奇超人JUNO   作:祐。

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超人ユノ【2334文字】

 紙袋を抱え、あんぱんを片手に建物の陰で張り込み。

 

 陽が落ちた龍明の郊外。ひと気の無い雑木林付近で身を隠す柏島歓喜は、形から入るタイプであることを晒していく。

 

「昨日、雑木林で見た人影。俺の勘が訴え掛けてくる。あれこそが絶対に怪しい、と。……それにしても、ユノさんに吊り合うような探偵の助手になるために、あんぱんを買って張り込んでみたはいいけれど、これ、探偵というよりは刑事だよな……」

 

 間違えてしまったか? そんなことで首を傾げていく彼は、片手のあんぱんをハムッと咥えて雑木林を覗き込んでいく。

 

 すると、彼はふと視界に入ってきた“それ”に、あんぱんを食べる口を止めていった。

 

「……あれって、依頼主の女性。それと、あの人影——」

 

 二メートルもの高さを誇る、黒い何か。暗がりかつ遠目で確認しにくいそれに目を凝らしていく中で、それの脇には依頼主の女性がくっ付くように歩いている様子がうかがえた。

 

 それらは、二人並んで雑木林の中へと進入して姿を消した。これを見た柏島歓喜は、「妹さんが被害に遭われた現場に入っていくなんて。止めなきゃ……!」と建物の陰から飛び出していき、それらの後を追うように雑木林へと駆け込んでいく。

 

 地面に跳ねる足音。彼は視界の中央に捉えた暗がりの雑木林に向かって、その声を上げていった。

 

「一人でここに入るだなんて、危険です!! 何か用事がおありでしたら、俺やユノさんが一緒に同行します!!」

 

 呼び止めたそれら。雑木林にできた細い道で足を止めたそれらと彼は、上げた声から少しもの沈黙が走る。

 

 ……じきにも、依頼主の女性がゆっくりと振り返ってきた。

 

 口に侵入する漆黒の触手に、涙をボロボロと零す様を見せながら——

 

「ッ、それは——!?」

 

 彼に飛び出す触手。足元から掬い上げるよう伸びたそれは、常人の動体視力では到底追い付けない速度を以てして、彼を拘束した。

 

 落とした紙袋が音を立て、黒い何かのもとへと連れていかれる柏島歓喜。

 二メートルものそれに近付くと、彼は目にした質感に驚きを隠せずにいた。

 

 ……黒く、艶のある表面。人間の皮膚ではない硬化したそれが人型を生み出した、紛れもないモンスター。それは遠目から見ると、トレンチコートを着る長身男性に見えなくもなく、しかし、人間ならざる表面のみで形成された身体は、どんな常人の攻撃さえも跳ね返してしまいそうな、硬質な質感であることがうかがえる。

 

 依頼主の女性へと向ける視線。彼の視界には、女性の口を塞ぐ触手の他に、腹部を貫く別の触手が映り出す。

 血を流しながらも、塞がれた口からは悲鳴を上げることも許されない。そして触手に連れていかれる形で雑木林へと踏み出し、今に至る——

 

「は、離せ……ッ!!!! くそ!! 俺が、俺が、非力なばかりに……ッ!!」

 

 救い出すことができないもどかしさ。すぐにも別の触手が黒いそれから伸びてくると、柏島歓喜の顔面めがけて飛び出していった——

 

 

 

 ——彼の視界を横切る、漆黒とは異なる黒き軌跡。

 

 一瞬のそれが干渉すると同時にして、この世のものとは思えない衝撃が迸る。

 

 樹木に打ち付けられ、豪快に跳ねながら地面に落ちた柏島歓喜。先の衝撃でかなりの距離を飛んだことで、彼は背中に走る激痛で表情を歪ませながらも起き上がっていく。

 

 そして、前を見遣った。……片脚を突き出したまま静止する、葉山ユノの姿を確認するために——

 

「ユノさんッ!!」

 

 彼女の前方。吹き飛んだ黒きモンスターが雑木林から身を起こす。

 

 次にも、それは飛び掛かるようにして彼女を強襲した。

 

「ユノさんッ!! そいつはあまりにも危険です!! 俺もアシスタントスタッフとして色々なヒーローとモンスターを間近で見てきましたが、こんなにも戦慄するほどのモンスターは、極めて稀ですッ!! そいつは危険すぎますッ!! 相手にするだけ、ユノさんの命が危ないッ!! 今は逃げましょう!! 生き残って、龍明超人協会に、支援を要請するんです——」

 

 突き出される触手。柏島歓喜の目では捕捉し切れない一撃が、葉山ユノへと襲い掛かる。

 

 彼女の脚を通り抜け、顔面めがけて放たれた攻撃。それが彼女に直撃する。その瞬間——

 

 ——最低限の動作のみで、頬を掠るように触手を避ける。そして、そのわずかな動作の中に生じた運動を右回転に転じさせ、次にも右脚による渾身の蹴りが繰り出される。

 

 ッ。

 視界がホワイトアウトするほどの、大気を揺るがす衝撃。瞬間的に巡った失神と耳鳴りが柏島歓喜に降りかかると、直後として目撃した光景に、彼は目を真ん丸にしながら放心してしまった。

 

 蹴りの先にある雑木林の一部分が消失した、空気中に打ち付けられたクレーター。地面を抉るそれが白い煙を上げ、攻撃対象だった黒い存在が忽然と姿を消した世界をそこに作り出す……。

 

「柏島くん。女性を安全な場所へ連れていってちょうだい」

 

「え、あ、はい……!」

 

 よろける彼。そんな状態で倒れる女性へと駆け出していく間にも、葉山ユノは黒きモンスターが進もうとした東の方向を見遣っていく。

 

 が、すぐにも西の方向にある街へと振り返っていき、歩き出しながら柏島歓喜へとそれを伝えていったのだ。

 

「女性を運び次第、現地の人間に避難を呼び掛けて。一刻でもここから離れ、地下シェルターなどの安全な場所へと逃げ込むようにと」

 

「は、はい! ——え、ユノさんはどうするんですか?」

 

「私は——」

 

 彼の視界に一瞬ばかりとよぎった、彼女の姿を覆うよう現れた紅の幻影。

 

 コートのように揺らめいたそれと共に、葉山ユノは彼へと振り返りながらそれを告げていった。

 

「私の正義を執行するわ」

 

 その場から跳躍し、瞬く間に姿を消した葉山ユノ。それを目で追えることなく彼方へと視線を向けた彼は、すぐにも我に返るように立ち上がり、倒れる女性を抱えながら走り出した。

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