遺跡調査のためにイーシェンへとやってきた俺たちを待っていたのは、武田と徳川の戦争だった。徳川陣営である八重の家族を助けた事もあり、俺は徳川の陣営に付いた。そんな中、武田の人間である椿から、武田の内情を知らされた俺は椿、BTと共に武田の本陣に潜入。事の元凶である完助を倒す事に成功したのだった。
さて、ゲートをくぐって海岸までやってきた俺たち。女性陣は久しぶりの海に大はしゃぎだ。で、俺は俺で……。
「BT、付近の海底に遺跡らしきものはあるか?」
「はい。前方、1時の方角の海底にそれらしき構造物を発見しました。ですが、遺跡の内部は海水で満たされています。海底遺跡までの距離や、遺跡の調査時間を計算した場合、パイロットの身体機能を考慮しても、素潜りでの潜入は推奨できません」
「そうか。となると、海底で自由に活動できる魔法か。或いは俺が知っているダイビング用の装備でもそろえるしかないか」
とは言え、この世界で後者を売ってる店などおそらく無いだろう。となると後者の場合は装備を俺たちで自作するしかない、か。
なんて事を考えていると……。
「冷たくて気持ちいいわね~。あ~あ、これで水着があったら泳ぐんだけどなぁ~」
なんて事を言ってるエルゼ。……まぁ、たまには良いか。
「リーン。遺跡の本格的な調査は明日でも構わないか?」
「えぇ。私は別に構わないけど、どうするの?」
「なに、ちょっとした思い出作りさ」
って事で、今日1日、俺たちは海で遊ぶ事にしたのだった。
その後、ベルファストに戻った俺たちは店で水着を買い、屋敷のセシルやラピス達。更に公爵家のスゥやオルトリンデ殿下と妻のエレン。王家のベルファスト国王やユエル王妃にレオン将軍や銀月のミカやアエルなんかもゲートで連れて来た。
どうせなら大勢連れてくるか、って事でこうなり、誰もいないイーシェンの浜辺はすっかり俺たちのプライベートビーチになっていた。
更に俺がストレージから取り出した素材で着替えようのテントや端末を使って調べた遊び道具、デッキチェアやパラソルなどを作っていく。そして、各々買ってきた水着に着替える中で、俺は一人いつも通りの服装をしていた。
適当に敷いたブルーシートの傍にパラソルを立て、そこの下で取り出したウィングマンの動作を確認していると……。
「あれ?ジャックは着替えないの?」
そこに、水着姿のエルゼ、リンゼ、八重がやってきた。エルゼとリンゼは色違いのビキニ。八重は同じく紫のビキニを着ている。リンゼの方は、水着が恥ずかしいのかパーカーのような物を羽織っていた。
「俺は良い。荷物を見てるやつも必要だからな。それに俺は遺跡調査で必ず潜る羽目になるんだ。だから今は良いんだよ」
「ふ~ん。そう。まぁそれは良いけど、ど、どうかしら?これ」
そう言って顔を赤くするエルゼ。八重とリンゼもだ。ここはあれか。褒めればいいのか。
「あぁ。3人とも、よく似合ってるよ」
俺の言葉に、3人は更に顔を赤くする。
「それによりほら、折角海に来たんだから遊んで来い」
「そうねっ!」
エルゼは顔を赤くしながらそう言うと、準備運動をしてから行ってしまった。それに続く八重。リンゼは、『泳ぐのが得意じゃないから』と言って俺の傍に腰を下ろした。
その後も、水着姿のユミナやスゥ、レネを褒めたりしながら、俺は皆が遊んでいる様子を見守っていた。そんな時だった。
「あの、ジャックさんは、ずっと戦場に居たんですか?」
「ん?どうした、急に」
隣に座っていたリンゼが急にそんな事を聞いてきた。
「あ、いえ、その。………失礼だとは思うんですけど、聞きたくて」
「……そうか」
と、俺は頷き、しばし悩んだ後、少しだけ脚色したりしながら話す事にした。
「それは、ここからずっとずっと遠い場所での出来事だ。そこにはIMCと言うデッカい組織があって、未開拓の土地を、人々がIMCに支援されながら開拓していった。だが、あるときIMCはその未開拓の土地、『フロンティア』から撤退した。それでも取り残された人々は自分達の力だけでフロンティアを開拓し、生活していた。決して楽でも豊かでも無い。それでも、自由だけはあった。フロンティアは、そんな場所だった。………だが数十年後。フロンティアにIMCが戻ってきて、そこは元々俺達の土地だ、なんて言い始めた。住民の力尽くで土地から追い出すのなんて、よくある話だった」
「ッ、そんな酷い事があったんですか?」
「あぁ。実際にあった。俺の上司だった女性も、そんなIMCの横暴なやり方のせいで家族を失った。だからIMCを誰よりも憎んでいた。………そして、そんな奴らはたくさんいた。だからIMCをぶっ潰すために色んな奴らが集まって軍隊になった。それが『ミリシア』。俺の古巣だ。……そして俺は、兵士としてIMCと戦って、大勢殺して。仲間も大勢殺された。そんな地獄を、数年は彷徨った。……だが今は、そんな仲間の元を離れ、こうしてお前達と一緒に居る」
「ジャックさんは、そのミリシアの仲間のところに、戻りたいんですか?」
「……戻れるのものなら、戻りたい」
「ッ」
俺の言葉に、リンゼが肩をふるわせるのを俺は見逃さなかった。分かってるよ、リンゼは俺に好感を持ってくれている。……でもな。
「フロンティアを巡る戦争が終結した訳じゃない。きっと、俺の仲間たちは今も戦っている。だから戻れるのなら、俺は皆の所へ戻って、仲間のために戦いたい」
その言葉に、リンゼは俯く。……しょうが無い。
「安心しろ、ってのは変かもしれないが、先に言っておく。俺にはフロンティアに帰還する手段が無い。それはもう分かってる。だから今、ここをでて、お前達と別れる気はない」
そう言うと、俺はリンゼの肩に手を置いた。
「本当、ですか?」
「あぁ。……俺の、フロンティアでの役目は終わってるんだ」
そう言って、俺は青空を見上げた。
そうだ。俺はタイフォンでの戦いで戦死扱いになってる事だろう。今更戻った所で、亡霊扱いされるだけかもしれない。
でも、それでもあそこが俺の故郷だ。どれだけ時間が過ぎても、フロンティアの未来が気になるこのモヤモヤだけは、どうしても消し去ることが出来ない。だから……。
「もし、本当に帰る手段が見つかっても、ジャックさんは私達の傍に居てくれますか?」
「…………」
リンゼのその言葉に、俺は頷く事が出来なかったのだった。
その後も、皆は海を楽しんだ様子だったが、俺との会話が気になるのか、リンゼは終始俺を気にしている様子だった。
海でたくさん遊んだ翌日。俺とユミナ達、アルファ、リーンとポーラの合計6人と2匹は昨日と同じ海岸線に来ていた。
「それで、どうやって海底の遺跡まで行くの?あなたの相棒、BTにでも乗るのかしら?」
「いや。BTは海中での運用を想定されていない。相棒の乗って行くのは無理だ」
「じゃあ、あなたのヘルメットは?気密性は高そうだけど」
「それも無理だ。こいつに酸素ボンベは無い。これを被ってても素潜りと大して変わらない」
と、こっちはこっちで無理だ。なら魔法を頼ろうとしたが、リーンは海中で自由に活動出来る魔法を聞いたことはあるが、忘れたらしい。念のため宮廷魔術師のシャルロッテに聞いてみたが、こちらもダメだった。
結局、今の所最も有効な手は素材を集めて俺がモデリングでダイバー用の装備を作成するって事だ。となると、一旦ベルファストに戻って素材集めを………。
と、考えていた時。
『主よ。少しよろしいでしょうか?』
「ん?どうしたアルファ」
『はい。実は私に一人、主達の悩みを解決出来る存在に心当たりがあるのです』
その後、アルファの言う解決策を聞いた俺達は、早速それを実行する事にした。
それは、白帝であるアルファと同格の存在、『玄帝』を呼び出して契約し、使役すると言う物だった。
リーンに頼んで魔法陣を描いて貰う。
「通常、召喚魔法は特定の相手を呼び出すなんて事は出来ないのよ?」
「主の魔力に私の霊力を混ぜます。その状態で呼びかければ、奴らは必ず反応し呼びかけに応じるでしょう」
と、アルファがそう言って居る。そこら辺は俺には詳しくは分からないので、とりあえずアルファの指示通りにやるだけだ。
しかし……。
「アルファ。玄帝の事を奴ら、複数形で呼んでいるが玄帝は1匹じゃないのか?」
「いえ。奴らの体自体は一つなのですが、彼奴らは二人で一人なのです」
「二人で、一人?」
アルファの言ってる意味が良く分からないが、とにかくやるしかない。
俺は事前に教えられていた文言を語りながら魔力を魔法陣に流し込んだ。
すると俺達の前に現れたのは、一言で言えば亀だ。だが、サイズはトラック並みの巨大な亀だ。そしてその体にはもう1匹、黒い巨大な蛇が巻き付いていた。すると現れて早々、蛇の方がオネエ言葉でアルファと親しく話をしている。成程、この亀と蛇がセットで玄帝という事か。と、俺が納得していると……。
「それで、そちらのお兄さんは?」
っと、俺に視線を向ける蛇。
「こちらは我が主、ジャック・クーパー様だ」
「主じゃと?」
すると、今度は亀の方が俺を値踏みするような視線で見つめてくる。
「このような者が主とは。落ちたものだな、白帝よ」
そう言って俺を笑った様子の亀。ちょっと苛ついてきた。が、冷静になれ。俺はパイロットだ。
「玄帝。どうすれば俺はお前と契約出来る?」
「ほう?貴様如き人間が我らに挑むと言うか?怪我をしても知らぬぞ?」
そんな玄帝の言葉に……。
「戯れ言は良い。さっさと内容を言え」
俺は殺気混じりに玄帝を威圧する。
「「ッ!」」
その殺気に当てられ、蛇も亀も僅かに息を呑んだ。
「……成程。白帝と契約したのは伊達では無いと言う事か。これほどの殺気。貴様ただの人間ではないな?」
どうやら俺に対する認識を改めたようだ。
「良かろう。ならば日没まで我らと戦え。それまでに貴様が五体満足であれば契約をしてやろう。但し気絶したり、魔法陣の外に出たり、時間までに攻撃が出来なくなれば、お主の負けとする」
「OK。良いだろう」
俺はエルゼ達が見守る中、魔法陣の中へと足を踏み入れる。円形の魔法陣の直径は約25メートル。これだけ大きければ、グレネードなども使えるだろう。念のためユミナ達にはもう少し下がっているように言っておく。
さて……。
「それじゃあ、はじめるか」
「行くぞ、人間っ!」
そう言って亀の方が『ガァァァァァァッ!』と咆哮を上げるが……。
『パッ!』
俺は即座に亀の所に電気スモークグレネードを投げつけた。即座にスモークが広がり……。
「アバババババババッ!?!?」
「ぐぅっ!?なんじゃこれはっ!?」
蛇が感電し亀も苦悶の表情を浮かべる。
その隙に俺はLMGの『X-55ディヴォーション』を取り出し構え、引き金を引いた。
最初は『ドッドッドッドッ!!』とレートの低い発射音が響くが、数秒もすれば………。
『ドゥルルルルルルルルルルッ!!!!!』
驚異的な発射レートまで加速したディヴォーションの銃弾が電気スモーク越しに玄帝の体に当る。……だが、流石は亀だ。甲羅を貫く事は出来ない。しかしそれでも顔や足には確かに傷が出来ている。
「ぐっ!?なめてんじゃねぇぞゴラァッ!」
するとさっきまでのオネェ言葉を捨てて男らしい野太い声で叫ぶ蛇。そして蛇の口から水弾が銃弾並みの速度で発射される。
俺は咄嗟にディヴォーションを捨てて横に飛ぶ。ディヴォーションはその水弾に当ってバラバラに壊れたが、問題無いっ。
俺はもう一度電気スモークグレネードを投げ込んだ。
「そんなものっ!」
案の定、亀の方が口から水流を発射しグレネードを迎撃し破壊する。だが、それも計算通りだ。
電気スモークが俺と玄帝の間に広がるが、これが俺を隠す煙となる。そして俺は、その煙に突っ込んだ。本来なら自殺行為だが、問題無い。俺にはフェーズシフトがある。亜空間に潜り、煙を突き抜け跳躍した所で、俺は亜空間より戻ってくる。
「なにっ!?ぐっ!?」
俺は、驚く亀の頭を踏み台にして跳躍。その手にクレーバーを取り出す。
「えっ!?狙いはアタシ!?」
そして、俺は戸惑う蛇に向けて引き金を引いた。放たれた銃弾が、蛇の体を射貫いた。今の一撃で体が千切れないのか神獣だからか、或いはあくまでも召喚した状態だからかは分からない。だが蛇は白目を剥いて気絶したようだ。
そして俺はそのまま亀の甲羅に降り立ち、亀の甲頭部にクレーバーの銃口を突き付けた。
「うっ!?」
「まだ、やるか?」
「……いえ」
亀はしばし迷った後、静かにそう言って頭を垂れた。
「我らの負けでございます」
こうして、俺は玄帝を倒した。やがて少しすると蛇の方も復活した様子だ。
「あなたには本当に驚かされるわね。BT、だったからしら?あなたの相棒の力も無しに生身で神獣を手玉に取るなんて」
リーンが後ろから声を掛けてくる。
「別に。大した事じゃないさ」
パイロットは、いざとなれば生身でタイタンとだって戦う。それに比べれば。玄帝の持つ殺意は極めて薄かったから恐れなど無しに攻撃出来た事も大きい。
「あ~~。酷い目にあったわぁ。でも、白帝が主と認めるのも納得ねぇ」
「ジャック・クーパー殿。我らが主に相応しき強者よ。どうか我らと契約を結び下さい」
どうやら蛇も亀も俺の事を認めてくれたらしい。
「分かった。さて、契約として名前を与えるんだったな」
どうしたもんか。アルファに次ぐ契約相手だからなぁ。……ダメそうなら変えるし、とりあえず聞いてみるか。
「じゃあ、とりあえず亀の方が『ブラボー』。蛇の方が『シエラ』だ。どうだ?」
「ブラボー?」
「シエラ?」
首をかしげる亀と蛇。
「あぁ。ブラボーは俺の知ってる単語で素晴らしいとかそう言う意味がある。そして、同じく俺の育った場所では蛇の事をスネークと呼ぶ。そのスネークの綴りの頭文字がS。それをシエラと呼ぶ事もある。どうだ?気に入らないならもう少し捻った物を考えるが?」
「いえ。正しく素晴らしき名前。ならば我は今日から、ブラボーと名乗らせていただきます」
「アタシもシエラで良いわぁ!可愛い名前だしぃ!」
どうやら2人、いや2匹か?ともかくこの名前で良いそうだ。
しかし、アルファもそうだがこんな巨体のまま連れ歩くのは無理があるので、アルファ同様小さくなって貰った。小さくなったブラボーとシエラが俺の周りで宙を泳ぎ回る。
その後、BTやユミナ達をブラボー達に紹介した。
さて、これで準備は出来た。ブラボーとシエラに頼んで海中でも活動出来るように保護というか、加護?みたいなものを駆けて貰う。
「よし。それじゃあ行ってくる。何かあったらアルファを通じて連絡する。リーンはここでユミナ達と待っててくれ」
「えぇ。それじゃあお願いね」
「ジャックさん、どうかお気を付けて」
「あぁ。行ってくる」
リーンとユミナの言葉を聞き、俺は海中へと進んでいった。
水中の浮力も無効化されているのか、俺はブラボー達を連れて海底を歩いて進んでいく。
「ッ、あれか」
そしてしばらく歩いていると、海中に沈む遺跡、さながら海中の神殿とも言える遺跡を発見した。遺跡の保存状態は悪くない。何らかの魔法で保護が掛けられているのか?などと考えながら、俺はライトを片手に。もう一方にナイフを手にしながら遺跡の中へと進んでいく。罠などを警戒しながら一本道を進んでいくと、広い空間に出た。部屋の中央には、魔石が嵌め込まれた石柱があり、さながら何かの装置のようだった。
「BT、目の前の装置について何か分かるか?」
「はい。恐らく各属性の魔力を流し込む事で発動するタイプの装置かと思われます。ですが装置の内容までは」
「成程。起動してみない事には分からない、と言う事か」
少々不安要素はあるが、やるしかない。俺は魔力を流し込み、装置を起動させた。直後俺とブラボー達を白い光が包み込んだ。余りの光量に俺は咄嗟に目を背けた。そして光が収まり、警戒しながら周囲を見回すと……。
「なっ」
突然の変化に俺は思わず声を出して驚いてしまった。目の前に広がっているのは、庭園だ。先ほどまで俺達は海中に居たはずが、一瞬で豪華な庭園までやってきたのだ。周囲を警戒しながら足下を見るが、どうやらアレは転移用のゲートだったようだ。
だが、ここがどこか分からない以上、俺はB3ウィングマンを取り出しながら周囲を警戒しつつアルファの方へと念話を繋げる。
『アルファ。アルファ、聞こえるか?』
『はい、問題無く聞こえます』
『そうか。なら、リーン達に伝えてくれ。俺は現在、海底遺跡からどこか別の場所に転移したようだ。こちらの安全が確認出来たらゲートを繋げると伝えてくれ』
『承知しました。お気を付けて』
『あぁ』
俺はアルファとの会話を終えて、ウィングマンを手に静かに歩みを進める。と、その時。
『カサッ』
僅かに聞こえた、枝が揺れる音に反応した俺は、即座に音のした方にウィングマンを向けた。
「誰だっ!?」
更に声を張り上げる。すると、植物の影から人影が現れた。だが……。
「女?」
現れたのは、見た目的に今の俺と変わらないくらいの、16歳前後に見える女だった。だが……。
「は?」
俺は女の格好に首をかしげた。なぜならそいつは、『スカートをはいてない』。つまりパンツ丸出しでこちらに歩み寄ってくる。
「はじめまして。私はこの『バビロン』の『庭園』を管理する端末の、『フランシェスカ』と申します」
そう言って俺の傍に来ると挨拶をする痴女、もといフランシェスカ。しかし……。
「あ~~。俺も自己紹介したいのはやまやまだが、先に言わせてくれ。何でスカート履いてないんだ?」
「なんでと言われましても、義務?」
「……お前、頭のネジがぶっ飛んでるんじゃないのか?」
スカートを履かない義務なんてあってたまるか。と言うか、それを真に受けているこいつも相当バカなのか?
「まぁ良い。ちょっとスカート履いてこい。……客人を下着丸出しで出迎える阿呆なのか?お前は?俺はそうじゃないと信じたいが」
「そこまで言われては仕方無いですね」
と言うと、フランシェスカはどこからかスカートを取り出してはき始めたが……。
「持ってたのなら最初から履けよバカっ!」
あまりにマイペースというか、阿呆なフランシェスカの行動に俺は思わず叫んだ。
結局、何とかスカートを履いたフランシェスカと対面する。
「あぁそれで、フランシェスカだったな?」
「はい。私のことは、『シェスカ』とお呼び下さい」
「OK、シェスカ。なら早速お前にいくつか質問したい事があるが、構わないか?」
「はい。私に答えられる事であれば」
「そうか。ではまず、ここはどこだ?」
「ここは空中に浮かぶバビロンの『庭園』です」
「何?空中だと?」
「はい。現在庭園は、空を彷徨うように飛んでおります」
そう言うとシェスカは『こちらへ』と行って俺とブラボー達を庭園の端の方へと案内した。そしてガラスのような壁の向こうには雲海が広がっており、今も流れるように雲が後ろへと流れていく。
「成程。庭園ね。なら、次の質問だ。この庭園は誰が造った?」
「それは『レジーナ・バビロン』博士です。そしてバビロン博士は私達にとっての創造主です」
「創造主?……ッ、そう言えばお前。自分の事を端末だとさっき言っていたが、まさか人間じゃないのか?」
「はい。魔法で製作された生体部品なども使って居るので、一言で言えば機械と魔法生命体の融合体、とでも言えばよろしいでしょうか」
「マジかよ」
俺は改めてシェスカをマジマジと見つめた。どっからどう見ても人間にしか見えない。人型ロボットなら、俺もスペクターやストーカー、マーヴィンをフロンティアで見てきたが、こいつは完全な人型で、肌の見た目も人と変わりない。しかし、そうなると必然的に、この世界には過去、俺達の世界にも引けを取らない進んだ科学文明があった事になる。だがこの世界にその痕跡は無い。だったら、その文明はどうなったんだ?……いや、今はそんな事を気にしていても始まらない。まずはこいつ、シェスカについてだ。
「お前は端末だと言っていたが、庭園と一緒に何年ほど前から稼働しているんだ?」
「私が作られたのは、今から5092年前ですから、大体それくらいですね」
「五千!?このよくそれだけ保つな。見たところ劣化や破損なども見られないが……」
俺もびっくりの耐用年数である。
「庭園は至る所を魔法で強化していますから。それに私も、殆どスリープモードで待機状態でした。非常時以外は基本稼働していませんでしたから」
「そうか。……ん?非常時以外は稼働していなかったと言う事は、今は非常時だからシェスカが起動した、と言う事か?」
「はい。非常時と言えば非常時です。何と言っても初めてのお客様ですから」
「成程。つまり俺以外にここを訪れたことがある者はゼロって事か」
「はい。仰る通りです。そうそう、名前をお聞きしても?」
「え?あぁ。そう言えば名乗ってなかったな。俺はジャック。ジャック・クーパーだ」
と、名前を言うと……。
「ジャック様、貴方様は適合者として認められました。これより機体ナンバー23、個体名フランシェスカはあなたに譲渡されます。末永くよろしくお願いします」
「何だって?譲渡ってどういうことだ?」
俺が問いかけると、シェスカは俺達が来た魔法陣を指さす。
「あの魔法陣を起動出来るのは、博士と同じ全属性の適性を持つ者だけです。そして博士はあの転移門からやってきた適合者へ私達を譲渡することを決めていました」
「成程ね。……しかし適合者ってのは何だ?あの門を起動出来たから適合者、と言う事か?」
「いいえ?適合者を判断する方法は、私のパンツを前にしてどのような反応をするか、です」
……………。何だって?突然の事に、俺は思わず呆然としてしまった。文字通り、訳が分からなかった。
「ちょっと待て。そんな変な判断方法なのか?」
「大事な事ですよ?ジャック様がパンツ姿の私に欲情して襲いかかれば、庭園から地上に放り投げていました。それとは別に、パンツを丸出しのままだった場合も不適合者として丁重に地上にお帰り願ったでしょう」
「…………」
あまりのことに俺は絶句する。これはあれか?俺が常識人だと判別する試験か何かなのか?女性に対する扱い方で適合者を決めているのか?……全く分からん。ハァ。
俺は頭の中でため息をついたのだった。
「それで、お前はとりあえず、俺の指揮下に入るって事で良いのか?」
「えぇ。概ねその通りです」
「……分かった。ならとりあえず、ここに俺の仲間を呼びたい。構わないか?」
「えぇ。構いませんよ」
とりあえず、管理者の許可は貰ったので良いだろうと、俺はあの海岸とここを繋ぐゲートを作ったのだが……。
「何か変わった子ねぇ」
シエラの呟きに、俺は内心同意していた。あれがこれから俺の指揮下に入るのか。ハァ、不安だ。
その後、皆を連れてきた俺は改めてシェスカの口から説明をさせた。
「へぇ。さしずめ、古代文明パルテノの遺産と言った所かしら?」
「パルテノ?リーン、それは一体何だ?」
聞き慣れない単語に俺が問いかける。
「一言で言えば、アーティファクトを生み出した超古代文明、って所かしらね?」
「成程。つまり、この庭園自体がアーティファクトと言う事か。まぁ、シェスカ。どこかで腰を落ち着けて話を出来る場所は無いか?立ち話もなんだろう」
「分かりました。ではこちらへ」
案内された場所にあったのは小さな屋根付きのテラスのような場所。そこにある椅子に腰を下ろし、話をすることになった。で、まず俺が気になったのは……。
「シェスカ。お前はさっき、この庭園を『バビロンの庭園』って呼んでたな?そのバビロンってのは何だ?」
「はい。バビロンというのは、この庭園のように世界各地を浮遊する施設の総称のよう物です。この庭園の他にも、『研究所』や『格納庫』、『図書館』などがあり、庭園は言わば、バビロンの一部なのです」
「成程。つまりそれらの施設全てを合わせてバビロン、と言う事であり。この庭園はバビロンの一区画に過ぎないと言う事か」
「はい」
「でも、空にこんなのが浮いてたら目立たない?」
「それは大丈夫でしょう。この庭園や他の島に外部からの視認を阻害する魔法が掛けられていますから。地上からの発見はほぼ不可能でしょう」
と、エルゼの言葉にシェスカが応える。
「それで今まで発見されなかった、と言う事か。シェスカ、バビロンのエリアは庭園を含めていくつ、どんなのがあるんだ?」
「私の庭園をはじめ、先ほど述べた『研究所』、『格納庫』、『図書館』。それ以外にも『城壁』、『塔』、『工房』、『錬金棟』、『蔵』。以上の9つがバビロンの全エリアになります」
「そうか。思ったよりあるな。……それも全部、シェスカの仲間が管理しているのか?」
「はい。全てに1人ずつ、私の姉妹達が配置されております。……あぁ、ですが、バビロン以外にもう一つだけ、博士が残した物がありました。ですがこっちはもっぱら、戦闘用と呼べる物ばかりですが」
「ん?どういうことだ?バビロンみたいなのがもう一つあるのか?」
「はい。こちらは3つのエリアに分類されていますが、以前遭遇した時はこの3つのエリアが既にドッキングした状態で浮遊しておりました」
「それはバビロンとは別口なのか?」
「はい。その3つは、『司令部』、『港』、『工廠』に分類されていますが、管理は1人に一任されています」
「そうなのか。……その3つの集合体にも総称があるのか?」
「はい。博士はこれを、『ミリシア』と呼んでいました」
「ッ!?何だとっ!?」
突然の単語に、俺は驚きのあまり席から立ち上がってしまった。
「ど、どうしました?ジャックさん?」
それが気になったのかユミナが戸惑いながらも声を掛けてくる。
「あ、あぁ。すまない」
そう言って俺は椅子に腰を下ろす。どういうことだ?ミリシアはそもそも民兵を表す英語だ。だが、この世界で英語はあまり通用しない。リンゼがバブルやボムの意味を知らなかったくらいだ。……まさか、俺の仲間がフォールド・ウェポンの中心であるアークの爆発に巻き込まれてこちらに来た、とか?いや、その可能性は……。いや、そもそも仮説を立てる知識が俺には無い。……だが、もしかしたら、『そこ』に元の世界に戻れる手がかりがあるかもしれない。たまたま同じ名前なだけかもしれない。いや、そもそも帰れるとして、神様がそれを許すか?だが、それでも……。
「クソッ」
俺が小さく悪態を付くと、皆の視線が俺に集まる。
「どうしたのかしら?あなたが悪態を付くの、初めて見るけど。……そんなにミリシアって単語が気になるの?」
リーンが静かに、しかし鋭い視線で俺を見つめてくる。他の4人も、俺の事を注視している。
……言う、べきか。
「……ミリシアって名前は、俺の古巣と同じ名前なんだ」
「「「ッ」」」
俺の言葉に、ユミナとエルゼ、八重が息を呑む。そしてリンゼは、俺の話を昨日聞いていたからか、どこか悲しげな表情で俯いている。
「お前達と出会う前、俺はミリシアに所属し、IMCと言う敵と戦っていた。……偶然の一致かもしれないが、俺にはどうしても確かめたい事がある。……シェスカ。お前はさっき、遭遇したと言ったな?その3つの居場所は分からないのか?」
「残念ながら。他の姉妹とのリンクは断たれているので、お互いの位置は現在も把握していません」
「そのリンクを回復させる方法は無いのか?」
「ありません。リンクの回復にはマスターの指示が必要です。今の庭園のマスターはジャック様として登録されていますが、それはあくまでも一方通行にしかなりません。リンクを回復するには、相手側にもマスター登録をしてリンクを妨げている障壁を解除するしかありません」
「どのみち、リンクを回復させるには見つけて俺がマスター登録をするしかないって訳か。なら、偶然遭遇する可能性は無いのか?」
「それも無理かと。何せ私の庭園が他のバビロンと遭遇したのも、この5000年あまりでたったの2回だけですから。3028年前に一度。985年前に一度。その2回だけです。ミリシアと遭遇したのも、2000年以上前の事です」
「それこそ、正しく奇跡か。クソッ、何とかしてミリシアに行く方法は……」
俺は椅子から立ち上がり、考えはじめる。すると……。
「方法ならありますよ?」
「ッ、何?」
「実は、レジーナ・バビロン博士の意向で、全てのバビロンの区画にはミリシア司令部へ繋がる転移ゲートがあります。こちらはいつでも使用可能です」
「ッ!ならそれを早く言ってくれよっ!今すぐ行くぞっ!案内しろシェスカ!」
そう言って駆け出そうとするが……。
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいジャック!」
エルゼに手を取られた。……だが……。
「放せっ!俺はこの目でどうしても確認したいんだっ!」
焦りから俺は、棘のある口調になってしまう。
「確認するって、何をっ!」
「もしかしたらそこに、俺の仲間がいた証があるかもしれないっ!仲間が生きてそこに居るかもしれないんだっ!」
そう言って俺は強引にエルゼの手を振り払う。
その時。
「そんなに、ミリシアの仲間が大事なんですか?」
後ろからユミナの声が聞こえる。鋭い目で、彼女は俺を見つめている。そしてエルゼと八重、リンゼはどこか戸惑ったような表情を浮かべている。対して、俺は……。
「……あぁ」
静かに、振り返らずに俺は頷いた。
「それだけ、俺にとってミリシアの名前は重いんだ」
それだけ言うと、俺は歩き出した。だが……。
「ジャック、さん」
後ろから聞こえるリンゼの泣きそうな声。酷い男だ、俺は。分かってる。……だが、それでも俺はリンゼの声を無視してシェスカの後に続いた。
ミリシアの名を持つ施設。そこに何があるのか。俺は期待と不安を胸にシェスカの後を追うのだった。
第14話 END
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