奇超人JUNO   作:祐。

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証言者【2933文字】

 大都市の中でも都心部に近い、見渡すかぎりの建物と交差点が目立つ龍明の昼下がり。交通機関が忙しなくと行き交い、多くの人々が私服から制服、正装やスーツまでの様々な事情を見せていく。

 

 発展した環境の中を出歩いてみると、そこに紛れるようそびえ立つ広大な校庭と校舎を発見できる。それは、一番高い建物で九階もの階層にもなる巨大な学校であり、小から中、高から大までのほぼすべてを詰め込んだ、凹凸な外見に見合った充実の学習環境が整えられていた。

 

 『龍明西高等学校』。この一貫校に内蔵された一部分。それの領域内に踏み込むことは許されていない葉山ユノと柏島歓喜は、一段と厳重である警備に怪しまれない程度に外周の巡回を行っていた。

 

 ……腕時計を確認する彼。そろそろ正午ということもあり、校門のある方角を見遣りながらセリフを口にする。

 

「そろそろ時間になりますね、ユノさん。——ここ最近となって多発するようになった、高校生をターゲットにした惨殺事件。廃墟を主とした現場に彼らの死体を山積みにしているということから、少なくとも常人には成し得ない所業であることは確かです。ユノさんが懇意にしてもらっている警察官からも、特別に死体の破損状況なんかも教えてもらえましたね。……人体を容易く破壊できるパワーの持ち主である以上は、モンスター級の脅威であることは確定。それも、もしこれが愉快犯の犯行であるのならば、最悪の場合、犯人が超人であるという可能性も……」

 

「柏島くん。推測は、推測に過ぎないわ。この真相を仮定するには、まだまだ情報不足。柏島くんのような仮想をより真相に近付けるための参考資料として、これからにも私達は証言者から話を聞くの。ほら、行くわよ」

 

「す、すみません」

 

 柔らかい気温と、強い日差し。葉山ユノの背を追い掛けるように、柏島歓喜は小走りで駆け出す。

 

 校門からぞろぞろと出てくる生徒の波。一貫校のほぼすべてをもぬけの殻にするべく、一斉となって解散を宣告されたのだろう。

 それらを見分けるように、距離を置いた木陰で眺める二人。……証言者が二人の特徴を把握していることから、きっと相手側から声を掛けてくることだろう。

 

 そして、想定通りとも言うべき一つの影が二人の下へと歩き出す。

 開けっ払った鼠色のブレザーに、ボタンを三つほど外した白色のYシャツ。緩めて着用した赤色のネクタイに、白とブラウンの縞々が特徴的なスカート。黒色のストッキングに白色の運動靴を履いたその“少女”は、スカートの裾を上げた、不真面目を気取る雰囲気で二人の前に現れた。

 

 身長百六十ほどの背丈で、へそ辺りにまで伸ばした無造作な茶髪を揺らしながら歩いてくる。黒色の瞳は目つきが悪く、背負うように肩に掛けたスクールバッグと、ブレザーのポケットに手を突っ込んだガラの悪さを醸し出す姿。

 

 くちゃくちゃと口を動かしていることから、ガムかなんかを食べているのかもしれない。その第一印象に柏島歓喜が、「うわ、なんか関わりたくないタイプ……」なんて言葉を胸で呟きながら見遣っていくと、隣にいる葉山ユノへとその言葉を掛けていった。

 

「どうやら、あの子みたいですね。何やら物騒と言いますか、如何にも不良なイメージのある話しにくそうなカンジの女の子ではありますが、俺としましては女の子であることに、ある意味でホッとしています。ユノさんなら、どんなに性格が悪い女の子であろうともきっと、話を合わせることができると信用している部分がありますからね。——ユノさん?」

 

 空気感が違う。隣へと向いていく柏島歓喜。

 

 そこでは、あからさまに動揺を隠しきれずにいる彼女の見開いた目が映し出されていた。

 

「ユノさん……? どうかしましたか……?」

 

 訊ね掛ける柏島歓喜。彼の声に、葉山ユノはハッとしながらも、視線をどこかしこと泳がせながらどもっていくのだ。

 

「え。あ。いえ。……っ」

 

 と、二人の前まで歩み寄ってきた女子生徒。

 

 見上げる形で大人を見遣るその視線は、淡々と、興味無さげに向けられる。

 

「あなた達でいいんだよね。アタシを呼び出したの。で、なに? 襲われた時の話をアタシから聞きたいみたいなニュアンスで、クラスの人からお願いされたんだけど」

 

 喋り方も淡々としており、会話を交わすことには心から興味を持たない印象を感じさせる。だが、言い捨てるようなぶっきらぼうな喋り方とは相反して、声音自体はドスを利かせることもない、どこか温かなイメージさえも感じ取れてしまう少女の言葉。

 

 そんな少女へと、葉山ユノの代わりに柏島歓喜が受け答えする。

 

「はい、あなたのご友人さんから伺っているとは思いますが、我々は葉山探偵事務所という、私立の探偵稼業を営む個人経営の仕事をしている身でありまして。あぁ、こちらが葉山探偵事務所に勤める探偵の、葉山ユノです。彼女はプロの探偵とも言える多くの実績を有する人物でありまして、懇意にしている警察官もいらっしゃるほどの、それなりと広い顔を持つ実力ある方です。で、俺はその助手みたいなものであり——あぁ、名刺をどうぞ」

 

「ん、そういう小さい物はいらない。受け取っちゃうと邪魔になるだけだし。でも、捨てるのもなんか申し訳なくなるし。だから、最初から受け取らないって決めてる」

 

 ん、と手で静止させる少女。ポケットから片方の手を出して、それを宙ぶらりんとさせながら少女は言葉を続けていく。

 

「“蓼丸(たでまる)菜子(なこ)”。アタシの名前だから、よろしく」

 

「蓼丸さんですね。俺は、柏島歓喜っていいます。よろしくおねがいします」

 

「カンキ? なんか面白い名前。あと、さん付けじゃなくて普通に菜子でいいから。あと敬語も落ち着かない。アタシ、そういうタチじゃないし。かしこまられてると疲れるから、好きじゃないんだよね」

 

「そ、そうですか——そ、そっか。じゃあ、菜子ちゃんって呼びま……呼ぶね」

 

「ぷふっ、タメ下手すぎ」

 

 宙ぶらりんにしていた手を口元まで持ち上げ、そう微笑してみせた蓼丸菜子。

 そんな少女に柏島歓喜は「あ、あれ……」と頭を掻くようにしたが、すぐにも蓼丸菜子は若干と柔らかい真顔へと表情を変えながらそれを口にしていった。

 

「で、どこで話すの。この近くに、ゆっくりできるカフェとかあるんだけど、そこ? あぁ、お代とかはアタシ子供だから出さないよ。あなた達は大人でしょ。アタシは情報を提供するんだから、お代はその情報料でおねがい」

 

「な、なんかちゃっかりしてる子だな……じゃあ、そこまで案内してくれるかな?」

 

「はいはい。ちょうどそこでさ、キウイパフェっていう期間限定のメニューが始まってんの。だからちょうど良かったんだよね」

 

 そう言うと、蓼丸菜子は二人の先を往くようにひとり歩き出していった。

 

 これを見た柏島歓喜は、少女を追いかけるよう駆け足で走り出す。だが、それでも隣の存在が微塵にも動きを見せなかったことから、彼は振り返りながら声を掛けていくのだ。

 

「ユノさん? 先ほどから、どうかしましたか? 具合でも悪かったりします?」

 

「え。あ、いいえ……何でもないわ。行きましょう」

 

 何度も首を横に振る葉山ユノ。そうして彼を追い越して蓼丸菜子についていくものだが、そんな彼女の背を、柏島歓喜は不思議に思いながら眺め遣るばかりだった。

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