なんかタイラントになってしまったんだが。   作:罪袋伝吉

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いつも感想&誤字脱字修正ありがとうございます。

今年もあとわずかですが、酒があれば書いていきますのでまたよろしくお願いします。

ヤザン大統領の過去。そして、ある意味、『あの人』関連だった件について。……オリジナルキャラだったのに!(ねつ造ですけどね)。セイ!ピース!


共闘まであと数日~インターミッション。ヤザン大統領の過去

 朝、ヘリでヤザン大統領がやってきた。

 

 ザンジバーランドのマクドネル・ベネディクト・ミラー外相を迎える為の設宴の打ち合わせ、という名目で、である。

 

 まぁ、おそらくは『今回の絡繰り』の説明に来たのだろう。そうでも無ければ彼の奥さんと一緒に戦艦エメラルダで来ているはずであり、おそらく奥さんやエメラルダ大佐に聞かれたくない話なのだろう。

 

 俺はいつものようにニヤニヤして話したげにしている大統領に、

 

「……で、ヤザン大統領。あんた俺に言うこと、ないですかね?いろいろと隠してる事、あったでしょうが」

 

 と、促した。

 

 ヤザン大統領は仕方ないなぁ、と、おどけた調子で肩を竦めると、

 

「ふむ、もうバレたか。まぁ……表向きの話しか出来ない時もあるんだよ。特に奥さんいたり無線だとねぇ」

 

 と、芝居がかった口調でやや苦笑いをした。

 

「よいしょっと」

 

 そして、応接室のテーブルの椅子に座り、ジャケットの内ポケットから銀色の葉巻ケースを取り出し、やや細い葉巻を出した。

 

 大理石の来客用に用意している高そうな灰皿……これはここのテーブル一式を調達した時に家具屋にオマケで付けてもらったものだ……にシガーカッターでジョキっとその先を切り落とし、口に加えてライターで火を付け、煙をもわーっと吐き出すと、

 

「……まぁ、ぶっちゃけ、私とビッグボスは長いつきあいでね。出会ったのは随分も昔のことさ。もう二十数年ほど前になるのかな。最初に会ったのはコロンビアのサンヒエロニモ半島……まぁ、今もあの辺の詳細な位置は地図にも乗っていない場所だよ。当時はまだ私は若造でね。……私はソ連の兵士だったのさ」

 

 と、何てこと無いようにとんでもない事実を告げて来たもんだ。

 とはいえおそらくは過去の話、もうソビエト連邦は無く、そしてヤザン大統領が何らかの陰謀を俺に持ちかけてくるような嫌な臭いも無い。

 

「こちらの暮らしが長くて肌が黒くなっていたからわからなかっただろう?」

 

 ニヤリと笑うも、

 

「いや、ロシア人なのはわかってましたけど?」

 

 いや、モロバレだろ。ソ連の兵士だったのはわからんかったけど。

 

「……あ、そう(´・ω・`)」 

 

 いや、そんなショボンとされてもなぁ。そりゃ顔と体型、あとは 話口調にロシア語の訛りが少しあるのだ、そら わかるわなぁ。

 

「というか、少しは驚いてくれたまえよ。まったく君と来たらまるで何でも見透かすようだからな。つまらんよ」

 

「いや、つまらんと言われてもね……」

 

 このオッサンはどうも人を担いで驚かせようとする所があるが、何だかなぁ。

 

「で、それとザンジバーランドの件がどう繋がって来るんです?」

 

「……本当に君は驚かないどころか慌てる素振りも見せないね。まったく。まぁ聞きたまえ」

 

 はいはい、そんな事は良いからとっととゲロってくれ。

 

「私の昔の名前はヨシフ・アレクセイ・ザドルノフ。ヤザンは妻の姓だよ。そう、私は婿養子でね。今、名乗っている『ジョシュ』は私の名前の『ヨシフ』をこちら風にしただけなんだよ。私はね、シベリアの生まれでね。家が貧しくて、末の子だった私は軍に入るしか生きる道が無くてね。それでも軍に居れは飯は食える、そう思っていたが……まさか遠く離れた地で餓えるとはおもわなかったさ。ソ連はコロンビアで我々を見捨てたんだ」

 

 ヤザン大統領は目を細め、しみじみと語った。

 

 彼の話によれば、キューバ危機以降、ソ連はキューバへの核兵器施設の建造を諦めたように見えたが、しかしアメリカ全土を射程圏に狙える基地の建造自体は諦めていなかったらしい。

 ソ連は秘密裏にコロンビアのサンヒエロニモ半島に核兵器施設を建造しようとし、彼の部隊もまたそのコロンビアに移動させられたとのことだ。

 

 しかし、アメリカもソ連も冷戦を続けるための莫大な資金を捻出し難くなり、緊張緩和の末にサンヒエロニモ半島の秘密基地建造を放棄したらしい。

 

 だが、米ソの合意に不利となるサンヒエロニモ半島の秘密基地の存在は公にしてはならぬとソ連はなかったことにしようとした。つまり、ソ連本国はそんな基地など知らない、一部のタカ派が勝手にやっていた事だ、として、現地の兵士達を帰還させるどころかスケープゴートにしようとした、とヤザン大統領は言った。

 

「見知らぬ土地、合わない気候、風土病にさらされ、満足な物資も食糧も元々送られては来なかったが それでも祖国のためと我々は必死に懸命に任務に従事していた……。だが、祖国は我々を見捨てた。捨て駒にしたのだよ。そんな中でアメリカのCIAから離反してきたという特殊部隊の連中が取り引きをするために接触してきた。奴らは『兵士の為の国を創る』と言い、サンヒエロニモ半島の基地跡を自分達で完成させようとした。プランを廃棄されていたソ連製の核兵器を接収しそれを抑止力として独立国を創るのだと……。我々もそれに加担した。祖国に見捨てられた我々にはそれしか生き残る術はなかった」

  

 胡散臭いどころではなく、非常に信用出来ないとヤザン大統領はその特殊部隊の連中、特にリーダーだった男に関しての印象を語ったが、なんでも声で人を煽動する能力というのか、術を持っていたらしい。

 

「ああ、本当に胡散臭い、だが、厄介な奴だった。なんというかこう……『ぶるぁぁぁぁっ!』とか言いそうな感じでな」

 

……いや、絶対そのリーダーのCV、某若本さんやろそれ。

 

 胡散臭いと思いつつも、彼は風土病に罹患し、自分の部隊の仲間、マラリアになった者や下痢が止まらない部下の治療の為他のソ連兵のリーダー達と話し合った末、その若本的な人物に手を貸すことにしたのだそうだ。

 

 しかし、その連中は、CIAから離反して来たと言うには潤沢な資金、豊富な物資をやたらと運び込んで来たり、人材も優秀な者達を連れており、特にリーダーである若本……いや、ジーンの部下には特Aクラスとも言うべき兵士達が揃っており、これはアメリカの何らかの陰謀に加担されているのでは、と当時のヤザン大統領は恭順する振りをしつつ探ったそうである。

 

「で、探ってたらヤベー情報掴んじまったのバレてとっ捕まった(笑)」

 

「いや、(笑)じゃねぇよオッサン」

 

 おっと、思わず心の声が漏れて一国の大統領を思わずオッサン呼ばわりしちまった。俺は、慌ててすみません、と謝ったが、クックック、とヤザン大統領は笑い、

 

「いやいや、私も堅苦しいのはあまり好きじゃない。オッサンで良いさ。まぁ、本当にヤバかったんだよ。『スネーク』、つまり後の『ビッグボス』が助けてくれなけりゃ、御陀仏だったよ。まぁ……そこから彼らの仲間になってね。とはいえそこからも大変だったんだよ。何度死にかけたかわからないほど危険な目にこれでもかっ!!とあったさ。いや、本当にね」

 

 ヤザン大統領の言う、サンヒエロニモ事件は実際のところ、キューバ危機よりも数段ヤバい事件だったらしい。何故なら……。

 

「なんせ、本当に核を撃ちやがったからね、連中は」

 

 何でも、大陸間弾道核搭載型戦車メタルギアRAXAなどという物をロケットに積んで打ち上げ、そしてそれにより核攻撃をやらかそうとしたらしいが、打ち上げ時にソ連・アメリカ関係無く、兵士達がそれに攻撃を加えて阻止したらしい。

 

 なんつうこったよ、本当に。

 

「阻止出来なけりゃ、核戦争に突入していたからね。みんな必死で、ありったけの武器をぶちかましたのさ。おかげでみんなまだ生きてる。いや、本当に良かった良かった。……まぁ、その一件でまた米ソ関係は微妙になり、緊張緩和にも影響は多少出たがお互い様って事で不問にしたらしい。……もっとも、我々は放置されたまんまだったがね」

 

 その後、ソ連兵達はアメリカに受け入れられたり、それを拒否して傭兵になったり、皆、思い思いの所へ向かい、別れていったらしい。 

 

「……そうしてその後ビッグボス達と別れた私達は、自分達の拠点を出て行ったんだ。ある者はニカラグアの反政府ゲリラに、ある者はアメリカに渡り、ある者は南米へ、そして私は紆余曲折あったが、この国の政治家のボディガードになったんだ」

 

 その政治家は、後に彼の義父となった前政権の大統領だった、という。

 

「……まぁ、ちょっとした仕事で結構な金が入ってね。気が大きくなって、この国じゃ当時、高級だった洒落たバーに入ってね。バーにいた綺麗な女の子をナンパしてね。翌朝、ホテルで起きて、その女の子が裸で俺の隣に寝ていたんだよ。しまったって思ってももう遅い。この中南米の大物政治家の武装した部下が俺の部屋に乗り込んできたんだよ。……で、簀巻きにされて、船に乗せられて、もう少しでサメの餌になるところさ。……女の子がモーターボートで助けに来てくれなけりゃ、本当に食われる寸前だった」

 

 ヤザン大統領はズボンの左足をまくって、

 

「ほら、そん時サメに齧られた傷がこれさ」

 

 と見せてた。すんげー齧られてんじゃねーかよ、つーか、まだ、そん頃大統領じゃなかっただろうけど前の大統領怖すぎやろ。つーか中南米の政治家って……。

 

「……マジで、サメの歯型ですね、これ」

 

「いや、妻には本当に助けられたよ。 キラーイ=クリストバル・カービン銃をサメにぶっ放し、モーターボートに私を乗せると今度は自分の父親にそれを向けて、『この人を殺すなら、私が許さないわよ!』と怒鳴りつけて、父親の乗ったクルーザーに乗り込んで行ってね……。ははははは、それで、なんか結婚させられる羽目になったんだよ、はははははは」

 

 キラーイ=クリストバル・カービンはキューバ革命時のチェ・ゲバラの愛銃として知られる自動小銃である。当時、中南米ではチェ・ゲバラにあやかってそのライフルを持ちたがる兵士が多かったとかなんとか。

 

「……マチルダ夫人って、その頃から軍に?」

 

「いいや、我が国には当時、軍隊は無かったのさ。だが、彼女は国境警備隊だったのさ。まぁ、ぶっちゃけ軍の必要性はみんなわかっていたし、義父は骨抜きになってしまった自国を憂いていた。彼女だってそうさ。とはいえ、義父は自分の娘に戦闘訓練を受けさせた事をその時に後悔していたよ。無論、酔ってたとはいえ、そんな女をナンパして一夜共にしてしまった私も後悔した。……で、陸に上がって逃げようとしたら、彼女、私のケツにおもきしぶちかましやがった……」

 

 ほれ、とカチャカチャとベルト外してズボンを下ろし、ケツを見せてくるヤザン大銀行。

 

 いやいや、見せんでええがな!つかズボン脱ごうとすんなオッサン!

 

 あーあーあー、ケツに銃弾受けた痕が。つーかオッサンのケツなんぞ見たくなかったわ。

 

 ショットガンウエディングというのはたまに聞くけど、それは女の子の父親が娘を傷物にした男の所へショットガン持って責任とるか死ぬかより二択を突きつける行為である。しかし、父親は殺す気しかなく、娘がクリストバル・カービン持って父親と男に突きつけて結婚かますというのはどうなんだろーね?

 

「だが、人生とは不思議だよ。シベリアで口減らしに軍隊に入れられた私が政治家の元で働かされ、結局、その夜の行為が元で娘が産まれてできちゃった結婚させられたんだよ。何度も何度も死ぬかと思った事もあったが……。カリブの海岸でビッグボスと再会したときには彼も驚いていたが、すげー笑われたよ……」

 

 そうして、ヤザン大統領はまた奇妙な縁で『ビッグボス』と共に共通の敵と、しかし『ビッグボス』とはこれまた別の角度で戦うこととなった……ってオッサンパンツ戻せよ、というか前を向くな、うわ、大統領の大統領をポロンすんな。

 

 あー、やっとズボン直しやがった。

 

 『ビッグボス』は戦場で、ヤザン大統領は政治家だった義父と共に政治的に、核をこの国に持ち込ませる手引きをした当時の大統領と政権を徹底的に叩き、また間接的に『ビッグボス』とその仲間の活動を支援した。

 

「……しかし、まさかねぇ。ソ連にいたはずの私の兄がKGBのスパイとして『ビッグボス』と接触していたとは思わなかったよ。……しかもあんなクソ野郎になっていたなんてね。なにが、コスタリカ国連平和大学の教授のラモン・ガルベス・メナ、だ。まんまロシア人顔の癖に。まったく」

 

 いや、あんたもそうだから、とツッコミを入れた方が良いのだろうか。とはいえ、ヤザン大統領はまだ肌の色のおかげでまだ一風変わった感じの中南米人で行ける感じはする。

  

 なお、ヤザン大統領の一番上の兄であるヴラジミール・アレクサンドロフ・ザドルノフが手引きした結果、ビッグボスとその仲間達はこの洋上プラントを根城に活動することとなったらしいが、このヴラジミールという男はKGBの工作員であり、やはりソ連の陰謀は続いていた、とかヤザン大統領は忌々しそうに言っていたが、とはいえその辺の情報はビッグボス達に直行で渡したそうである。

 

「……兄弟の情が無かったわけではないが、あの男はもう人間としてすでに取り返しのつかないところにまで行っていた。せめて兄弟として私の手で殺してやりたかったが……」

 

 結局はヤザン大統領の兄は自業自得で自滅したのだそうだ。とんでもない国家的な陰謀と共に。

 

「……で、その後、またビッグボスはこの国でも核危機と戦う事になってね。まぁ、彼もとことん核と戦う運命にあったようだ。本当に彼の運命に関わると途端に私も忙しくなってね。義父と妻と共にこの国に核を持ち込ませるその手伝いをしていた当時の政権、その元凶と戦った。アメリカやソ連の風見鶏、売国政権を倒すためにね。そうして勝利し、私の義父が民主的な選挙で次の大統領になったってわけさ」

 

「……なるほど」

 

 うーむ、元MSFなのでは無いか、と俺は思っていたが、しかし年代がどうにも合わなかったのだ。特に娘さんの年齢とMSF設立の辺りの年代が。

 

「まぁ、それからも我々の付き合いは続いたよ。今でもね。……我が国はね、彼らにアメリカが持ち込んだ核を押し付けてしまったんだよ。ビッグボスもサンヒエロニモ事件でもうウンザリしていたが、他に持って行きようが無かった。で、最後には全て背負って彼らは出て行った。彼らの商売的にもう、この辺りに拠点を置く必要が無かったのと、様々な事件でここには居たくなくなったのだろうね。引き上げ時として良いタイミングだったと彼は言ってくれたが……」

 

 要するに、アメリカがこの中南米に持って来た核の処分に中南米政府は困っていたのをMSFが引き取って管理していた、というわけか。

 

 そして、アメリカや諸外国からの圧力がどんどん強くなり、また中南米での傭兵ビジネスも頭打ちになって彼らは戦場をアフリカやアフガンなどに変え、その拠点へと移って行った、というのが真相のようである。

 

「なるほど、つまり奥さんが彼らを追い出したというのは?」

 

「ああ、それはミラー君の発案だよ。当時 中南米軍は発足したばかりでね。経験も実績も無かった。だから世界に名高いMSFを追い出したともなれば箔がつく、とね。他にも理由はあるが、そういう事さ」

 

 まぁ、そうなんだろうなぁ。

 

「……君は、日本のハチマンを潰して乗っ取る計画を立てているようだが、やはり日本に帰るのかね?」

 

「ビザとか切れる前に帰らなければなりませんが、そういう事じゃ無いですよね?そういう意味じゃ帰りません。ハチマン買収は昔の仲間の為ですよ。アンブレラの罪状が世に出ればどのみち今のハチマンが潰れるのは目に見えてます。そうなれば先代からの恩義で残って来た優秀な連中がアンブレラと関わりも無いのに社会の敵のように言われ、路頭に迷う事になります。なら早く潰して彼らを救おう、ってわけですよ。先代も自分のせいで子供同然の社員達を路頭に迷わすのは不本意でしょうからね」

 

 そう、俺がハチマン製薬を潰し、買収しようとしているのは何も現社長や幹部連中憎しでやっているわけではない……わけでもないが、そんな連中よりも罪の無い元同僚や研究者達を助ける為である。

 

 アンブレラがやっている事は必ず公の元にさらされるだろう。だが、それによって昔の仲間達が無実の罪で世間から糾弾され、路頭に迷う事は避けたい。なんせ、元々、ハチマン製薬は蚊取り線香とか殺虫剤とか作ってた会社なのだ。

 

 ある意味、俺が水虫薬を開発するために作り上げた技術、その俺の特許を無視してそれをアンブレラに提供したアホ共が悪い。

 

 あのラクーンシティのアンブレラの地下研究施設にあった調剤機械は、あれは俺の製薬特許によって作られたものだ。俺には良くわかる。なんせあれは俺の製薬特許の元で先代社長と製薬機器会社のミナモト精機の社長と一年かけていろいろ企画を立てて造ったもののコピー品であり、ミナモト精機の知らないところで造られたものだというのはわかっている。

 

 それにアンブレラの通常の薬品工場でも調査の結果、俺の特許を侵害しているのはわかっているし、それを使わなければ作れない薬品を大量販売しているのもな。つうか、その辺、ハチマンのアホ共は法とかそんなん無視して懐に金をわんさか入れとったわけだ。

 

 つか、アンブレラはその辺確認しとらんかったんやろかのう。法関係はしっかりしとるイメージあったけど、案外アホ過ぎるよなぁ。規約規定はキッチリと法規定に従ってこっちは、ちゃんとやっとったのに見とらんとはなぁ。

 

……とはいえ、その辺でかなり大きな隙があったので俺はそこを突けるわけなんだが。

 

「……ふむ、なるほど。確かにな。君が良ければ我が国に帰化しないかね?いや、ぶっちゃけ言うがウチの娘、エメラルダと結婚して私の後を継いで次代の大統領にならんかね?」

 

「……いえ、無理です。もう妻も子も居ますし、大統領なんて無理」

 

 うん、これは本心だが、エメラルダというのはあの、ゾンビコワいブルブル筋肉ムキムキオムツネキのことだよなぁ。つか彼女と結婚なんぞしたら、性癖拗らせそうで怖いわ。オムツプレイとか腹筋ぷるぷるプリンプレイとか、C.C.レ○ンプレイとか、いろいろ想像出来てやばいぞ?

 

……いや、そんなん考えとる俺が一番やばいか。

 

「……え?」

 

 ヤザン大統領が鳩豆な顔をした。

 

「いや、ほら、凡太郎……ネメシスを息子と認知しましたし、その母親のナスターシャと結婚する事にしたんですよ。幸い、彼女も了承してくれましたし。だから、大統領の娘さんとは結婚できません」

 

 実際に了承したのは俺の方なんだが、やはりそういう事にしておいた方が対外的にはよろしい。

 

「ぐぬぬぬぅ、先を越されたか。いいや、今からでもザンジバーランドに加盟して一夫多妻制にすればワンチャンあるかぁ?!そして私はネイトちゃんを第二夫人に……妻が烈火の如く怒り狂って軍事クーデターを起こしかねんか。はぁ~、うまくいかんもんだなぁ」

 

 いや、国民の意思とかそういうのをもっとさぁ。独裁国家じゃねーんだから、ここは。つーか、夫婦喧嘩で軍を挙げてクーデターする奥さんって怖いがなおい。

 

「いや、なにどさくさで自分が第二夫人もらおうとしとんですかあんたは」

 

……ネイトちゃんって誰だよ、多分風俗のねーちゃんだろうけど!

 

「というか私は日本人止めるつもり無いのでどのみち無理です。それに娘さん、エメラルダ大佐の気持ちを無視して親が決めるのは良くないですよ?」

 

「うーむむむ、長女は片付いたし、次女はもう相手見つけてるんだけどさぁ、ほら、末娘は女軍人だけの船に乗ってんじゃん?相手なかなか見つからなくてさぁ。パパ心としては、悪い虫つく前にちゃんとした相手をさぁ……」

 

「いや、俺、B.O.W.ですよ?ちゃんとしてるどころか一般から見たらバケモンですやん」

 

「……あ~、そういやB.O.W.か。でも君は普通の人間よりもよほど人間だよ。とはいえ、B.O.W.というのを差し引いても君は有望株じゃん?特許を差し止めするだけで、アメリカ経済、ヨーロッパ経済にめちゃくちゃ震撼させとるよ?つか昨日の新聞みた?」

 

「いや、ここ、新聞来てないですから」

 

 海の上まで届けてくれるような新聞屋さんなんぞ無いのだ。それに新聞が溜まると処分に困るし?つか燃えるゴミの方が海上では困るときがあるのだよ。

 

「今、世界中のメディアが君に取材したいって言ってんよ?オファー凄すぎて君が入院している事になってる病院なんてもうかなり迷惑しとるんだからね。病気の療養中だとストップかけさせて、君の療養先を別のどこかに変えたって事にしといたけど、そろそろなんかコメントでも出してもらえんとね。ほれ、この日本の新聞なんか『彼は病気で脳になんらかの異常を来して正常な判断が出来ない状態に陥っている可能性がある~~~中略~~~彼は愛社精神に溢れた人間で本来離反したり、このような事をする人間じゃない』とかハチマンの今の社長がコメントしとるよ?」

 

「……ふむ、ハチマン動乱、その余波はアンブレラにまで、ですか。しかしなんですな 久しぶりにアホボンの顔見ましたが、吐き気が出ますな」

 

 アホボンとは現ハチマン製薬の社長の事である。今時30代でロン毛、オーダーメイドの肩パッド入りのスーツに高級な金時計という、あからさまにアホの成金な格好である。つか、バブルの時のホストじゃあるまいし。

 

「……愛社精神ねぇ。正直、彼が言うとそれほど寒々しい言葉は無いねぇ。まぁ、この路線で事を進めるならとことんやりたまえ。ああ、ザンジバーランド側から打診があると思うけど『腕っこきの法務官』をアドバイザーに貸し出す用意があるそうだよ。ハチマンはもう詰みだが、この調子でアンブレラの奴らをもっと引っ掻き回してくれるとありがたいね」

 

 ぱさ、ぱさ、ぱさっとヤザン大統領は世界各国の主要な会社の新聞をいくつもアタッシュケースから取り出すと、ニヤニヤ笑って、

 

「いや、本当に君、時の人じゃないかね?」

 

 と、言った。

 

 新聞の一面には大抵、アンブレラへの特許差し止め関連の話題だらけだった。

 

 ふーむ、ラクーンシティに絡めた記事が全く無いのがなんとも気にくわない。

 

「ふむ……。ちょっと、アンブレラをつつくようなコメントでもしておきましょうかね。……幸い、ウチには現役の新聞記者と良い医者がいますしね」

 

 俺もニヤリとヤザン大統領に笑ってやった。

 

 

 なお、後にシーナ島事件と言われる一件の後、元ラクーンシティプレス社の有名新聞記者アリッサ・アッシュクロフトによる 、俺への単独インタビューと医師であるハミルトン先生による治療を受けている俺の写真を掲載した新聞がNYの新聞社を通して世界に大々的にばら撒かれた。

 

『ラクーンシティの悪夢~アンブレラによる人為的ウィルス災害~薬学者ヒトシ・タイラ氏、病床にて語る』

 

 まぁ、悪乗りしてわざと古い八ミリのビデオカメラで、いかにも病床の俺が喋っているといった映像も撮ったのだが、それが世界中でアンブレラの脅威を喧伝するとは思っとらんかった。

 

……まぁ、案外アンブレラ壊滅は早まるかな?と。

 

 

 




・ザドルノフさんの弟だったヤザン大統領、というのはこの物語でのねつ造です。なお、歳を取って兄そっくりになってきたという。

・悪乗りで、アンブレラを追い詰めるきっかけを作るという……。

・なお、ヤザン大統領、娘を嫁がせる事を諦めたようで諦めてません。

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