只今、平凡さんとアーク君は治療中でうごけません。
まぁ、平凡さんは簡単に治療薬を作ってしまいますけどね?
ぐったりしているアーク・トンプソンにタバコと缶コーヒーをくれてやると、
「ほんと感謝してるよ、どれだけ感謝してるかっていうとこれからの人生で尊敬する人はって聞かれたらオッサンですって言うくらい感謝してるよ……」
なんぞと涙流しながらコーヒーを飲み始めた。つうかナニそのイヤゲな感謝の仕方は。
「マジでそれはもう嫌がらせだろが」
俺は睡眠剤を投与して眠らせた娘に、出来たてホヤホヤのウィルス不活性化薬と治療薬の点滴を施しつつ、げんなりした。
いや、このアークという男は悪い奴、ではない。
というより、このアークという男はけして犯罪者ではなく、単に普通にスケベなだけの青年である……というとなんかダメな気がするが、健全な成人男性が成人した女性の肉体をちょーっとエッチな目で見たり、内心ドキドキしつつあんなことやそんなことイヤーンな事を妄想したりなんだりするのは正常の範疇で……いや、付け加えると余計に変態擁護みたいに聞こえるもんだな。
また、アークはロリ性癖はまったく持ち合わせていない。むしろその手の変態性癖をこそ、まったく理解出来ないタイプの男だということもわかっている。
それに現在はフィットネスにハマっているとの事で、健康的な生活を心掛けているそうであり、
「オッサンも、今流行の『軍式フィットネス・ブートキャンプやらないか?インストラクターのバイオラちゃんがすんげー可愛いんだ!そうそう、来月には全米フィットネスライブツアーがあるんだけど、俺、この仕事終わったら参加するんだ!生バイオラちゃんに会えるんだぜ!」
……いや、確かに健康には良いとは思うが、目当てがなんか違う気がするよね?つーかアイドルの追っかけみたいなもんだよな、それ。
まぁ、そのような事を目を輝かせて言っていたが、現実的にどう考えてもコイツはライブなんぞには行けねーよなぁ。
「フィットネスが必要なように見えるか?」
ググッ、と腕に力を入れて力瘤を見せてやる。
「あー、つか何すりゃそんな身体になるんだ?つかフィットネスってかボディビル系だよなぁ、その筋肉」
「デスクワークと研究しかしてなかったが、まぁ……なまった身体を慣らすにはたまに現場仕事も良いもんかもな」
コキコキと肩を鳴らしてそう言う俺に、アークはなんか疑わしそうに、
「いや、絶対なんか鍛えてるだろ」
と言うが、しかしマジで社長業しかしてないのだ、俺は。
T-ウィルスによってタイラント化した俺の身体はとにかく何をやっても筋肉がつく。筋肉が減るという事がとにかく無く、逆に脂肪がつきにくいのだ。
いや、良いことのように思われるかも知れないが、脂肪が少ないと、今の季節の冬の欧州(現在11月)はマジで寒くて辛いんだよ。つーか、ここシーナ島は島ゆえにめっさ冷気を含んだ海風が吹いてきて余計に冷えてんもんなぁ。
マジで温暖なカリブに帰りたいって思っちまうのだ、いや本当。
とはいえ、ザンジバーランド軍のミッションが終わるまでこの島から出られない以前に現在、俺達はこの部屋から出られないし、他者との接触も今の段階では出来ない。感染を広げてしまうからだ。
「面倒な事になったな」
ラクーンシティの地下施設で目覚めたあの時と同じ状況だ。いや、あの時よりも難儀な状況であるといえるだろう。
なんせ娘が保有していた『T+Gプロトウィルス』はかなりしぶとい性質を持っているからだ。
あのオカマ野郎、モーフィアスの話によれば、
リサ・トレヴァーはマーカス博士の作り出した始祖ウィルスの変異種とも言うべきウィルスを投与されたことによって絶対に死なないクリーチャーと化していたらしい。
このウィルスを便宜上、仮に『プロトT』と呼ぶ。
この『プロトT』は管状生物の一種に始祖ウィルスを植え付けて培養、変異させたものらしいが、マーカス博士はヒルやミミズのような生物を使って始祖ウィルスを変異させるという手法をやたら繰り返していたらしく、その管状生物の特定は不可能だと言う。
……個人的にアンブレラの連中にはキチガイしかおらんのか、とか思ってしまうが、そうなのだろう。
リサ・トレヴァーはその母親と同時に、ウィルス実験の被検体となったが、母親は死亡。しかしリサ・トレヴァーは生き残ったものの、いかなる『処分』をしても復活するほどの『不死性』を持ったクリーチャーとなった。
しかし、他の被検体に同様のウィルスを投与しても不死性どころかゾンビにすらならず死亡する為、ウィルスは失敗作として廃棄されたという。
その後、リサ・トレヴァーは死なない失敗作として扱われ、ラクーンシティはアークレイの洋館の地下にて幽閉され続けたわけだが、だが、そのリサ・トレヴァーの不死性に注目したキチガイが後に現れた。
一人はウィリアム・バーキン。
つまりウチの製薬会社で現在働いているアネットの夫であり、アンブレラのハイヴの主任研究者だった男である。
ウィリアムはリサ・トレヴァーのウィルスにのみ目を向けたが、しかしもう一人はそうでは無かった。
もう一人、つまり俺の遺伝子細胞とリサ・トレヴァーの卵子を組み合わせて最強のBOWを造ろうとした奴がいたのだ。
それがビンセント・ゴールドマンという男であり、このシーナ島の研究施設の所長である。
つうか、ビンセントって奴のせいで、ややこしいウィルスが副産物的に出来上がってしまったわけなのだが、正直言って、今からぶち殺しに行きたいくらいだぞ、俺は。
つーか、女体化するウィルスってなんやねーーーん!!と、言いたい。マジでありえんやろ、と思うわけだが、しかし『T+Gウィルス研究の一任者』を名乗るモーフィアス・D・デュバルというオカマが存在するのだ。
モーフィアス曰わく、
『プロトGは、おそらく作る際に管状生物の遺伝形質のうち、何らかの性転換する因子を取り込んだと思われるのよ。というか『G-生命体』もG-幼生を産み出してたでしょ。つまりはそういうことよぉ?』
つうか、あのオカマ野郎がT+Gウィルスを研究していた理由が、アフロディーテのような美しい『女』になるためらしいが、絶対にあのオカマは『T+Gプロトウィルス』を狙っているに違いないのだ。
……モーフィアス、俺はな、お前が俺を童貞のまま『パパ』にしやがったことを、正直、恨んでるんだぞ、ボケェ。そりゃあ、美人で乳がデカい外国人妻と可愛い息子が出来て幸せと言えば幸せだが、しかしあの時の絶望だけは拭い去ることは出来ないんだよ。
つか、娘まで俺の知らんところで造ったビンセントも、必ずぶち殺してやっからなぁ……。
「駆逐してやる。このウィルスを、アンブレラのキチ共全て、全力で、撲殺の撲と滅亡の滅と書いて文字通り撲滅してやる!!」
「お、おう……ってか、あんためちゃ使命感出してどうしたんだ?」
アークがなんかマジで退いていたが、それはさておき。
とにかく『T+Gプロトウィルス』はしぶとい。リサ・トレヴァーがしぶとかったから!あとG-生命体もしぶとかった!以上!!←説明が面倒くさくなった。
いや、本当に『T+Gプロトウィルス』はしぶといのだ。イヤになるくらいな。
T-ウィルスは治療薬一回でほぼ弱体化し、他への感染も抑えられたわけだが、この『T+Gプロトウィルス』は一度の投与では抑えられないほどマジしぶてぇのだ、つか何度もしぶといってのを繰り返してるがそんぐらいなのだ。
あと何回か投与せねばマジでパンデミックの危険性があり、それについてはヘヴンディバイドや各部隊にも通達済みだが、正直なところ感染源に防護服を破られた時点でほぼ感染してしまうほどに感染力も強く、今、現在進行形で製造しているワクチンと治療薬が無ければ、だいたい30分ほどで女体化が始まり、そして死に至るかクリーチャー化するかのどちらかなのである。
……耐性が強けりゃ、おそらく女体化タイラントになるだろうと俺の計算でははじき出されているが、理性が保たれるかどうかはわからない。つーかそんなもん出て来たらどうすんだよおい。
そうこうしている間に、またアークの胸部が膨らんで来た。
「え?えええっ、ちょまっ?!おい、オッサン!治療出来てたんじゃねぇのかよ!!また、また、ち○こがぁぁぁっ、タ○キンがぁぁぁっ!!乳から乳がぶしゅうううっ?!」
予想通りである。
俺は、何も言わず作業台の上に並べていた治療薬の注射器を掴み、おもむろにアークの首にぶっさす。
腕時計を見て、前回の注射から約三時間経過している事を確認し、タイマーを三時間後にセットした。
「女体化はウィルスを完全に死滅させないと何度か起こる。俺の計算ではあともう一回三時間後くらいにまた女体化が起こるハズだ」
俺は冷静にアークにそう言うと、自分にも注射器をぶっさして治療した。
「あ、あと一回かよ。もうヤダ……」
「安心しろ。今度は起こる前に治療薬を投与してやる。だいたいの周期はこれでわかったからな。……とはいえ、女体化も徐々に周期が遅くなるはずだが、治療そのものは続けなければならんだろうな。……ま、強力な治療薬を今から計算して造るが、大人しく寝てろ」
俺は、i-DOROIDを出し、製薬プロセスの見直しとウィルス組成の解析を始めた。
どうせあと1日は動けないのだ、その間により強力な治療薬の設計をしておくのだ。
だが……。
まさか、他の感染源がこのシーナ島の研究施設を徘徊しているなど、この時の俺は知る由も無かったのである。
あと、MSFの天狗兵達があんな事になるなんて……。
なお、次回はビンセントとモーフィアスが動き始める……かなぁ、と。
女体化パニックが、MSF隊員を襲う!かも知れないけど、カエル兵さん達は女性なのでどうなんだろうなぁ。天狗兵達の天狗はとれてしまうかも知れませんけど。