・惜しいオカマをなくしてしまった……(生きてます)。
・主人公、まだ動けず。
・ラスボスのヒュプノスさんェ。
薬品などの物資が届いたのは、ミラー外相から連絡があってから、約1時間もしない内だった。
黒く丸いあんちくしょう、トライポッド達がせっせかせっせかと運んで来たのである。
「ぴゅうぃっ!あーい!」「あーい!」「あーい!」
ワラワラワラワラ……!
マットブラックの丸い筐体に生々しい手を三本生やしたトライポッドの群れがワサワサと機材やらダンボールに詰め込まれた薬品、容器、その他を担いで調剤室にダダダダダ、と駆け込み、あれよあれよと言う間にセッティングし、
「「「「あーい!」」」」
と、嬉しげに俺に向かって手をフリフリ振った。
……むぅ、こうしてみると可愛く見えるような気がしてくるが手の造形が妙にリアルなところがキモイんだよなぁ。機械的なマニュピレーターだったなら普通に見れたかも知れん。
「つうか、運び込んだ後もコイツらここに待機すんのかよ」
俺がそうつぶやくと、
「「「ぴゅうぃっ!あーい!」」」
なんか嬉しそうにトライポッド達は手をフリフリして答えた。
「あっそう」
トライポッド達は調剤室に物質を運んだ後もここに残るようである……というか、確かに他に行かれると付着したウィルスが拡散する畏れもあるのでそれも当たり前……って、なんか何体かタッチパネル式の端末を出してきたぞ。
『駆除剤くらさい』
『ウィルスまみれ』
『除染不可避』
『仕事に戻れぬ』
……どんだけ高性能なAI積んでるんだよコイツら。
と、ボディにバックを取り付けられたトライポッドが俺の前に出て来て、そのバックからごそごそと旧式のハンディトーキー型のトランシーバーを出し、俺の前に置いた。あと、表紙に野菜の茄子の絵が書かれたメモ帳。
そのトランシーバーには見覚えがあった。カリブの海上プラントにゴロゴロ置いてあったタイプの古い奴と同型……というかそれそのもので1970年代の骨董品である。また、メモの表紙を見れば茄子の絵が書かれてあるが、これはナスターシャを意味している。
……今まで俺がナスターシャの事をさんざんナス太郎よばわりしたせいでアイツは自分の持ち物に茄子の絵をつけるようになったわけだが、それが最近はマイブームになったのか、俺の持ち物にきゅうり、凡太郎(ネメシス)の持ち物にトマトの絵をつけるようになったのだ。
まぁ、俺のシャツとかパンツにきゅうりの刺繍がしてあるが、それは置いといて。
つまり、このトランシーバーとメモはナスターシャからのものだと言うことがわかる。
「……デジタル式ではなく、アナログ。ふむ」
旧式の無線、そしてメモ帳の表紙の茄子。
確かにメモ帳の茄子はナスターシャのものだと判るようにする目的もあるのだろうが、それだけでは無い。
メモ帳には『ナス式カオス暗号』と呼ばれる、日本語をベースにナスターシャが開発した白陽社独自の暗号で書かれたメッセージがあった。
普通に日本語として読めば、
「愛してるわあなた。お仕事頑張ってね。カリブに帰ったら腕によりをかけてあなたが褒めてくれた『ニンジンパイ』を作るからね。なお干ぶとうは多めよ?」
と書かれてあるだけだが、しかし暗号で読み解くと、
『連絡を待て・ルポからの・そこは危険性大故に』
つまり、『ルポからの連絡を待て。この基地は危険性大だ』となる。
……どう呼んだらこうなるんだ?と思われるかも知れないが、これは事前に決めていたワード、つまり符丁を覚えておくことで読み解く事ができる。
例えば『カリブ』というワードは『連絡』の意味で、『帰ったら』が『待て』、『干しぶとう』が『危険性』を意味しており、これが『多め』なら『危険性大』となる。なお『ニンジンパイ』は『ルポ』を指すが、これが『地中海風ピラフ』なら、『グレイフォックス』、『マッシュポテト』なら『バーサ』……等、割り振られているわけである。
単純だが符丁式を知らなければ読み解く事は不可能であるため、幹部やウチの部隊ではわりと重宝しているのである。
なお、グレイフォックスには符丁は伝えていない。当たり前だが彼はザンジバーランドのエージェントだからだ。奴は人間としては信用出来る部類ではあるが、その仕事の性質上の優先度はウチよりもザンジバーランドの方が高い。ま、安全策である。
ふーむ、しかしウチの部隊の防護服はナスターシャ製の特別製でとにかくウィルス防護を高めた仕様になっているが、とはいえやはり初期に治療薬は渡して置くのが最善だろう。……ワクチンに治療薬、そして駆除剤、造らねばならないものは多いが、
ともかく、連絡を待つしかないが、だがアナログ無線を渡して来るということはザンジバーランド側のデジタル通信が危険、もしくは信用出来ないという判断か。
俺はクンクンとメモ帳の表紙の匂いを嗅ぐ。……うん、確かにこれはナスターシャの乳の谷間に挟まれていたメモ帳だと確信する。そう、ナスターシャはメモやらペンやらをいつもそのデカい乳の谷間に挟んで持っているのだ。
取り出すところが最近は妙にエロいぞ?
「うむ、これは まごう事無き嫁の乳に挟まれていたメモ帳。あー、ええ匂いや」
すんすん、くんかくんか。
「いや、オッサン何を変態じみた事を言ってんだよ?」
「……嫁成分が欠乏しかけておるのだ。黙れ」
あ~、ナスのお乳揉みたい。あの大きなおっぱいで抱きしめて欲しい、なんぞと思ってしまうほどに今の俺は精神的にキテいた。
組み立てられた簡易ベッドに眠る、女体化した兵士達。乳臭さと月経の血の鉄臭くもナマ物臭い匂い。
元はオッサンだった連中の匂いとは思えないくらいにとにかく女臭い。むせかえりそうなほどに。
俺は簡易用の防毒マスクを顔にかけつつ、強化された自分の嗅覚を呪いつつ、しかしながら危機を回避出来た事には胸を下ろした。
女体化した兵士達には強めの鎮静剤を投与して目覚めないようにしている。それは、この女体化した兵士達から発する強いフェロモン、それも発情フェロモンが原因である。
そう、分泌量が多すぎるのだ。
いや、フェロモンの量を正しく計測する方法なんざ俺は知らないが、しかし俺のスメルセンス(超嗅覚)が感知したコイツらのフェロモンの匂いのキツさは、エイダがレオンと通信している時にやたら発していたエロフェロモンの約15倍、ナスターシャに風呂で襲われた……いや、げふんげふん、あー、本気モードん時の時の7倍ほどくらいだ。
つまり、この薬剤調合室の隣の被験室では、発情メスフェロモンを中身オッサンな性転換した見た目美女達がプンプン大量に発しているというわけだが、そんなもん、通常の人間でもヤバいというのに俺のように超嗅覚を持っている男にはヤバすぎるという、もう止めてくれと言いたくなる状況なのである。
フェロモンの匂いだけでもヤバいが、これだけの発情フェロモンを出しているということは、つまりこの元オッサンな女体化連中を放置しておけば、要するに性的に襲いかかってくる恐れがある。もしくは女性化を免れた奴がこの極限状態でフェロモンにやられて元オッサンをレイプしかねないという事態もありうる。
「しくしくしく……元オッサンでちんこ勃つなんて、俺はどうしちまったんだ、なぁ、オッサン、俺、おかしくなっちまったのか?つーかどうすりゃ良いんだよ……」
なんぞと泣いていたが、それはウィルスの作用で女体化したオッサンらが発情フェロモンをやたら発しているからなのである。
……つうか人間も動物なんよなぁ、なんぞと思うが、こんな事で再確認したくは無かったわい。
換気したいが現状、そんな事をすればウィルスが通気管を伝って蔓延しかねないし、ここには窓すら無い。しかし大丈夫だ。
こんな時にこそ我が白陽社の製品が効果を発揮するのだ。
商品名は『スカット消臭スプレー』!
フレグランスで誤魔化さない臭いの成分を分解する特許成分を配合した画期的な消臭剤である。なお、名前は『スメルカット』を略したものである。
ふはははははは、くさい臭いもスカッと快適爽やかに!人体にも無害でアレルゲン検査もクリア済み!トイレの臭いや生ゴミの臭い、ペット、タバコ、アルコールの臭いもシャットアウト!
むろん発情フェロモンもスカッと断ち切って……っていうか、むしろ開発するきっかけはレオンと長通話してる時のエイダのフェロモンなんよなぁ。つーか本来の使い方がコレだったのだ。
なお、コレを使うことにより、昆虫のフェロモン信号も断ち切る事に成功して繁殖力も奪えるので、ゴキブリにお困りの御家庭にも超オススメだぞ?ただし生態系を壊す可能性もあるので野外での使用は控えて欲しいけどな。
「……あっ、なんか、ちんこが楽になった気がする」
……いや、せやからアークよ、人前でちんことか言うな。同感やけどな。
まぁ、これでようやく薬品の増産体制に……って、そういやオカマ野郎が来るとか言っていたのはどうなった……って、なんかトライポッド達がなんか簀巻きを担いで急いでやってきたんだが……?
「ヴゥーイイイッ!!ヴゥーイイイッ!!あーい!!」
うわ、警告音っぽい音を唸らせとるぞ。
液晶端末のトライポッドコントロール用のアプリケーションには、
『急患!急患!オカマ野郎が襲われた!』
と、トライポッド達からの通信が表示されている。
見れば血塗れの女……いや、この厚化粧の女はモーフィアスか?!つーかトライポッド達にもコイツ、オカマ野郎呼ばわりされてんのか。
「……ヒトシちゃん……アタシ、ヴィンセントの奴に襲われて……犯されちゃった……」
簀巻きに見えたのは、トライポッド達が担いで来た担架にベルトで固定されていたためで、黄色の対ウィルス用の特殊防護服が爪のようなもので切り刻まれ、そして身体のあちこちから出血がある。
そして、ズボンの股間が引き裂かれており、パンツすらも無い、というか股間が丸見えにされ、男性器はすでに見る影もなくとっくに女のおまたに変化している。
ヴィンセント……ああ、ビンセントな。発音良すぎて最初判らんかったが、ここの所長だよなぁ。
「まさか、犯されたということは、つまりビンセントはホモなのか?ケツの穴掘られたんか?」
想像してオエッとなったが、しかし違うようだった。
「アイツ、女になってた……しかもタイラントクラスを超えた、バケモノに……!」
ごぼっ、とモーフィアスが血を吐きながら言う。
俺はすかさずモーフィアスの首に初期型治療薬をぶっさす。
「ぐえぇっ?!」
いきなり首に注射された為、モーフィアスが変な声を上げる。いや、こっちとしてはコイツがBOW化されると被害を被るので、とっとと処置せんとなぁ。
「つまり、お前が突っ込んだ、と。つーかオカマを襲うとは、ビンセントって野郎は変態なのか?」
「ぐぅぅっ、アイツ、見境なしになってるわ……。理性はもう無い。『T+Gプロトウィルス』は、アタシの予想を遥かに越える、とんでもないウィルスに変化しているわ……。Gの不規則かつ常に遺伝子を進化させるのとは別方向、『T+Gプロトウィルス』は、宿主をとにかく孕ませるように仕向け、母体にしようと……!」
「……なにそのエロゲみたいなウィルス。つーか、孕ませるも何も、相手まで女体化したら本末転倒じゃねーか」
俺はそう考えつつももう一本、モーフィアスの首に注射をぶっさした。いや、モーフィアスの肉体の変異は女体化だけではなく、すでに半分BOW化しかけており、治療薬一本ではもはや足りなかったからだ。
「ふぐぅっ?!」
「トライポッド!そこの点滴液を持ってこい!」
早急に変異を抑えなければ、モーフィアスは人間ではいられなくなる。
「あーい!」
トライポッドが数体、すぐさま点滴液の袋とイルリガードル台を持って俺の所にやって来る。
この点滴液は娘に使っている抗ウィルス薬である。
それをモーフィアスの腕に打ち、点滴の袋をイルリガードル台(点滴掛けの台)に掛ける。
「ええ、本末転倒よ。だけど、奴はすでに孕んでいる。……なのに、男を探してこの施設内を彷徨いてるの!というか『ウィルス』が感染を広めるために操っているようだわ……」
「……感染源の大元はそのビンセントか?」
「そうよ。醜い癖にフェロモンドバドバ出して強制的に……」
……ということは、いかん!
俺は、ナスターシャから送られて来たアナログ無線をポケットから出すと、無線番号を入力した。
部下達、特に男連中が危ない!
「ルポ!聞こえるか?!応答しろ!!」
そう、フェロモンを放つなら、おそらくはBOW化したビンセントは男の臭いを追って来る……!!
俺は必死で部下に無線を送った。
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【その頃、ビンセント所長は……】
「ぐぁおおおおおっ!(やめて、俺のライフはもうゼロよぉぉぉっ!!)」←ヒュプノス
「ぎぃひっ、ぎぃひひひひひっ、あーひゃっひゃっひゃっ!!(まだまだイケるだろ、もっと出せやゴラァ!)」←ビンセント
ヒュプノスを無理矢理(性的に)襲う女体化変態ビンセントの姿がそこにはあったとさ。
いや、まぁ……ヒドいね?本当。
……終われっ!!
・いいのだろうか、こんな話にして。
・オカマがカマ掘るんじゃなくて……いや、げふんげふん。
・多分、最大の犠牲者はタイラント・ヒュプノス。間違いない。