阿鼻叫喚の龍明の街中。意図的に起こされた騒動によって、多くの損害が被る状況。
黒い何かのモンスターが押し寄せ、瞬く間に街の一部分を制圧した。これによって上空には中継のヘリコプターなどが大量に旋回し、事の重大さを大々的に取り上げていく。
建物の屋上に降り立った葉山ユノ。そこから下を覗いていくと、黒きモンスターが徘徊する様子と共に、上空の女性リポーターが放つ言葉に耳を傾けた。
「我々は、これほどまでの命の危機を感じたことがありません!! これはまさしく、地獄と呼ぶに相応しい状況であることが一目瞭然となっております!! 皆さんが今も目撃している現場はCGなどの作り物ではなく、今そこにあるがままの、本物の地獄を映し出しているだけにすぎません!!」
建物が炎上し、多くの人間が倒れ込む悲惨な現場。その中にはヒーローとして名を馳せる実力者のメンツも揃っており、そのほとんどが眼前の脅威に力が及ばず、突っ伏した姿となって映し出されている。
「我々全人類の希望である“超人”のヒーロー達も、目の前のモンスターを相手に敗北を期した現状。本格的に訪れた龍明の危機に、超人協会は更なる強力なヒーローを即急に手配したりと、今も目撃する災厄の如き侵略に、凡人である我々は身を震わせて解決を願うばかりで——きゃぁっ!!!!」
揺らぐヘリコプター。その機体を貫く触手が引っこ抜かれると、ヘリコプターは煙を上げながら落下し始める。
中で、シェイクされるよう転げ回る女性リポーターとカメラマン。操縦士も命の危機に苦難の表情を見せていく状況で、開けられたそれとは異なる別の穴が生じると同時に、内部の人間が一瞬にして消失する——
そう間もなく、ヘリコプターは落下して大炎上した。この光景に周囲がさらに戦慄するものの、次にも向けられたカメラは、屋上で数名もの人間を抱える“それ”を捉え、注目した。
ドサ、ドサドサッ。
抱えていた操縦士二名とレポーター、カメラマンが屋上に落とされる。この衝撃で彼らは意識を取り戻すと、付近で佇む“それ”へと視線を上げ、その姿を視界の中央に映していった——
——靴底を合わせ、百八十一もの背丈を誇る長身。灰色混じりの白色ポニーテールを腰辺りにまで伸ばした凛々しいシルエットは、膝丈で揺らぐ真紅の分厚いコートを纏って存在していた。
漆黒のTシャツに、同色のバイクパンツ。緩く巻かれたクロスするレザーのベルトに、膝丈までの漆黒のパンキッシュなブーツという身なりも合わせて彼らへと振り向いてきた“それ”は、瞳と口元を紅色で光らせた、漆黒の仮面越しに無事を確認していく。
そして、黒色のガントレットを装着した手を伸ばし、女性リポーターを優しく立ち上がらせた。
「……あ、ありがとう、ございます……っ」
呆気にとられるリポーター。そんな彼女を見下ろす形で、どこか見惚れるように眺める“それ”だったが、すぐにも名残惜しく歩き去っていくと、次にも“それ”は高く跳躍し、阿鼻叫喚の地上へと降り立っていったのだ。
積もる砂埃を巻き上げ、モンスターの集団へと真っ向から向かい合った“それ”。それでいて堂々とした存在感と、凛々しく歩き進めていくその様子が、上空でカメラを向ける多くの注目を引き付けていくのだ——
「ああーっと!!!! ここでまさかの推参ーッ!!!! 誰もが災厄に絶望する中で姿を現したのは、龍明超人協会に属することなく、流浪の果てに気まぐれで我々の危機へと駆け付ける、謎多き紅の救世主!!!! 正しくはヒーローではないために通り名は名付けられていないものの、以前にも姿を見せては脅威を取り払ってくれた際にも、救出した女性に持たせた石板に綴られた『
男性リポーターのそれを一切気にすることなく、モンスターが続々と集ってくるその空間。前方の光景に皆が絶望を感じる中、“それ”は悠々とした様で歩き進めていくのだ。
集まったモンスターの数は、ざっと二十体。そのすべてが“先にも雑木林で出会った個体”と類似しており、その時にも外部から投げ掛けられた忠告を“それ”は思い出しつつ、ガントレットで拳をつくりながら即座に飛び出していった——
——刹那だ。
ひび割れる空間。音や衝撃よりも先に生じた大気のクレーターは、周囲のモンスターを悉く吹き飛ばし、炎上する街並みの炎を屠っていく。
次にも、遅れてやってきた衝撃波によって、上空に存在する多くのヘリコプターが制御不能となって揺らぎ出した。
機内で、必死となってしがみ付く面々。皆が悲鳴や驚きで上げていく声も中継で放送される中、地上では“それ”が振るう拳による、一方的な排除が展開されていく。
もはや、虐殺だった。突っ伏す英雄達をも退けた脅威が束になって襲い掛かろうとも、仮面越しの無言を貫く“それ”がひとたび拳を振るえば、前方から圧し掛かる規格外のパワーによって、脅威は散り散りとなって地面に降り積もる。
“それ”の背後から飛び掛かったモンスター。だが、瞬間的な振り向きによって頭部をガントレットで掴まれると、抑える程度の握力によって弾けるスイカの如く粉砕される。
左右から触手で攻撃を仕掛ける二体のモンスターも、伸ばしたそれを容易く両手で掴まれてしまい、触手同士が絡まるように引っ張られて一つとなったところで、“それ”はモンスターを振り回して周囲を薙ぎ払っていく。
これを投げつけて粉砕すると、足元から生えるよう現れたモンスターによって、頭部を貫かれた。
かのように思えば、首だけを曲げるようにして、見下ろす形でモンスターを眺める“それ”の姿。
——わずかながらの静寂。直後にもモンスターの頭部は鷲掴みにされ、“それ”は弧を描くような大振りの投げによって、地面が割れるほどの衝撃で叩き付けられる。
が、それでは終わらない。“それ”はすぐにも弧を描いて再び叩き付け、また弧を描き叩き付け、を数十回にも渡って繰り返していく。
街に刻まれた地割れ。そこで削るようにモンスターを引き摺りながら持ち上げていくと、“それ”は爆発的な力を加えることによって、見せしめにするかのように、モンスターをその場で握り潰して飛散させた。
……塵となり、飛び散る黒き破片。これを最後にして静寂を迎えた街の空間と、誰もが圧倒されて口を噤むその中央で、
「…………我々は時々、人類に与えられた、運命に抗うための恵まれた能力に恐怖することがあります。それは、最上位のヒーロー達による鎮圧作戦でも薄々と生じる感情ではありますが、それ以上に、『
淡々とした調子で解説する男性リポーター。その言葉が中継を通じて染み渡るよう響くと、“それ”は無言を貫く動作のまま、とある方角へと振り向いていった。
……彼らが集団を成して街を襲う理由が、見当つかない。
おそらく、本能的な目的を持たない襲撃だった。
——となると、陽動。
「あ! 『
男性リポーターが上げたセリフ。それと共に倒れ込んでいたヒーロー達が起き上がると、そうして上げた視線の先には、既に静寂を迎えたひび割れの街並みのみが広がっていた……。