パイロットこと俺、ジャック・クーパーが異世界へ転生した2日目。俺は昨日知り合った双子の少女、エルゼとリンゼの案内でギルドへと冒険者登録にやってきた。
冒険者のランクや依頼などなど。色々な話を聞いた後、俺達にはギルドカードという物が発行された。これで冒険者登録は終了。早速俺達は受ける依頼を吟味していた。
真剣な表情の2人の傍で、俺はBTのニューラル通信を使って言葉を訳して貰っていた。すると、エルゼとリンゼは受ける依頼を決めたようだ。
「ジャックさんはどうですか?」
「ん?え~っと」
『BT、翻訳を頼む』
そう言って、俺はBTにリンゼが指さす依頼書の翻訳を頼む。
『了解。文字を識別中。……完了。この依頼の内容は、東の森にて一角狼という魔獣の5匹討伐する依頼です』
『討伐の依頼か』
「東の森で一角狼を5匹、か。うん、俺もそれで構わないぞ?」
「分かった。それじゃ受付に申請してくるから」
そう言って、依頼の紙を引っぺがして受付に向かうエルゼ。こうして、俺達の最初の依頼が始まった。
店を出た俺達は、まず武器屋に行き、エルゼが脚甲、要は脚部を守る防具を。リンゼが銀色のワンドを購入し、俺の方は道具屋で色々なアイテムが入っているツールボックスと言うのと薬草などの類いを購入した。
ちなみに、と言うべきか。武器屋に銃火器の類いは影も形も無かった。どうやらこの世界で魔法以外の遠距離攻撃、と言ったら弓が一般的らしい。ここに俺は前世(?)との技術レベルの差を感じたのだった。
そして、東の森へと向かった。
その道中。もうすぐ森に着くと言う所で。
「それにしても、アンタ武器はどうするの?まさか素手で魔獣とやり合う気?」
「いや。流石にそこまでうぬぼれてないよ」
ただ、やっぱり街中では悪目立ちするからな。
そう考えた俺は、立ち止まって左手首に意識を集中する。そして……。
『シュバッ』
まるで転送されてきたかのように、服の上にチェストアーマーやその他のアーマーパーツ、更にはヘルメット、ジャンプキットを装着する。
加えて、俺は召喚したナイフをチェストアーマーのホルスターに差し込み固定。更に同じように拳銃、『ハモンドP2016』も召喚し、マガジンを抜いて残弾を確認し、それを戻してスライドを引いて初弾を装填。P2016を右足のレッグホルスターに収めると、更にメインアームのサブマシンガン、『CAR』を取りだし、同じように弾を確認してから初弾を装填する。
こいつは俺が大尉からジャンプキットを託される前、ライフルマンとして戦っていた時から使い慣れた銃だ。
「さぁ、準備完了だ。行こうぜ」
そう言って、顎で前をしゃくるが……。
「ちょちょちょちょ、ちょっと待ちなさい!」
ポカ~ンとしているリンゼと、慌てた様子で声を荒らげるエルゼ。
「アンタ、今何したの!?ピカ~って光ったと思ったら変な鎧着てるし、何か武器も変だし!って言うかどこから出したの!?」
「あ~。やっぱ説明しないとダメか?」
「当たり前でしょ!?」
戸惑う2人。まぁ仕方無い。話すか。
俺は左手首のデバイスを2人に見せた。
「この手首に巻いてるアイテムが特殊でな。俺はこれの中に装備を収納してるのさ。そして、それらは俺の意思で取り出せる。こんな風にな」
そう言って、俺はリボルバー、『B3ウィングマン』を一度取りだし、再び収納する。
「アンタ、何気にすごいもん持ってるのね」
そう言ってため息をつくエルゼ。
「それにしても、不思議な格好ですね。騎士の鎧、でも無いですよね?」
逆にリンゼはマジマジとパイロットスーツを見つめている。
「騎士、か。当らずとも遠からず、って所かな?」
俺達パイロットはタイタンに乗って戦う。見方によっては馬に騎乗して戦う騎士と、似てなくも無い。
「え?どう言う意味ですか?」
「まぁ、その内話すさ。それより、今は依頼をこなす方が重要だろう?」
「っと、そうだったわね」
流石に今も依頼の最中とあっては、2人ともそちらに意識を向けた。
そして、俺達3人は東の森へと足を踏み入れた。
それからしばらくして。
「警告、前方、1時の方角より接近する物体あり。数は2」
左手首のデバイスからBTの声が聞こえ、俺は咄嗟にCARを構える。が……。
「「しゃ、喋った!?」」
後ろで2人がびっくりしていた。
だが、何かが近づいてきている。
「2人とも!驚くのは後だ!何か来るぞ!」
俺の怒号に、2人は慌ててそれぞれの武器を構える。
一瞬の静寂。と、次の瞬間。草むらを超えて黒い影が飛び込んできた。それは、額に角を持つ黒い狼だった。成程、こいつが一角狼か。その数はBTの言うとおり2匹。
俺は内心、そう考えながら躊躇う事無くCARのトリガーを引いた。
『ババババッ!ババババッ!』
高い連射音と共に放たれた弾丸が、寸分違わず狼の胴体に命中し、狼たちはそのまま地に伏す。
討伐の証として、奴らの角を持ち帰らないといけないので、銃弾で頭を吹っ飛ばして角を粉々にしないよう注意を払う。
「接近警報。敵、更に接近。総数4」
「了解っ!」
そこに聞こえるBTの声。そして先ほどと同じ狼が4匹現れた。二手に分かれ、2匹が俺に。残りの2匹がエルゼとリンゼに向かって行く。
だが……。
「はぁぁぁぁぁっ!」
一匹がエルゼのガントレットのパンチで吹き飛び……。
「『炎よ来たれ、赤の飛礫、イグニスファイヤ』」
もう一匹がリンゼの放つ魔法によって焼き払われた。
それに内心驚きながらも、残った2匹を俺が射殺する。
ふぅ。どうやら武器の性能も変わってないらしい。違和感などは感じられなかった。その後、俺達はすぐに狼どもの額から証拠の角を合計6本切り落した。
「ふぅ、あとはこれをギルドに届ければ依頼完了なんだけど……」
と言いつつジト目で俺を見るエルゼ。
「ジャック、説明してくれる?」
「はははっ、構わないぞ」
彼女のジト目に俺は苦笑を浮かべた。
「さて、BT。エルゼとリンゼに挨拶を」
「了解。はじめまして、エルゼ・シルエスカ。リンゼ・シルエスカ。私はBT―7274。パイロット、ジャック・クーパーのサポートをしているAIです」
「喋ったわね。やっぱり」
そう言ってため息をつくエルゼ。
「ジャック、アンタってホント色々規格外よね?」
「まぁな。色々訳ありなもんでね」
そう言うと、再びジト目で俺を見るエルゼ。
「あのぉ、BT、さんはその左手のアイテムの中にいらっしゃるんですか?」
対してリンゼはBTに興味があるようだ。
「いいえ。私は現在こことは別の場所に待機しており、この手首装着型デバイスを通じてパイロットの周辺状況の監視などを行っています」
「さっきこの狼に気づいたのも、BTが周辺を監視してくれていたおかげさ。俺の大切な相棒、って所かな」
「そう。……まぁ、ジャックが強いのは分かったし。おかげでこっちも楽できたからいっか」
「そう言って貰えるとありがたいな。まぁ、驚かせたお詫びだ。後で何か奢るさ」
そう言って、俺達は町へと戻った。
その後、ギルドに報告をした俺達は銀月に戻り、そこでお茶をしていた。その日はそれで終わり。夕食後は自分達の部屋に行き、俺はベッドで横になっていたが……。
「なぁBT。一つ聞いて良いか?」
「何でしょう?」
「神様のじいさんは、俺に魔法の適性がある、って言ってたよな?」
「はい。私が調べた所、確かにパイロットは火、水、土、風、光、闇、無の7つ全てに対して適性を持っています」
「7つも属性があるのか。それより無ってのはどういうことだ?」
「はい。無属性とは個人魔法とも称されており、使用者は自分だけの無属性魔法を使う事が出来ます。エルゼのブーストがこれに該当します」
「じゃあ、他の奴がエルゼと同じブーストを使う事は出来ないのか?」
「はい。似たような物で『パワーライズ』と言う物がありますが、これはブーストと効果が異なります」
「そうか。……しかし言葉で言われてもピンと来ないな。何か魔法の適性を調べる方法とかはないか?なんて言うか、目に見えて分かる形で」
「提言。それでしたら、『魔石』を使った検査を推奨します」
「魔石?」
「はい。魔石には魔法の源である魔力を増幅、蓄積、放出できる特性があります。基本的には、この魔石を使って魔法適性の検査が行われます」
「そうか。……BT、近くに魔石はあるのか?店とか」
「周辺をスキャン中。……発見しました。どうやら、リンゼ・シルエスカが持っているようです」
「リンゼが?」
「はい。提言、明日の朝、彼女に魔石の借用を相談するべきかと」
「あぁ、そうだな。んじゃあ明日の朝、リンゼに頼んでみるか」
そう言うと、BTとの会話を切り上げて俺は眠りにつくのだった。
そして翌朝。朝食の席で。
「はい?魔石ですか?」
「あぁ。BTが周囲をスキャンしたら、リンゼが持ってるって言ってたんだが……。それ、貸して貰えるか?」
「えぇ。構いませんけど、もしかしてジャックさんって魔法の適性があるんですか?」
俺に質問しつつも、魔石を取り出すリンゼ。
「あぁ、BTが言うにはそうらしいんだが、流石に自分で調べない事にはなんとも言えないからな」
「へ~。なら、ジャックがどれだけ適性を持ってるのか、見学させて貰おうかしら?あれだけ規格外なんだし、もしかして全属性持ちとか?」
「は、ははっ。そうか」
エルゼの言葉に俺は内心戸惑いながらも頷くのだった。
その後、銀月の裏に移動した俺達。エルゼとリンゼは少し離れた所で様子を見ている。やり方は大体リンゼに教わった。
魔石を手にして、意識を集中し、例えば水の魔石なら『水よ来たれ』って唱えるだけで良いらしい。
で、色々やってみた所。あったようだ。ほぼ全ての属性が。やっぱりか。と俺は内心思った。
後ろに振り返れば、エルゼとリンゼが呆然とした表情で目を瞬かせている。どうしたもんか?と考えながらも俺は無属性魔法用の魔石を取るが……。って、待てよ?無属性の魔石って何を唱えたら良いんだ?
って事でリンゼに相談したが……。
「え?無属性には決まった呪文が無い?」
「はい。無属性魔法が、個人魔法なのはジャックさんは……」
「あぁ、BTから聞いたよ。確か、個人それぞれ特有の魔法だから、個人魔法って呼ばれてるんだよな?そうだよなBT」
俺は手首の端末に声を掛ける。
「はい。異なる人物が同一の無属性魔法を使ったと言う事例は、私の内部にあるデータベースに存在しません」
「そうか。……ちなみにBT。使えたら便利な無属性魔法はあるか?」
「質問の回答を検索中。……出ました。移動用魔法の『ゲート』が、パイロットの言う便利に該当すると考えます」
「ゲート、か。どういう魔法なんだ?」
「はい。ゲートとは、離れた空間同士を繋ぎ合わせる事で瞬時に長距離を移動する魔法です。ただし、この魔法は一度行った場所など、明確なイメージを持たなければ開くことが出来ません」
「つまり行き先を知ってないと無理、って事か」
行き先。……街中じゃ目立つだろうし、昨日行った森にしてみるか。そう考えると俺は……。
「『ゲート』」
と、ポツリと呟いた。
すると……。
空中に薄い光の膜のような物が展開された。
「空間魔法ゲートの発生を確認。どうやらパイロットには他人の無属性魔法をも行使出来る適性があるようです」
淡々と報告するBT。一方でエルゼは呆然としつつもため息をついている。
「な~んか色々あってジャックの事は規格外だって思ってたけど、また驚かされたわ」
「す、すごいです。全部使える人なんて初めて見ました!」
呆れ気味のエルゼ。興奮気味のリンゼ。
「そうか?まぁ、その、なんだ。俺は『パイロット』だからな」
「「パイロット?」」
と、2人揃って首をかしげる。
「あ、あぁ。……まぁ、2人に分かりやすく言えば、戦闘の天才、って所だろうな」
「へ~。そのパイロットって、ジャック以外にも居るの?」
「いや、いないと思うぞ?」
エルゼの言葉に俺はそう呟く。
まぁ、俺以外のパイロットがいたら、それはそれで問題だがな。
そう考えながら俺はゲートを閉じた。とにかくまずは、俺が全ての魔法適性に加えて、無属性魔法を全て行使出来る可能性がある事が分かった。これだけでも十分収穫だろう。さらに言えば、BTの中には魔法のデータベースもあるらしい。更に言えば、俺達はこの世界にはない知識がある。それは追々、何かに行かせるだろう。
俺はそんな事を考えていた。
その後、銀月の中に戻る俺達。そろそろ昼飯の時間なので食堂に向かったのだが……。
「ん?」
見ると食堂で、この宿の看板娘の『ミカ』と見慣れない女性が何かを話していた。するとミカが俺達に気づいた。
「あぁ、ちょうどよかった」
「ミカ、何か用か?」
「うん。ちょっとね。あぁ、この子は『アエル』って言って町の『パレント』って喫茶店で働いてるんだけど……」
「実は、ウチの店で新メニューを出そうかと考えてるんですけど……」
「旅の人なら何か良い料理を知ってるんじゃないかと思ってね」
そう言ってアエルとミカは俺達に説明する。
「何か良い料理を知っていたら教えて欲しいんです」
「そうか。まぁ俺は良いが、エルゼとリンゼは?」
「私は別に良いけど……。でも、ぱっと浮かばないわねぇ。リンゼは?」
「うん。私もすぐには出てこないかも。 ジャックさんはどうですか?」
と、俺に話題を振るリンゼ。
しかし料理か。……俺はフロンティアに居た頃料理なんてした事無いぞ?大体が軍で飯食ってたし、後はインスタント食品やらなんやらが基本だ。……何せ、男の、それも軍人の、付け加えるなら寮暮らしだからな。知り合いに料理が好きな奴が居たが、俺はそれを見てたくらいだし。
「う~ん。ちなみにだが、料理の方向性とかは分かるか?ジャンルって言うか、なんて言うか」
「そうですね。……やっぱり軽く食べられるもの、ですかね。あとはデザートというか、女性受けするものなら更に良いんですが……」
成程ね。う~ん。…………ダメだ。浮かばない。やっぱり俺にそっち系の知識を求められても困るな。ここは……。
「BT、何か良い料理は無いか?」
俺は相棒に頼る事にして、手首の端末に声を掛けた。
「了解。データベースにアクセスします。検索ワード、軽食、甘い物、女性受け。以上のワードから料理について検索中。少しお待ち下さい」
端末のディスプレイが明滅し、BTの声が聞こえる。
すると、傍に居たミカとアエルが驚いている。
「えっ!?何何!?なにそれ!クーパー君の持ってるそれ喋るの!?」
「び、びっくりしました!」
「あぁ。この声の持ち主はBT。俺の相棒みたいなものさ」
と、説明していると……。
「検索終了。料理名、『クレープ』を提案します」
「く、クレープ?」
BTの声にアエルは首をかしげる。
どうやらこの世界にはクレープとやらが無いらしい。まぁ、俺も実物を見た事は無いが。
「BT、クレープについて画像付きで概要を説明出来るか?」
「了解。画像を空中に投影します」
と言うと、端末が輝いて空中にクレープの画像が表示された。
「おぉっ!すごっ!」
「こ、これがクレープ、ですか?」
驚くミカとクレープに興味津々のアエル。
「アンタ達、ホント規格外よねぇ?」
「す、凄いです。宙に絵が浮いてますっ!」
呆れ気味のエルゼと投影技術に興味津々のリンゼ。
「クレープとは、小麦粉に牛乳やバター、砂糖などを加えた後、薄く伸ばした物を焼き、生地を作ります。その後、生地の上に生クリームや砂糖漬けのフルーツ、ジャムなどを掛けて食べる物です。また、具材についてはハムや鶏肉、チーズや野菜などを入れて軽食として提供する事も可能です」
そう言いながらBTは、ご丁寧にクレープを作る作業の映像を流す。
「成程。ちなみにBT、クレープを選んだ理由は?」
「はい。その理由としましては、クレープは中に入れる具材によって様々な組み合わせが出来る事からバリエーションも豊富である事。女性受けという観点からフルーツやクリームを使っている事。クレープ生地に包まれている事から手が汚れにくい事。使用される具材を比較的簡単に入手出来る事から、クレープを選択しました」
「成程ね。と言う事らしいんだが、どうだろうか?クレープは」
「は、はい。どう言う料理かはなんとなく分かりました。早速作ってみたいと思いますが……」
っと、そういや細かいレシピは分からないよな?ここは……。
「BT、クレープを作る詳細なレシピはあるか?」
「はい。データベースにいくつか」
「なら、それを使ってやってみるか。クレープ作り」
って事で、俺達はクレープを作る事になった。つっても、作るのは基本アエルでBTはレシピを見ながらアドバイス。俺たちは見守りながら手伝える事を手伝っただけだ。
フルーツの砂糖漬けなんかは、運良く銀月でミカが漬けていた物を拝借した。で、出来上がった完成品を食べてみると……。
「美味しい……!」
「へ~、甘くてしかも食べやすいね~これ!」
アエル、ミカ共に満足しているようだ。リンゼとエルゼも美味しそうにクレープを食べている。俺も手にしたクレープを食べる。あっちじゃ甘い物なんてそうそう食べられなかったからな。前世のレベルが分からないから比べようもないが、まぁ、確かに美味い。
「と、こんな物だがどうだ?」
「十分です!ありがとうございます!」
そう言ってアエルは喜んでいた。どうやら
俺のアイデアは採用のようだ。
「そいつは何よりだ。まぁ、また何か知りたいのがあったら聞きに来てくれ。BTは色々物知りだからな」
「はい!ありがとうございます、BTさん!」
「どういたしまして」
アエルは端末に向かって礼を言い、BTもそれに答えるのだった。
それから数日後。俺達4人は馬車で王都へと向かっていた。理由はギルドの依頼で、手紙を運ぶためだ。王都へはリフレットの町から馬車で5日はかかる。往復すると最低10日。更にその他諸々込みで考えると、2週間はリフレットを離れる計算になる。俺達は馬車を借りてリフレットを出発した。
ちなみにと言うか、俺は馬車が扱えないので若干肩身が狭い。
馬車に揺られながら街道を行く。そんな中で俺はギルドでの二人とのやり取りを思いだしていた。俺は最初、メガスライムって魔物の討伐をやろうとか思ってたんだが、二人に即行で拒否された。話を聞くと、ブヨブヨでネバネバしたスライムが生理的にダメらしい。あと、
スライムは服を溶かしてくるんだとか。しかし、服だけ溶かすとか意味が分からん。どんな魔物だよ。と、俺は内心首をかしげるのだった。
その後、俺達はいくつかの町を越えて、アマネスクの町に着いた所で日が暮れだしたので、そこで宿を取る事にした。宿を取った後、俺達は食事処を探して街中を散策していた。
だが……。
「ん?」
何やら前方が騒がしい。人だかりをかき分けて進んでいくと、道の真ん中で男達が女の子一人を取り囲んでいた。
問題は彼女の格好だ。それは、俺がまだフロンティアに居た頃、仲間に見せられたジャパニーズ漫画の1ページに出てきた格好とそっくりだ。確か、和服、とか言う名前の服を着て、腰には2本の刀を装備している。あれが、所謂ジャパニーズサムライガールって所か。
俺が成り行きを見守っていると、男達は一斉に彼女に襲いかかった。会話を聞いていると、どうやら酒に酔って暴れた連中が彼女にぶちのめされ、衛兵に突出されたので復讐しに来たって所か。
だが、男達は彼女の近接格闘術によって軽くあしらわれている。……あの動き、合気道か?それに動きのキレからして、どうやらかなりの鍛錬を積んできたようだ。女だからと舐めてかかると痛い目に合いそうだ。
だが、不意に彼女の動きが悪くなる。何だ?俺が内心首をかしげた時、彼女の背後から男が襲いかかった。
ちっ!?良く分からんが、見捨ててはおけないなっ!
『BT!パルスブレード!』
『了解っ!』
俺の手元が光り、そこにパイロットの装備であるパルスブレードが出現した。
『ビュッ!』
俺はそれをすぐさまスローイング。パルスブレードは彼女に襲いかかろうとしていた男の左肩に突き刺さる。
「ぎゃぁっ!?」
悲鳴を上げる男。俺は駆け出し、起き上がろうとして男の背中を踏み台にして跳躍。呻く男の頭を蹴り飛ばす。もちろんその一瞬で左肩に刺さっていたパルスブレードは回収する。
「ジャックさんっ!?」
後ろでリンゼの叫ぶ声が聞こえた。だが俺は半ばそれを無視して、更にもう一本。予め腰元に装備していたデータナイフを抜き、パルスブレードと合わせて二刀流で構える。
「な、何だテメェっ!」
「ただの助っ人さ。お前達を倒すなっ!」
そう言って俺は踏み込み、もう一人の男の、棍棒の攻撃をデータナイフで逸らし、パルスブレードを肩に突き立てる。
「ぐあぁっ!?」
俺は呻く男の腹を蹴って吹き飛ばす。
「あぁもう!やっかいごとに首を突っ込んで!」
そこに更にエルゼも参戦してきた。そして数分後、男達は俺とエルゼ、あの少女によってぶちのめされた。
その後、警備兵が駆けつけてきたので俺達は和服の彼女を連れてその場を離れた。
そして、俺達は路地裏まで来ると息をついた。
「ふぅ、ここまで来れば大丈夫だろう」
そう言って、俺は和服の彼女の方へと視線を向けた。
「大丈夫か?怪我は、見たところしてないようだが……」
「はい。怪我などはしておらんでござる。改めて、ご助勢かたじけなく。拙者、九重八重ともうす。あ、ヤエが名前でココノエが家名でござる」
ファミリーネームが前に来るのは、やっぱり日本人の名前の様式と同じ、か。
「成程な。あぁ、俺はジャック。ジャック・クーパーだ」
「私はエルゼ・シルエスカ。こっちは双子の妹のリンゼ・シルエスカよ。もしかしてあなた、イーシェンの生まれなの?」
「如何にも!イーシェンのオエドから来たでござる!」
エルゼの言葉に頷く九重。にしても……。
「イーシェン?ってのは?」
「あれ?ジャックは知らないの?大陸の東にある国の名前よ」
「なるほど。なら九重は東からずっと旅してきたって訳か」
しかし、東の国のイーシェン、か。服装からして、恐らく異世界版ジャパン、と言った所か。
って、そう言えば……。
「あ、そうだ。さっきの戦いを見てたが、九重は大丈夫なのか?途中で動きが鈍ったように見えたが?」
そう俺が声を掛けると……。
「あ、えと、そのぉ。実は拙者、ここに来るまでに路銀を落としていまい、それで……」
何から顔を赤くして呟く九重。すると……。
『ぐぅぅぅぅぅ~~』
彼女の腹が鳴った。顔を真っ赤にする九重。
「あ~成程。了解した」
そして俺は苦笑しながらそう呟くのだった。
その後、俺達は空腹の九重を誘って食事をすることにした。最初は施しは受けない、とか言って俺達に奢られるのを渋っていた九重だったが、交換条件としてイーシェンの話を聞かせて貰う事にした。
話を聞くと、八重(そう呼んで良いと言われた)は武者修行として世界各地を回っているらしい。成程ね。……しかしよく食うな八重は。一人でゆうに5皿以上の料理を平らげたぞ。どうなってるんだあいつの胃袋は。そんだけ腹が減ってたのか?と、内心俺は苦笑していた。
ちなみに、彼女も王都を目指しているらしく、それを聞いたエルゼの提案で彼女としばらく行動を共にする事になった。
更にちなみにだが、路銀の無い彼女に泊まれる宿など無いので、俺達の宿に一緒に泊らせる事にした。もちろん八重は戸惑っていたし、『そこまで世話になるわけには!』みたいな事言っていたが……。
「良いから。こうして会ったのも何かの縁だ。少しくらい他人の好意に甘えても良いんじゃないか」
「ジャック殿」
「それに、俺も男だ。これくらいの甲斐性が無いとな」
そう言って俺は肩をすくめる。更にエルゼとリンゼの説得を受け、八重は俺達と同じ宿に泊る事になった。
そして夜。俺はベッドで一人体を休めていたが……。
「……イーシェン、か」
いずれ、行ってみたい物だ。そう考えながら、俺は静かに眠りにつくのだった。
第2話 END
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