なんかタイラントになってしまったんだが。   作:罪袋伝吉

45 / 66
いつも感想&修正等ありがとうございます。

・来ちゃったよ、カズが。あとエヴァが。

・平凡さんの、少し重い過去。まぁ、いろいろあったんですよ、彼にも。


共闘まであと数日~ミラー外相とエヴァ夫人来訪。

日が変わって、ミラー外相達の乗るザンジバーランド籍の大型貨物客船『アウターヘヴン』は直接、このプラントへとやってきた。

 

 元は1万6,000トン級の捕鯨母船になるはずだったというだけあり、こうしてみるとかなり大きいが、もはやどこが捕鯨母艦だったのかわからないほどに改造され、見たこと無いけどタイタニックというのはこんな感じの船だったんじゃないかと思うほどに、豪華客船じみていた。

 

 無論、こんな大型な船を接舷するようにはウチのプラントは出来ていないためアウターヘヴンはやや離れた場所に停泊し、船上のヘリポートからミラー外相達を乗せたヘリが飛び立ち、プラントのヘリポートに到着。

 

 その中から、4人の男女の兵士と思われる者達がまず降りて来て、その次にミラー外相とエヴァ夫人と思われる人物が降りてきた。

 

「ミラー君!久しぶりだな!いや、君も今や一国の外相か!……いやぁ、ザンジバーランド建国おめでとうございます、だな!よくもまぁ、スネークを大統領に出来たものだ。彼の事だ、すごく嫌がっていただろう?」

 

 ヤザン大統領が、まずミラー外相の方に寄り、声をかけ、握手をする。がっちりと手を握りあう二人はまるで信頼しあう仲間のそれである。

 

「ヤザン君、ありがとう!スネークは頑なに首を縦に振らなかったんで、選対に推薦枠を作ってみんなで推薦したんだよ。まさかスネークも大統領選挙に推薦枠なんぞ作るとは思わなかっただろうからな。で、ちょうどいろいろと海外での仕事もあったから推薦するだけ推薦して逃げて来たんだ、ははははは!」

 

 してやったぞ!とミラー外相は不敵かつ満面の笑みを浮かべるが、それは悪戯が成功したガキ大将そのものであり、またヤザン大統領もそれは同様である。

 

 どうやらジョン・ジャック・シアーズ大統領が初心表明演説で言っていた、全部カズが企んだ、とは事実だったらしい。ヤザン大統領の後ろでミランダ夫人が『全くこの連中は……』と言った感じで笑顔をひきつらせていたのでおそらく昔から彼らはいろいろと企んでやらかしていたのに違いあるまい。

 

 エヴァ夫人と思われる女性は、おそらくは彼女のお付きの女性の一人とヘリから小さな男の子を降ろしてやっている最中で、もう一人のお付きの女性はヘリ上にいる金髪の中年女性が降りるのに手を貸していた。

 

 俺達、エイダとナスターシャの横にいるルポが子供と中年女性の方を見て安堵の息を吐いた。あれがルポの子供と例のセシールおばさん、いや、セシール教授なのだろう。

 

「ははは、君らしい!しかし君の判断は正しいと私は支持するよ。あの国の初代大統領は彼でなければならない。……ところで、そちらの方がビッグボスの奥方だろうか?」

 

 エヴァ夫人らしき人物が、ルポの子供とセシール教授をつれてきたタイミングでヤザン大統領はエヴァ夫人の方を向いた。

 

 エヴァ夫人はヤザン大統領に一礼して、

 

「ええ、第二夫人のエヴァ・シアーズと申します。第一夫人のパス・オルテガ・シアーズから、お二人の事はかねがね聞いておりますが、ええっと、こちらはお知り合いですよね?セシール・コジマ・カミナンデス教授、そしてこちらの職員のお子さんです」

 

 にこやかにそういい、周りを見回すとルポを見て、ルポの子供に

 

「ほら、あの方がお母様かしら。お母様の所にお行きなさい?」

 

 と母親の所に行くように促した。すると子供は、

 

「ママーっ!」

 

 と一目散に走り出し、ルポに抱きつきわんわんと泣いてしまった。経緯が経緯である。誘拐事件に巻き込まれてやはり怖かったのだろう。

 

 ルポがミラー外相とエヴァ夫人に礼を言おうとしたが、しかしエヴァ夫人が手でそれを制して、

 

「礼は良いからその子を落ち着ける所でしっかり抱きしめてやって頂戴。出来ればちょっと軽いものをとらせてあげて。その子、ずっと泣いて怖がって、なかなか寝なかったし、食べ物もあまりとってくれなかったのよ」

 

 ルポは判断を仰ぐように俺の顔を見たが、エヴァ夫人の言ったようにさせるのが良いと俺は思った。何より子供が来たらルポには下がらせるつもりだったからだ。

 

「ルポ、食堂のスープか何かをあげてくれ。今日はお子さんに着いていてあげてくれ。事件の後なんだ。それに久しぶりに会えたのもあるからね」

 

 あまり周りの評判は良くないが、俺はにっこり笑ってそういった……ら、なんか俺を見てルポの子供が余計に泣いた。ギャン泣きである。

 

「……あー、うん、泣かしちゃったかー」

 

「社長、あなたは自分の姿と特に顔が怖い事をもっと客観的に捉える必要がありますわ。というか笑顔がゴゴゴゴゴ、とか唸りの擬音を発してます」

 

 エイダが冷たくそういい放つ。

 

……唸る笑顔ってなんだよ、漫画かよ?!

 

 とツッコミを入れたかったが、世界のVIP、一国の大統領夫人とその国の外相の前なのでできなかった。

 

 つか、ルポがものすごく申し訳無さそうにしてペコペコしながら子供を連れて行くのに、

 

「いや本当、怖がらせてごめんよー」   

 

 と手を振ってやるくらいしか出来ない。

 

 ちくせう、なんかこの秘書は最近俺にやたらと毒舌をかまして来やがるな、おい。

 

 くすくすくす、と俺の方を見てよほど可笑しかったのかエヴァ夫人が笑う。

 

「いえ、笑ってすみません。ヤザン大統領、この方が?」

 

「ええ、彼が白陽社の社長、ヒトシ・タイラー社長です。彼はその、容姿はこうですが、人としての仁義や恩義に厚く、私にとっても中南米にとっても信頼できる新しい友人です。……まぁ、あの子もきっとわかるでしょう。何しろ彼はここにいる子供達に大人気のスーパーヒーロー『キャプテン・タイラント』ですからね」

 

 数日前の国境近くで撮影した戦闘記録を見たのだろう、ヤザン大統領もクックックと笑いながら言った。というかその笑い方は悪意しか感じんぞオッサン。

 

「まぁっ!スーパーヒーローもおやりになってるのですか?」

 

 目を丸くしてわざとらしくエヴァ夫人が驚く。これは演技だ、間違いない。

 

「……いえ、国境近くでちょっと。その、子供達の娯楽が少ないので……なぁ?」

 

 と、ナスターシャに話を振るが、それがいけなかった。

 

「ええ、とても格好良かったんですよぉ!もう、私の夫は世界一って感じで。息子もいつかパパみたいに強くなるんだ!ってはしゃいでました……って、すみません、申し遅れました。私はヒトシ・タイラーの妻のナスターシャ・ロマネスカヤ・タイラーと申します。エヴァ夫人とミラー外相にお会いできてこうえいですわ」

 

「おや?タイラー社長は妻帯者だったのですか。いえ、ヤザン大統領からは独身だと聞いていたので、これはやはり夜に街に繰り出して男同士の友情を育もうと思っていたのですが……」

 

 ミラー外相がそう言った途端、ミランダ夫人が目をつり上げた。

 

「……ミラー外相。ウチの亭主もそうですが、皆さんそれなりに地位も得た人達です。昔の若い頃のような遊びは控えるべきでは?」

 

 ギロリ睨むとミラー外相がなんか小さくなった。ついでにヤザン大統領も。

 

「ハイ」

 

「無論、私は関係ないぞ?というかそんな計画は知らなかったよ」

 

 計画と言っている辺り、バレバレだろうオッサン。

 

「というかミランダ夫人もおかわりなく、いやいやハハハハ……」

 

 まぁ、若い頃に彼らはおそらく中南米の街に繰り出してオネーサンのいるような店に行って遊んでいたのだろう。そして、ミランダ夫人に見つかってコッテリ怒られていたのだろうなぁ。

 

「しかし、お子さんもいらっしゃるのですか。いま、何歳です?」

 

「……ちょうど2ヶ月ですね。とはいえ立ち話もなんですので……。ヤザン大統領、場所を移しませんか?少し潮風が強くなってまいりました」

 

「ああ、そうだね、タイラー社長。ではミラー外相にはまず診察……だったかね?」

 

「おお、是非お願いします。エヴァ夫人はこのままヤザン大統領とミランダ夫人の方へ」

 

「ええ。ヤザン大統領、ミランダ夫人、よろしくお願いしますわ」

 

 エイダが先導し、セシール教授がどっちに行けば良いのかと迷ってたがやはり会議室へ、と言われ、四人は会議室へ向かうことになった。

 

 そうして、プラントに二人のVIPをお通ししたわけだが……。まぁ、ヤザン大統領がお連れしたエヴァ夫人が俺に、

 

「……タイラー社長、あなたの新たな『子供』についての情報があります。また後ほど」

 

 そう言って、ニヤリと笑って行ってしまった。

 

「……新たな……子供?」

 

 ミラー外相は、チッ!と舌打ちし、

 

「あの女狐め。このタイミングで言わなくとも!」

 

 と、歯をギリッと鳴らした。どうやら彼からすれば話す段取りを狂わされたらしい。

 

……なるほど、と俺は思った。

 

 あのエヴァ夫人という人物はなかなかに難儀な性格をしているらしい。つまり番狂わせで人の心を乱し、その隙を利用して人の行動をコントロールしようとする事に長けた、そういう類の人間だ。

 

 以前のエイダにもそういう部分はあったが、おそらくはあのエヴァ夫人はエイダ以上に手練れの女スパイだった、いや、今も現役でそうなのだろう。

 

 なにしろ、俺のスメル・センスでもなかなかに読めない程に複雑な思考パターンを、それもわざと駆使しているのだ。

 

……おそらくはハンター君から俺のだいたいの能力の情報を得て、彼女独自の対処法を編み出して使って来たのだろうな、これは。

 

「……まぁ、予想の範疇です。心穏やかにとは行きませんが。……ナスターシャ、どうもアンブレラの連中はまた俺の子供を造ったようだ」

 

「どうするの?アナタ。いえ、アナタなら救おうとするかぁ」

 

 ああ、我が妻ながら俺の思考をよくわかっているなぁ。……もっとも内心ではどこのどんな女の子なのか穏やかで無い感情が渦巻いているのはスメル・センスに駆使しなくとも俺にもわかるくらいに顔に出ているが。

 

「……俺の血を継いだ子供だ。出来ればそうしたいが、奴らのやり口はいつも腐ってやがるからな。最悪でも親として葬ってやりたい」

 

 そういうと、ナスターシャはやはり複雑な表情をしたが、なんだかんだでお人好しのポワポワちゃんなのだ。

 

「やっぱり、救ってあげたいわね……」

 

 そういう結論を出す。嫉妬よりもそういう答えを本心で出す辺り、ナスターシャは情が深い。

 

……というか、この顔は早く二人目云々とか考えてやがるな、おい。やーめーてーくーれー。

 

 そんな事を考えていると、ミラー外相がやや顔をしかめて真顔で、

 

「……タイラー社長。心中穏やかでは無いと思うが、その件については俺もまだ未確認でな。だが、彼女の情報網は俺の手よりも深く潜り込む。おそらく場所の特定も済んでいるだろうが……。あんたはこの世界で唯一、完璧なT-ウィルスに対抗出来る薬剤を開発出来た天才的な人物だ。出来れば我々としては危険に飛び込ませたくは無い」

 

 と言った。

 

 彼は戦略的な思考パターンを主としているタイプの人間だがその実、発言の裏にも実直なものがあり、好感がもてた。つまり、ミラー外相は俺に好感を持っており、また心配もしてくれているらしい。

 

「ミラー外相。俺の遺伝子を持つB.O.W.を倒せるのは俺だけですよ。無論、クローンの生存の情報は知ってますが、彼は俺じゃない。俺は、どのような結末になろうとも俺の子供は俺の手で救わなければならないと考えているのですよ。そして、それが親の勤めってもんでしょう。たとえ俺の知らない所で産まれようとも、その子供の存在を知ったならば、必ず俺はそこに行かねばならないんですよ」

 

「……あんたは、何故そう思えるんだ?醜悪な姿の怪物にされているかも知れないんだぞ?」

 

「ならばなおさら。理不尽な生を受けて苦しんでいるならなおさら、です」

 

「あんたに責任は無い。アンブレラが……」

 

「そんなこと、子供には関係無いんですよ。アンブレラがどうとか、そういうのはね。子供が思うのは良かれ悪かれ親の事です。何故自分は生きているのか、何故苦しむのか、全て『親』ですよ」

 

「いや、だからといって、あんたに何の関係があるというんだ?あんたにとって、その子は身に覚えも何もなく、ただ遺伝子をとられて勝手に造られたものだ。リスクが大き過ぎるだろう?!」

 

 何故かミラー外相は声を荒げていた。多分、彼には何かしら思い当たる部分があったのかも知れない。

 

「それでも、ですよ。子供は親も生まれる時も選べない。……俺にはわかるんですよ。まぁ、昔の話になりますけどね。……俺は、ずっと母親が嫌いだったんですよ。病気になってから母親は妙な宗教に被れてね。そのクソのような教祖の話を鵜呑みにして、俺に先祖の呪いがお前に取り憑いている、先祖は代々多くの人を戦争で殺してきたから、お前もいつか人をたくさん殺す事になる、その前に教祖様のところに行ってお祓いを受けなきゃいけない。……散々言われましたよ。家の商売の金を持ち出して親父に離婚されてからも、死ぬまでずっとね。……なんて事はない、先祖じゃなくて俺は母親に呪われてたようなもんだった。まぁ、半分は当たってましたかね。ラクーンシティでアンブレラの傭兵だか米軍だか、確かに殺してここにいる。……だが、そんな事はどうだっていいんですがね。俺が子供の頃に俺が欲しかったのは、そんな呪いの言葉じゃない。ただ優しく、そして母に認めて欲しかっただけなんですよ。……俺の子が苦しんでるなら俺が認めて救ってやらなけりゃ、誰が救ってやれるって言うんです。人に仇なす存在になっていたとして、誰が情を与えて葬れるというんです。そんなの親の俺しか、いないでしょう」

 

 俺は、いつの間にか拳を握り、その握力で手の皮膚から血を滲ませていた。

 

「アナタ、アナタっ!」

 

 手から血を流している俺の袖をナスターシャが引っ張る。

 

「……すまん、ナスターシャ」

 

 ナスターシャがハンカチを出してくれたが、手を開くと同時に俺の手のひらはすうっと傷を消して治り、皮膚を再生させた。

 

 ハンカチは必要なかった。

 

 苦笑いし、

 

「バケモノにされた俺には、それしか無いじゃないか」

 

 俺がそう自嘲して言うと、ミラー外相は震えていた。そしてサングラスを取ると、目を拭った。

 

「それが……あんたか。あんたの親としての覚悟か……!」

 

 彼は、泣いていた。何故かはわからない。だが何かしらの共感を持っていたのかも知れない。

 

 俺は、変な話をしてすみません、とミラー外相に謝罪したが、ミラー外相は、いいや、子として親として感銘を受けた、と返してくれた。

 

 ナスターシャは黙ってずっと俺を気遣うようにしてくれ、俺の背広の裾を掴んで離してくれなかったが……いらないことを話してしまった感がなんかパない。

 

 うーむ、手を離してくれなきゃ、頭撫でてやれんのだがなぁ。とはいえ人前で撫でるわけにも行かない。

 

……掴まれるままにしておくかぁ。

 

 医療施設棟へは、もう少し先である。

 




・今年最後の更新ですかね。

・正月は休肝日。

・もうちょい、明るい話になるはずだったんですが、すみません。

・なおネタバレになりますが、平凡さんはバイオの怪しい宗教関連に対して特攻バフかかりまくりになる原因が、母親の新興宗教という……。ロスなんちゃらとか、ミランダ一味に救いはあるのか?という……。

・あー、温泉行きたい。若いねーちゃんしか入ってない混浴で揉みくちゃにされながら癒されたい。

・では皆様、よいお年を。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。