なんかタイラントになってしまったんだが。   作:罪袋伝吉

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※いつも誤字脱字修正ありがとうございます。

※あけおめ……には遅いか。

・まだまだ動けない平凡さん。しかし物語はまもなくCode:Veronicaへと向かっております。その辺の説明回、ですかね、これ。


モーフィアス

 

「……あんた何やってんの、社長」

 

 俺はカリカリカリカリ、とナスターシャの茄子の絵の書かれたメモ帳に、新型除染剤の詳細なレシピを書き記しているだけなのだが、戻ってきたルポ隊のバーサがなんか呆れたように俺にそう言ってきた。

 

「ん?新型除染剤のレシピを書いている。ここを汚染しているウィルスを除染出来る奴な。ワクチン精製法や治療薬のレシピはもう書いたし、もしもこの島の外にこのウィルスが漏れたら、これが必要になるだろうからな」

 

 俺はそう答えつつバーサの方を見たが、バーサが見ているのは俺では無く、俺の後ろであり、なんかおかしいなと思った。

 

「いや、違げーって。後ろ」

 

「後ろがどうした?」

 

 振り返ると、そこにはまだ乳を放り出したままのモーフィアスがなんか腰をクネクネ乳をぶるんぶるんして踊っていた。

 

「……何やってんだ、モーフィアス」

 

「いつ気づくかなーと」

 

「……BOWの身体能力使ってアホな事してんじゃねぇぞ、このオカマ野郎」

 

……集中してたのと鼻栓してたので察知出来んかった、いいや、コイツ気配を完全に消してやがった。それに微かなオゾン臭がする。コイツ、プラズマを発生させてオゾン消臭する技を身につけやがっただと?

 

……俺の妻と同じ発想をする辺りがなんかムカついた。つうかナスターシャとの思い出をけなされた気がしたのだ。

 

「にひぃ、気づかなかったぁ?」

 

 舌で唇を舐めつつ笑うモーフィアス。なんかムカついたので思わず拳が出た。

 

 ゴツッと額に食らわせるが、しかし俺の拳は見えない壁にぶち当たったかのようにモーフィアスの顔の前で止まる。

 

「ああん、激しい♡」

 

「……ふん、電磁障壁か」

 

 俺の拳はモーフィアスに届く前に止められており、その電磁障壁がバチバチと俺の拳に火花を散らす。

 

 モーフィアスが得た力は電磁波やプラズマを操る能力だ。なんでそんなもんが使えるのか原理などこの俺の頭脳をしてもわからんが、厄介過ぎる能力である。

 

……『T+Gプロトウィルス』はどうやら適合者に電磁系の能力を与えるようだ。つうか俺の娘が俺の防護繊維のズボンを破ったのも、種を明かせばこの能力を無意識に使っていたのだろう。

 

「んふん、これ便利よねぇ。気配は消せるしウィルスも寄せ付けない。それだけじゃなく、アンタの拳も止められる……と?」

 

 ニマニマと笑うモーフィアス。しかし、電磁障壁なんぞで俺を止められると思っている辺りが二流だ。

 

 より俺の怒りが増していく。

 

「本当の暴力というものをお前に思い知らせてやる……」

 

 ぎゅううううん、と俺の拳に『気』が集まると共に腕の筋肉がパンプアップする。

 

「無理よ、計算上レールガンクラスでないと破れないわ!」

 

「レールガン?そんなもんいらねぇ。電磁障壁だろうが超能力バリアーだろうが、俺の『超暴力』に貫けぬモンは無ぇんだよ!」

 

 足、腰、背中、全ての筋力と気と超振動波を拳に一点集中させて打ち抜く!

 

「イーヤァァァァっ!!」

 

 どぉーーーん!!と砲撃音のような音がして、それが障壁を貫き、モーフィアスの頭で爆発する。

 

「なっ?!ぐふぅっ?!」

 

 バン!とモーフィアスはそのまま後ろの壁に叩きつけられる。

  

「名付けて『穿貫衝拳(せんかんしょうけん)』。いかなる装甲、障壁すらも貫通する。ナスターシャ曰わく、新型の歩兵用リニアレールガンの10分の1程度の威力らしいぞ?」

 

 なお、新型リニアレールガンはとっくに開発が終わっており数丁が黒曜丸に積まれている。なんでも個人携行武器として歩兵が単独で装備出来るサイズのものは世界初らしい。

 

……もっとも装備一式で約15キロなのと、撃てば周辺の電子機器が強力な磁場でぶっ壊れるなどの弊害があるため、よほどの事が無い限りは使えない代物ではあるのだが。

 

「ぐ、ぐふっ……。電磁プラズマの壁を突き破るなんて非常識よ……ガクリっ」

 

 モーフィアスはそのまま白目を剥いてパタリと気絶してしまった。まぁ、本気で打ったのでは無いのでまぁ、すぐに目を覚ますだろう。

 

「ふん、古来よりバリアの類はぶち破られるもんだ。マジンガーとかゲッターとかな」

 

「……なんつう技だよ」

 

 俺が電磁障壁をぶち抜いたのを一部始終見ていたアークが目を丸くしつつ言う。

 

「ふん、このくらいまだ普通の必殺技だ」

 

 ワシの必殺技はまだ10個あるぞ?飛び道具系に乱舞系に対空系、超必殺技までな。当て身投げとかも完備しとるぞダイ・ヤーボ。

 

「普通って……、いやいい」

 

「ま、それはさておき。コイツの汚乳を隠してくれ。つうか殴ったせいで点滴が外れてるぞ、コイツ」

 

「いや、汚乳て。つーか前より乳が膨らんでないか?いやこれは……」

 

 指摘されてみればモーフィアスの乳が張って母乳がちょろちょろと出ていた。

 

「コイツ、ワザと点滴を外してやがった。クソッ、このアホがぁぁぁっ!そんなにBOW化を促進……いや、女体化促進か?いいやどうでもいい、クソッ!」

 

 俺は新型ディライトの入った注射器を腰のベルトから引き抜き素早くモーフィアスの首にぶっさした。

 

 ビクンビクンビクン!とモーフィアスの身体が痙攣するが知った事ではない。つーか、プラズマやら電磁障壁が無くなったら途端にむわっと立ち込めるような女臭い匂いがモーフィアスのあちこちから漂って臭い!つまり、またウィルスがコイツの身体で暴れてやがるのだ。

 

 オムツの隙間から、なんかドロリとしたやや白濁した液体が太ももを伝って漏れ出しているが、なんぞこれは。いや、考えるな。高分子吸収体がもう限界越えて吸ってねぇぞおい。

 

「アーク!カーボンワイヤー持ってきてくれ。鎮静剤ぶち込んでコイツをベッドに縛り付ける!つーかまだウィルス駆除し終わってねーのにこのボケがぁ!!」

 

 バタバタと俺とアークは作業にとりかかり、モーフィアスを簀巻きにしてベッドに縛り付け、点滴を思い切りダブルでぶち込み、さらに追加で新型ディライトもぶっさし、よりBOW化しつつあるその肉体の変異を止める。

 

 なお、症状の進行を止めるのに三本も新型ディライトが要った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ったく、アホのせいで要らん手間がかかったぞ……」

 

 俺はデジタルの安いがタフが売りの日本製の腕時計を見つつ、もう分かりきっているものの確認した。

 

「つうか奴のオムツ交換、めちゃくちゃ困ったわ……。オッサンのところのメディックさんがやってくれて助かったぜ……」

 

 アークが洗濯物をもはや慣れた感じでパタパタとたたんでいるが、その鼻に詰めたティッシュに血が滲んでいるのは、やはり見てしまったんだろうなぁ。女性化したモーフィアスの生の股間を。

 

「いひっ、いーっひっひ、社長、コイツ女の股を生で見て鼻血出してやんの、うひっ、ひーっひっひ」

 

 バーサがなんか下品に笑い転げている。つうかそんなに笑うことか?それが。

 

「いや、バーサ、純情な青年をそう笑ってやるもんじゃない。つうか、んなもんマジマジと見るもんでもあるまいし」

 

……かくいう俺だって初めて見たのが妻のだったので人の事は言えないのは黙っておく。つうか数ヶ月前まで俺も童貞だったのだしな。

 

「いや、普通この年頃だったらガールフレンドとやらかすもんじゃない?んなもんがっついてくぱぁーっと見るっしよ」

 

「いや、その辺は人それぞれだろ。つーかある意味、記憶に残したくない初見とも言えるかもしれん。……元オカマやぞ、コイツ」

 

 俺はアークに同情するように、渋い顔を作ってそういった。正直、今のモーフィアスはかなりの美女であり、アホな事をせずに黙って澄まし顔の一つでもしていれば、何も知らない男が見ればそれだけで胸をときめかすだろうほどのレベルである。身長はやや高すぎるがウィルスの作用により、男の本能を掻き立てるようなスタイルになっている。しかも大量の発情フェロモン付きだ。んなもん、消臭スプレーが無かったら一般人のアークには耐えられないレベルなのだ。

 

……同じ女性のバーサにはわからんかも知れんけどな。

 

「ほれ、元がコレやぞ」

 

 俺はi-DOROID……通信機能などは使えなくなったが、映像はまだ映し出せるのだ……で元のモーフィアスの厚化粧のオカマ顔を見せた。

 

「うわ、元がそれって。化粧無しなら多分美形だったんだろうけど、うわー変態じゃん。初めて見るのがこんな奴のま○こだと思ったら確かに黒歴史だわー。それもグチョグチョでくっさい発情オカマ○こなんて……」

 

「だよな?だから笑ってやるんじゃない。わかったな?」

 

……うむ、わかってくれたか。しかし、もうちょい発言にはオブラートかけてくれねーかなぁ。

 

「……はぁ、可哀想だしなぁ。よし、アークくぅん?なんならオネーサンのお○んこ、こっそりトイレで見せてやろーか?ちょーっと戦闘で蒸れてっけど、口直しにさ?」

 

 バーサはアークの肩を抱き、唇から少し舌を出しつつ、戦闘服のジッパーをチーッと下げて胸元を見えるようにして、にへらーっとなんか色っぽく笑い、そう言った。

 

……いや、だからからかうの止めぇや。

 

 つーか明らかにからかってやがるが、アークは顔を真っ赤にしてうつむき、しかし、

 

「い、いや、今は非常事態ですんで!」

 

 と、なんか逃げたそうにしていた。まぁ、あからさまに言われたらそうなるわな。

 

「……あのなー、一応、今は勤務中やぞ?職務規定に反しとるぞー。ウチの会社は職務倫理を第一に、をモットーにしとるから、それ以上は減給の対象になるぞー?」

 

 つうか、ホラー映画とかだと濡れ場やってるバカップルとか一番にねらわれんだぞ?あとシャワー浴びてる女とか。

 

「……えー?減給って、いま休憩中じゃん」

 

「休憩中でもミッション中だろ。つかそいつをからかうな。はぁ……、つうか、それでなくても変態野郎のせいでこっちは作業の手が取られてんだよ、いらんことすな」

 

 なんで変態とか妙な性癖の奴とか、内も外もそんなんばっかりなんだろうな、俺の周りは。

 

「……というか、バーサは少年兵好きのショタコンじゃなかったっけか?」

 

「ま、童貞ボーヤも好きだけどねー」

 

 にひひひひ、とアークをなおもからかう。

 

……はぁ、まともな社員が欲しい。ハチマンの前社長もそんな事思っとったんだろかなぁ。

 

「バーサ。ミッション中だ。今は休憩中だとはいえ気を抜きすぎだ。……ここは敵地だ。何があるかわからん。何より友軍も頼りにならん孤立無援に近い状態なんだぞ」

 

 見かねたのか隊長であるルポもバーサに釘をさす。

 

「へいへい。つーかなんか社長がいると気を抜いちまうんだよなぁ。社長、最&強だもんな」

 

「それはわかるが、我々はそもそも社長の護衛だ。立場を忘れるな」

 

「……つーかこの人達、オッサンの護衛だったんか?いや、アンタに護衛は要らんだろ?!」

 

 アークの発言に、なんかベクターが無言でうんうんと頷く。つーかお前居たんかよ。壁の隅で目立たんかったから今気づいたわ。

 

 はぁぁぁぁっ。

 

「……俺だけじゃ、手が足りねぇんだよ。そもそも俺は戦闘のプロじゃねぇしな」

 

 いやいやいや、と顔の前で手を振るベクター。いや、お前は何が言いたいんだおい。

 

「……戦闘のプロより強いBOWを簡単に倒せる男が何言ってんですか。つーか、軍がもうお手上げ状態んときに最後の切り札とか思われてんですよ?アンタ。つーかMSFに作戦丸投げされて引き受ける戦闘のプロじゃない民間製薬会社の社長なんてあんたくらいのもんでしょーが」

 

……そう言われればたしかにそうなんだが。

 

「なんやろなー、俺、一般人だって誰も思ってくれねーんだよなぁ、ちくせう」

 

「まぁまぁ、社長。レーションのコーヒーですがどうぞ」

 

 ルポが紙コップのコーヒーを俺の前に置いてくれた。その優しさが染みるぜ。

 

「ああ、ありがとう。しかし本来は医療班の警護だったのにこっちに来させてしまってな」

 

「いいえ、我々はこういう時に雇い主を警護するために雇われてますから。それに社長が危険な場所におられるのに我々は安全な場所、というのはね」

 

 ルポはそう言いつつ苦笑した。なんつうかルポだけが俺を人間扱いしてくれている気がするよ。うん。

 

「……ですが正直な話、アンブレラ辞めて良かったと思いますね。こんな杜撰な施設の状況を見てると」

 

 まぁ、正直なところラクーンシティに続き、アンブレラがバイオハザードを起こすのはこれで二度目なのである。杜撰というより過去の教訓とかまるで無い。

 

「殿様商売じゃ現場は務まらんって見本だ。つうかああいうアホが元幹部だからなぁ、つーか超人願望でもあんのか?アンブレラの連中は」

 

 俺は簀巻きでベッドに縛り付けられ、点滴マシマシで両手両足の血管に針をぶっさされたモーフィアスを親指で指差した。これは本当なら患者の生命に危険な量の薬液だが、そんくらい投与しなければマジでBOW化、いやクリーチャーと化してしまうのだ。まぁ、アイツもかなりウィルスによる肉体強化しとるのだし、死にはしないだろう。……多分、おそらく。

 

「……というか、今のうちに始末しておいた方が後々を考えますとよろしいのでは?」

 

……ぼそっと冷たい目でルポはそう言った。

 

 いや正直なところこのルポは人格者であり、ウチの会社では数少ない常識人の一人だ。が、そこはそれ傭兵であり裏のビジネスに身を置いていた人間でもあるのだ。必要ならばそういう判断も出来る、ルポはそういう兵士だった。

 

 これはモーフィアスの能力が危険だと判断した上で言っているのだろう。そうでもなければ彼女は軽率にそんな事は言わない。

 

 しかし、残念ながらそれは出来ないのだ。

 

「……そうしてしまうとヨーロッパの裏も表も根を張っている『デュバル財閥』を敵に回すことになるんだなぁ。コイツはデュバル一族の人間だ。それも財閥家継承五位くらいのな。さらに現当主との繋がりも強い」

 

「そのような人間が何故、アンブレラ本部の主任研究者になっていたんでしょうか。それにアンブレラを抜けてまでザンジバーランド側について、しかもこんなところに?ハッタリか虚言では?」

 

「事実だ。コイツの行動に関しては俺にもわからんし知らん。……というかデュバル家はアンブレラ創設時に金を出したって話だが、それと関係があるのかも知れん。もしくはデュバル家の誰かが不死身の肉体でも欲しくてなんらかの取引でもしてた、っつー線もあるのかもしれん」

 

 と、俺がそう言った時、モーフィアスの目が開いた。

 

「……デュバル家の人間に、そんなバカな目的で動く奴はいない。私も含めて。デュバル家は確かに古い貴族の血を引く一族だが、昔は海に面した辺境の田舎貴族に過ぎなかった。同じく隣の山の方に領土を持つ田舎貴族のアシュフォード家と助け合って、領地と領民を守っていた、それだけの家柄に過ぎなかった」

 

 モーフィアスはそう言うとため息を吐き、また誰に語っているかもわからない、素の言葉を吐き出すように紡いだ。それはあたかも語り部が昔話を語るかのように。

 

 アシュフォード家とはアンブレラを創立した三人のうちの一人エドワード・アシュフォードの生家のアシュフォード家のことだろう。

 

「デュバルとアシュフォードの古くからの盟友関係は一度も崩れる事は無かった。大航海時代に入ってデュバルが造船業を始めるときも山のアシュフォードはふんだんにある材木を提供してくれたという。デュバル家は多くの船を作りだし、自らも外航船による海運業に乗り出し、インドなどでヨーロッパでは値千金とも言われたスパイスの数々を得、そしてそれにより、ますます財を成した。さらに船員の為の保険や金融をはじめ、それが現在のデュバル財閥の礎になった。それは現代に続きデュバル家はもはやヨーロッパ全土に名がしれる金融の巨人となった。……だが、アシュフォード家は近代では没落貴族だ。かつて独自の事業を起こそうとして失敗し、多額の負債を負った。何度も何度も損益分岐点を誤ってなんどもなんども失敗して、しかし懲りない。……しかしデュバル家は過去の恩義に縛られそんなアシュフォード家にずっと多額の支援を無利子無担保で行ってきたのだ。愚かにもな」

 

 それがいけなかったのだ、とデュバルは憎々しげに顔を歪ませた。

 

「金融で財を成した我が家が貸し付けてもろくに返さない寄生虫のような奴らにずっとずっと数世紀に渡って延々とだ。しかも連中はそれが当たり前のように、貢がれて当然のように思っていた!」

 

 数世紀って、ええと、大航海時代って言ったら15世紀……だっけか?今が1998年で20世紀、いやもう数年で21世紀が来る。つまり約6世紀もデュバル家はアシュフォード家を養ってたのかよ。そりゃあ言いたくもなるわなぁ。

 

「……いや、先々代のアシュフォード当主エドワードはまだ堅実で聡明な人物で、なんとかその状況を打破しようとしていた。……彼はアフリカのどこかで見つけたスーパーパワーを持った薬草で新たな事業を起こそうとしていた。それがラクーンシティのあちこちに生えるようになった『グリーンハーブ』などだが、この薬草の効果は言うまでも無い。デュバル家はやっとアシュフォード家がまともな事業を起こすのだと思って、それに投資した。……だが、それがいけなかったのだ」

 

「……確かにグリーンハーブなどは常識じゃ有り得ないほど脅威の細胞再生を可能にした。今じゃ救急だろうがなんだろうが、病院だけでなく家庭にだって一つはグリーンハーブ配合の薬はあるくらいだからな。だが、それすらもアンブレラにとっては隠れ蓑に過ぎなかったって事か……」

 

「そうだ。……グリーンハーブは元々は始祖花と呼ばれる『始祖ウィルス』と共生している植物の側で変異したハーブだ。強いウィルス耐性を持ち、初期のウィルス感染を防げるほどだ。そして傷ついた細胞を修復する効果が高い。……だが、アンブレラの目的は『始祖ウィルス』の方だった。スペンサー、エドワード、そしてマーカス教授達は現地のウィルス感染者『超人』を見てから、その能力に魅せられたのだ……」

 

「始祖ウィルス適合者を見たのか」

  

「……始祖花が自生する場所は、その周辺の部族の者にとって聖地だった。始祖花はそこでしか生きられず、始祖ウィルスもまた外に持ち出せば死滅してしまうほどに脆弱で、選ばれた者のみその地に赴き、そして花の試練を受けて神の戦士となる。……もっとも一人の神の戦士を生み出すには1000以上の『死人』が出ると言う。神の戦士は聖地を守ると同時にその『死人』を滅ぼすため聖地にとどまり、その一生を終える。……『神の戦士は目にも止まらぬ速さで走り、銃やライフルの弾すら通用せぬ肉体を持ち、投げる槍は自動車をエンジンごと貫通させるほど強かった』。これはエドワード・アシュフォードがデュバル家を訪れた時に先々代のデュバル当主に語った言葉だ。……当時のデュバル当主は、グリーンハーブの価値を高く見せようとしていただけだと思っていたらしいが」

 

「……そんなんが今でもアフリカにいるのか?」

 

「いいや。スペンサー達は『聖地』の周辺の部族を根絶やしにした。……いかに『神の戦士』でも軍隊には敵わなかったらしい。始祖ウィルスによる強化は量産型タイラントにも劣る程度の能力しかなかったようだからね。そうしてアンブレラはアフリカの聖地を手に入れ、ウィルス研究を始めた。そうしてより強力なウィルスをマーカス教授が開発した。それが君も知っている『T-ウィルス・シリーズ』だ」

 

「……いろいろ言いたいことはあるが、ロクで無ししかいないのか?アンブレラには」

 

「それについては同意する。……スペンサーはかつては人の進化による変革を夢見ていたらしいが、しかし老いて死を畏れるあまりに不老不死を求め、マーカス教授はウィルスに取り憑かれてその研究の趣旨を歪めていった。そのマーカスを暗殺したウィリアム・バーキン以下アンブレラの研究員は兵器としてのBOW開発に邁進し、そしてアシュフォード家は昔の栄光を取り戻すためにウィルスを使ったクローン技術を完成させ、そのクローンがまた最悪のウィルスを開発してしまっている。……正直、どれもスペンサーの望みからかけ離れているが、どれもが狂っているとしか思えないような事態だ。……アンブレラはもう末期と言えるが、彼らの滅びに世界が巻き込まれかねない、いやもう巻き込まれている」

 

 ふう、とモーフィアスは息を吐き、そして。

 

「デュバル家も同罪よ。恩義や義理でロクでも無い連中をのさばらせた。……現当主のカーラも先代も、アンブレラを滅ぼす為に動いてんのよ。まぁ、アタシもアレクシアにはかなり屈辱を与えられたからねぇ。直接、返さないと気が済まないワケ」

 

……オカマに戻りやがった。いや女体化してるわけだが、これはもう素には戻らないってことか?

 

「で、点滴外してBOW化を進行させようとしたのはなんでだ?」

 

「……まぁ、どうせアンタも巻き込まれるんだから言っちゃうけど。アシュフォード家が造り上げた初代当主『ベロニカ』のクローン、『アレクシア・アシュフォード』は12歳の頃にその天才的な頭脳とアシュフォード家が保有する最新の遺伝子工学技術で『始祖ウィルス』から独自に『Veronicaウィルス』を開発したのよ。まぁ、そのウィルスはかなり完成度が高くてウィリアム・バーキンが嫉妬したくらいの出来だったのよ。……でも、アレクシアはそのウィルスでアンブレラでの地位を確立しようとしなかった。何故だと思う?」

 

「……スペンサーにくれてやるのを渋ったか?」

 

「ん~、近いわね。そうじゃなくて答えはそのウィルスで『自分が世界全ての生命体の頂点に立つ』よ。……最悪のウィルス、いえ、ここに蔓延しているウィルスもそうだけど、またベクトルが違ったロクでも無さよ。『Veronicaウィルス』は上位種となったBOWに支配される。……今頃、アレクシアは自身を完全適合体、つまり支配種のBOWになってるはずだわ」

 

「で、それがお前のBOW化とどう関係があるんだ?倒すにしてもなにもBOWにならなくてもいいだろう」

 

「ただの銃や武器ではVeronicaウィルスでBOWになったアレクシアは殺せない。生物の次元が違いすぎるのよ。……そう、ヒトシ、アンタでも一人では無理……だと思っていたんだけどねぇ。……正直に言うと、アタシがここでこんなんなったのは、事故よ。焦りが招いたミスよ。………『T+Gウィルス』の開発が頭打ちになっちゃってね。どうしても結合が上手く行かなかったのよ。このままではアレクシアを倒せないって焦っちゃってね。『T+Gプロトウィルス』を何とか採取して突破口を開こうと思ったんだけど……」

 

 童貞、喪失しちゃった……。

 

 モーフィアスは何とも情けない顔でそう言った。

 

「ミイラ取りがミイラになった、か。つーか童貞どころか竿も玉も無くしてどうすんだよオマエ」

 

「……ん~、まぁ性別が変わるのは研究していた頃からわかってたのよ。だから変わった後に大丈夫なように女になりきって生活してたのよね……。あくまでもアタシの目的はアレクシアを滅ぼす事。それ以外はどうでも良かったからねぇ。……まぁ、童貞だったけど、後ろは処女じゃないし?いえ、前は処女んなったからノーカン?」

 

「……いや、聞きたくない。つかその手の話はゴメンだ。つーか治療終わるまで寝てろ。つか喋るな動くなむしろシネ」

 

「んふふ、ま、必要充分な能力は得られたから、まぁ、良しとするわ。あ、ビンセント・ゴールドマンをぶち殺す時は参加するから、起こしてよね。あの腐れビッチはとにかく血祭りに上げなきゃ気が済まないから……」

 

 んじゃお休み、とモーフィアスはそう言って目を閉じた……と思ったら、

 

「ああ、あと、ヒトシちゃん、予約しとくわねぇ?そのちんこ……」

 

「物理的に寝ろ!」

 

「いれぐぼぁっ?!」

 

 ふんぬっ!!と俺はモーフィアスの顔面に振動拳(通常技)を叩き込んで無理矢理に気絶させてやった。

 

「断固キャンセルだ、変態が」

  

「……なぁ、フォーアイズぅ。この場合ジャンル的にはやおいになんのかな?BL?カプ的にはどうなんの?」

 

「美しく無いからカプは却下。どうせ、『んほぉぉっ!』とか『あへぇ!』とかそういうのになるし趣味じゃない」

 

「いや、バーサそういう話は止めろ。俺の貞操は妻にだけ捧げとんのだ、つーかマジで嫌だ!」

 

 ああ、本当にとっとと娘連れてシーナ島から脱出してぇぞ俺は。つか、マジでモーフィアスはミラー外相んとこで引き取っていただきたい!

 

 

 

 




【モーフィアス】

・実はかなり真面目な奴。BOW化したら女になるんだから、今から女の生活に慣れなきゃ!と、オカマになったわけで。つうか、童貞だったが後ろはもう非処女ってお前……。

・設定のねつ造として、ベロニカに対抗出来るウィルスを作ろうとして『T+Gウィルス』を開発しようとしていたが、失敗したわけですがスペンサーレイン号の時には作れてたり……。まぁ、スペンサーレイン号は出て来そうも無いですけどね。

・そろそろシーナ島にも飽きてきましたんで、とっとと爆破して次にいきますかねー。つうかクレアを助けないとね。

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