なんかタイラントになってしまったんだが。   作:罪袋伝吉

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いつも感想&誤字脱字修正ありがとうございます。

……平凡さん出陣決定。

平凡さんの子供の母親に関するアンケートにお答えいただいた方、ありがとうございます。

……リサ・トレヴァーが何故か上位という(汗)。

 




共闘まであと数日~トレヴァーの娘

 

 ミラー外相の水虫治療を終え、野外での昼食会を和やかなムードで終え、そして一時休憩を挟んで、会談と言うことになった。

 

 一国の大統領と一国の外相、そして大統領夫人が話をするのだから二国間の政治的な話し合いになると思いきや、そうではない。

 

「協定や輸出入、その他取り決めに関してはとっくに終わっている。i-DOROIDがあるからね。遠く離れていても商談から政治的なやりとりまで、よその諜報員にすら傍受されても解読など不可能な『ヴォイニッチ暗号化式通話』を搭載!コンピューターウィルスも混入出来ないオートセキュリティー!そして基地局さえあればどこにいても通じるバースト通信!……というわけで、君んとこもマザーコンピューターから一式揃えないか?これからの我々のマストアイテムだぞ?」

 

 ヤザン大統領が俺の前になんかチラシのような物を差し出してきた。

 

『あなたもD.D.倶楽部に入会して、一足先の未来にダッシュ!入会費不要!機材等の工賃不要!D.D.エクスプレス国際便契約料・最大半額!人材派遣も御相談下さい!他にも様々な支援がてんこ盛り!!詳しくはザンジバーランドMSF事務局、もしくはダイヤモンド・ドッグス・コーポレーション裏支局まで……』

 

「……なんですか、これ?」

 

 俺はチラシを見て絶句した。秘密結社ってなんやねん。

 

「俺が会長兼オーナーをしているダイヤモンド・ドッグス・コーポレーションとの提携勧誘のチラシ(日本語版)だ。急いで船で刷ったんだが?」

 

「ええっと、ダイヤモンド・ドッグス・コーポレーションって世界展開している運輸会社のD.D.エクスプレスとかマクドネル・バーガーとか……って、マクドネルバーガーのマクドネルはまさか、ミラー外相の?」

 

「そうだ。私が経営している。日本にも現在682店舗出している。またファミリーレストランチェーンのハンナ・ミラーズもそうだ。さらに世界中の様々な商品をリーズナブルな値段で販売するコストローマートなどもやっている。また、D.D.コーポレーションは運送力を活かし、様々な世界の一流品の流通も担っている。治療中にも言ったが、世界の一流デパートからあなたの町のスーパーマーケット、個人商店にも!ありとあらゆる所に我々の卸先がある!販売ルートも多岐に渡り、宣伝から営業まで現地スタッフが赴きプレゼンまで行う!!テレビCMから駅、電車内の宣伝広告、新聞折込チラシまでお任せ下さい!……というサービスを手広くやっているぞ?」

 

……どうだ?とか言いつつ、ミラー外相は不敵にわらい、

 

「平社長、今や世の中はグローバル!製薬会社とて新たな時代のニーズの波に乗らねば生き残って行けない!たとえ一流の薬を開発し販売に漕ぎ着けでも、様々な古い圧力が必ず邪魔や妨害を行ってくる!特に新興の企業が今までのやり方で地道にやろうとしても、アンブレラを筆頭にトライセルやH.C.F.(ヘルスケアカンパニー)、日本の最大手の製薬会社も手を打ってくる!それらを個人でかいくぐり成功するのは如何にあんたが天才でも至難の業!だが、我々が手を組めば、一昔前の商法しか知らない古臭い連中の妨害など何するものぞ!そう、我らの未来には成功しかないと断言しよう!!」

 

……なんつう早口、そしてこの長セリフ。

 

 いや、ここで退いては押し切られてしまう。というかこういう事は詳しく事細かに聞かねばならない。確かに良い話ではあるが、ウチの会社の目的は対アンブレラである。そりゃあそのための資金繰りとかその辺の為に商品は売らねばならんが、うーむむむ。

 

 と、そこでエヴァ夫人が口を開いた。

 

「カズ、あなた良い製品を見つけ出して商魂を燃やしているけど、本題からかなり外れているわよ。ここへはD.D.コーポレーション会長としてではなく、MSF副司令として交渉に来た。違うかしら?」

 

……うんうん、だよなぁ。つーか伝説の傭兵企業になんで商談されてんだろなぁ、と俺も思ってたんよね。

 会社としては魅力的なお誘いなのは間違いないんだが。

 

「いいや、アンブレラと戦うのに平社長の戦略、つまりアンブレラを弱らせるというコンセプトに我々D.D.コーポレーションのネットワーク、そしてフットワークが合わさればより動きの幅を広げ、かつ大胆に連中の力を削げる。けして外れてはいないと思うが?」

 

「表向きの事だけでは無く裏側も話しなさい、と私は言っているのよ。それに、一側面だけでタイラー社長は動いているわけじゃ無いわ。法的にも商業的にも、そして実力行使……実戦的な活動をも視野に入れ、多角的に戦略を練っている。それはあなたも理解しているはず」

 

「……俺は平社長を戦闘に巻き込むのは反対だ。彼は完璧な抗T-ウィルス薬を開発し、治療薬、駆除薬を開発出来た、ただ一人の人間だ。たとえ不死身であったとしてもいかなる戦闘能力があろうと、失うリスクにさらす事は出来ない!」

 

「では、カリギュラを戦場に立たせると言うのかしら?本人の意思も確認せず、彼の身代わりとして?」

 

「……まだカリギュラは戦える状態じゃない。それにそれは考えていない!」

 

「では、タイラー社長の意思を聞きましょう。タイラー社長の意思のみが彼の行動を決める事が出来る」

 

 エヴァ夫人は自分の胸の谷間から細身の折りたたみ式i-DOROIDを出し、そしてスイッチを押して一つの画像を空間に映し出した。

 

 それは、一体の醜悪なクリーチャーの画像だった。

 

 人の顔の皮をいくつも自分の頭部や顔に被り、せむしのように背をまるめ、腕を枷で封じられた、異様な姿。体型は異常でありつつもなんとか女性である事がわかる、そんなクリーチャーである。

 

「リサ・トレヴァー。この哀れな少女はあなたと同じ、スペンサーの被害者よ。……ラクーンシティにて米軍の核攻撃によっておそらく本人は消滅したと思われるのだけれど」

 

 エヴァ夫人は深く溜め息を吐き、俺の目を見て言った。

 

「……この娘の被っている顔の一つは私の手の女性エージェントのものよ。この画像といくつかのファイル、情報を送信した後に消息を経った。おそらくは死亡したのでしょう。もう数年前の事よ」

 

 俺は、息を詰まらせた。いや、このクリーチャーの醜いとも言えぬ姿にでも、エヴァ夫人の部下の顔の皮膚や死亡したという事にでもない。

 

 エヴァ夫人がこれから言わんとしている事が理解出来たからだ。

 

「単刀直入に言うわ。このリサ・トレヴァーの卵子とあなたの精子を使った娘が造られてしまったのよ」

 

「ぐぅっ?!」

 

 歯を食いしばり、短く唸るしか俺には出来なかった。

 

 いかん、怒りと悲しみに、身体が戦闘態勢に入ってしまう!

 

 隣のナスターシャが俺の背中をさするのがわかるが、俺の背中の皮膚と筋肉、いや、身体中がベキベキベキと硬化し、着ているスーツが盛り上がる身体に弾け飛び、破れていく。

 

 銃弾すら通じぬ身体に変わる俺の姿。あまり人前でさらしたくもない姿に、バケモンの姿にどんどん変化していく。

 

「……この、少女は……。T-ウィルスに不完全に適合した……?」

 

 そう問う俺に誰もが言葉を失う。それはそうだろう、ヤザン大統領もマチルダ夫人も、そして俺のクローンであるカリギュラの姿を知っているだろうミラー外相も俺の変わりゆく姿に息をのむ。

 

 冷静に話すのはエヴァ夫人、ただ一人だった。

 

「ええ。彼女は高名な建築家『ジョージ・トレヴァー』の一人娘だった事がわかっているわ。ジョージ・トレヴァーはスペンサーからの依頼でラクーンシティの郊外の山に風変わりな、というより迷宮のような豪邸を設計し、建築したのよ。……おそらく、彼はそれがアンブレラのアークレイの地下研究施設のカモフラージュとは思わなかったでしょうね。しかし、スペンサーは豪邸が完成した後にトレヴァー夫妻と娘を完成したばかりのその豪邸に招き、妻と娘をウィルスの実験台にさせ、ジョージ・トレヴァーを絶望の中で殺した。……そして夫妻は死に、娘はいくら処分しようとしても死なないクリーチャーになり、そして迷宮のような父親の設計した洋館の地下を徘徊していたのよ。母親をずっと探しながらね」

 

 ビキビキッと、俺の怒りが止まらない。もはや弾けたスーツから露出した背中からしゅうしゅうと蒸気が沸き立つ。

 

 スペンサーへの怒りとリサという少女への哀れみ、それらの感情が抑えきれない。身体が高温を帯びて水分が蒸発している。

 

 いかん、ナスターシャがこのままでは火傷をしてしまう。

 

「ナスターシャ、火傷する。……少し、離れていてくれ」

 

 ナスターシャは涙目になりうるうるとした目で俺をみているが、しかし俺から離れる。

 

「ああ、すまん。難儀な身体だな、我ながら」

 

 撫でてやりたいが、それは出来ない。この熱では傷つけてしまうからだ。

 

 俺は、エヴァ夫人の言葉を聞くまでもなく、その娘が被った惨劇を悟っていた。

 

 スメル・センスのみならず、まるで予知や千里眼のように働く俺の脳が、答えを割り出していた。

 

 奴らはこの哀れな娘を様々な実験に使った。

 新たなウィルスすらこの娘から取り出し、そしてこの娘が暴走するのを防ぐために、生贄として女性をこの娘の前に差し出し、顔を剥がさせた。

 

 情報が予測が、ビジョンとなって頭に走る。それでも脳は冷静な部分をもって分析する。

 

「……この特徴、奴らはNE-αを取り込ませたか。それに、G-ウィルスの特徴も見て取れる。アレの出所はこの娘か……。外道共め……!」

 

 涙が止まらず、いや、止める事はしない。

 

 この少女の悲しみ、苦しみ、その身を苛む痛み。それをその姿から俺の脳は読みとる。なおも俺の筋肉は盛り上がる。

 

「……この哀れな子から、俺の子供を奴らは造りだしたか。母の苦しみを子に与えたか!!」

 

 ギリギリギリギリ!歯が軋む。握る拳が血を流し、涙はついには血となった。

 

「……あなたの娘は、アンブレラが所有するヨーロッパの海に浮かぶ孤島『シーナ島』で調整されている。セルゲイ大佐のクローンの量産型タイラントや別のタイラントシリーズと共に。……あなたの怒りを見れば、もう答えは出た。そうでしょう?ミスターパーフェクトタイラント。あなたは正しき怒りを抑えられない。優しき暴君。……戦いなさい。あなたにしかあなたの娘は救えない」

 

 そう言ったエヴァ夫人の目にも涙が浮かんでいた。

 

「……とっくにそのつもりだ。そうだろうとも。俺の血だ。どんな結末だろうと俺が行かねばならん。その娘の親はもう俺しかいない。エヴァ夫人、情報に感謝する。……だが、あんたの答えは見つかったか?」

 

 俺はエヴァ夫人の目を見据えて言った。

 

 彼女の匂いには先ほどまで、おかしな迷いに似たものがあった。いや、俺を焚き付けることに対してではない。

 

 まるで古傷の意味を知る事に対して恐れ、しかしその答えを求めて止まない、そんな迷いだ。

 

「……血は繋ぐものだ。だが想いもまた迷わず伝えねばならん。心も情も人は想っているだけではなんにもならん。伝えられるのは意思を持った言葉と行動。俺はそう思っている。……人は不自由なものだ。自分という存在が始まった時からいつも何かを渇望するが……。それを与えられるのはいつも親だけだ。とはいえ、俺が欲しいものが必ず与えられた覚えは無いが」

 

 エヴァ夫人の目が見開かれる。

 

「クローン。子供。あんたは、その言葉にかなり心を揺さぶられていたが、答えはどうであれ、そして何にしても『縁は繋がっている』という事だろう。親ならば必ず。……求めている答えでは無いかも知れないが、情があるなら言葉で伝えるべきだ。そもそも子供には諸々の親の事情なんぞは関係無い。悩む事はあるかも知れないが、その時に何を伝え語るのかはあんたら夫婦の問題だ」

 

……おそらく、エヴァ夫人の子供達はエヴァ夫人の血を引いてはいない。匂いと言葉の揺さぶりでわかったが、彼女はおそらくはシアーズ大統領の子供の代理母だったのだろう。

 

 彼女が悩み苦しんでいたのは、生みの母としての愛情と負い目なのだろう。

 

 深くはわからないが、おそらく。

 

「……とはいえ、他人の俺の選択で自分の答を無理矢理に探そうとするのは良くないかと。せっかく妻が仕立ててくれたスーツがこのざまです。心配もかけてしまったし、お客様の前で裸をさらす羽目になりましたよ」

 

 みし、みし、みしっと、身体の硬化が解けていく。それと共に身体の熱が退いていく。

 

 俺はテーブルの上の冷めてしまったコーヒーカップを取る。まだ残っている身体の熱でカップは徐々に温められ、中のコーヒーがぷくぷくと沸く。

 

「まぁ、冷めたコーヒーの沸かし直しには便利なんですがね」

 

 再びホットになったコーヒーをくいっと飲み干し、ミラー外相に向き直って、

 

「あー、D.D.コーポレーションとの提携は魅力的だと思いますんで、資料請求しても良いですか?まぁ、シーナ島での作戦の詳細もね?」

 

 そう言うとミラー外相のサングラスが、なんかずりっとずり落ちそうになっていた。

 

……俺の身体で驚異的に写ったんだろうけど、そこまで怖がらんでも。

 

 いや、なんかミラー外相、俺の股間見てねぇ?

 

「デケェ……!ボス並みにデケェ!」

 

「おぅっ?!」

 

 パンツまで破れて燃えていたわ。つかタイラント君はまだ戦闘状態にはなっとらんけど、見られちまった?!

 

「わーぉ♪」

 

 エヴァ夫人、わーぉ♪じゃありませんて。

 

 ヤザン大統領がマチルダ夫人の目を手で塞ぎ、

 

「タイラー君!早く身体を冷やして服を着て来なさい!モロだから!」

 

 と言ったが、

 

「あらあら、うふふふふ」

 

 マチルダ夫人にも見られたようだ。いや、うふふ、て、いつも厳しい感じなのになにその反応?!

 

「ダメダメダメ!見て良いの私だけだからっ!」

 

 ナスターシャは慌ててコーヒーの金属のお盆で俺の股間を隠した。俺とナスターシャは「ちょっと失礼します!」「身体冷やして来ます!」と会議室を一時退出した。

 

……まさかこんな所でモロリしてしまうとは。

 

 

 

 そうして、俺は出陣を決意したわけだが……。

 

 その後、身体の高熱を冷ますために俺は水道の水をぶっかぶり続けねばならなかったわけだが、いやはや、我ながら難儀な身体だよなぁ。

 

「うーっ、燃えないパンツ開発しなきゃ!」

 

 と、ナスターシャが言うも、そんなパンツ、なんか蒸れたり擦れたりしそうで股間によろしくなさそげやなぁ、とか思ったりなんだり。

 




・リサ・トレヴァーの娘が、シーナ島で平凡さんを待っている。

・つーか私立探偵さん、無事で済むのかなぁ。

・平凡さん×リサ・トレヴァー。どんな娘なのか、実はまだ決めてませんが、なんとなく虫下しチョコは食わされるだろーな、と。

・なんで娘かと言えば、T+Gウィルスで女体化したボスキャラがおったので、ならG-ウィルスの原型を持ってたリサ・トレヴァーの子供なら娘だろかなーと。

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