異世界はBTとともに   作:ユウキ003

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楽しんでいただければ幸いです


第3話 初フォール

アマネスクの町にて、八重と出会った翌日。俺達は八重を加えた5人で旅をしていた。今日の朝、町を出てからしばらくして八重にBTを紹介するとめちゃくちゃ驚いていた。まぁ、普通そうなるわな。

 

ちなみに八重も馬の扱いが出来るので、馬車は女性陣3人の交代制で運転されている。……俺も馬の扱いをどこかで教わるべきか、と考えながらも、俺はBTと会話しながらも無属性魔法を色々物色していた。町で無属性魔法が記載された本を見つけたが、めちゃくちゃ分厚い本だった。法律の本かよ、と俺は内心思ったくらいだ。

 

なので、その本ではなくBTを頼る事にした。

「パイロット。『アポーツ』などいかがでしょうか?」

「アポーツ?効果は?」

「はい。近くにある小物を手元に引き寄せる魔法です」

「小物を引き寄せる、か。やってみるか。BT、フラグを出してくれ」

「了解」

すると、右手に光が集まって、俺達の世界の武器、フラググレネードが現れた。それを掌の上でポンポンと弄んだ後、そのままポーンと1メートルほど上空に投げる。

「『アポーツ』」

そして魔法を発動すると、中に浮いていたはずのフラグが俺の手に一瞬で戻ってきた。

「……フラグくらいは行けるか」

その後更に、今度はリボルバーの『B3ウィングマン』を試したが、流石にこれはダメだった。距離も銃弾を使って測ってみたが、はっきり言ってそこまで離れた物は引き寄せられなかった。

「……有効距離は10メートルも無いな」

ぽつりとつぶやく俺。すると……。

「ジャックさん」

「ん?」

「ジャックさんって目が良いんですね。見ただけで距離が分かるんですか?」

「ん?あぁまぁな。パイロットとかだと、相手や物、建物何かとの距離感などを正確に測る必要があるからな」

 

実際、ウォールランなどでは今走っている位置から次の位置へ飛ぶのに、どれだけ力加減が必要なのかなど、距離感を正確に割り出しそこから更に色々な計算をしなきゃならない。そう言う意味では、目の力も必要なのだ。

 

「ジャック殿。そのぱいろっと、と言うのは一体」

「そうだな。俺並みに強い連中、って所かな。まぁ、今のところこの世界で残ってるパイロットは俺一人かもしれんが……」

「何か良く分かんないわね~パイロットって」

「ははっ、まぁ、な」

俺はそこで敢えて言葉を濁す。

 

パイロットは、素早く、華麗で、圧倒的。常に冷静で、臨機応変。その上、冷酷。

 

正に戦士としての、完成形だろう。パイロットとタイタン。たった二人でさえ、戦場の優劣をひっくり返す事だって出来る。

 

戦場における最強の兵士達だ。そして俺もまた、パイロットとして名を連ねた一人だ。その姿に、強さに、以前の俺は憧れた。

 

だが、パイロットは所詮、人殺し。彼女達のような優しい子たちが、パイロットなんて言う危険で冷酷な存在に憧れないで欲しいと、俺は思ってしまった。

 

俺は結局、戦ってばかりの人生だった。女と付き合った事も無い。抱いたことはあっても、それは所詮娼婦。誰かと本気で付き合い、愛し合った事なんて、俺には無い。そしてそのまま、俺は兵士となり、パイロットになった。今にして思えば、俺は戦い以外、知らない事が多すぎるのだな、と。俺は内心思うのだった。

 

 

その後、町を出てから3日が経過した。その日俺はBTのアドバイスで『ロングセンス』という魔法を学習していた。

 

このロングセンスという魔法は、感覚拡張魔法だ。視覚、嗅覚、聴覚などを強化するこの魔法を使えば、遠方の索敵や情報収集にも役立つものだ。

「成程。こいつは使えるな」

遠くに見える木の一本一本。その枝に止まる鳥まで見える。

 

「ちょっとジャック。使えるのは良いけど、絶対!覗きとかには使わないでよね!」

と、エルゼを始め女性陣3人から俺はキツく釘を刺されていた。

「ったく、お前たちは俺を何だと思ってるんだ?俺にそんな趣味は、ッ!!」

 

普通に会話をしていたその時。俺の嗅覚が、嫌ってほど嗅ぎ慣れた『その臭い』を感じた。

更に視覚を研ぎ澄ませる事で、前方の状況を確認する。

 

場所は森林の一本道。そこで馬車がリザードマンの群れに襲われていた。

「ッ!八重!前方で戦闘だ!飛ばせ!」

「ッ!承知っ!」

八重が馬に鞭打ち、馬車を加速させる。馬車は森林地帯へと向かっていくが……。

 

クソッ!速度が遅い!こうなったら!

「BT!襲撃地点の座標は分かるか!?」

「はい、既に特定済みです」

そうか、だったら……!

 

「BT!タイタンフォールスタンバイ!」

「了解。ロードアウト選択、エクスペディション。……準備完了、BT―7274,タイタンフォールスタンバイ」

「よしっ!行けっ!」

「了解っ!」

俺達の会話に3人が戸惑う。

 

と、次の瞬間、空で光が瞬き、エルゼとリンゼが上を見上げる。そして、光の中から影が落下し、それが前方の森へと落下していった。

「な、何今の!?」

「ジャックさん、何かしたんですか!?」

戸惑うエルゼとリンゼ。

 

「BTだよ」

「び、BT?」

「あぁ。俺達は普段、あいつとこの端末を通して会話してるだけだ。あいつの本体は、ずっと別の場所にあったのさ。それを今呼び寄せた。それが、『タイタンフォール』だ」

「タイタン、フォール?」

 

「あぁ。今頃、BTがやってくれてるはずだ。とは言え、俺もこのままのんびりしてるわけにはいかないな」

俺は座っていた助手席から立ち上がり、端末に意識を集中するとスーツ、ヘルメット、ジャンプキットを装着し更にCARを取り出した。

 

「悪いが先に行く」

それだけ言うと、俺は左手からグラップリングフックを射出。樹の枝を利用して振り子のように加速し、そのまま木々の枝を飛び移りながら先へと急いだ。

 

 

「なっ!?なんでござるかあれは!ジャック殿は一体!?」

戸惑う八重。

「全く。あいつは本当に私達を驚かせるのが好きなんだから!」

エルゼは呆れながらもガントレットを装着していく。

「とにかく、今は急ぎましょう」

リンゼもワンドを出しながら戦闘態勢だ。そして、彼女達はジャックの後を追った。

 

 

一方、戦いの場は混乱していた。襲撃を受けた兵士達は次々とやられ、残る護衛の数はあと5人。このままでは全滅か、と思われた時。空から何かが降ってきて兵士達とリザードマンたちの間に落下。爆音と振動と砂塵を巻き上げたそれに彼等は戸惑った。

 

どちらも警戒して動けなかった。その時。

「BT―7274、戦闘を開始します」

『ズドドドドドドッ!!』

砂煙を突き破って、銃弾の雨がリザードマン達に降り注いだ。それは、BTの持つ武器、『XO―16』から放たれる銃弾の雨だ。それは簡単にリザードマン達を挽肉に変えていく。

 

だがそれだけではない。

 

「アコライトポッド起動」

 

その時、砂煙を左手で振って払うBT。そしてこの時初めて、BTの7メートルを超える巨体が兵士達やリザードマン達の前に現れた。緑をベースカラーとする、光る翡翠色の単眼を持った鋼鉄の巨人。タイタンを知らない者が見れば真っ先にそう思うだろう。

 

リザードマン達は呆然としていた。そして、それ故に死に繋がった。

「ロックオン、ファイヤ」

BTの肩にあるアコライトポッドには無数の誘導弾がセットされている。そしてそれは人間サイズの物体でもロックオン出来るのだ。

 

マルチターゲットミサイルが放たれリザードマン達を跡形も無く吹き飛ばす。

 

この事態に呆然となる兵士達。その時。

「おいっ!」

彼等の近くに、謎の兜を被った人物、つまりパイロット、ジャック・クーパーが現れ着地した。

 

 

「何ぼけっとしてる!あの馬車を守るのがお前達の仕事だろ!」

「な、何だ貴様は!」

「味方だよ!そして、あのでっかい緑の巨人の相棒だ!」

そう言って俺はBTの背中を指さす。

 

と、その時俺はBTの背後に回ろうとしているリザードマン数体に気づいた。

「させるかっ!」

奴らがどんな力を持っているか分からない以上、背後を取らせるのは不味い。

 

『バババッ!バババッ!』

そう考えた俺はCARの引き金を引き、

リザードマン達を倒す。

「ここは俺達が引き受ける!あんた達は馬車を守れ!」

そう言うと俺は駆け出した。リザードマン達は2方向に分かれて馬車へ行こうとしている。片方はBTが抑え、もう片方を俺が抑える。

 

だが、CARが弾切れになるタイミングで数体のリザードマンが迫ってきた。足止めのグラビティスターを投げようとした時。

 

「『炎よ来たれ、渦巻く螺旋、ファイアストーム』」

リザードマン達を飲み込む炎の竜巻。俺は後ろに飛んで炎の竜巻から離れる。すると……。

「全く!一人で出しゃばりすぎよジャック!」

後ろからエルゼ、リンゼ、八重が馬車に乗って現れた。

「エルゼ!リンゼ!八重!」

「後ろは任せて下さい!」

「助太刀致す!」

エルゼと八重が前に出て、リンゼの魔法がそれをサポートする。3人の攻撃に加え、BTと俺の射撃。リザードマンたちをなぎ払うのに十分な攻撃力だった。

 

だが、倒しても倒しても次が来る。

「クソッ!どうなってる!?」

俺は悪態をつく。その時。

「パイロット、リザードマンの後方に闇魔法の使い手を確認しました。奴が召喚魔法でリザードマンを召喚していると思われます」

「ッ!」

そう言う事か!だったら!

 

「BT!射線を開け!」

「了解っ」

俺の指示に従い、次の瞬間BTのXO―16の射撃とマルチターゲットミサイルの斉射がリザードマンを蹴散らす。

 

「な、何っ!?こうなれば!『闇よ来たれ、我が求むは……」

「遅いっ!」

俺が手にした『ハモンドP2016』を抜く。CARは残弾0だ。だが、この距離ならば……!

 

『バババババンッ!』

P2016から放たれた銃弾がローブ男の体を撃ち抜いた。そして、ローブ男は力無くその場に倒れた。すると、それが引き金となってリザードマンたちは消えていった。

「……これで終わりか?BT」

「はい。周辺をスキャンします。……敵影は確認出来ません」

「そうか」

BTの言葉に頷くと俺はマガジンを再装填したCARの銃口を下ろす。そしてエルゼ達の方に歩み寄った。

 

「エルゼ、リンゼ、八重。無事か?」

「えぇ、あたしは大丈夫よ」

「わ、私もです」

「拙者もでござる」

……どうやら3人とも大丈夫なようだ。見たところ怪我なども無い様子だ。それを確認した俺は兵士達の方へと近づき、メットを脱いだ。

 

「安心しろ。俺は人間で味方だ」

そう言うと、剣を構えていた彼等は切っ先を下げた。

「被害の方はどうだ?」

「……護衛10人の内、5人が倒れた。クソッ、もっと早く気づいていれば……」

「兄さん」

兵士の一人が、リーダー格の男に向かって兄さんと声を掛ける、どうやら二人は兄弟のようだ。

 

「仲間の死を悔やむ気持ちは分かるが、後にしろ。死者よりも生者の事を考えろ」

その言葉に、彼等や後ろのエルゼ達がどこか息を呑むのが分かった。

 

「……酷な事を言っているかもしれないが、生きているのなら、まだ出来る事ややれる事がある。……それより、アンタ達は護衛だろ?護衛対象は?」

「ッ!そうだった!お嬢様!」

リーダー格の男が馬車に向かって叫んだ。すると……。

 

「誰か!誰か来てくれっ!爺が、爺が!!」

馬車の中から悲痛な声が聞こえた。俺達が駆けつけ中をのぞき込むと、そこでは金髪の少女と、執事服姿の初老の男性が、胸から血を流し苦しそうにしていた。

 

「誰か爺を助けてやってくれ!胸に、胸に矢が刺さって!」

「任せろっ!」

回復魔法はBTから学習済みだ。ここは……!

「待って下さいパイロット」

しかし、それを後ろに居たBTが止める。

「何だBT!どうした!」

「対象の体内に矢の前半部分が残ったままです。このままですと回復魔法を掛けても体内に異物が残ってしまいます。そうなると内臓損傷のリスクが高まります。まず先に、内部の矢の摘出を推奨します」

「摘出って……!」

俺はBTから男性に目を向ける。

 

無理だ、俺に医療の知識や経験なんて無い。そもそも設備や道具もないっ!摘出手術は無理だ。どうする?何かいい手は……。俺が悩んでいると……。

「お嬢様……」

「爺っ、爺っ!」

「お別れで、ございます。……お嬢様と過ごした日々は、ごふっごふっ!」

苦しそうにむせる男性の前で少女は濁流のように涙を流す。

 

クソッ!何か、何か無いか!今の俺には、魔法だってあるんだ!何か……!と、その時。

「パイロット。無属性魔法、アポーツの使用を推奨します」

「ッ!何?」

「アポーツならば、目標の体内にある矢を摘出できる可能性があります」

そう言ってBTは右手で男性の胸を指さす。確かに、その通りだ。

「やってみる価値はあるかと」

「了解したBT!」

 

俺はすぐさま男性の前に屈む。

「おいじいさんっ!今からアンタを助けられるかやってみる!」

「え?」

俺の言葉に隣に居た少女が目を見開き俺の横顔を見つめている。

「諦めるのは、それが失敗してからにしろ!」

そう言うと、俺は目を閉じて意識を集中する。

 

そして……。

「『アポーツ』!」

俺が叫ぶと、血で真っ赤に塗れた矢の前半部分が俺の手に収まった。よしっ!

「摘出成功だ!BT!」

「続けて、光属性魔法、キュアヒールによる治療を推奨します」

「了解だBT!」

 

俺はBTの指示に従い、再び男性と向き直り、その胸部に手を翳す。

「『光よ来たれ、安らかなる癒やし、キュアヒール』」

俺が詠唱を唱えると、白い光が傷を癒やす。

 

「う、うぅ、痛みが引いて……」

やがて、じいさんがむくりと体を起すと、俺の隣に居た少女がじいさんに飛びついた。

「爺ッ!爺っ!」

涙を流しながら彼女が喜ぶ様を見て、俺は立ち上がり馬車から降りた。

 

すると……。

『グッ!』

BTが左手でサムズアップをしていた。それを見て俺も……。

『グッ!』

左手でサムズアップをするのだった。

 

その後、俺は5人の兵士達の墓を作るのを手伝った。BTが居れば作業も楽だった。そんな中で俺は、彼等の遺品を一つずつ持って帰る事を提案し、更に……。

「彼等の遺族に伝えろ。彼等は最後まで、勇敢に使命を全うした、誇り高き戦士であったと。逃げず、怯えず、彼等は戦い、彼女を守るために命を落としたと。彼等は勇敢であったと、遺族に伝えろ」

「……あぁ、伝えるさ。必ず」

リーダー格の男は、仲間の一人が身につけていたペンダントを握りしめながら頷くのだった。

 

その後、俺達は復活した執事、少女、更には5人の兵士達と向き合っていた。

「感謝するぞジャックとやら!お主は爺の、いや、爺だけではない!わらわの命の恩人じゃ!」

……なんて言うか、子供なのに変わった喋る方をするんだな、と俺は思っていた。

「挨拶が遅れました。私、オルトリンデ公爵家家令を務めております『レイム』と申します。そしてこちらのお方が公爵家令嬢『スゥシィ・エルネア・オルトリンデ』様でございます」

「スゥシィ・エルネア・オルトリンデだ!よろしく頼む!」

公爵って、確か貴族だよな。周りを見るとエルゼ達が地に膝を突いているので俺も倣う。……後、後ろのBTも地面に膝を突いている。

 

まぁ良い。

「失礼しました。素性を存じ上げなかったもので。どうかご容赦を。スゥシィ様」

とりあえず、敬語で何とか謝る。昔見たドラマだと、悪徳貴族ってのは頭下げなかっただけで怒ってたりしたもんなぁ。とか考えていると……。

 

「よいよい!皆面を上げよ!公式の場では無いのじゃ!敬語もいらん!スゥと呼ぶが良い!なにせ、ジャックたちはわらわの命の恩人なのじゃからな!」

と言われ、俺達は立ち上がった。

 

しかし……。

「にしても、何でスゥはこんな場所に?」

「お祖母様の所から戻る途中じゃった。じゃったが……」

「そこを襲撃したのか。……しかし、あれだけの召喚魔法が使えるのなら、賊の線は薄いか」

そう言って、俺はチラッと殺したローブ男に目を向けた。

クソッ、こんな事なら殺さずに捕えておけば良かったか。俺は内心歯がみする。

 

その後、レイムから俺達に話しが来た。

「護衛として、俺達を雇いたい?」

「はい。今の我々ではお嬢様を安全に王都まで連れて行く事は出来ません。助けて貰った上で差し出がましいのですが、王都までの護衛をお願いできませんでしょうか?無論、王都に着き次第お礼を払わせていただきます。いかがでしょうか?」

そう聞かれ、俺は3人の方に視線を向ける。

「エルゼ、リンゼ、八重、どうだ?俺は引き受けても良いと思ってるが?」

「良いんじゃない?どうせ王都へ行くんだし」

「私も構いません」

「拙者は乗せて貰っている身なのでジャック殿の判断に任せるでござる」

……どうやら反対意見は無いみたいだな。

 

「分かった。王都までの護衛を引き受ける」

「うむ!よろしく頼むのじゃ!」

こうして、俺達は何の因果かスゥを護衛する事になった。

 

そして、出発するとき。

「ジャックさん。出発しますよ」

馬車の助手席に座っているリンゼが俺に声を掛けるが……。

「悪い。俺は別で行く」

そう言って馬車を離れ、BTの方に向かっていく。

 

チラッと周囲を見ると、皆その行動を訝しんでいるようだ。まぁ良い。

「行くぞBT」

「了解」

そう言うと、BTはその場に膝を突き、胴体でもあるハッチを開いた。上下に割れたハッチにエルゼ達が驚いている中、俺はBTに飛び乗り、コクピットシートに体を収めた。

 

「操縦権をパイロットに移行」

そう言って立ち上がるBT。外では……。

「び、BTがジャックを食べたぁっ!?」

「ジャックさん大丈夫ですか~!?」

エルゼやリンゼを始め、皆慌てている。

 

やれやれ。

俺は首を左右に振ると上部ハッチだけを開いて顔を出した。

「お~い、心配するな」

「じゃ、ジャック殿!」

「安心しろ。俺は食われたんじゃ無い。こいつに乗ってるだけだ」

そう言うと、再びハッチを閉じて俺はスピーカーをONにする。

 

「さぁ、行こうぜ。王都まではあと少しだ。次の襲撃が無いとも限らないからな」

俺が促すと、彼らは呆然としながらも馬車を動かし始めた。ちなみにBTから話を聞くと、この国での公爵家は王族の血縁を意味するらしい。休憩がてらスゥに聞いてみると、彼女の

父が国王の弟らしい。つまりスゥは国王の姪っ子って訳か。そんな人物に出会うとは。俺の新天地での生活は中々に凄まじい物だな。

 

そう考えながら、俺はBTに乗ったまま先頭を歩くのだった。その後ろを馬車たちが続く。残っていた兵士の内の一人は手紙を持って早馬で王都に向かった。残っているのは兵士4人と俺達だけだった。兵士達は襲撃を警戒していた。俺もレーダーに気を配りながらBTの歩みを進める。

 

最も、その後は襲撃も無く無事に王都まで辿りついたが。

 

『ベルファスト王国』の首都、『アレフィス』。『パレット湖』という湖の畔に創られたこの首都は別名『湖の都』とも呼ばれているらしい。

 

俺は王都郊外でBTを降りた。その後BTは特殊な帰還システムによってどこかへと戻っていった。これも転生の特典として神様が付けてくれた物だ。スゥが、光の門の中に消えていくBTを名残惜しそうに見つめていた。

 

「わらわも、乗ってみたかったのじゃ」と言う呟きには聞こえないふりをした。

 

その後、俺達は王都へと入り、バカみたいにデカい屋敷へとやってきた。

「ここが公爵家の家か」

一体いくつ部屋があるんだか。窓だけでも三桁はありそうで、前世の、フロンティアの『家』と比べて凄すぎるギャップに内心頭が痛くなってきた。

 

俺達はレイムに促されるまま、スゥの後に続いて玄関の扉を潜った。ちなみに今の俺は、メットだけを取って後はアーマーとジャンプキットを装着したままだ。

 

中に入ると、ビシッと横一列に並ぶメイドたち。更に奥には、如何にも貴族と言わんばかりの服を着た金髪の男性が立っていた。

「スゥ!」

「父上!」

どうやらあの男性がスゥの父親らしい。二人は無事の再会を喜ぶかのように抱き合っていた。が……。

 

「おぉ!君たちが娘を助けてくれた冒険者たちか!」

そう言って、彼は俺の空いている右手を両手で取って握手をした。かと思うと、何とその場で膝を突いたのだ。俺の後ろにいた女性陣3人は驚きまくりである。

 

「礼を言うぞ」

そう言って膝を突く男性。後ろでは3人が対応に困っている。

 

「どうか頭を上げて下さい。偶然とはいえその場に居合わせた者として、出来る限りの事をしただけです。お礼を言われるような事は何も。……それに」

俺は静かにギュッと拳を握りしめる。

 

「救えなかった命もあった。だから、俺に礼は必要ありません」

例えスゥたちを助けられたとしても、5人の兵士が死んだ事には変わりない。後ろではエルゼ達が戸惑っている様子だった。

「もし、俺への礼をお考えなのでしたら、それよりも、貴方の娘を守る為に命を落とした兵士の遺族達の事を考えてやって下さい」

 

俺も、戦争の中で多くを失った。家や家族、友人、仲間。そして恩師。その悲しみは果てしない物だ。だからこそ、少しでもその悲しみを和らげる為に出来る事をして欲しい。これは、凄惨なフロンティアでの戦いを知っているからこそ、俺が思うようになった事だ。

 

「分かった。善処しよう」

そう言って立ち上がる男性。

「さて、では改めて自己紹介をさせて貰うとしよう。私は『アルフレッド・エルネス・オルトリンデ』だ。少年、君の名前は?」

「俺はジャック。ジャック・クーパー」

「ジャックか。改めて、礼を言わせてくれ。ジャック殿。娘やレイム、そして兵士達を守ってくれた事。感謝する」

その言葉に俺は……。

 

「俺は、兵士として当然のことをしたまでですよ」

そう言って、俺は敬礼をするのだった。

 

その後、俺達は屋敷に招かれお茶をしながら話す事になった。エルゼ達3人は相変わらずカチカチだが、俺の方はまだ公爵家の偉さ、と言う物がいまいち分からない。なので3人ほど固まっては居ない。

 

「そうか。君たちはその手紙を届ける依頼の途中で」

今は俺が公爵様に、あの場に通りかかった経緯を説明していた。

「はい。その道中、襲撃に偶然鉢合わせた、と言う訳です」

「そうか。……であれば、君たちがその依頼を受けたことに感謝しなければな。そうで無ければ、スゥは誘拐されたか、或いは殺されていたかもしれない。依頼した者には感謝だな」

「そうですか。……所で、襲撃者の黒幕については何か知りませんか? 心当たり、と言うか」

「私の立場上、邪魔に思って居る貴族も少なくは無い。そう言う輩が襲撃者を雇ってスゥを攫い、私を脅そうとでも考えたのだろう」

「成程」

 

傍目には平和な国も、一つ蓋を開ければ中身は権力闘争の真っ只中、と言う訳か。と、そこへ。

「父上。お待たせしたのじゃ」

先ほどの服装と変わって、ピンク色のドレス姿のスゥがやってきた。

 

「エレンとは話せたかい?」

「ううん。心配させてはいけないので、襲われた件は黙っていたのじゃ」

「エレン?公爵様の奥様ですか?」

「あぁ。私の妻であり、スゥの実の母親だ。……すまないね、スゥの恩人が来ていると言うのに顔も見せず」

「いえ、それは構いませんが、何か理由が?」

「あぁ。……実は、妻は目が見えないのだよ」

と、公爵様はどこか俯きながら呟く。

「病気、か何かですか?」

「あぁ」

俺が問いかけると公爵様は頷いた。

「5年ほど前に病気を患ってね。幸い一命は取り留めたのだが、後遺症として視力を失ったのだ」

「魔法での治療はなされたのですか?」

「もちろん行った。だがダメだった。

 怪我などの肉体の損傷は修復出来ても、

 病気などの後遺症を治す事は……」

リンゼの問いかけに公爵様は首を横に振った。

「そうですか」

魔法も万能ではない、と言う事か。

 

「お祖父様が生きておられたら」

ん?

その時、スゥがポツリと呟いた。

「もしかして、治す手段は少なくとも『あった』のですか?」

「あぁ。スゥの祖父、エレンの父上は特別な魔法の使い手でね。体の異常を取り除く事が出来たのだ。今回スゥが旅に出たのも、その魔法を何とか解明し、習得出来ないかと考えたからなのだよ」

成程。その研究の帰りに襲われた、という事か。と、その時。

 

「失礼ですが、少しよろしいでしょうか?」

端末からBTの声が聞こえ、公爵様が驚いた。

「な、何だ。今の声は?」

キョロキョロと周囲を見回す公爵様。

「驚かせて済みません。これは俺の相棒の声です」

そう言って俺は手首の端末を公爵様に見せた。

 

「紹介が遅くなりました。私はBT―7274。パイロット、ジャック・クーパーのサポートをしている物です」

「BT!」

その声にスゥが目を輝かせる。

「お主は爺を救う手立てを考え思いついた程じゃ!また何かあるのか!」

まくし立てるようにスゥが叫び、それを公爵様が宥めている。

「BT、質問があるみたいだが、どうした?」

と、俺が先を促す。

「はい。先ほど、エレン様の父君が特別な魔法の使い手、と仰っていましたが、それは無属性魔法の『リカバリー』で間違いありませんか?」

「そ、そうだっ!」

BTの声に公爵様は驚きながら頷く。そして、俺は無属性魔法と聞いて小さく笑みを浮かべた。

 

「そう言う事なら、もう一働きするか」

そう言って俺は立ち上がった。

「アルフレッド様。そのエレン様の所へ案内していただけませんか?もしかしたら、失明した目を治せるかもしれません」

「ほ、本当か!?ならばすぐに!」

 

こうして、俺はもう一働きする事になった。

 

公爵様とスゥに案内されてたどり着いた部屋では、若い女性が座っていた。だがその目の焦点は定まって居らず、俺達が前に立っても気づいた様子は無い。やはり、視力を失っているのか。

 

俺はまず彼女の傍に立ち、胸のアーマーを叩いて音を出し、彼女の注意を引く。

「あら?そこに誰かいるの?」

「はじめまして。俺はジャック・クーパー。エレン様の目を治すためにこちらへ」

「え?私の、目を?」

「はい。……リラックスして下さい。今から治療を行います」

 

そう言って、俺は彼女に近づく。傍では公爵様とスゥ、レイム、エルゼ達が固唾を呑んで見守っている。俺は静かに彼女の目元に手を翳し……。

「『リカバリー』」

魔法を発動した。

 

結果は……。

「見える。見えます。見えますわ!あなた!スゥシィ!」

無事成功のようだ。エレン様は涙を流しながら公爵様やスゥと抱き合っている。その姿に俺は息をつく。すると……。

 

「やっぱりアンタなら出来ると思ったわ!」

エルゼが突然抱きついてきた。

「流石ですジャックさん!」

更に俺に抱きつくリンゼ。二人とも嬉し涙を浮かべている。

「失敗を恐れず人助けをする心意気、拙者、ジャック殿を心から尊敬するでござるよ」

八重も涙を流しながら喜んでいる。

 

けど……。俺は静かに2人を離す。

「この力は、俺の物じゃないさ。俺はただそれを借りただけ」

そう言って俺は2人から離れた。この力は神様から与えられた適性と、かつて在った魔法のおかげだ。……俺個人の力じゃない。

 

彼女の視力回復を俺は喜ぶ中で、内心俺はどこか自虐的な笑みを浮かべるのだった。

 

それはきっと、ここに来るまでに感じた事が原因かもしれない。ここに来るまで、幾度も魔法を使用して俺は命を救ってきた。だが、それは逆に、魔法が無ければ多くの命を救えなかった、と言う事だ。結局の所、俺自身は戦う事しか知らないのだな、と改めて感じたのだった。

 

 

その後、俺達は改めて公爵様と話をしていた。

「娘だけでなく妻まで助けて貰った。君たちにはきちんと礼をしたいのだ」

「いえ。それには及びません。あの魔法も、俺はただ無属性魔法が使えたと言うだけで、俺個人の力ではありません。所詮はパクリのようなもの」

「本当に君は謙虚なんだな。だが、余りすぎた謙遜はどうかと思うぞ?」

そう語って笑みを浮かべる公爵様。

 

「とにかく受け取ってくれ。私達の感謝の気持ちだ。レイム」

「はい」

公爵様の傍に控えていたレイムがテーブルの上にトレーを置く。そのトレーには大きめの袋と小さな装飾された箱があった。

 

「まずはこれを」

と言って袋を手に取り俺の差し出す公爵様。

「娘を助けてくれた事と、道中の護衛に対する謝礼だ。受け取ってくれ」

「分かりました」

俺が代表して受け取るが……。

『ズシッ!』

「ッ!?」

予想外に重くて驚いた。金貨か?だがこの重さ、どれだけ入ってるんだ?

 

「お、重い。公爵様、これ、中にはいくら入っているんですか?」

「中に白金貨で50枚入っている。君たち4人とBT君の5人分。1人白金貨10枚だと思ってくれ」

と説明する公爵様だが……。

「「「ッ!?」」」

女性陣が何故か固まっている。

 

「お、おい。なんで驚いてるんだ?」

「は、白金貨は金貨の上の貨幣よ。1枚で金貨10枚分よ」

金貨の更に上だって?こりゃ相当な額だぞ。

「いくらなんでも、この額は多過ぎではないのですか?」

どう考えても一介の冒険者に払われる報酬の額じゃない。

「良いんだ。それに、今後冒険者を続けていくのならその金は必要になる。取っておきなさい」

「そ、そうですか」

俺達は金を受け取るが、エルゼ達は完全に戸惑っている。

 

更に……。

「皆にこれを」

そう言って公爵様は5枚のメダルを取り出した。皆に一つずつ。俺はBTの分も含めて2個貰った。

「我が公爵家のメダルだ。これがあれば検問所は素通り。貴族しか利用出来ない施設も使える。何かあったら、公爵家が後ろ盾になると言う証だ」

……それはまた、随分な物を貰ったな。公爵家とは王族。つまりこれを持っていると言う事は、俺達は王家と繋がっているぞ、と周囲に言っているような物だ。

 

俺達5人のコインはそれぞれ別物で、名前と共に単語が彫られていた。

エルゼが「情熱」。

リンゼが「博愛」。

八重が「誠実」。

そして、BTが「力」。

俺が「兵士」だった。

 

成程、確かに俺にぴったりの単語だった。そうだ。俺は兵士だ。その意味を、俺はかみしめながら静かにメダルを握りしめるのだった。

 

その後、俺達は公爵達の家を後にした。その時スゥが名残惜しそうにしていた。最も、また今度遊びに来ると言ったらとても喜んでいたが。

 

まぁ、こうして公爵の邸宅を後にした俺達は無事手紙を届け終え、これからについてを話し合う事にした。時間は既に夕暮れ時だ。

 

「さて、これで無事依頼は終了だな」

「そうね。これからどうする?」

「まぁ、普通に考えてリフレットの町に戻るのが妥当だろう。この馬車も返さなきゃならんしな」

そう言って俺は後ろの馬車を親指で指さす。

「しかし、八重はどうする?お前の目的は王都に来る事だったんだろ?」

「その事についてでござるが、拙者、決めたでござる!ジャック殿に、この身を捧げるでござる!」

「「えぇっ!?」」

「……………。はぁ?」

顔を赤くするエルゼ達。一方の俺は首をかしげるだけだ。俺としては、なんでいきなりそうなるか甚だ疑問だからだ。

 

「あっ!?いやっ!これはそのっ!そう言う意味ではござらん!」

慌てて否定する八重。

「え?じゃあどう言う意味?」

と問いかけるエルゼ。

 

「んんっ!短い道中ながら、その人となり、見せて頂いた。強大な力がありながら驕らず、常に人を救う道を選ぶ。その姿勢、感服致した。加えて、残された者への配慮も忘れぬその姿勢は正しく滅私奉公のそれでござる。我欲ではなく、他人を思いやる姿勢もまた素晴らしいでござる。それに、ジャック殿は戦い慣れている様子。拙者が強くなるためにも、ジャック殿の傍で、その技術を見て学びたいのでござる!」

「……だから、俺と一緒に来ると?」

俺は小さくため息をついてから問い返す。

 

「左様でござる」

……成程ねぇ。まぁまずは……。

「エルゼ、リンゼ。2人はどうだ?八重が一緒に来る事には賛成か?」

「あたしは賛成。どうせならもっと一緒に旅したいし」

「私も賛成です。折角出会ったのに、ここでお別れは寂しいですから」

どうやら2人はOKのようだ。

「そうか。分かった。なら俺も異論は無い。……だが、八重。お前は俺を勘違いしている」

「え?」

俺の言葉に八重は戸惑った様子だ。

 

「お前は、俺を驕ってないとか、常に人を助けているとか言っていたが、それは買いかぶりって奴だ。俺は、そんな英雄とはほど遠い」

「し、しかし、ジャック殿はその力で何人もの人を救ってきたではござらんか」

「……確かに助けた。だが、それは俺に全ての魔法に対する適性があったからだ。そしてこの適性は、努力の結果手にした物ではなく、先天的な物だ。持ってれば確かに凄いだろう。……だが、楽して手に入った適性を褒められた所で、俺は嬉しくは無い。……それに、俺は八重が思ってる程善人って訳でもない。……お前はまだ、俺の本質を知らない」

「ジャック殿の、本質、でござるか?」

「そうだ。……仲間として一緒に来る事は俺も素直に歓迎する。だが、俺がどんな人間かは、もう少し俺を見て観察してから考えてくれ」

「……わ、分かったでござる」

 

戸惑う八重に、俺はため息をついてから右手を差し出す。

「とにかく。今日からは一緒の仲間だ。言ったろ?素直に歓迎するとな。……改めてよろしくな、八重」

「ッ!もちろんでござる!」

そう言って八重は俺の手を取った。

 

こうして俺は、新たな仲間を得たのだった。

 

     第3話 END

 




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