「“来る”!! ここに!! 温かいのが噴き出るほどの”ヤバい”のが!!」
住宅街の中。柏島歓喜に抱き着いた女アイナが、それを叫び上げる。
——次にも空間に迸った、大地の表面を伝う波動。同時に街中へと奏でるサイレンが鳴り響き始めると、甲高い耳鳴りを連れて訪れた“それ”を受け、葉山ユノ、柏島歓喜、アイナ、桃空太一の四名が神経を研ぎ澄ました。
元凶を見遣るタイチ。すぐにも目についたのは、不気味に口を開く街中のスピーカー。
目に見える波動が四人の表面を伝っていくと、その直後にも柏島歓喜は声にならない音を響かせた——
「ぉ、ボぇっ」
吐血。それも吐き出すではなく、噴き出す血飛沫。
飛び出しそうな目玉で、突如と血をぶちまける彼。その様子で危機を察したタイチがスピーカーを見遣ると、即座に右手をかざしながら“超人の能力”を繰り出していく。
手の皮が、鋭利な刃を象る。そして瞬間にも、それは無数の氷柱のような形となって発出されたのだ。
スピーカーを容易く貫く攻撃。破壊と共に波動を放つ元凶を絶ったことで、柏島歓喜はアイナに支えられる形でうなだれていく。
だが、直にも周囲から響き出した悲鳴に、四人は阿鼻叫喚の光景を目撃することとなった。
……“人だったもの”。
柏島歓喜のような症状を訴える人々が、次々と粉砕されていく光景。
護るには、出遅れた。いや、自身の傍にいる人間を護ることで精一杯な状況だった。
目についた、女の子連れの母親。その二人もまた血を噴き出していく中で、タイチは広げた両腕から大量の刃を放ち始めた。
その刃は、翼の如く波状の連なりを成し、街中のいたる箇所に取り付けられたスピーカーを避けるように広がっていく。そして瞬く間に街中を刃の防壁で覆い囲んでいくと、途端にして症状が止まった人々がパニックを起こしていくのだ。
タイチの能力を見て、葉山ユノはセリフを口にする。
「“自身の体温から刃を生成する能力”——貴方と邂逅できたことに、運命すらも感じてしまえるわね」
うなだれる柏島歓喜へと近付く葉山ユノ。タイチはそちらを彼女に任せ、生成した刃越しから周囲の気配を探っていく。
……今も響くサイレン。スピーカーから放たれる波動を、刃が跳ね返す現状。
直にして、タイチは一つの結論へと至ることとなった——
「——“音”、か。“ヤツ”の正体は……音だ……ッ!!」
刃の防壁が牙を剥く。外周のスピーカーに向かって発出された刃の数々は、周辺の機器をすべて破壊して窮地を凌いでいく。
すぐにもタイチは刃の防壁を解除すると、駆け出しながらそれを口にした。
「この一帯が危ない!! 俺はここらの音響機器を破壊して回るから、あんたさんらは避難と誘導を頼むッ!!」
彼の足元から生える刃。彼の先を往くそれの上を滑るように移動を開始したタイチは、次にも地面の刃を浮き上がらせ、空間に刃の道を生成していく。体勢もスケートボードに乗るような格好となると、パキパキと音を立てながら空中に刃を走らせ、その上を彼は高速で移動し始めたのだ。
移動しながらも、“自身の体温から生成した刃”を周囲へと巡らせるタイチの姿。街中の音響機器を破壊する彼の背を後にして、アイナと葉山ユノに支えられる柏島歓喜も、血の塊を噛みながらそれを喋り出す。
「ユノ、さん。行って、くださ、いッ!!」
「いいえ、ヒーローの彼が出向いてくれた以上、私の出る幕は無いわ」
「あり、ますッ!! タイチさんだけ、じゃ、危険だ……!!」
柏島歓喜が腕を突き出し、葉山ユノの肩をどついて距離を離していく。
「ここにいる、みんなが、
訴え掛ける、彼の瞳。それを受けて葉山ユノは若干と渋る表情を見せたが、ふと聞こえてきた会話に、意識が向けられていく。
それは、先ほどの子供連れの母親。自身も重傷を負いながらも、血を噴き出して倒れた女の子を抱えながら、涙ながらに叫び上げる様子——
「血が止まらない——血が止まらない……!! 誰か、この子の出血を止めてくださいッ!! このままじゃあ死んじゃいます……!! この子の弟も、モンスターに襲われてこんなに血を流しながら死んでしまったんですッ!! だからどうか、お願いしますどうか……!! 誰か、助けて、誰かこの子を助けてください……ッ!!」
空虚へと溶けていく言葉。周囲の人々も自分で精いっぱいなことから、彼女の言葉を跳ね除けながら各々と救いを求めていく。
……葉山ユノは、そう時間をかけなかった。
タイチに続くよう、駆け出していく彼女。そして常人ならざる跳躍で地面を蹴っていくと、その姿は一瞬にしてくらましていった。
と、柏島歓喜を支えていたアイナは、彼を手放してドカッと落としながら走り出していく——
「ゆの!! あいなも行く!!」
彼女に付与した、温もりのGPS。その付与した“温かい”を追跡することで、葉山ユノという標的の位置を把握できる、アイナの能力。
姿をくらました彼女を追って、アイナもまたどこかへと走り去ってしまった。そんな彼女らの背中を柏島歓喜は見送るなり、重傷を負った身で力を振り絞りながら、何とか立ち上がるなりそのセリフを呟いていった。
「……どうか、お願いします。この龍明を、守ってください。タイチさん、ユノさん……!」