんようにと、真面目に会議を進行していたというのにこの仕打ちである。
まぁ、いつもの事なのだが。
そんなグダグダがありつつも、分かった事は結構多く、世界の反アンブレラ勢力について、ざっくりとだが俺達は知ることが出来たのである。
というか、概ねまともな反アンブレラ勢力にはMSFが絡んでいる事がわかった、いや、反アンブレラを掲げる組織として、MSFが最初に活動を始めたというべきだろうか。
例えば、アメリカ。
アメリカ軍部にはMSF、いや『ジョン・ジャック・シアーズ』つまり『ビッグボス』のシンパは多い。
『ビッグボス』はアメリカの語られぬ歴史の裏側、兵士達にのみ伝わっている伝説のその象徴だ。
これは、エイダからもたらされた情報だけではない。俺はいつも寝る前に何かしらの本を読んで眠気が来るのを待つのだが、ここで読むものと言えば、ここにかつていた傭兵達が残した書物か、手記か、日記くらいしかない。
このひと月ちょっとで、数多くの手記を読んだが、それらにある『ビッグボス』の情報や人物像を脳内で形にする。
無論、傭兵達の書くそれには噂レベルのものや憶測なども含まれるだろうが、それでも、傭兵達はビッグボスを賞賛し尊敬し、最大の敬意をもって文章にて表現していた。
曰わく、米ソ冷戦時代、三度の核戦争危機から世界を救った英雄。
曰わく、ニカラグアを独裁政権から解放した英雄。チェ・ゲバラの再来。
曰わく、カリブの傭兵王。
曰わく、世界の特殊部隊の近代祖にして近接格闘術CQCを極めし者。
曰わく、勝利のボス(VIC. BOSS)。
そして伝説の英雄にして伝説の傭兵は、文字通り一国一城の主となった。国家を樹立し、独立し、国連承認国、つまり諸外国にその存在を認めさせ、その上で大統領となった。
それほどの男が、反アンブレラ組織を指揮しているのだ。
アメリカの経済の裏側に手を伸ばすアンブレラ。いいや、世界の裏側にまで手をつけているアンブレラ。
対するはアメリカの兵士達だけでなく、世界の兵士達、傭兵達のカリスマ的英雄とその強大な軍勢。
……俺達は否応無しにそれに巻き込まれる事になる。
レオンがペラペラとエイダに情報を簡単に話しているのは、レオンの上司である『アダム・ベンフォード』がそう仕向けているのだ。
この『アダム・ベンフォード』とビッグボスとの関係はわからない。
だが、特殊部隊『SPEC.OPS』を創設する際にやはりビッグボスの弟子にあたる人物を指導教官として起用したり、また、わざわざレオンに訓練をつけている人物はそのビッグボスの弟子の中でも最も実力をもっている『キャプテン・エイハブ』と呼ばれている人物だと言うことだ。
つまり、少なくともアダム・ベンフォードはMSFと深い関係があると思って良いだろう。
そんな人物が、何のために俺達に情報を流すのだろうか。
それには、いくつかの理由と思惑があるのだろう。
一つは俺の頭の回転具合を見ている、とも考えられるだろう。
それによれば、アダム・ベンフォードは俺に恩に着て欲しいらしい。
いや、それはおそらく、『ミラー外務大臣』がそう思っているのか?
どちらが、にせよ『こんな恵まれた場所を紹介してやった事に対して、感謝しろよ』的な感じか?
……まぁ、これは俺の考えすぎかも知れないが、何らかの取引、もしくは協力を求めてくるのは間違いない。俺達を取り込もうとしている、とも考えたが、それなら最初からレオンにしたように声をかけて来るだろう。だからそれは無いと思って良いだろう。
どちらにせよ、MSF、いや反アンブレラ勢力は俺達を優遇しているのは間違いない。
それがウィルスに対抗する薬品を評価してか、それともタイラント……B.O.W.になった俺の戦闘能力を評価してか、何なのかは今は情報が少なすぎるのでわからないが、何にせよ向こうからアプローチがあったわけだ。
と、会議室の無線機がけたたましく呼び出し音を鳴らした。
エイダが、それを取り、スピーカーに音声を出すようにスイッチを入れた。
『突然の無線連絡、申し訳無い。私はザンジバーランド民主主義連合国、外務省の『カズヒラ・ミラー』と申します。こちら、製薬会社『白陽社』の無線番号で合ってますでしょうか?』
おいおい、対策を講じようとしていた相手本人から連絡が来ちまったよ。
どうやら社員オリエンテーションはもう少し開始が遅れる事になるようだった。
……酒飲んで書くと、なんかノリがこうなる。仕方ねーなぁ。
・エイダさんはピュア。
・アダム・ベンフォードさん、名前だけ登場。
・うーむ、もう少し平凡さんとナス太郎とネメシスの家族水入らずな描写を入れるつもりだったのになぁ。