スライムキャッスルの話は、原作では冬夜たちが屋敷に引っ越した後。アニメ版ではその前になってますが、今作ではミスミドから帰ってきた後になってます。簡単に言うと、原作版でスライムキャッスルの話が幕話として後ろの方に書いてあって、引っ越し後の話だというのをすっかり忘れていたからです。
まぁ、楽しんでいただければ幸いです。
BTと協力して黒竜を討伐した俺達は、ようやくミスミドの王都へとたどり着いた。しかしひょんな事から俺はミスミドの王、ジャムカ王と模擬戦をする事になってしまった。何とかこれに勝利した日の夜、俺は妖精族の長である女性、リーンと知り合うのだった。
パーティーの翌日、朝。俺はあてがわれた部屋で目を覚ました。そして昨日のことを思いだし、正直危機感を募らせていた。
ミスミド王のアクセル。あれは厄介だ。……そして、同じように高速移動を可能とする敵が現れた時、それは俺が圧倒的に不利な状況だ。今の俺に、高速戦闘について行ける技は一つだけ。ミスミド王の『アクセル』のコピーだ。幸い、俺には全ての無属性魔法を使える才能がある。アクセルについては、昨日のパーティーの席でミスミド王から聞いてあるから問題無い。使えるかどうかも、昨日の夜、こっそり外で試した。
しかし、アクセルにばかり頼るのは危険だ。もし魔法が発動出来ない状況になった時、アクセルに頼っていた結果命を落とした、なんてのは洒落にならない。
俺自身も、射撃の腕をもっと磨かないとな。と言う事で、射撃訓練のために、一度ゲートでベルファストに飛ぼうと思い、人目の付かない場所を探して歩いていたのだが……。
「ジャックさん」
ふと声が聞こえた。見るとユミナとリンゼ、それと護衛である子虎モードのアルファがこちらに向かって来た。
「あぁ、ユミナとリンゼ、アルファか。どうした?こんな所で」
「朝食をすませたので、2人で一緒に王宮の中を散歩しようと」
と、俺の問いかけにリンゼが答える。
「そうか」
「ところでジャックさんはどちらへ?お出かけですか?」
「あぁいや。出かける、って言うのは間違ってないが、ちょっと訓練にな」
「訓練、ですか?」
俺とユミナの会話を聞き、リンゼが首をかしげる。
「あぁ。昨日のミスミド王との戦いで俺もまだまだだと思い知らされたからな。少しでもレベルアップをしないと」
「真面目ですね、ジャックさんは」
「いや、真面目と言うか。生き残る為でもあるし、お前達を守る為でもある」
……実際、フロンティア戦争を生き抜いてきたんだ。戦場で生き残るためには、1に訓練。2に訓練。3と4が無くても訓練。それほどまでに強さと技術を、貪欲に求めなければならない。そして昨日の戦いでそれを痛感していた。
あの時、ミスミド王は自分のアクセルを過信していたと言っていたが、それは俺も同じ。俺だけが持ち、使えると言う銃火器や手榴弾、BTと言う圧倒的なアドバンテージは大きい。それがあるだけで大抵の敵には有利に立ち回れる。だが、それらを封じられてしまった時を考えなければと俺は思ったんだ。
「とにかく、俺は訓練のためにゲートで適当な森にでも行ってこようと思うが、お前達はどうする?」
「なら私も行きます。ジャックさんの訓練には興味がありますから」
「あ、わ、私も」
と言うユミナとリンゼ。
「OK。なら行くか」
と言う事で、俺は早速町中からゲートでベルファストにある森へと飛んだ。
そして、俺は2人が見ている中で、BTに頼んで訓練用のホログラムを展開して貰った。こいつは転生に際してBTが獲得した新能力の一つだ。現実と見まがうホログラムを展開し、それを相手に訓練が出来る。更に格闘訓練では、本来ならすり抜ける俺の攻撃が当ったような挙動を見せる事も出来る。当った感触は無いが、それでも格闘技の練習にはなる。
って事で俺は早速、ナイフ装備の敵兵を10人ほど生み出してもらい、俺もナイフ片手に模擬戦を始めた。これくらいなら、パイロットであった俺ならばそつなく倒せた。だが本番はここからだ。次は20人。更に次は30人、その次は40人と、人数を増やしながら格闘訓練を続けていく事30分。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァッ!」
ようやく100人組み手をどうにか凌ぎきり、倒した俺は荒い呼吸をしながら膝に手を突いた。如何に俺でも、相手が100人も居れば疲れるし、攻撃を避けるために防御に集中するしかない。そして、一瞬の刹那の隙を見つけて攻撃しなければ、俺が攻撃を受けてBTから死亡判定を貰っていただろう。
それでも何とかやり遂げたが、やはりキツい。やがて息を整えた俺は2人の元へと戻るが……。何やら2人とも呆然としていた。
「ん?2人ともどうした?」
「あ、い、いえ。その」
「ジャックさんって、普段からこんな鍛錬をしてらしたんですか?」
戸惑った様子のリンゼとユミナ。
「ん?そりゃまぁな。戦場じゃ何があるか分からないんだ。それに『もう戦えません』、『もう動けません』なんて言い訳は通じない。だから常に自分の限界を超えるために訓練や鍛錬をしてきた。今のだって、俺がよく使う銃火器や魔法を封じられた事を前提に、ナイフだけで戦う訓練だ」
「武器や魔法が使えないなんて事、あるんですか?」
「さぁな?それは俺にも分からない」
と、俺はリンゼの言葉に応える。
「分からないのに、訓練を?」
「あぁ。確かに、そんな状況が発生するかどうかは分からない。が、分からないが『絶対に無い』って事も言えない。可能性は確実にある。だからそう言う状況を想定し訓練をする。そうしておけば、万が一そう言う状況に陥っても混乱すること無く対処出来るからな」
と、俺がユミナの言葉に応えると、2人とも関心したように驚嘆の声を漏らした。
「ジャックさんは、本当に戦闘のエキスパートなんですね」
「まぁな」
俺はリンゼの言葉に頷く。
「……そうでなければ、生き残れないような環境で、何度も死にかけながら生き残ってきたからな」
そう呟きながら、俺はP2016を取り出し銃声を抑えるサプレッサーを装着する。
「……戦場の残酷さ。戦場で人の命が散る呆気なさ。……そして、人の命が消耗品のように消えていく戦争の凄惨さ。俺はそれをこれまでの人生で学んできた。だからこそ……」
俺は一度ホルスターに戻したP2016を素早く抜き、背後にあった複数の木の幹に一発ずつ銃弾をぶち込んでいく。
「パパパパパンッ!!!」
無数の木々を、左右交互に撃つ。瞬時にエイムを合わせるトレーニングだ。
「……どんな戦場でも、皆を守れるように俺は『最強』になる」
うぬぼれる訳じゃない。最強を誇りたい訳じゃない。
それでも、戦場にあって人の命は呆気なく散る。俺はそれを嫌って程見てきた。だからこそ、俺はユミナを、エルゼを、リンゼを、八重を。これまで俺が関わってきた人々を守るために。
『兵士』として、『パイロット』として、更なる高みを。最強を目指す。
どんな敵が現れても、皆を守れるように。
「そのために、俺は訓練を怠るわけにはいかない」
そう、俺が語り、P2016から空のマガジンを抜いて薬室に残弾が残ってない事を確認するとホルスターに戻し、振り返った。
すると、2人ともどこか顔を赤くしていた。
「ん?どうした?顔が赤いぞ?」
「えっ!?あ、え、えとっ!何でもないですよ!?」
そう言ってパタパタと手を振るリンゼ。
「そうか。ならまぁ良いが」
って事で俺は訓練に戻ったが、しばらくして……。
「あの、ジャックさんが使ってる銃という武器は、私達でも使えるのでしょうか?」
ユミナが俺の休憩中にそんな事を聞いてきた。
「ん?ユミナ達がか?まぁ確かに、俺からちゃんとした使い方を教われば、すぐにでも使えるようになると思うぞ?」
俺が持つ銃器は、端末からほぼ無限に取り出せる。当然、弾もだ。なので俺がいれば2人も補給の心配無く銃火器を使える。
「でしたら、私にもその扱い方を教えていただけませんか?」
「分かった。別に構わないが、リンゼはどうする?」
「え?じ、じゃあ、私も。ジャックさんと同じ武器が欲しい、です」
「OK」
と言う訳で、俺は早速2人のために『ハモンドP2016』を2丁取り出してそれの扱い方を教えた。加えて、2人のP2016には最初からサプレッサーを付けておいた。銃声に慣れていない2人のためだ。更にマガジンへの弾の込め方や、マガジンをグリップに入れる方法。マガジンを取り出す方法。扱う際の注意点。パーツの名称や、薬室に弾を入れっぱなしにしないよう普段から注意を払うこと。不用意にセーフティーを外さない事。
そう言った色々な事を教えたあと、2人の練習のために木をモデリングで加工して的にし、射撃練習をさせた。やっぱり初心者だから的に当てるより外す方が多かったが、次第に慣れていったようすだ。更に俺は一度ベルファストに行って革素材を買ってくると、2人のためにベルト式のホルスターを作った。
ホルスター右側にはP2016本体を。左側には予備のマガジンを3つ入れられるスロットを作った。何とも無骨な贈り物だが、2人は思いのほか喜んでいた。
その後、一通りの教習が終わった俺達はミスミドの王都に戻り、町中をブラついていた。時間帯はすでに夕暮れ時だ。
「さて、そろそろ王宮に戻るが、その前に少し腹が減ったな。何か食って帰るか」
俺は仮想敵相手に大立ち回りを繰り返してすっかり腹ぺこだ。
って事で、2人と一緒に『カラエ』というミスミドの郷土料理を食べて帰る事にしたのだが、これは俺の世界で言う『カレー』だった。ライスが無いから『カレーライス』ではなかったが。
ただ、まさかと思い口にしてみると、案の定辛口で辛い味付けだった。2人はカラエの辛みで涙目になってヒィヒィ言ってる始末だ。そういやこっちの世界に来てから基本ベルファストの食事しか口にしてないが、あそこじゃ辛い料理とは無縁だったからなぁ。ユミナ達も辛みのある料理を食べ慣れてないんだろう。まぁ俺は、前世でカレーなんて食べ慣れてるし、辛いのは得意ではないが、そこまで苦手って訳でも無いので2人に比べてスイスイ食べ進めていく。
「じゃ、じゃっくひゃんはからいのだいひょうふなんでひゅか?」
「あ、あぁまぁ」
涙目で呂律の怪しいリンゼの言葉に俺は苦笑しながら頷く。
と、その時。俺は誰かの視線を感じて咄嗟に警戒心を強めた。直後アルファからテレパシーが飛んできた。
『主、何者かがこちらを監視しております』
『監視。エルド村やラングレーの視線の奴らか。場所は、あそこか』
視線の主がいるのは、俺から見て右手に見える一番高い頭の上。ロングセンスで視覚を飛ばせば、確かに人影が2人、見える。
「すまない2人とも、少しお手洗いに行ってくる。すぐに戻るからアルファと待っててくれ」
「ひゃい、わ、わかりまひた」
涙目のユミナが頷く。
『アルファは2人を頼む。もし別の刺客に襲われたとしたら、刺客を殺しても構わん。最優先は2人の安全だ』
『御意』
と言う事で、俺はトイレに立つフリをして路地裏でパイロットスーツを呼び出し、すぐさまグラップリングフックで塔の最上階へと登り、すぐさまクロークを発動する。俺達を監視していた2人組は、フックの音に気づいたのかこちらに視線を向けるが、クロークで物陰に隠れている俺には気づかない様子で、再びユミナとリンゼの方に視線を戻した。
好都合だ。俺はクロークを解除に、サプレッサー装備のP2016を手に物陰から出る。
「動くな」
「「ッ!?」」
俺が声を掛ければ、2人も驚いた様子で即座に左右に別れて飛んだ。広くない塔の足場で、俺は左右を2人に挟まれる形となった。
と、その時片方が懐から何かを取り出し、地面に叩き付けようとしたが……。
『パスパスッ!』
「あぐっ!?」
P2016の銃弾が奴の右肩と左腿を撃ち抜いた。
「ッ!?」
それにもう1人が驚いた様子だ。だが、それが隙となる。
『パスパスッ!』
俺は即座に振り返り、もう1人の両腿を撃ち抜いた。
「うっ!?」
刺客と思われる2人は、それぞれ肩や腿から血を流しながらその場に座り込む。
「安心しろ。今は殺さない。だが、目的と雇い主を話せばの話だ。誰に雇われた?何の目的で俺達を尾行している?」
俺は殺気を滲ませながら問いかける。しかし、2人は呻くばかりで話そうとしない。こいつら、諜報のプロか?だったら、少し痛めつけるくらいはするべきか。
そう考えた俺は、静かに歩み寄る。まずはその顔を拝んでやろうと、肩と腿を撃ち抜いた一人目の仮面を取ろうとした。するとまるでそれを嫌がるように体を振ったので……。
『パスッ!』
「うぅっ!?」
もう片方の肩も撃ち抜いた。
「状況が良く分かってないようだな。今、お前達の命は俺の掌の上だ。変な気は起こすな?こちらとしてもお前達の目的や依頼主を聞くまで殺すのは避けたい。大人しくしていろ……っ!」
俺はそう言って、仮面を掴んで強引に引き剥がしたのだが……。
「なっ!?」
俺はそいつの素顔を見て驚愕した。なぜならそいつは、俺のよく知るメイドの、『ラピス』だったからだ。
「ラピスッ!?何故お前がっ!?」
そう考えた時、俺は振り返りもう1人の方へ視線を向けた。外套を纏っているから分かりにくいが、もう1人の背丈は、俺が知るもう1人のメイドと殆ど同じだった。
「まさかっ!」
俺はもう1人の方の仮面も剥ぎ取る。
「キャッ!」
小さな悲鳴と共に見せたその顔は、間違い無い。ラピスと同じく俺の家のメイドである『セシル』だった。
「……どういうことだ、これは?」
俺はすぐにセシルの額に銃口を突き付けた。
俺が真っ先に疑ったのは、2人が『メイドの振りをした刺客で、メイドと偽って俺達に近づいた可能性』だ。
「今すぐ理由を話せ。なぜお前達がそんな格好をしてここにいる?返答次第では……」
そう言って俺が引き金に指を掛けると……。
「どうかお待ち下さい旦那様っ!全てをお話ししますからっ!」
そう言って声を荒らげるラピス。
その後、俺は2人の傷を魔法で治した後、2人から事情を聞いた。
2人はベルファスト国王直属の諜報機関、『エスピオン』のメンバーである事。2人はベルファスト王からの指示で俺やユミナ達には内密に『ユミナの警護』を担当していた事を話した。
更に分かった事は、ライムも2人の素性を最初から知っていた事だ。とは言え、2人はメイドギルドに登録しているのは本当らしい。護衛や潜入に必要なスキルらしいが……。
「ハァ、全くとんでもない事をしてくれたもんだ。危うくお前達を刺客かと思って撃ち殺す所だったぞ。警護を付けると言うのなら、こちらに一言言っておいて欲しい物だ。今回のようにならないためにな」
「申し訳ありませんでした、旦那様」
「ごめんなさいですぅ」
そう言って頭を下げるラピスとセシル。
「ハァ」
それに俺がため息をついていると……。
「あのぉ、それで私達は、クビになるんでしょうかぁ?」
「あ?何だって?」
「いえぇ、旦那様に隠れてこういうことをしていたので、もしかしてぇと思いましてぇ」
「そう言う事か。……まぁ、その辺は心配するな。ユミナも一国の王女だ。確かに護衛が必要なのは分かる。それに大方、秘密にしたのもユミナに警護の事を気づかれたくないから、だろ?」
「はい。その通りです」
俺の言葉にラピスが頷く。
「だったら、今まで通りで良い。と言うか、こっちこそ悪かったな。知らなかったとは言え女の体に銃弾をぶち込んでしまった」
「いいえ。これも旦那様への報告を怠った我々の責任。どうか、お気になさらず」
「そうか。そう言って貰えるとこっちも助かる。……ともかく、これからも表では普段通りに接してくれれば構わない。それじゃあ、俺は2人のところに戻るからな」
そう言って俺は2人と別れた。
しかし、危なく家のメイドを撃ち殺す所だったとは。帰ったらライムに文句の一つでも言ってやるか、などと考えながら俺はユミナとリンゼのところへと戻った。
それから数日後。俺達が運び込んだ、アーティファクト(に見せかけた俺がエンチャントでゲートを付与した大きな鏡)を使ってミスミドの王都でミスミド王・ベルファスト王による会談が行われた。会談は無事終了し、アーティファクトモドキは今後の連絡用に残される事になった。また、それとは別に手鏡サイズで同じ物を作り、これを通して手紙のやり取りを出来るようにしておいた。
こうして、無事に俺達の仕事は終了した。あとはゲートでベルファストに戻るだけだったが、俺はリオンに頼まれてゲートミラー、さっき俺が両国の手紙のやり取り用に作ったのと同じのを作り渡した。どうやらオリガと文通するためだろう。
その後、ゲートで先にセシルとラピスをベルファストの屋敷に連れて行き、俺達も城下町でお土産などを購入してからゲートで屋敷へと戻った。皆にお土産を渡すと、俺は一度部屋に戻り、下着とタオル、着替えを手に風呂場に向かった。
長旅で疲れた、って訳でも無いが久しぶりに風呂に入りたい気分だった。ユミナ達は馬車で移動する間も頻繁に俺のゲートで屋敷の風呂に来ていたが、俺はそういうわけにもいかず、彼女達と違って数日ぶりの風呂だ。ハァ、沁みるなぁ。
それからしばらく、久しぶりの風呂を堪能した俺は肩にタオルを掛けて脱衣所に戻ったのだが……。タオルで体を拭き、いざ下着を着ようと言う所で。
『ガラッ』
「ん?」
戸が開く音がしてそちらに目を向けると、そこにはユミナ達4人の姿が。
「「「「えっ?」」」」
彼女達は一瞬で固まってしまう。あ~。こいつらも風呂入りに来たのか。
「あ~悪い。すぐに出て行くからちょっと待ってくれ」
そう言って俺は彼女達の方に体の正面を向けてしまったのだが、それが不味かった。
「「「「ッ!?きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」」」
直後に響く女性陣の悲鳴。彼女達は慌てた様子で顔を真っ赤にして、バタバタと音をさせながら去って行った。
「あ~~」
そして数秒してから、俺はやらかしたとため息をつくのだった。
それから数日。彼女達は俺の顔を見る度に顔を真っ赤にしていたのだった。
ミスミドの一件の後、俺達はある依頼を受けていた。それは魔物の調査だった。詳しい内容は分からず、とりあえず依頼主である村にやってきて話を聞いた。この近くに1000年以上前に立てられた城塞があると言う。いつからかそこに魔法使いが住み着くようになり、その魔法使いは魔物、スライムの研究を専門にしていたと言う。元々、村人はこの魔法使いを気味悪がっていた。それでも村を度々訪れる魔法使いと売買をしていたのだが、10年前からぱったり姿を見せなくなったと言う。それで少し前に冒険者を雇って『スライム城』と命名していた城塞を調査して貰ったのだが、戻ってきた冒険者は村人達に失敗したとだけ言って、逃げるように帰って行ったと言う。
それでますます怯えた村人達。と、そこに同じ依頼を受けた俺達が来た、と言う訳だ。
俺は別にこの調査に何の戸惑いも無かったが……。
「分かった。とりあず調査をしておこう」
と、俺が依頼を受ける返事をすると……。
「「「「え~~~?」」」」
後ろにいた4人が嫌そうな顔をしていた。
その後、馬車でスライム城へ向かう道中。
「ねぇジャック。今からでも辞めない?だってスライムよ?特にグリーンスライムと遭遇したりしたら……」
そう言って体を震わせるエルゼ。
スライムは様々な種類が居り、危険性も様々だ。だが、中でも嫌悪されているのがグリーンスライムだ。こいつは植物繊維を好んで食べる事から、今彼女達が来ている服なんかはモロ奴らの主食だ。なので、女性がグリーンスライムなどに襲われると鎧や装備を残して丸裸にされてしまうと言う訳だ。
「だから言ってるだろ?内部の調査は俺だけでも出来るし、お前達は外で待ってても良いんだぞ?って」
そうエルゼに返しながら、俺は武器、Lスターの整備をしている。スライムは物理攻撃に高い耐性を持つそうだが、こいつは物理攻撃ではなく高温の光弾を発射する。液体のスライムには十分有効だろうと判断した。まぁ、これがダメなら電気スモークグレネードなどもある。
「しかし、お前等はホントスライムがダメだよな?」
「生理的に受け付けなくて。特に服を溶かしてくるグリーンスライムは……」
と言うユミナの言葉に他の3人がうんうんと頷いている。
「そう言うもんかな。まぁ、とにかくホントに無理そうなら外で待っててくれ。調査くらいなら、俺1人でも出来る。BTも居るしな」
と、そうこうしている内に俺達は目的のスライム城へとたどり着いた。全員で馬車を降り、正門の前に立つ。
「BT、城塞内部をスキャン出来るか?」
「了解。……内部をスキャン中。……完了しました」
「そうか。生体反応、特に人間のはあるか?」
「城塞内部に、スライムの物と思われる魔物の生体反応を検知。しかし、人間の生体反応はありません」
「そうか。……既にここを去った後か、それとも中で死んでいるのか。……どっちにしろスライムは主を失って放置されたまま、と言う訳か」
本音を言えば、中に人が居ないのならBTのスコーチ装備で焼き払っても良かったが、いい加減な仕事は出来ない。せめて遺体があるかどうか位は確認しておくか。
「俺はこのまま中に入るが、お前達はどうする?」
と、俺が問いかけると……
「わ、分かったわよ。あたし達も行くわよ。外に居てもジャックが傍に居ないと怖いし」
エルゼの言葉に他の3人が震えながら頷く。
「分かった。なら、出来るだけ俺から離れるなよ?行くぞ」
そう言って、俺達は城の中に踏み込んだ。
俺は扉を開け、Lスターを構えながらクリアリングをする。前方に左右、上を確認する。と、直後頭上から何か降ってきた。俺は咄嗟に転がって避け、落ちてきた物体にエイムを合わせる。
だが、それは『金だらい』だった。何でこんな物が?と思った直後、金だらいが何と、『変形』したのだ。そして鉛色のスライムになる。なんでたらいになってたんだ?とは思うがちょうど良い。
『バババババッ!』
俺はスライムにLスターの光弾を撃ち込んだ。すると、スライムは即座に沸騰したのか音を立てて爆散してしまった。
「ジャック、大丈夫?」
「あぁ。問題無い」
突然の事に驚くエルゼが俺に声を掛けてくれたので、手短に返した。
「L-スターがスライムに有効な事は分かった。だが、あの鉛色のスライムは何だ?俺が事前に閲覧したBTのデータベースには無かったぞ」
「新種、でしょうか?」
「との事だが、BT。お前はどう思う?」
「はい。恐らくリンゼの言葉通りかと。私のデータベースにあの種類のスライムは記載がありません。推測ですが、ここで生活していたスライム研究家によって生み出された新種かと思われます」
「成程ね。しかし、その研究家は何の目的で新種の開発なんか?」
「それについては不明ですが、研究資料などがどこかに残されている可能性があります。それを探索してみては如何でしょうか?」
「そうだな。なら、まずは1階を捜索するか」
と言う事でまずは一階を探索するが、大半の部屋は朽ちて崩れていた。
「殆どボロボロだな」
「1000年も前の城塞でござるからな。無理も無いでござる」
俺の呟きに八重が反応する。
「あっ!ジャックさんっ!こっちに書斎がありますっ!」
その時、リンゼの声が聞こえ俺達はその書斎に集まったのだが……。
「ここも酷いもんだ」
書斎にあったのは、汚れたテーブル。そして革の背表紙だけになった本の残骸が収められた本棚だけだった。
どうやら、本のページはすべてグリーンスライムの餌になったのだろう。
「あっ、ここに食べられてないのがありますよ」
そう言ってリンゼが何か見つけた。どうやらそれは、羊皮紙で出来ているらしくスライムに食われた無かったのだろう。
「こいつは、研究ノートか」
中身はスライムに対する記述ばかりだった。さっきの鉛色のスライムに関しても記述があったが、失敗作となる。
「あれで失敗作、と言う事は研究家は何かゴールを目指してスライムの品種改良をしていたと言う事か」
「多分ですけど、そうだと思います」
「……よし、次は二階だ。行くぞ。リンゼはそのノートを持っててくれ」
と言う事で俺達は一度ホールに戻ったのだが……。
「ッ!出たぞっ!」
俺が咄嗟にLスターを構える。見ると奥から緑色のスライムが現れた。あれがグリーンスライムかっ!
「『炎よ爆ぜろ、紅蓮の爆発、エクス……」
「待てリンゼ」
爆発系の魔法を使おうとしたリンゼを俺が制する。
「この城塞は既にボロボロで損傷も酷い。広範囲を攻撃する魔法を不用意に使えば俺達が生き埋めになるだけだぞ」
「うっ」
俺の言葉にリンゼは魔法の使用を躊躇う。
「で、でもグリーンスライムがっ!」
「分かってる。お前達はそこの階段を上がって先に上へ行けっ!」
俺はそう叫び、Lスターを撃ちまくる。グリーンスライムが光弾を受けて次々と破裂していくが、数が多い。仕方無く俺は電気スモークグレネードを投げ込む。
すると、高圧電流のスモークが溢れ出し、スライム達は悶え苦しみながら次々と蒸発していく。しかし奥から次々と後続が来る。
そして俺も階段を上ろうとした時。
「うわっ!」
エルゼの悲鳴が聞こえてきた。見ると、階段中央の踊り場で彼女が尻餅を付いた様子だ。だが、問題は階段を上りきった先にもスライムが居て、そいつらが震えながら謎の液体、ローションのようにヌルヌルする液体を垂れ流していた。
「何だあいつはっ!?リンゼ、分かるかっ!」
俺はL-スターでグリーンスライムを倒しながら叫ぶ。
「は、はいっ!どうやらローションスライムというみたい、です。あの液体は人体に害は無い、失敗作と」
「ったくっ!研究家ってのは何がしたかったんだっ!」
俺は悪態を付きながらもう一度電気スモークグレネードを投げ込んだ。と、その時。
「「「「きゃぁっ!」」」」
再び悲鳴が聞こえた。見ると階段上から4人が纏まって転げ落ちてくる。
どうやら立ち上がろうとしたエルゼが誰かの服を掴んで巻き込んだみたいだ。
「くっ!!」
俺は咄嗟にLスターを投げ捨て、大きく両手を広げる。そして……。
『ドッ!!!』
「くぉっ!!」
何とか4人を受け止めた。だが、少女とは言え人間を4人。それをまとめて受け止めた衝撃はかなりの物だ。
「お、お前等。大丈夫か?」
「え、えぇ。大丈夫よ?」
「は、はい。何とか」
「無事でござる」
「あ、ありがとうございます、ジャックさん」
俺が問いかけると、エルゼ、リンゼ、八重、ユミナの順に答えた。アルファは何とか白帝モードになって踊り場で踏ん張っていた。
『ッ!主っ!お気を付けをっ!』
そこに響くアルファの警告。見ると、電気スモークの壁が無くなった事で三度新しいグリーンスライムが俺達の方に寄ってくる。
「ちっ!皆今すぐ俺にしがみつけっ!」
「えっ?」
「早くっ!」
俺は戸惑うリンゼ達に急いで掴まるように言う。するとユミナが首元に。エルゼが胸周り。リンゼが右腕。八重が腰元にそれぞれしがみつく。
そしてそれを確認した俺は左腕からグラップリングフックを、二階に向けて発射し、すんでの所でグリーンスライムから逃れ2階の廊下へと飛んだ。
「ふぅ、お前等、大丈夫か?」
「な、何とか」
俺が着地すると、4人とも俺から離れた。心なしか、4人とも顔が赤い気がするが今はそうもいってられない。俺はすぐに階段上に陣取っていたローションスライム達を電気スモークグレネードで倒した。スモークが晴れるとアルファが階段を上がってきて合流する。と、その時。
「あっ、ジャック殿あれを」
そう言って八重が階段の下を指さす。そちらに目を向けると……。グリーンスライムが階段の前で立ち往生していた。
「まさか、彼奴らは2階に上がれないのか?」
「恐らくは」
俺の言葉にリンゼが頷く。
「けどなら良いじゃ無い。ほら、さっさと行きましょ?」
「あぁ。そうだな」
そう言って歩き出すエルゼに続いて、俺達も歩き出す。
「しかし、さっきのローションスライムや鉛色の、なんだっけか?カナダライスライム、だったか?一体ここにいた研究家は何をしたかったんだ?」
「それについては、このノートには書いてないですね。ただ、新種のスライムは生まれてみないと分からないそうです」
「成程。つまりお目当てのスライムを作りたいがために、試行錯誤を繰り返したなれの果てがさっきの奴らという事か」
そしてしばらく歩いていると……。
「警告、前方にスライムの反応あり」
俺の端末から聞こえたBTの声に俺は咄嗟にLスターを構え、他の4人も身構える。しかし、前方にスライムの姿は無い。
「BT、前方にスライムなんて無いぞ?反応はどこからだ?」
「前方、通路の両脇に並ぶ石像の胸部からです」
「石像の、胸部?あれの胸がスライムだって言うのか?」
「はい。現に胸部からスライムと思われる反応があります」
BTがそこまで言うなら、と言う事で俺は石像目がけて電気スモークグレネードを投げ込んだ。すると煙の中で奴らの胸がボロボロと崩れ落ちていくのが分かった。
煙が晴れると、先ほどまでと比べて石像の胸の大きさが明らかに変化していた。
「どうやらBTの言うとおり、石像の胸に擬態していたみたいだが、本当に何なんだこの城のスライムは。戦闘に特化している訳でもなし。ローションに胸への擬態。研究家の目的が全く見えてこないぞ」
と、俺が1人愚痴っていると……。
「ともかく、今は進みましょうジャックさん。この先で何か分かるかもしれません」
「あぁ。そうだな」
俺はユミナの言葉に頷き、先へと進んだ。
そしてたどり着いたのは、城塞の主が使っていたと思われる部屋にたどり着いた。そしてそこで、俺達は白骨死体を発見した。
「これは、もしや例のスライム研究家でござろうか?」
「恐らくな。白骨死体になってるって事は、死後数年は経過しているだろう。となると、村では10年前からぱったり姿を見せなかったと言うし、その頃に死んだのだろう」
そう言って俺は周囲を見回す。
「周辺に争った形跡も無し。血痕の無し。10年前当時の見た目はそこまで高齢では無かったと聞くし。となると、恐らく研究にのめり込むあまり、無理がたたって命を落とした、とそんな所だろう。ん?」
その時、俺は近くにあったノートを見つけた。こちらも羊皮紙で出来ているおかげかスライムに食われていない。
「ん?『完成だ。ついに私の、いや男の夢が叶った。もう思い残す事は無い。あぁ、天国が見える』。……遺書、って所か?」
俺はページに書かれていた文章を読み上げる。
「どういうことでしょうね?夢が叶った、と言うのは」
「恐らく、こいつの目指していたスライムが誕生した、と考えるべきだろうが、男の夢?どう言う意味だ?」
と、リンゼの言葉に俺が首をかしげていると……。
「あっ!ジャックあれっ!」
エルゼが部屋の奥を指さした。そこには肌色のスライムが合計4匹。
俺は咄嗟にLスターを構える。
「見るでござるっ!何かに変わるでござるよっ!」
八重が叫んだ直後。そのスライムが変化したのは……。
ユミナ達4人だった。髪の色や瞳の色。体系までを全て完全にコピーしている。ただし、服は来ていない全裸で、だが。そして……。
「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」
女子4人の悲鳴が響き渡る。
「ハァ、ったく」
俺はため息をついた直後に、その4匹をLスターでなぎ払った。光弾を受けて爆散する4匹の擬態スライム。
「ほら、終わったぞ」
そう言って4人に声を掛ける。
「え、えっと、ジャック?あなた、何気に躊躇いなく撃ってなかった?」
すると、自分と同じ姿をした存在に俺が一切躊躇せずに引き金を引いたことを戸惑ってるのか、4人とも表情が引きつっている。そしてエルゼの言葉に他の3人が頷く。
「まぁ、それは確かにそうだが。……彼奴らは所詮、お前達のコピーであって本物じゃない。本物じゃないからと分かっているから引き金を引いた。それだけさ。今俺の目の前に居る、エルゼ、リンゼ、八重、ユミナ。お前達だけが本物だ。俺にとってはそれ以外、全部偽物だ。どれだけ精巧にコピーしようと、どれだけお前達と同じ言葉と想いを持っていようと、全部偽物だ。違うか?」
と言うと、4人とも何やら頬を赤くしている。
「それに、これ以上俺がお前等の裸見てる訳には行かないだろ?」
と言うと、4人は更に別の意味で顔を真っ赤にしたのだった。
その後、城塞はBTのスコーチ装備のテルミットランチャーやフレイムコア、リンゼの炎系魔法で焼き尽くした。
俺達は炎に包まれる城塞を見つめている。
そして俺は4人の隣である事を思っていた。
正直、4人には聞かせられないが、最近たまってきたのである。これ以上は下ネタになりそうだから言わないが、こっちの世界に来てからと言う物、彼女達の手前『そう言う店』には行けないし今の俺はユミナと婚約関係にあるから尚更自重しないと、と考えていたが、ちょっと我慢の限界が近いなぁ。
なんて、俺はかなりしょうも無い事を考えながら、炎に包まれる城を見つめていたのだった。
第10話 END
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