奇超人JUNO   作:祐。

2 / 32
1章1節
動き出す邪悪【2830文字】※お色気シーン有


 その日、一人の女子高生が殺された。

 

 大都市『龍明』の郊外。真夜中の雑木林がざわめく道のりに、血を流す足がはみ出ている光景。それを目撃した男性が恐怖で慄きながらも、龍明超人協会へと通報したことで事件が発覚した。

 

 無惨な姿へと成り果てた、未来ある少女。シルエットで隠されながらも、血の量と傷跡から、原型を保つことも許されなかったことが想像できる状況。

 

 モンスターの仕業に違いない! 龍明にモンスターが侵入してきている!

 警告を叫び上げる人間達。厳重な警戒態勢が敷かれるその脇にて、一つの邪悪が不敵な笑みを浮かべていた。

 

 ……薄暗がりの、とある屋敷の中。ワインを注がれたグラスを片手に、豪華な施しの椅子に座るその人物。

 顔が映らぬその場面。だが、体格の良い格好と、金色をベースとした民族服を身に纏う男であることが判明すると、次にも、現場で起こっているであろう混乱を妄想しながら、吟味するかのように男はそのセリフを呟いていったのだ——

 

「んぅ、もったいない。実にもったいない……。あぁ、どうしてもったいないと思うことは、こんなにも我をそそるのだろうか。あのコだって、秀逸な美貌を持つ稀有な女の子だった。それなのに、あの美しさを冒涜するかのような変わり果てた姿になってしまって……あぁ、もったいない。実に、もったいないなぁ————」

 

 

 

 

 

「“ユノさーん”。ご飯できましたよー。冷めない内に食べちゃってくださーい」

 

 事務机の脇にある薄型のテレビ。そこから流れてくるニュース番組のナレーション。

 パーテーションが日差しの進出を防ぐ早朝の空間にて、フライパンを持つ青年が壁越しの浴室へとその言葉を掛けていった。

 

 ピンク色のエプロンが、白シャツと紺色のパンツによく似合っている。それでいて、キッチンで振るう料理の腕も、随分とこなれた様子を見せていくその彼。

 綺麗な黄色のオムライスを皿に盛り、ケチャップでなみなみを描いて満足気な表情を浮かべていく。そして事務所中央の縦長テーブルにコツンと置いて一息つきながら、彼はエプロンの紐を解くために手を後ろに回していった——

 

「とてもイイ匂い。さすがは“柏島くん”。貴方が事務所に来てからの一週間は、食事の時間が楽しみになって、日々のモチベーションに繋がるわ。貴方は本当に、雇い甲斐のある人材ね」

 

 声のした方向へと振り向く彼。

 次にも目にしたのは、濡れた髪をバスタオルで拭いながらも、すべてのボタンを開けた赤色のシャツを羽織り、健康的に割れた腹筋を惜しげもなく晒しながら、チャックを全開にした黒色バイクパンツ姿で歩いてくる美女の光景……。

 

「なっ、なんて格好で人前に出てきてんすかっ!!?」

 

「あら、今日はオムライス。それも、柏島くんの几帳面で真面目な性格が垣間見えるような、とても綺麗な丸みが食欲をそそる豪勢な一品ね。相変わらず、貴方を雇ったことは正解だったみたい」

 

「だから、なんでそんな格好で人前に出てきてるんですか!? ちゃんと服を着てから俺の前に出てきてくださいよ!! ……というか俺、雑用係とコックを兼任してません? 明らかに負担が増えていますけど、その分の給与ってちゃんと考慮されていますよね?」

 

 訝しげに目を細める、柏島歓喜。そんな彼が向けていく視線の先には、チャックから覗くピンクのショーツが目立つ女性“葉山ユノ”が、クールな面持ちで椅子に腰をかけて「いただきます」と凛々しく挨拶を口ずさむ光景。

 

 彼は頭を掻く素振りを見せながらも、自分の分の皿もテーブルに置いて手を合わせ、「いただきまーす」と挨拶を口にして食事を始めていく。

 と、向かい合う形で食事を行う彼はふとスプーンを止め、思い出したかのようにユノへとそのセリフを投げ掛けていった。

 

「そう言えばですけど、ユノさんが入浴中にも電話が一本入ってきまして」

 

「依頼?」

 

「ですね」

 

 顔を上げるユノ。

 

「声は?」

 

「中年くらいの男性でした」

 

「なら、後でお断りの電話を入れておきなさい」

 

 プイッとオムライスに視線を向ける彼女。

 だが、彼は記憶を巡らせるように上を向くと、そんなことを呟くように言った。

 

「あ、ですが、途中で電話の主が変わりました。男性の方がパニックでうまく喋れずにいたので、脇に居たのでしょうか、学生さんのような若そうな女性の方に電話が代わり、状況を説明してくれたんです。——その時の女性の方も声を震わせておりましたけど、涙をこらえているような、喉が震えるような声音だったので……」

 

「……若そうな? 学生さん?」

 

 視線が上がるユノ。

 

「依頼内容は?」

 

「あハイ。依頼の内容は、“妹を殺した犯人を見つけてほしい”とのことでした。今朝のニュースでも報道されていましたが、昨夜にも龍明の郊外で一人の女子高校生が無惨な遺体で発見されたようでして。そちらの関係者と思われる方々からのご依頼でした」

 

「行方調査ね。よくあることよ。大抵は、龍明に侵入したモンスターによる捕食行動であるケースがほとんどなのだけれども……」

 

 少しだけ間を置くユノ。

 

「……度し難いわね。よりにもよって女子高校生を。もしかしたら、私の好みだったかもしれない、未来ある逸材に手をかけるだなんて」

 

「ご依頼、受けます? 早めの返答を心掛けたいので」

 

「引き受けてちょうだい。そして今すぐにでも現場へ向かうわ。——依頼主の女の子が、私の到着を待ち望んでいるでしょうから」

 

 カランッ。皿に音を響かせたスプーンが、空になったそれの上を滑っていく。

 ……え、もう食べたの? 目を見開く柏島歓喜をよそにして、葉山ユノは自身の乱れた服装に手を掛け始めた。

 

 灰色混じりの白色長髪を結って、分厚いポニーテールをつくり出す。赤色のシャツにインナーを滑り込ませ、シャツのボタンの一番上以外を止めていくと、バイクパンツのチャックをしめてシャツをインさせていき、黒色のライダースジャケットのようなアウターに腕を通してキメていった。

 

「柏島くん。貴方も同行しなさい」

 

「え? ——え!? だって、俺は雑用係で事務所に残って……というか、それ、直前になって言います!? 俺、準備が何一つ終わって」

 

「現地では、モンスターとの戦闘になる可能性が極めて高いわ。私がそれを討伐するけれども、私のような“超人”とは違って、“常人”の貴方にとってモンスターという存在は、敵うことも許されない無慈悲な絶対的捕食者。有望な人材である貴方を失いたくない一方で、探偵助手の貴方には現場を経験してもらわないといけない。——オムライス、ごちそうさま。貴方の作るお料理は好きだから、貴方がモンスターのごちそうになってもらっては私が困るの」

 

 彼女から投げられた、ショルダーバッグ。それが彼の近くのテーブルにドカッと落ちると、葉山ユノは凛々しい歩き姿で事務所の出入り口へと向かい出す。

 

 ……すぐにも準備に取り掛かった柏島歓喜。エプロンを取り払ってショルダーバッグを掛けていくと、彼女の事務机から必要となる資料や道具を搔き集めながら、事務所の固定電話を手に取っていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。