動き出す二人【3672文字】※お色気シーン有
月夜に鳴り響く警報。二十五階にもなる高層ビルの一角にて、赤く回り出すサイレンを合図にして武装した集団が一室に押し寄せる。そしてマシンガンの銃口を向けてその先へとけん制を掛けていくと、デスクのPCから光る薄いブルーライトを浴びた一人の男が、手にしたUSBをしまって窓辺へと向かいだした、その時だった。
一斉に発砲された、十数にも渡るマシンガンからの容赦ない弾幕。それを全身に浴びた男が衝撃で背後の窓を破っていくと、その男は二十五階の高さから身を投げ出すようにして、真っ逆さまと落下していったのだ。
すぐにも、男が落下したであろう地上へと駆け出していく武装集団。その間にも落下する男は全身から大量の血をまき散らしながら地面に打ち付けられると、真っ暗な路地裏の、ひと気の無い静寂な暗がりにひとり、肉が飛び散る音を鳴らしてその場で絶命した。
——のだが、次にもその肉片はひとりでに震え始め、落下した地点に向かって引き寄せられるよう集合する。
そして、それらが浮き上がって人の形を形成していくと、服までも再生したその肉体で、男は拳を握っては開いてを繰り返しながら身体の感触を確かめてから、路地裏の闇へと紛れるよう走り出していったのだった……。
朝方。閉められたカーテンが、日光で光を帯びていく。傍のダブルベッドには三名の女性が裸の状態で眠りについていると、真ん中で仰向けになる白髪の彼女がふと目を覚まし、普段は結っているその長髪をさらさらと流していきながら、上半身を起き上がらせてボーッと空虚を見遣っていった。
……黒色の瞳。色白の肌。美貌に溢れたその造形で自身の裸体を手でなぞりつつ、先日にも告げられた少女の言葉が何度も脳裏をよぎらせて、その度に彼女は憂いの感情を表情に落とし込んでしまうのだ——
『強いの、来る。——“あなたが負けた、あの男も”』
『——“
少女の口元。そこから放たれた、自身にとって少なからずの忘れ難き因縁の記憶……。
「葉山、さん……?」
と、彼女の隣で眠っていた一人の女性が、眠り目で訊ね掛ける声が耳に届いた。
そちらに振り向く彼女。そんな彼女と目が合った女性は「おはようございます……」と寝起きの調子で口にすると、次の時にも彼女は女性に覆い被さるように四つん這いになり、目の先の女性を少しばかりと驚かせていく。
お互いに裸の姿。それも、覆い被さるように手をついて身体を接近させていくと、彼女は無心のまま女性の唇を軽く咥えていき、それを離しては、またついばむように口づけをしてという、間隔を空けた短いキスを繰り返す。
突然のそれに、驚きを隠せない女性。だが、彼女と交わす口づけに幸福感を見出していくと、女性は蕩けた眼で彼女のキスを受け入れ続け、乳を垂らした彼女の寝起き攻めに頬を赤らめていくと、直にも彼女は女性の頭を優しく撫でていきながら、そう言葉を掛けていったのだ。
「貴女は今も、夢の中。だから、私のベッドでもうひと眠りしていきなさい。私はずっと、貴女の傍にいてあげるから」
交わすキス。長めに口づけした彼女からの温もりに、女性は微笑みながら目を瞑って眠りについていく。
……それを確認した彼女は身体を起こし、そしてベッドから足を下ろして立ち上がってから歩き出す。
その歩き出した先にて場面は変化して、着こなしたいつもの服装で事務所のイスに腰を掛けていくと、脚を机にほっぽり出して組んでいきながら、憂いの表情をそのままに葉山ユノは空虚を見遣っていった。
いつもの日常。既に昼間である時刻の探偵事務所では、備え付けのキッチンで何やら賑やかにやり取りを交わす柏島歓喜と蓼丸菜子の光景が展開されていく……。
「な、菜子ちゃん! 確かに力強く混ぜるって教えはしたけど、それはちょっと強すぎちゃって生クリームが周りに飛び散っちゃってるって!!」
「え、だってゼンリョクで混ぜろってカッキー言ったからやってるんだけど!?」
「いや力加減はそのままでいいんだけど、飛び散った分の生クリームが勿体無いから、もうちょっと周りに気を遣いながら混ぜていって!!」
「それ割と無理あるじゃん!? カッキーいつもどうやってるのそれ!?」
「あぁじゃあお手本見せるから俺に貸して!!」
「ぁー!! やぁーっ!! ここでカッキーに任せたら女子力で負けちゃうからヤだーっ!!」
「ちょ、ちょっとボール振り回さないで!! こ、零れちゃうって!!」
「やぁぁぁぁあーーーーっ!!」
意地になる蓼丸菜子。涙目で彼からボールを死守していく様子と、そんな少女から必死になってボールを取り返そうとする柏島歓喜。その二人はエプロンを身に付けて、蓼丸菜子は頭巾まで着けてやる気満々なサマを見せていたものだったが、女子力修行という名目で始まった二人のお菓子作りは、常に破天荒な騒々しさで賑やかにしていたものだ。
と、その時にも鳴らされた事務所のインターホン。そのチャイムが室内に鳴り響くと騒ぎ立てる二人はハッとして入り口を見遣っていき、柏島歓喜が「俺、出てきます」と言いながら玄関に向かってその扉を開けていく。
その間も、葉山ユノは無反応に近しい様子で呆然としていたものだ。こうして彼が事務所に戻ってきて案内の素振りを示していくと、すぐにも廊下からはサングラスをかけた王子のオーラ放つ男性が現れる。
羽毛のような、真白のショートヘアー。白いジャケットに白いシャツで、青色のジーンズという格好をした男性がサングラスを外しながら葉山ユノへと向いていくと、挨拶と共に眩しいイケメンパワーを放ちながら得意げな笑みを見せてきた。
「どうも、またしてもお邪魔しますよ葉山さん」
桃空太一。龍明超人協会のトップに君臨するスーパーヒーロー。モデルやドラマとしての活躍も兼ねる龍明の有名人がその素顔を晒していくと、それを見た蓼丸菜子は「ぅえ!?!?」と裏返った声を出しながら、思わずとボールを投げ出してタイチへと駆け寄った。
「た、た、たたたたタイチさんっっ!?!? なな、なんでっ、なんでっっ——ぇ、うそ、ホントに本物。え、あの、アタシいつもドラマとか観てて、その、ふ、ファンと言うか……応援してるっていうか……っ!!」
感極まる。駆け寄るなりタイチの顔をまじまじと見つめる蓼丸菜子。あの有名人が、どうしてここに。そんな、あまりにも信じられないといった様子で顔を赤らめた少女を前にして、タイチは視線を合わせるよう屈みながらセリフを口にする。
「お、カッキーに続く、葉山さんとこの新しい助手の子かい?」
「えっ! ぁ、ぃやっ。ちが——……でも、いずれはそのつもり、……でしゅ」
緊張する少女は、目の前にしたスーパーヒーローに蕩けたような滑舌で答えていった。
これに微笑みかけたタイチ。少女へと手を差し伸べて握手を求め、自信に満ちた表情で蓼丸菜子にサービスをしてあげる。
「おぉ、そうかそうか。それじゃあこれからも、どうぞごひいきに。そういうことで、初めましてとよろしくの握手でもするかい? ほら」
「ふぇっ!?!? あ、ああアタシなんかがタイチさんと握手するなんて、そんな——」
「そうか? じゃあ、また次の機会にでもするか?」
「ぇ、それもヤだ!!!! 今するっ!!!!」
ガシッ!! 勢いよく手を握り締めた蓼丸菜子。それを受けてタイチは微笑ましく思いながら少女と握手を交わしていくと、終わり次第にも少女は顔を真っ赤にして口元を手で押さえていきながら、そのまま顔を隠すようにしてボフッと蒸気を噴き出してから暫しと佇んでいたものだ。
ボールを回収し、何気なく生クリームをかき混ぜていく柏島歓喜。タイチの様子へとその視線を投げ掛けながらそのセリフで訊ねていき、本来の目的であろうタイチの“それ”へと柏島歓喜は誘導していく。
「それで、タイチさん。またユノさんに相談したい案件があると仰っておりましたけど」
「あぁそうだな。ま、そういうことなんで、またしても押しかける形になってしまったもんなんだが、超人協会を助けるためだと思ってここは一つ、相談に乗ってくれないだろうか葉山さん」
タイチと目が合う葉山ユノ。デスクに乗せていた脚を下ろして腕を組み、タイチへと歩み寄るように彼女はそれを訊ね掛ける。
「それで、要件は? また行方調査?」
「お、鋭いね。さすがですよ葉山さん」
そう答えて、タイチは胸ポケットから一枚の写真を取り出していく。そして彼女へと写真を手渡して見せていくと、そこに写された一人の麗しい貴族の女性に葉山ユノは見惚れていきながらも、同時にして掛けられたタイチの言葉へと耳を傾けていった。
「今回は人間の行方を探ってもらいたいもんなんだが、これまた厄介な事情を抱えた問題と直面してしまっておりましてね。しかも、以前にも接触を控えるよう上からの圧力があったモンスターの討伐に俺が一枚噛んでしまったもんですから、俺は今回の件、謹慎しなければならないんです。ね、これだけでもなかなかに厄介なもんでしょう。そこで、我らが葉山さんの出番、ということです。そんなわけで一つ、お願いしますよ——」