夜中に襲ってきた連中を返り討ちにしたり、新たなバビロンを求めて南の砂漠地帯を目指したり、その道中で人助けをしていた俺達。しかし人助けをしたのも束の間。慌てるサラの言葉で、俺達は急ぎミリシア級空母へと戻った。
ベルファストから空母の艦橋へと戻る俺達。
「サラッ、何があったっ?状況を報告しろっ」
俺はすぐさま艦長席に座っているサラに声を掛けた。
「はっ!今から数分前っ!当艦の浮遊する空域に大型の飛行物体が接近しているのをレーダー及び目視にて確認しましたっ!その結果、対象はフレイズと断定しましたっ!」
「何っ?!映像はあるかっ!?」
「はっ!メインモニターに表示しますっ!」
彼女の操作によってモニターに映し出されたそれは、巨大な水晶で出来たマンタのような怪物だった。……間違い無い、フレイズだ……っ!
「サラッ!戦闘態勢に移行だっ!シールドに可能な限りエネルギーを回せっ!奴の攻撃が何時始まるか分からないっ!」
「はっ!ジェネレーター出力上昇っ!シールドを戦闘レベルで展開しますっ!」
「BTっ!聞こえているなっ!」
「はい。そちらの状況はこちらでもモニターしています」
「だったらすぐにミリシア級の空母に来てくれっ!ロードアウトは遠距離狙撃を考慮してノーススターロードアウトをっ!」
「了解。……ロードアウトを選択。準備完了。ミリシア級空母甲板へ転移門を接続。甲板上にてパイロットの合流を待ちます」
「ユミナッ、お前達は……」
「もちろん行きますよ。私達だって戦えるんですから」
俺が何かを言うよりも早く、ユミナの声が響く。どうやら彼女はやる気のようだ。そしてエルゼやリンゼ、八重も同じように、真剣な表情で俺を見つめている。
「頼もしい限りだ……っ!リーンはここで待機だっ!大人しくしてろよっ!」
「えぇ、そうさせて貰うわ」
これでやる事は決まった。俺は彼女達と共に甲板へと向かった。
その道中。
「お前等、この前俺が教えた『アーチャー』の使い方覚えてるなっ!?」
「はいっ!」
俺の言葉にリンゼが頷く。
俺は少し前、BTの協力を得て対タイタン武器であるアーチャーのロックオンシステムを改良した。誘導兵器であるアーチャーなら、一度ロックオンさえしてしまえば、障害物を盾にでもされない限り追いかけ続ける性質があるし、何より対タイタン武器の威力だ。並みの剣や魔法を上回る威力があるはずだ。
そして万が一の為に俺は先日、こいつらにアーチャーの扱い方を教えたばかりだ。それが功を奏すのかどうかは、この実戦で分かる事だ。
俺達は甲板へと出た。そして周囲を見回すと、BTを見つけた。既にレールガンを構え狙いを定めている。いつでも撃てる態勢だ。
「BTッ!」
俺達はBTの傍に駆け寄る。
「お待ちしていましたパイロット。ユミナ達も」
「敵個体の状況っ!それと周囲に敵の反応はっ!?」
「周辺にあの個体以外のフレイズの反応はありません。光学観測の結果、少なくと周辺の視認可能範囲にフレイズの姿もありません」
「出てきたのはアイツ一匹だけ、か」
となれば、とっとと撃ち落とすだけだ。俺は端末を操作してすぐさま5本のアーチャーと、更に予備の弾頭を取り出す。
「皆っ、アーチャーを持てっ!ここから奴を撃ち落とすっ!」
「「「「はいっ!」」」」
皆、少し馴れない様子ながらも順番にアーチャーを持ち構える。
「BTッ!お前も狙撃を頼むぞっ!」
「了解」
BTに指示を出しながら、俺もアーチャーを担いで狙いを定める。
対フレイズ用に改良したアーチャーは、奴らのコアから発せられる微弱な魔力の反応を目印にして飛ぶ。
狙いを定めれば、そのロックオンシステムが奴の体の中にあるコアへ自動的にロックオンをする。
「全員っ!ロックオン出来たかっ!?」
「はいっ!」
「こちらも準備万端でござるっ!」
「いつでもいけるわよっ!」
「こっちもですっ!」
ユミナ、八重、エルゼ、リンゼが答える。よしっ!
「BTッ!お前はフルチャージしたレールガンで奴のコアを狙えっ!俺達のアーチャーで奴の装甲を削るっ!アーチャーで撃破出来なければ、BTッ、お前が決めてくれっ」
「了解っ」
「よしっ!全員っ、ってぇぇっ!!」
『『『『『ボシュシュッ!!!』』』』』
俺の声に合わせて全員が引き金を引く。ロックオンされたアーチャーがフレイズに向かって飛翔する。シールドは内部からの攻撃を透過させるため、ミサイルはシールドを越えてフレイズへと問題無く突き進む。
するとこちらからの攻撃と悟ったのはマンタ型フレイズの尻尾が曲げられ、飛翔するアーチャーのミサイルへと向けられた。
直後。尻尾の先端から何かがマシンガンのように発射された。ちっ!遠距離攻撃も出来るのかっ!
降り注ぐ何かによってアーチャー5発の内、3発が撃ち落とされた。が……。
『ドドォォォォンッ!!!』
奇跡的に対空砲火を掻い潜った2発がフレイズの表面に命中し爆発。その体を大きく抉る事に成功した。爆発で砕けた部分が地に落ちていく。
更に金属音のような悲鳴を上げるフレイズ。しかしアーチャー2発ではコアにまで届かなかったようだ。
悲鳴のような方向を上げたフレイズは、こちらへと体を向けてくる。そして頭部にある1対の触覚のようなパーツの間で光が発生する。
「ジャックさんっ!」
それを攻撃だと判断したユミナが叫ぶ。
「いや、大丈夫だ」
しかし俺は冷静にそう言ってリロードし構えていたアーチャーを下げる。直後。
『ドゥゥンッ!!!!』
重い砲声が響き渡った。それはフルチャージしたBTのプラズマレールガンの射撃音だった。
限界まで加速した銃弾は、アーチャーの攻撃で砕け、再生しつつあった奴の装甲を突き破ってコアまで到達。そして、奴のコアを粉砕してしまった。直後。
『パキィンッ』というガラスが割れるような音と共にマンタ型フレイズは砕け散り、フレイズだった物が砂の大地に降り注いだ。
「ふぅ」
「やったわねジャックッ!」
「あぁ」
俺が息をつくと、エルゼが声を掛けてきた。それに頷き答える。
「よくやったぞBT。ナイスシュートだ」
「いえ。これくらいはお安い御用です」
と、お互い軽口をたたき合う俺とBT。が、直後。
『ピクッ!!』
気配を感じた。人のものか?突然、現れた。場所は、後ろっ!?数メートルの位置っ!?
『ビーッ!』
直後にBTからアラートが響き渡る。
「未確認の生体反応を検知っ!後ろですパイロットッ!」
「ッ!!!」
『分かってるッ!』と言うよりも早く、俺はすぐさまアーチャーを投げ捨てホルスターからB3ウィングマンを抜きながら振り返った。
そこに居たのは……。
「ッ!?エンデッ!?」
いつぞや奢ってやった白髪の少年、エンデだった。しかしこいつどうやってここへっ!?敵とも味方とも分からない状況で、銃口を下げる程俺は蛮勇ではない。俺はウィングマンを両手で握りしめながら狙いをエンデに定める。
「えっ!?」
「だ、誰ですかっ!?」
突然のエンデの出現に、エルゼやユミナが戸惑う。当然八重やリンゼもだ。しかも八重は相手を警戒し刀の柄に手を掛けている。まぁ無理も無い、と思いつつ俺はエンデの方に視線を向ける。
「未確認の人物のミリシア級への侵入を検知。警戒レベル上昇。戦闘態勢のまま待機します」
BTは突如として現れたエンデに最大級の警戒を向けている。対人戦を想定しているのか、自らロードアウトをノーススターからローニンに変え、ショットガンのレッドウォールでエンデを狙っている。
「へ~~。ジャック、君の隣に居るその子は誰?凄いね、鉄の人形が喋ってるなんて」
そう言って興味ありげにBTを見つけるエンデ。……今のこいつには、銃や敵意を向けられているのに余裕しか見えない。……戦い馴れているのか、戦う意思はないのか、それとも『俺達程度脅威にならない』と見下しているのか。……どちらにせよ、これまでの流れで分かった事がある。
『こいつは普通の人間じゃない』。それは間違い無いだろう。……とは言え、ここはミリシア級の甲板の上。既にシールド内部に入られている以上、下手なことをすれば船にダメージを負わせる事になる。……ここは冷静に行くしか無いな。
「エンデ。お前、どうしてここに居る?」
「あぁ、それは別に大した理由じゃないよ。フレイズの気配を感じたから来てみたんだけど……」
「ッ!?お前、フレイズを知っているのかっ!?」
「まぁ、色々あって、ね。……それにしても驚いたよ。まさか中級種を倒すなんてね」
「中級種?さっきの奴の事か」
「そっ。……それにしても、まさか中級まで来てるなんてなぁ。『世界の結界』の限界も近い、か」
ぽつりぽつりと独り言を漏らすエンデ。しかし結界、だと?
「エンデ。お前の言う世界の結界ってのは何だ?」
「ん?あぁそれ?それはまぁ、一言で言えば網のような物かな。世界の外から変な物が入ってこないように守る網。でも今、結界、つまり網に綻びができはじめている。フレイズはその綻びからこの世界へと入り込んでくるんだ」
「……つまりフレイズは、この世界に由来する存在ではないって事か?」
「そう。その通り」
外からの侵略者、と言う事か。しかし、さっきエンデは何と言った?『中級』?
「もう一つ質問だエンデ。お前はさっきの奴を中級と言ったな?」
「そっ。まぁ中級なんて言っても、下級の奴よりちょっと強くてデカいだけの、下っ端だよ」
「あ、あれで下っ端というのでござるか」
俺の傍に居た八重が、目眩を覚えているのか額に手を当てている。だが無理も無い。今回はミリシアやBT、無数の武器があったから存外簡単に勝てたが、そうで無ければあれを倒すのなど絶望的だろう。……そしてエンデの口ぶりからして、恐らく中級の上にまだ何か『居る』、って事だ。だが、そもそもフレイズの目的は何だ?
「エンデ。お前はフレイズの目的を知っているのか?」
「あぁ。……こいつらの目的は、眠れるフレイズの『王』を見つけ出す事さ」
「ッ!?何だとっ!?」
フレイズの王!?そんなのが居るって言うのかっ!クソッ!もっと情報が欲しいっ!
「おいエンデッ!もっとフレイズの事について詳しくっ!」
「あぁごめんジャック。この後予定があるから、もう行くよ。ある人と約束があるんだ」
「なっ!?おいっ!」
咄嗟に声を掛けた。が、次の瞬間エンデは消えるようにして居なくなった。何だっ!?瞬間移動っ!?それともフェーズシフト技術のような物かっ!?
「BTッ!即座に周辺をスキャンッ!エンデの反応を追えるかっ!?」
「…………ダメです。周辺地域と空域に我々以外の生体反応はありません。……目標の追跡は不可能です」
「ッ。そう、か」
クソッ。何なんだアイツは。普通の人間じゃないにしても、フレイズについての知識量が半端じゃない。……恐らくこの世界で、アイツ以上にフレイズに詳しい奴など居ないだろう。
本当ならもっと話を聞きたかったが……。やむを得ないか。
「あ、あの。ジャックさん」
「ん?」
その時、ユミナが心配そうな顔で俺を見上げていた。
「今の男性は一体?もしかして、お知り合いなのですか?」
「……あぁ。そうだ。知り合いだ。と言っても、一度しか会った事は無いが……」
と、ユミナの言葉に答えていると……。
『ジャック』
近くにあったスピーカーからリーンの声が聞こえてきた。恐らくサラに頼んで艦内の設備を使って居るのだろう。
『今の会話はこちらでも聞いていたわ。ちょっと、あの男について私も知りたいのだけど?』
「……あぁ。分かった。今からユミナ達と艦橋へ行く。そこで話すさ」
と言う事で、俺は一度砂漠におり、フレイズだった物を回収した。何かの研究になれば、と思って名。その後BTをゲートで帰還させた後、ユミナ達と共に艦橋へ行き、リーンとサラにもエンデと出会った時の事を事細かく話した。
「成程ね。……つまりジャックもあのエンデという男性がどこから来たのか、とかはよく知らないと」
「あぁ。印象としては、『変な硬貨で買い物出来なかった変な奴』、くらいだったからな。まさか、フレイズにあそこまでの知識を持ってる奴だとは思いもしなかったんだよ」
「そう。それで、今の印象は?」
「……むしろ、余計に正体が分からなくなった。『なぜフレイズにあそこまで詳しいのか?』、『何故世界の結界と言う存在にも詳しいのか』、『どうやってミリシア級のシールドと俺やBTのレーダーに映らずにここに侵入し、そして去って行ったのか』。そして何より、『そもそも奴は人間なのか?』。……文字通り、疑問は尽きない。おかげでエンデという存在が良く分からなくなったくらいだ」
お手上げ、と言わんばかりに俺は両手を挙げる。
「それに、問題もまだある。あの時エンデは、俺達が今さっき倒した奴を中級種とか呼んでいた。もし仮に、俺達が以前旧王都で戦ったのと、リーンが遭遇したのが下級種で、今日遭遇したのが中級種だとしたら、更に上、上級種なんて物が存在する可能性がある」
「……あれよりも、もっと強いなんて」
と、どこか不安そうにリンゼが漏らす。が、無理も無い。
「ねぇジャック。あなたとしては何か対抗策は考えているの?」
「まぁ、一応な」
「じゃあ聞かせてくれるかしら?その対抗策って言うのを」
俺はリーンの言葉を聞き、『こいつらになら良いか』と考え話す事にした。
「今の俺の対抗策はいくつかプランがある。まず一つ目は、人間大サイズのBTみたいな奴、機械歩兵のスペクターを量産する事だ」
「そのすぺくたー、と言うのは?」
「簡単に言うと人間の指示を受けて戦う人間サイズの鉄の人形だ。鉄の人形だから、壊れたって資材がある限りまた新しく作れる。それに人間が鍛えて技を磨くのよりも早く、何なら1日であらゆる戦闘技術を覚えさせる事が出来る」
「成程。それにジャックが使ってるような武器を持たせるって事?」
「そうだ。今日使ったアーチャーや、この前見せたクレーバーなど、貫徹能力の高い武器を持たせる予定だし、今もBTやサラの協力を得て新型武器を鋭意開発中だ。だが、個人的にスペクターの軍団より欲しい物がある。それがBTと同じ、『タイタン』の軍団だ」
「どういうこと?」
「BTはそのタイタンという大型機械兵器の1種類なんだ。他にも様々な特徴を持った、BTみたいな奴が居る。それをミリシアの工房で量産出来れば、タイタンの軍団が作れる。タイタンの装甲とシールドシステムがあれば下級や中級のフレイズ相手でもやれるだろう、と言うのが俺の率直な意見だ」
「成程ね。それで、量産体制の目処は付いてるの?」
「一応は、な。素材となる金属などがあればミリシアの工房で量産は可能だ。性能は落ちるが、初期モデルのタイタンを量産なら可能だ」
と、俺はリーンの言葉に答えたのだが……。
「あの、ジャックさん」
「ん?」
「その初期型、と言うのは?」
リンゼの言葉を聞き、俺はあ~と思った。そうだ。こいつらがBT以外のタイタンを知ってる訳ないか。
「サラ、目的地まであとどれくらいだ?」
「まだ少し時間がかかりますが?」
「そうか。……なら、先にタイタンについて話しておくか。BT、端末にタイタン各機の画像データはあるか?」
「はい。あります。閲覧しますか?」
「あぁ。皆に見えるように空中に投影してくれ」
「了解。画像データ、投影します」
BTがそう言うと、端末から空中に映像が投影された。まず映し出されたのは、初期のタイタン3機であるアトラス、ストライダー、オーガだ。
「へ~~。これがあなたの言うタイタン?」
リーンは興味津々と言わんばかりに笑みを浮かべながら画像を見上げている。他の4人も、驚いている様子だ。
「そうだ。左から中量級のアトラス、軽量級のストライダー、重量級のオーガ。この3機が初期のタイタンだ。そして、そこから更に6機のタイタンに派生した。BT、次の画像を」
「了解」
次いで映し出されたのは、イオン、トーン、スコーチ、リージョン、ノーススター、ローニンの6機だ。
「これは?」
「こいつらはアトラスや、オーガ、ストライダーから派生した機体たちだ。便宜上、さっきの3機を第1世代。この6機を第2世代って俺は呼んでる」
リーンの言葉に答えながら画像を指さす。
「あれ?BTさんが居ませんけど?」
そこに響くリンゼの言葉。彼女の疑問も最もだ。
「それも無理は無い。BTは、第1世代から派生した第2世代とはちょっと違うのさ」
「違う、とは?」
首をかしげる八重。
「第2世代のタイタンは、それぞれが尖った個性を持っていて、質よりも量に重きを置いていた。それぞれに弱点があって、それを別の機体で補い合う、って事だ。一方のBT、ヴァンガード級は量よりも質を選んだんだ。おかげで他の機体より幾分か製造コストは高いが、それに見合うだけの汎用性と性能がある」
「汎用性って?」
っと、今度はユミナからの質問だ。
「BTは第2世代や第1世代、全てのタイタンの武装を搭載出来るんだ。おかげで、戦場で武装を切り替えても問題無く使える。だから様々な状況で最適な武器を使う事が出来るんだ。遠距離狙撃戦なら、ノーススターのプラズマレールガン。近距離格闘戦ならローニンのレッドウォールやブロードソードを、って具合にな」
「成程。単独での戦闘能力を高めたのね。……それで?ジャックとしてはどれくらい数を揃えたいの?」
「そうだな。単純に乗れる奴を集める必要もあるから、パイロット込みで30機から20機って所だろうな」
「あら?そのタイタンって言うのはあなたのBTみたいに自立的に動ける訳じゃないの?」
「まぁ不可能じゃないが、パイロットの有無はタイタンの戦闘力に大きく影響する。パイロットが乗っていない場合、タイタンは自分で全てを考えて動かなきゃならない。そうなるとあらゆる物に処理能力、あ~。力を割かなきゃいけない。周辺の警戒、敵の行動予測、味方の状況把握と場合によっては救援、武器の残弾管理とか、色々な。そうなるとタイタンは戦闘で100%の力を発揮出来ない」
「成程。だから乗り手である、あなたの言うパイロットが必要な訳ね」
「そうだ。……しかし、パイロットを揃えるにしたって、理想的なのは軍人や兵士、騎士、冒険者のようにある程度体を鍛えてる奴らじゃないと話にならない」
「そうなの?乗るだけなのに?」
「乗るだけ、って簡単に言うが。パイロットは個人の戦闘力だって問われるんだ。俺並み、とは言わないが、最低でも身体能力はエルゼや八重並みじゃなきゃな」
「え?マジで?」
引き合いに出されたエルゼが驚いている。
「あぁ。パイロットにはあらゆる状況に対応しなきゃいけない。単独での潜入や戦闘、情報収集。敵軍の中に自分と相棒のタイタンの、たった2人だけで孤立、なんてのもありえる。だからこそ高い戦闘能力や知識、経験、度胸。色んな物が必要になる。それに、仮に俺がそいつらを鍛えるとなると、俺がたまにやってる三次元機動、あれあるだろ?」
「あぁ。ジャック殿が壁を走ったり、腕から放つ糸で飛び回るあれでござるな?」
「そう。あれを『パルクール』って言うんだが、あぁいう動きが出来るだけの身体能力が、最低限求められるし。訓練だって命がけだ。生半可な奴はパイロットになれないし、そもそも俺がさせない」
「……その分だと、パイロットって相当過酷な訓練を課されるみたいね。ジャックもその訓練を受けたの?」
「ん?あぁいや。俺の場合はちょっと違う。俺のは……」
と、そこで俺は言葉を止めた。
大尉が死んで、形見のBTを託された事は、話題として重すぎるからな。
「……どうしたの?」
俺が黙ったことで、エルゼが心配そうに俺の顔をのぞき込んでいる。
「いや。何でも無い。……俺の方は、最初はパイロットじゃなかった。だが戦場で、臨時のパイロットに任命されて。後は訳も分からないまま経験を積んで、今に至るって訳だ」
「そうだったの」
と、そんな話をしていたときだった。
「マスター」
艦長シートに座っていたサラから声が聞こえてきた。
「指定された座標に到達しました。ただ……」
「ん?どうした?」
何やら迷っているような、困っているような表情のサラ。
「地表に遺跡らしき建物が確認出来ないのです。一面砂漠で」
「何?周辺の映像をモニターで映してくれ」
「了解。船体のカメラ映像、映します」
周囲に映し出される複数のモニターと映像。しかしサラの言うとおり……。
「……一面砂漠、ですね」
「ホント、何も無いわねぇ」
ポツリとユミナとシエラが感想を漏らす。彼女の言うとおり、遺跡などどこにも見当たらなかった。
「どういうこと?まさか遺跡が壊れて無くなったとか?」
「いえ。恐らく砂の下に埋もれてしまっているのね。ジャック」
「あぁ、何だ?」
「とりあえず下に居りましょう。砂は私の風魔法でどうにかするから、その先はお願い」
「分かった」
と言う事で、念のためアルファとブラボー・シエラの3人を船の護衛として残し、俺はユミナ、エルゼ、リンゼ、八重、リーンと共にゲートで眼下の砂漠に降り立った。
「『風よ渦巻け、嵐の旋風、サイクロンストーム』」
リーンの魔法で創り出した竜巻が砂漠の一角にあった砂を巻き上げ吹き飛ばしていく。
遺跡があるとされる部分が次第にすり鉢状に変わっていく。
すると、砂の下から家1軒分ほどの大きさのドームが現れた。
「あれがそうか。BT、お前は周辺警戒を頼む」
「了解」
「ユミナ達は俺の後ろから付いてこい。何があるか分からないからな」
「はい」
俺はホルスターからB3ウィングマンを抜き、慎重にドームの傍へと降りていく。
ドームは、コンクリートとも違う謎の材質で作られていた。だが問題があった。扉が無いんだ。いや、正確には扉のような物があるが、取っ手と思われるパーツが無いのだ。
「押せ、と言う事か?」
と、俺は呟きながら扉に触れようとしたが……。
「スカッ!」
「何っ!?」
何と扉を俺の手がすり抜けた。まさかの事でバランスを崩した俺は、敢えてそのまま倒れ込みながら前転で中へと突入する。すぐさま周囲にウィングマンの銃口を向けるが、罠らしき物はない。
『ジャックさんっ!?ジャックさん聞こえますかっ!』
すぐさま、コネクトデバイスを使ったリンゼの通信が届く。声はクリアだ。どうやら通信妨害はされていないようだな。
「安心しろリンゼ。聞こえてるしこっちは大丈夫だ」
『ッ!良かったですジャックさんっ!そちらの様子はっ!?』
「……見たところ、全体的に薄暗い。前方にイーシェンの海底遺跡で見たのと同型の魔法陣らしき物があるだけだ。さっきの入り口は……」
周囲をウィングマン片手に警戒しながら、左手で先ほど入ってきた所を押す。が、ダメだ。完全に壁となっていて出られそうにない。
「ダメだ。さっきの入り口は、入り口としてしか機能しないようだ。そっちから入れそうか?」
『だ、ダメです。お姉ちゃんが入ろうとしてますけど、ビクともしないみたいで』
「……適性者だけを通す扉、と言う所か。……分かった。お前達はそこを動くな。可能ならミリシアに回収して貰え。俺はこのまま、魔法陣で転移を試みる」
『分かりました。……ジャックさん、どうかお気を付けて』
「あぁ。行ってくる」
そう言って俺は通信を終えると、目の前の魔法陣へと歩み寄る。さて、どのバビロンが待ってる事やら。
魔法陣に魔力を流し込んだ俺を、あの時と同じように光が包み込んだ。
第19話 END
感想や評価など貰えるとやる気に繋がるので、良ければお願いします。