来客として俺たちの家を訪れたリーン。彼女から聞かされたのは、ミスミドにも俺たちがかつて旧王都で戦った怪物と同類らしきものが現れた事だった。とりあえず俺たちはそれをフレイズと呼ぶことに。そしてリーンの遺跡調査に協力するため、俺たちは八重の故郷であるイーシェンへとやってきた。しかしそこでは、今まさに戦いが繰り広げられていた。
俺たちが負傷者の手当てをしていると、重太郎が俺を呼びに来た。彼に案内され、砦の建物の最上階へと上がる俺たち。そこに待っていたのは2人の男だった。1人は八重の父親、『九重 重兵衛』。もう1人が、この地方を収める『徳川家泰』だそうだ。
「この度の助力、心より御礼申し上げる」
そう言って家泰が頭を下げる。
「気にしないでくれ。遺跡調査もあってたまたま訪れていたが、おかげで八重の家族を助ける事も出来た。こちらとしても、運が良かったと考えているほどだ。だから頭を上げてくれ」
「そう言ってもらえると助かる」
「しかし、まさか八重がベルファスト王国の王女と共に戻ってくるとは。話を聞いた時は驚いたぞ」
そう言って重兵衛は八重に目を向ける。彼らにはユミナが王女である事を話してあるからだ。
「それで、出来れば聞きたいんだが、ニルヤの遺跡と言う単語に心当たりはあるか?その名前の遺跡を探しているんだが……」
「うぅむ。……それはおそらく、『ニライカナイの遺産』があると言われている遺跡だろう。確か、場所は島津の領内。……ただ、確か遺跡は海底に沈んでいるはず」
俺の言葉に重兵衛が答えてくれたが、海底だって?
「そうか。とにかく、場所が分かっただけでも助かった。ありがとう。……それで、話を変えるが、武田はまた攻めてくる可能性はあるか?」
「……無いとは言い切れぬな」
俺の言葉に家泰は腕を傾げ唸るとそう語った。
「おそらく次は、今回よりも兵を増やし、大砲を持ち出してくるであろう」
「しかし、死体を操り人形にしてまで侵略してくるとは。武田の領主ってのは極悪人なのか?」
「いや。それについてはまずありえない。武田の領主、真玄殿はそのような非道な戦いを好む男ではない。……やはり、あの噂は本当なのだろうか」
「ん?なんだ?噂って」
唸る家泰の言葉が気になり、問いかけてみる。
「実は、真玄殿はすでに亡くなっていて、その死体を闇の軍師、山本完助が操る事で武田軍を意のままに操っているという噂があるのです」
と、重兵衛が答えてくれたが……。
「成程ね。となると、戦うしかないか」
「む?まさか、ジャック殿も我らの側に立って戦ってくれるのか?」
「あぁ」
俺は家泰の言葉に頷く。
「偶然とは言え、争いに介入したんだ。それに、逃げた武田の兵士の中には俺やBTを見た奴もいるだろう。だとしたら武田に目を付けられた可能性もあるし、乗りかかった船だ。……それになにより、これ以上目の前で戦火が広がるのを黙って見過ごすほど、魂を腐らせた覚えはないからな」
「感謝する、ジャック殿」
そう言って家泰は俺に頭を下げた。
「でも、どうするの?まさかBTで正面突破、とか?」
エルゼの言葉が聞こえるが……。
「やめた方が良いだろう。奴は生き残りの兵士から、俺とBTの戦闘力が普通ではない事を理解したはずだ。軍師なら、相手を侮る事が命取りになる事くらい、知ってるはずだ。となれば、無暗に俺とBTが正面から突っ込んでもそれを危険視した奴は逃げに回るだろう。勝てない勝負をするほど、奴もバカじゃないだろう」
「なら、潜入?」
「あぁ」
俺はリーンの言葉に頷く。
「あくまでも目標が完助の討伐なら、潜入と暗殺の方がよっぽど……」
と、言いかけた時、俺は気配を感じた。頭上、天井裏に、『居る』
「ジャック殿?」
言葉を途切れさせた俺を心配してか首をかしげる八重。だが、次の瞬間。
『バッ!』
俺は勢いよく立ち上がると、振り返り頭上に向けてB3ウィングマンを抜き……。
『ドゥンッ!』
それを発砲した。突然の事に周囲の連中が驚き、重兵衛に至っては傍に合った刀を抜き俺に向けている。階段下に居た警備の兵士たちもなんだなんだと上がってくる。
しかし俺はそれを気にせず、天井を睨みつける。
「……降りてこい。居るんだろ?」
「え?」
俺の言葉にリンゼが戸惑い上を見上げる。
「言っておくが今のは警告だ。こっちが5つ数える前に降りてこい。でなければ、撃ち殺す。……1、2」
と、俺が数え始めると……。
「分かりました。今から降ります」
天井裏から聞こえた声に俺以外が驚き息をのむ。そして天井裏の暗がりから人影が現れ、俺の傍に降りて来た。
それは、ジャパニーズニンジャって感じの服装の、黒髪の女だった。そいつが俺の傍に立つ。が、俺はまだウィングマンを構えたまま、警戒心を緩めない。
「今すぐ、その場で跪いて、両手を頭の後ろへ回せ」
「何?」
女は怪訝そうな表情を浮かべる、が……。
「早くしろ」
俺の殺気混じりの言葉に、一瞬息をのんだ後。大人しくそれに従った。すると俺は、女に近づき、その首根っこを掴んで床の上に押し倒した。
「あぐっ!?」
そのまま全体重を掛けて女を拘束し、高等部にウィングマンの銃口を突き付ける。
「変な気を起こすな?俺がその気になれば、お前の頭を一撃で吹き飛ばす」
殺気と威圧感を込めて警告を飛ばす。
「じゃ、ジャック殿。些かやりすぎでは……」
と、そこに後ろから八重の声が聞こえるが……。
「こいつはこの砦に、誰にも気づかれる事無く潜入してる。考えられる可能性は二つ。砦の警備がそれだけザルなのか。或いはこいつが潜入と暗殺のプロか。どっちかだろう。そして、こいつの場合後者だ。となれば、ここに侵入し潜伏出来ている時点でこいつは潜入と暗殺のプロだ。……悪いが、俺は敵兵を前に油断出来るほど、自信過剰じゃないんでね」
戦闘での油断が死を招く。だからこそ、戦場で油断なんて出来るか。
「さて、何の目的があってここまで来た?暗殺か、情報収集か。答えろ」
「わ、私は、高坂様から徳川家泰様宛の密書を預かってきただけです」
「高坂ってのは?」
「おそらく、四天王の1人である高坂政信殿であろう」
俺の問いに重兵衛が答える。
「……で、それを信じろ、と?だったら密書はどこにある?」
「それは、胸のところに」
「そうか」
と、俺は場所を聞くと女の胸の中に片手を突っ込んだ。
「きゃぁっ!?な、何を!?」
「黙ってろ、その密書を探してるだけだ」
悲鳴を上げ、顔を赤くする女を無視して服の下をまさぐる。
「あっ、い、いやっ!やめっ!あぁん!」
「……これか」
俺は服の下にあった密書を取り出した。
「BT、書類の表面に毒物などの反応は?」
「分析中。……ネガティヴ。毒物などの反応はありません。危険性は皆無です」
「了解した」
どうやら大丈夫そうだ。
「悪いが確認を頼む」
そう言って密書を重兵衛の方に差し出す。それを重兵衛が受け取り、家泰に渡す。
家泰がそれを開いて読んでいる間に、俺は女から離れるが、銃口は外さない。
「……ジャックさん?」
「ん?」
ユミナの声が聞こえ、そちらをチラ見するとリーン以外の4人が俺をジト目で睨んでいた。
「いきなり女性の胸元に手を入れるのはどうかと思いますけど?」
「しょうがないだろ?こいつが変な事をしないためだ」
俺にやましい気持ちは無いし、敵かもしれない女を警戒するのは当たり前だ。しかし、4人は納得しておらずリーンは密かに笑っている。
「うぅ、もう、お嫁にいけない」
そんなことを言っている女を警戒しつつ、俺は家泰が密書を読み終わるのを待った。しばらくして、家泰が息をつく。
「どうだった?内容は?」
「どうやら、噂は本当のようだ」
「噂?って言うと、領主が死んでるってあれか?」
「うむ。そして、四天王は高坂殿以外全員が捕らえられ地下牢に入れられていると言う。密書には、完助を倒し武田を救ってくれ、とある」
「成程ね。……だが、信じられるのか?その密書」
「と言うと?」
「俺にはその密書の内容が罠と言う可能性が捨てきれない。敵を引き込んでの包囲殲滅戦。戦争じゃよくある話だ。その可能性は無いのか?」
「それはありません。高坂様は完助に従うフリをしているだけ。ですからこうして徳川様への密書を、私が」
「……」
女の言葉に俺は黙り込む。正直、こいつは武田の人間だ。信用できない。いや、信用に値する証拠が無い。
すると……。
「ジャックさんは、この方を疑ってらっしゃるのですか?」
ユミナが俺に問いかけて来た。
「……まぁ、な。敵軍の人間の言葉だ。そう簡単に信じられるか」
俺の言葉に、女は唇を噛み締める。だが……。
ユミナは立ち上がり、女の傍に歩み寄る。
「まずは、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「はい。私は、武田四天王が1人、高坂政信様の配下、『椿』と申します」
「椿さん、ですね?では、あなたはこの密書が真実だと断言できますか?」
「それはもちろん」
しばし、ユミナは椿を見つめている。そして俺は気づいた。ユミナは看破の魔眼を持っている。おそらくそれで見抜いているのだろう。
やがて彼女は俺の方に振り返る。
「どうやら、嘘は言っていないようです。……信じてあげてもよろしいのではないでしょうか?」
「……分かった。ここはユミナの言葉を信じよう」
そう言って俺は銃口を下げる。
「しかし、完助を止め武田を救うとは言うが、一体どうすれば……」
と腕を組み唸る家泰。
「だったら、俺に任せてくれ。潜入作戦の経験は俺にもある。いざとなれば相棒のBTも居る。椿、だったな?完助がどこにいるか分かるか?」
「はい。完助は武田の本陣であるツツギガサキの館にこもっております」
「そうか。BT。イーシェンの地図を出してくれ。それとその館の位置もだ」
「了解。地図データを表示します」
端末から空中に地図データが表示され、更に現在地と目的の館の場所。そこまでの距離と移動に掛かる時間が示される。……BTに乗れば今日の夜には余裕で館の傍まで行けるな。闇夜に紛れて潜入し、完助を倒すか。
「よし。目的地までの時間も考えて、しばらくしたら俺は砦を出て館に向かう。目的は完助の暗殺。出来るだけ相手を警戒させないために、見つからないよう俺と相棒の2人で行く」
「大丈夫でござるか?館は敵の本陣でござるよ?」
「安心しろ。潜入と破壊工作、暗殺はパイロットの得意分野だ。それに、潜入に不慣れたお前たちを連れて行っても危険度が増すだけだ。人数が多ければ見つかる可能性もあるしお前たちはここで待っててくれ」
破壊工作や暗殺が得意、と聞いて重兵衛と家泰は少々嫌な顔をしたが、俺に頼らざるを得ない状況だからか、何も言わない。
「失礼ながら、潜入されるのであれば武田四天王の皆さまをお救い頂きたく思います。お三方の救出が出来れば、心強い味方となるでしょう」
「救出ね。だが俺が高坂とやらの密書を受けた結果助けに来たと言っても、そいつらは信じるのか?」
「であれば、その証拠として私も同行しましょう。高坂様配下の私がお傍におれば、十分な証拠になるかと。それに私も潜入に長けた忍。遅れは取りません」
「……分かった。だったらその3人を救出した後、完助を倒す。これで良いか?」
「はい。……ご助力、感謝します」
こうして、俺たちの任務は決定した。
その後、ユミナ達に砦の事を任せ、一応重兵衛や重太郎の生存を八重の家族に知らせたり、砦の物資をゲートと無属性魔法で、異次元に物をしまう『ストレージ』を生かして搬送したりした後、俺はBTに任務を話した。
「プロトコル2、任務更新。最終目的を敵軍重要人物、山本完助の殺害に設定。更新完了」
「よし」
俺はBTの声を聴くと後ろに居るユミナ達に振り返った。
「それじゃあ行ってくる。何かあったらアルファ経由で連絡をくれ」
「分かりました」
俺の言葉に、子虎モードのアルファを抱いたユミナが答える。
さて、と。
「行くぞBT」
「了解」
BTがハッチを開き、右手を胸の前に添える。俺は駆け出し、ジャンプキットで跳躍。更に右手を足場にしてその場で回転しながら後ろに飛び、コクピットに収まった。
と、その時気づいたが、BTに乗った俺と椿じゃ移動速度に差があるな。かといって彼女を掴んで移動するわけにもいかないし、背中にずっと掴まらせておくのも危険だ。
仕方ない、ここは……。
「椿、お前も乗れ」
「え?わ、私もですか?」
「あぁ。俺と相棒だけで先に目的地についても意味が無い。ほら、早くしろ」
「は、はい」
椿は少し戸惑いながらもBTの右手を足場にコクピットへと乗り込んできた。
「あ、あの。それで私はどうすれば?」
「俺の膝の上にでも座ってくれ。立ったままは辛いだろ?」
「えっ!?ひ、膝の上、ですか!?」
俺の言葉に椿は顔を赤くするが……。
「早くしろ。館に行くんだろ?」
「う、うぅ。し、失礼します」
椿は顔を赤くしながらも俺の膝の上に座った。俺はハッチを閉じてBTを立ち上がらせる。正面のモニター映像をヘルメットのHUDに同期させる。こうすれば俺の前に椿が座ってても問題ない。
「それじゃあ、行ってくる」
「えぇ。行ってらっしゃい」
俺の言葉にユミナが答え笑みを浮かべているが、何やら背後にどす黒いオーラが見える。他の3人もだ。……やっちまったか?とか考えながら、俺はBTを歩かせ、そして走らせた。
それから数時間後。BTのパワーでやすやすと森や峠と言った過酷な道を超えて俺たちはツツジガサキの館の傍へとたどり着いた。
「あれがそうか」
俺は館を見下ろせる林から椿と共に館を見ていた。BTは目立つので、少し後方で待機中だ。
「BT、館全体をサテライトスキャンで確認してくれ。伏兵や罠、怪しい所があったら報告を」
「了解。サテライトスキャンを実行します。少々お待ちを」
俺はBTがスキャンをしている間に周囲を警戒していた。
「お待たせしました。スキャンが完了しました」
「そうか。内部の様子は?」
「これと言ったトラップや伏兵の反応はありません。また、警備体制にも怪しい点はありませんが、二点報告が」
「何だ?」
「屋敷全体を覆う不可視の結界を確認しました」
「結界だと?」
「おそらく、ゲートなどを使用しての外部からの奇襲を想定していると思われます。このためゲートで内部に侵入する事は不可能かと」
「そうか。結界の中から外に出る事は?」
「可能かと思われますが、あくまでも外へ出るだけの一方通行になるかと」
「いや。それなら最悪、中から外へ脱出に使えるから問題ない。もう一つの報告は?」
「はい。敷地の西側にある建物内部に生体反応を3つ検出しました。おそらく投獄されている四天王の3名かと」
「分かった。周辺警備の人員はどうだ?」
「一部には鬼面兵がおりますが、大半は生身の歩兵です」
そうか。生身なら、仮に殺しても完助に伝わる可能性は低い。逆に鬼面兵の場合は、完助があれを遠隔で操作している場合、仮面を破壊した事が奴に伝わる可能性がある。となれば侵入に気づかれるだろう。今はそれを避けたい。
「椿、お前は俺と別ルートで地下牢があるあの建物を目指せ。俺も俺で別ルートから行く」
「分かりました。お気をつけて」
「あぁ。建物の傍で落ち合うぞ」
そうして俺たちは行動を開始した。椿は武田の人間なので難なく正面から敷地内に入れたが、俺はそうは行かない。幸いBTのサテライトスキャンで敵兵がどこにいるかはHUDのレーダーに映っているから問題ない。
グラップリングフックで堀を超え、パルスブレードで敵兵の位置をよく確認し、危うい所はフェーズシフトで異空間に潜りながら駆け抜ける。だが、どうしてもそこを通らなければならず、敵兵が居る時は……。
『ボキッ!』
背後から近づき、一撃で首をへし折る『ネックブレーカー』で仕留め、見つからないように死体を隠した。
そして、同じように地下牢へと続く建物の外に居た番兵も、うまく小石で物音を立てておびき出した所を、一撃。クロークで姿を隠し正面から顔面にナイフを突き立て殺害。そして俺は椿を連れて地下牢のある場所まで入り込んだ。
そして、俺たちは地下牢で『馬場』、『内藤』、『山県』の3人を救出した。
「それにしても、椿の案内があるとは言えよくここまでこれたものだな、小僧」
「潜入作戦はある程度経験がある。それだけだ。それより、あんた達はどうする?こっから外に逃がす事は出来るが?」
馬場の言葉に俺はそう問い返す。
「おいおい、お前だけに美味しい所は持ってかせるかよ。俺たちだって完助の野郎には借りがあるんだ。俺たちも行くぜ?」
俺の言葉に山県がそう答える。まぁ、付いてくると言うのなら勝手にさせるだけだ。
「アンタたちは完助について何か知らないか。なんでもいい。情報が欲しい」
「ならば、私が知っている事を話しましょう」
そう言って内藤が言ったのは、完助の来歴だった。奴は元々優秀な軍師だったらしいが、ある時、内藤曰く『悪魔の力を持った宝玉』を見つけた事で可笑しくなり、やがて鬼面を作って死者を操るようになったという。3人は完助を止めようとしたが、こうして牢屋にぶち込まれた訳か。
「その宝玉ってのはアーティファクトだとして、そいつは今どこにある?」
「分かりませんね。私達はしばらく牢屋に居ましたから。まぁ肌身離さず持ち歩いているでしょうが……」
「そうか。BT、完助のいる場所は分かるか?」
「はい。推測ですが、サテライトスキャンの結果、屋敷の内部に未確認のエネルギー特性を持つ生体反応をキャッチしました。おそらくこれが目標かと。地図データを表示します」
端末から空中に映像が投影され、完助らしき反応があった場所が表示される。
「お、おい小僧?これは一体。それに今の声は……」
未知の技術に馬場を始め他の2人も驚いているようだ。
「心配するな。この声は俺の相棒のだ。それに細かい説明をしてる暇はない。行くぞ。完助を倒して、武田を救うんだろ?」
そう言って俺は馬場たちを促した。馬場達には、俺がストレージから取り出した材料で武器を与えている。それに、ここからの段取りも決めている。
「BT、今から1分後、正面から陽動を仕掛けろ。敵兵は殺して構わない。派手に暴れて可能な限り注意を引け」
「了解。全兵装を用いて攻撃を仕掛けます」
「あぁ。頼むぞ」
そう言って俺が通信を終えた時。
「おい、今の言葉は本気か?兵の中には生身の奴らだっている。それを……」
「だったらなんだ?」
俺は馬場の言葉を一蹴する。
「極力生かせとでもいうつもりか?だったら悪いが、頼る相手を間違えたな。俺は完全無欠のヒーローでも無いし、奇跡を起こせる神様でもない。……確かにBTなら殺さずに無力化するのも可能かもしれないが……。だがそれじゃ敵兵の注意を引けるかどうか分からない」
「し、しかしそれではっ。彼らにも家族が……」
「文句があるのなら、自分達でこの事態を収拾できるようになってから言え」
俺は内藤の言葉をも一蹴する。
「良いか。お前ら仲間内で内乱を防げなかった時点で、そんな綺麗事を口に出来ると思うなよ?身内を案じるのは分かる。だが今回の騒動は、止められなかったお前たちにも責任はある。……今更仲間内の流血を惜しむな。ここで止めなきゃ、もっと死人が出るぞ」
俺の言葉に、三人は表情を歪め歯を食いしばっている。と、その時。
『ドォォォォォォンッ……!』
遠くで爆音が鳴り響いた。おそらくBTの攻撃が始まったのだろう。
「行くぞ。四天王だったらそれらしく、責任を果たせ」
そう言って俺が小走りで走り出すと、3人と椿は少し戸惑った様子ながらも、すぐに俺の後についてきた。
BTの陽動で敵兵の注意がそちらに向いている間に、俺たちは屋敷へとたどり着いた。
すると、ちょうど屋敷の中から1人の、眼帯をした男が現れた。
「奴が完助か?」
「はい。あの男が、山本完助です」
小声で問いかける俺に小さく椿が頷く。
すると……。
「おやおや。これはこれは四天王の皆さんではありませんか」
完助は余裕を持った態度で笑みを浮かべている。どうやらこの状況でも奴は驚いていない。つまり、四天王が仮に脱獄し自分の前に現れても勝てるだけの自身があるって事か。
その自信はどこから来る?聞けばあくまでも奴は軍師。馬場たちほど剣の腕は無いそうだが……。
「しかしこの攻撃。一体どうなっているのですか?皆さんはこちらに居るのに」
「テメェに教える義理はねぇよっ!さっさとくたばりなぁっ!」
そう言って山県が俺の与えた大剣を手に切りかかる、が……。
『バッ!』
「なっ!?くぉっ!」
完助の後ろから飛び出してきた人影が山県の大剣を受け止めはじき返した。
人影は、赤い甲冑を着た大柄な人間だが……。
「御屋形様っ!?」
馬場が驚いているし、他の2人も戸惑い、完助は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。十中八九、亡くなったとされるこいつらの主、武田真玄だろう。それが今や完助の操り人形か。
そして、主への忠誠心ゆえに、馬場たちは攻撃出来ない。ったく。
「おい、どけ。俺がやる」
戦えないこいつらにそう言って、俺はLMG、『スピットファイア』を手にしながら前に出る。すると正面から向かってくる真玄の骸。だが、良い的だ。
『ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!』
俺は腰だめのスピットファイアの引き金を躊躇いなく引いた。80発もの装弾数を誇るスピットファイアの前に、真玄の体はズタズタに引き裂かれていく。
手足がちぎれ、腐った臓物をぶちまけながら、運よく一発が鬼面に当たり骸は地に倒れた。
骸が倒れたのを確認した直後。
「テメェっ!御屋形様になんて事をっ!?」
山県が俺の襟首をつかんだ。が、それに俺は動じない。そして……。
『ジャコッ!』
「うっ!?」
俺は山形の喉元にP2016の銃口を突き付けた。
「さっさと手を放せ。敵味方を間違えるんじゃねぇよ。今は戦闘中だぞ」
「ッ!?だとしても、何でこんなっ!?」
そう叫ぶ馬場の目には怒りと悲しみの涙が浮かんでいた。
主を骸とは言えあそこまでズタズタにされたんだ。その気持ちは分からなくもない。だが……。
「お前らが止められないから、俺が止めたんだろうが」
「うっ!?」
俺の言葉を受け、山県は手を放す。他の2人と椿も、俺の指摘を受けて悔しそうにしながらも表情を歪めていた。すると……。
「ふ、ふふふっ、まさかここまで簡単に御屋形様を倒すとは、意外でしたよ」
完助は戸惑ってこそ居るが、余裕の表情を崩さない。
「あとはお前だけだ。山本完助」
そう言って俺はP2016の狙いを定める。
「まだ、まだですよ!私にはこれがあるっ!」
そう叫び、完助は眼帯をはぎ取った。その奥にあったのは、赤く光り球体だった。それを左目に埋め込んでいたのか。
「この不死の宝玉がある限り、私は首をはねられようと死ぬことは無いっ!そしてこの宝玉は私には絶大な魔力が与えられるっ!これがある限り私はっ!」
何かを叫ぼうとした完助。だが……。
『パァンッ!』
乾いた一発の銃声が響き渡り、それが一撃で完助の左目にあった宝玉を撃ちぬいた。撃ち抜かれた宝玉が砕け散る。
「ぐ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
直後に悲鳴を上げる完助。
「馬鹿なやつだ」
俺はそれを、P2016をしまいながら語る。
「それが力の源なら、破壊すればいいだけの事。弱点を堂々と晒しやがって。策士策に溺れるってか」
そう、俺が語っている前で、ついに完助は干からびたミイラになったかと思った直後、体全体が砂となって崩れ落ちたのだった。
こうして、武田内部で発生した完助による騒動は一応の終了となった。
その後、俺たちは一度、武田軍の兵士たちを説得するためBTの方に向かったのだが、そこで待っていたのは返り血で真っ赤に染まったBTと、死屍累々の地獄絵図だった。武田の兵士たちはBTの力に怯え、馬場たちの説得に応じた。
しかし……。
「小僧」
ある程度、戦いの後始末が終わり、朝になった時馬場が俺に声をかけて来た。近くには山県や内藤、椿の姿もある。
「……お前には、完助を倒し止めてもらった恩がある。だが、正直俺たちはそれを喜ぶ事は出来ない」
苦々しい表情で俺に告げてくる馬場。当然だ。俺はこいつらの領主をズタボロにし、兵士たちの多くを殺した。手放しで俺を英雄と迎え入れられる訳がない。
だが……。
「それで良い。俺は完助の騒動を止める大義名分の元に、虐殺を行った。その事実に言い訳をするつもりは無いし、お前たちに許してもらうなんて甘ったれた事を言うつもりもない」
「何?」
俺は最初からこいつらに好印象を持ってもらいたかった訳じゃない。ただ任務を遂行するために出来る事をやっただけだ。
「俺は俺に課せられた任務を果たしただけだ。その結果、お前たちから殺人鬼とののしられようと、覚悟は出来てる。そうなるように戦ったのも俺個人の選択だ。……だからその辺りはお前たちが気にする必要は無い。好きに俺を恨めばいい。好きに俺を憎めばいい。……それで良い」
そう言うと、俺は歩き出した。
「あっ!どちらへ!?」
そこに椿が声をかけてくる。
「俺の任務はあくまでも完助を倒す事だ。それ以外に目的は無い。そして任務は果たした。俺がここに居る理由はもうない。……それに、俺はお前たちの主を破壊した奴だ。傍に居られても困るだろ?」
そう言って俺は歩き出す。が……。
「あ、あの。……ありがとう、ございました。完助を止めていただいて。本当に」
椿が俺の近くまで来て、そう言って頭を下げた。だが震える声色からして、主の最後があんな事になって素直に喜べないのだろう。だったら……。
「強くなることだ」
「え?」
「お前の、今その胸の中にある後悔を忘れずに強くなるんだな。……俺も、目の前で恩師を失った事がある」
「ッ」
「だから、お前たちの気持ちが分からなくもない。……だがな、弱いままじゃいずれその後悔を繰り返すだけだぞ」
そう言って俺は椿の方に振り返る。
「強くなれ。二度と後悔しないために。それしか、強くなるしか。自分や仲間を守る方法は無いんだからな」
「ッ!は、はいっ!」
椿の返事を聞き、それを最後に俺は武田の屋敷を後にした。
その後、俺はゲートでカワゴエの砦に戻り皆に完助を倒した事などを伝えた。
そして、見事完助を打ち取った事へのお礼として三日ほど八重の実家で世話になった。
そんな中で。
「さて。これで完助の一件は片付いた訳だから、次は遺跡調査ね」
「あぁ。そうだな。家泰の話じゃ遺跡があるのは島津領の外れ。イーシェンの一番南の方らしいが」
さて。俺たちはこれからそっちに行ったことのある人間を見つけてリコールで記憶を回収する必要があるんだが……。と、考えていると……。
「パイロット、少しよろしいでしょうか?」
「ん?どうしたBT」
「はい。あくまでも仮説なのですが、私がサテライトスキャンで入手した画像データをニューラルリンクを通じてパイロットに送る事で、パイロットがイメージを受け取りゲートを繋げる事は不可能でしょうか?」
「ッ、そうか。BTからデータを受け取る事が出来れば、他人からリコールで記憶を回収する必要は無い。よし、早速試してみよう」
って事で、早速試してみたが、これが上手くいったのだ。BTからデータが俺に送られてくると、脳内で勝手にイメージが沸き上がる。俺はそこにゲートをつなげようと意識してゲートを開くだけで、無事にゲートを開けたのだ。これで今後、リコールで他人から記憶を回収する必要は無くなったな。
そして完助討伐から3日後。俺たちは八重の家族に別れを告げ、ゲートで目的地。イーシェンの南端にある海岸へとやってきた。
さて、次は遺跡調査か。一体何が出てくるのやら。
なんて事を考えながら、俺は目の前に広がる水平線へと目を向けるのだった。
第13話 END
描いてて思った事なんですが、『椿もヒロインに昇格させようかな?』って考えてしまいました。何気にヒロインレベルでエr、げふんげふん。可愛いキャラでもあるので。
まだ未定ですが、もしよろしければ感想でどっちが良いとか教えてください。
感想や評価、お待ちしてます。