死人と同義【2585文字】※お色気シーン有
人体を貫通し、臓物が音を立てる不愉快なそれ。
月明りが雲に遮られた大都市の中。廃墟の工場に蠢く影がうねりを描いていくと、ドサッと落ちた人体の惨劇に、周囲の若い声が恐怖の悲鳴を上げた。
描写することは許されない。なぜなら、この物語において不適切な損壊を負っていたからだ。ただ、顔という部位が機能しなくなった一人の男子高校生の姿を見て、制服姿の女子生徒二名と、男子生徒一名が、砕けた腰で慄きながら後退っていく。
——廃れた鉄の臭いに、新鮮な鉄分が混じる。
蠢く影の後ろにできた、十数名ほどの死体の山。その全てが同じ制服を着用する地獄絵図であり、それを演出する知能を持つことを証明する、胸糞悪さを孕んだ光景が広がる。
始末した男子生徒を、蠢く影で拾い上げて山のてっぺんに投げ遣っていく。
……そして、身に纏った液状の触手を残る三名へと向けながら、顔が腫れ上がったその男子生徒は呟くようにそのセリフを口にしていった。
「みんなもさ、つまらないって思ったことある? 生きててつまらないって意味での、つまらない。そうだよね。だってみんなには生まれもっての才能とかあるし、やること全てが上手くいく人生の勝ち組なんだからさ。だから、何をやってもダメで、やること全部うまくいかない俺の気持ちなんか分かりやしないよね? ……一言で言えばね。俺の後ろにある死体のようなものだよ。何をやっても上手くいかない人間はね、つまり死人と同じってことなんだ。生きながら、死んでいる。それが、俺のような上手くいかない人間の特徴なのさ——」
——同時刻。
大都市の路地裏に響かせた、唇を重ね合わせる熱烈な唾液の音。
激しくも気持ちの良い快楽に身を任せる二つの人影は、片方が片方に責め立てられる形で事が進んでいた。
高校の制服姿で、路地裏の石壁に押し付けられる女子生徒。その少女が身を委ねる相手もまた、黒色のライダースジャケットとバイクパンツに身を包んだ、白髪のポニーテールが特徴的な大人の美女だった。
女性の左手は、女子生徒の右手に絡まりながら壁に押し付ける。その口で生徒の口を優しく塞ぎ、その少女の股座辺りで蠢く右手の影が、緩急をつけた手慣れのリズムを描写する。
恍惚な表情。共に頬を赤く染めていく中で、女性は背徳感による高揚で一層と息を荒げながら、目の前の若々しい唇を堪能し続けた。
そんな彼女に一方的と快楽を押し付けられる少女もまた、満更でもないサマで彼女に応えていく。すると、直にして段々と大きくする声を上げながら、蠢く影によって少女は痙攣を引き起こした。
二人の足元にできた水溜まり。そのまま少女が砕けるようにへなへなと体勢を崩していくと、女性はそれを優しく抱き留めるなり、凛々しく、たくましい、中性的な王子様のような表情と共に、繊細な芸術品を扱うかの如く少女をゆっくりと抱き寄せた……。
——カシャッ!! パシャ、パシャ!!
シャッターを切る音。
向けられる懐中電灯の光。それを受けて女性は視線を投げ掛けると、その先で、不敵な笑みを浮かべる男女の高校生の集団が歩み寄る光景を目にした。
チャラい雰囲気を醸し出す男子生徒が、ニヤけた調子でそれを口にする。
「おねえさーん。お楽しみのところごめんねー。——って、うわ。すげえ美人……。あ……」
急にどもる男子生徒。チャラチャラとしたサマで口ごもるその様子に、隣の女子生徒がからかい気味にそのセリフをしゃべり出す。
「え、なに? そういうので緊張するタイプ? ウケるんですけど」
その女子生徒もイケイケな様子で女性に歩み寄ると、彼女が抱いている女子生徒の襟を掴んで引き剥がしながら、続けてそんなことを口にし始めたのだ。
「あーあ、だいぶメチャクチャにされちゃって。ウチらの女にナニしてくれちゃってんのー? ねえ? ってかさ、あれー? おねえさんって、大人なんでしょ? 大の大人がさ、こんな未成年を襲っちゃってイイわけー?? ねえ、そこんところどうなの? 悪いよねぇ? 良くないよねぇ? これ知られちゃったらさ、おねえさんどうなっちゃうのかなぁ? 社会的に死んじゃって、色々と困っちゃうんじゃないのー??」
仕組まれた罠。
脅迫と共に女性を取り囲んでいく男女の生徒達。その手にはカメラを起動させたスマートフォンが握られている他、鉄パイプやナイフといった、物騒な代物までもがうかがえる。
「証拠もホラ、ここに収めちゃったし。だから、言い逃れはできないよ?? ウチらの女に手を出したその償いとしてさぁ、ほら、誠意ってモンを見せてもらわないとだよねぇ? とりあえずさ、ウチらのアジトに同行してもらおうと思ってるんだけど? まさか、断りなんかしないよね?? ね?」
と、先ほどまで女性と及んでいた女子生徒が一人の男子に引っ張られると、その男子は女子生徒に間髪容れないキスを決め、抱き寄せて肩を叩きながら、道の奥へと引き戻してしまう。
——イラッ。
あからさまに嫌な顔を見せた女性。そしてすぐにも背後の女子生徒に背中をどつかれると、女性はそれに従うように歩き出した。
集団に脅され、従う他ない状況下の大人。絵面からして、女性の身に降りかかる未来は容易く想像できることだろう。
女性の後ろを歩く男子生徒の数名が、声をひそめながらそんなことを打算する。
「なぁ、なんか今回の、すげぇ美人じゃん。あんなの、絶対キモチイイって」
「今までの中でも、特上だよな。下手すりゃ、あれ以上のなんていないだろ」
「通りすがっただけでイイ匂いしたぜ。ありゃ締まりイイよ。何なら首輪付けてアジトで飼い慣らしたいくらいだわ」
「いや、さすがにそこまでは……あるか」
下劣な会話。女性の耳にも届く、不愉快極まりない性根の腐った内容。だが、一方として彼女はと言うと、目の前を歩く数名の女子生徒にばかり意識が向かっていた。
制服姿で、若々しさをアピールするそれら。チャラく、歪んだ性格が年齢の魅力さえも激減させているものの、女性は脅迫されている状況下においてもなお、下腹部に覚えた疼きでその視線は釘付けとなっていたものだ。
……胸が高鳴り、上半身に響き始めた女性の鼓動。
晩餐会はこれからか。獣のような本性を冷静さで隠し通す、端麗なサマで歩みを進めるその姿。しかし、周囲が逸らした視線の、自身への監視が絶たれた一瞬ばかりの気配を悟るなり、女性は緩んだ自制から、待ち遠しく思うばかりの舌なめずりを見せていった——