王都へたどり着いた翌日。俺達は(女性陣の提案で)ショッピングをする事になった。馬車は泊った宿に預け、俺達は王都を散策する事に。女性陣3人は一緒に王都を回るらしい。俺は一人だ。3時間後、宿に集合と言う事だが、さて、どうするか?
正直、俺には買いたい物も無い。武器も好きなときに出せる。鎧の類いも同じ。アーマーがあるので、買う必要性を感じないのだ。仕方無く俺は王都のあちこちを歩き回る。BTには王都の詳細な地図がインプットされているので迷う事は無かった。
時折買い食いをしながらも俺は王都をぶらぶらと歩いていた。しかし……。街中を見ると獣の耳と尻尾の生えた人間がいる。彼等についてはリンゼに聞いたが、人と似て異なる種族、『亜人』というのがこの世界には存在するらしい。獣の耳と尻尾を持つ彼等は、『獣人』というのに分類されるらしい。
そんな獣人達の事をチラ見していると……。何やら道ばたで辺りをキョロキョロと見回す獣人の女の子を発見した。尻尾の形と色からして、狐みたいだな。しかし、困っている様子だった。……どうせだ。助けてやるとするか。
そう考え、俺は少女の方に近づく。
「あの、どうかしましたか?」
その時俺は、なるべく彼女を怯えさせないように敬語で話しかけたのだが……。
「ひ、ひゃい!?なんでしゅか!?」
……。噛むほど怯えられた。正直、若返ったおかげでそこまで強面じゃないと思うんだが、まぁ仕方無い。
「あぁ、突然声を掛けて驚かせたのならすまない。何やら困ってる様子だったから声を掛けただけだよ」
俺はなるべく彼女が怯えないように、優しい声色で語りかける。
「どうかしたのか?迷っているようにも見えたが?」
と、続けて声を掛けると……。
「じ、実は私、連れの者とはぐれてしまって!」
今にも泣き出しそうな顔で語る少女。
「そうだったのか。そういうときの為の待ち合わせ場所とかは?」
「はい。ルカという名の魔法屋に、来るようにと言われていたのですが、ここがどこかも……」
成程。そう言う事か。しかし俺では分からないな。ここは相棒を頼るか。
「BT、ルカという名の魔法屋の位置は分かるか?」
「はい。地図データで確認しました。ルートガイドを開始します」
流石は相棒だ。頼りになる。視線を端末から彼女に向ければ、やっぱりBTの声に驚いていたが気にしては居られない。彼女にルカの場所が分かった事を話して、彼女を連れて歩き出した。
その道中、彼女の名前はアルマである事。王都に仕事で来ている姉について来た事などを聞いた。逆に俺は冒険者の仕事として王都に来ている事を話した。そうこうしていると、目的地に到着。
「アルマ!」
「あっ!お姉ちゃん!」
そこにはアルマと同じ狐の獣人の女性が居り、二人は再会を喜ぶように抱き合う。どうやら無事に再会出来たようだ。その後、俺はお礼を、と言われたがそれを断り、その場で二人と別れた。
その後も、俺はぶらぶらと町を歩く。屋台などで串焼きなどを買い食いしながら、ブラつく。
平和だ。ここは、平和だ。
「……フロンティアとは、大違いだな」
公園のベンチに座り、俺は町を歩く人々を見つめながらポツリと呟く。
『パイロット、ここは異世界です。違いはあって当然かと』
その時、BTの声が頭の中に響いた。
『そう言う意味じゃないさBT。ただ、フロンティアでは同じ人間の俺達が殺し合い、ここでは異なる種族の人間達が共生している。そう言うのは、皮肉じゃないか?』
『皮肉、ですか?』
『あぁ。……俺はパイロットだ。戦場で敵を殺す兵士だ。……だが、この世界に俺の敵、倒すべき敵はどこにもいない。平和なのは、良い事だろう。だが俺は、これから先、何の為に生きていけば良い?』
俺は、フロンティアの自由のためにミリシアへ入った。IMCの圧政から、故郷であるフロンティアを解放するために。
だが、その戦いももはや俺の与り知らぬ物となってしまった。ならば俺はどうすれば良い?何と戦えば良い?この平和な世界で。
そう思うと、戦う事しか知らなかった俺がこんな平和な世界で生きている事が、どうしようもない皮肉に思えてくる。
だが……。
『パイロット、私には貴方の悩みを理解しきる事が出来ません。ですが、アドバイスならば出来ます』
『アドバイス?』
俺はBTの言葉に首をかしげた。
『はい。例え戦うべき敵がいないのだとしても、今のパイロットはエルゼ、リンゼ、八重と言った仲間と旅をしています。そんな彼女達を守る事が、貴方には出来るはずです。クーパー』
そうか。……そうだな。
「そうだな、BT。少なくとも今、俺には守るべき仲間が、彼女達が居る。彼女達を守る事が、当面は俺の生きる理由なのかもしれないな」
そう、ポツリと呟くと俺は立ち上がった。
「さて、と。そろそろ約束の時間だ。戻るぞ、BT」
『了解』
そして、俺達は彼女達との約束の場所に戻った。
そんな中で俺は、彼女達を幸せにする為に、自分に出来る事をしようと決心するのだった。
その後、俺達は王都を出てから俺のゲートでリフレットへ帰還。依頼の報告も無事終了し、八重も冒険者登録する事が出来た。八重の初めての依頼という事でタイガーベアなる魔物を討伐したりしつつ、俺達はいつも通りの生活をしていた。
そんなこんなで、王都の帰還から2週間が経過した。ここ最近、外は雨続き。俺達も依頼を休んでいるが、いかんせんやる事が無かった。そんな時、俺はBTの提案である物を作った。それが、『将棋』、『チェス』、『オセロ』の3つのゲームだ。
これを作るのには、『モデリング』という無属性魔法を使った。物質を自由自在に変化させられるこれがあれば、最悪自分で銃弾や銃を作る事も可能だ。……もっとも、正確なイメージが必要だが。
まぁとにかく、モデリングの練習という事でこの3つを作ってみた。オセロは知っていたし、将棋はミリシア時代の仲間に教えて貰った事もあって覚えて居た。チェスは殆ど知らない。
で、将棋やオセロの事を周りの連中に教えたらこれが、思いのほか人気が出てしまった。将棋は男連中に。オセロは女性や子供に人気が出てしまった。俺は周囲に急かされるままモデリングでこれらを作りまくる羽目になった。
この雨続きのせいで、外で何かする事も出来ず、俺が昼時に銀月の食堂に降りると、ミカの父親であるドランと、町の武器屋の店主である『バラル』が将棋で戦っていた。
「まだやってるのか将棋?飽きないのか?」
俺は呆れ混じりに問いかける。
「と言っても外がこれだからなぁ」
と言って外に目を向けるドラン。
「いや、アンタ達店はどうしたんだよ?客商売だろ?」
「そっちは女房に任せてあるから大丈夫だ」
……だそうだ。
やれやれ、この世界は相当娯楽が少ないと見える。とか思って居ると……。
ん?そういや昼時だってのにエルゼ達3人の姿が見えないな?
「なぁミカ。エルゼ達知らないか?」
「あぁ、リンゼちゃんなら部屋に居ると思うけど、エルゼちゃんと八重ちゃんは出かけたわよ」
「出かけた?この雨の中を?」
と、俺が首をかしげていると……。
「ただいま~」
ちょうどそこにエルゼと八重が戻ってきた。
「おかえり、エルゼ、八重」
「あ、ジャック。ただいま」
「ただいまでござる」
「出かけてたんだな?どこ行ってたんだ?こんな雨の中」
「あぁそれはね、パレントの新作お菓子を買いに行ってたのよ。濡れたけど雨のおかげで人が少なくて助かったわ」
「美味かったでござる」
どうやら既に店でも食べてきた様子。……相変わらずの大食いだな八重。まぁ、デザートは別腹、なんて言葉もあるし、俺が気にする事でもないか。
「はいこれ、ミカさんの分」
「ありがと~」
どうやらミカはエルゼ達に自分の分を頼んでいたらしい。二人が買ってきた箱は全部で4つ。一つはミカのだ。
「あと、リンゼの分に、私達の。それと、はい」
最後の一つを俺に差し出すエルゼ。
「ん?何だ。俺にくれるのか?」
「違うわよ。これは公爵様の分。お世話になったお返しね」
成程。そう言う事か。
「って事で、ゲートで届けてきてね?」
「……はいはい。分かったよ」
エルゼの言葉に俺はため息交じりに立ち上がった。ちなみに、エルゼ達に付いてくるか?と聞けば、恐れ多いと言って断った。……やれやれ。
とか思いながら、俺はゲートで王都の公爵邸に向かった。
「うまぁ!これうまぁ!」
「はしたないですよスゥ。でも、本当に美味しいわ。この『プリン』と言うの」
公爵様たち3人は、俺が持ってきた菓子を喜んでくれた。
俺はパレントのアエルに頼まれ新しい菓子を教えていた。それがプリン、エクレア、シュークリームだ。その3つは、既にクレープに並ぶパレントの大人気商品だ。
そしてそれは3人に好評のようだ。
「これをいつでも食べられるとは、リフレットの人達が羨ましい限りだ」
「良かったらレシピを屋敷の料理人に教えますよ。レシピはBTが知っていますから」
「本当かジャック!母上、これから毎日食べられるのじゃ!」
「もう、スゥったら。1日おきにしておきなさい」
……1日おきでもこれを食ってたら飽きるし太るだろ、と俺は考えたが、流石に口に出す事は出来なかった。
その後、公爵様には将棋を。エレン様とスゥにはオセロを教えた。
しかし、何十回と公爵様の将棋相手をさせられ、時間はすっかり夜。スゥは眠っている始末だ。……本当に、この世界の娯楽は少ないんだな、と、俺はこの時実感したのだった。
その後、俺達はある依頼を受けた。
「はっ!」
ジャンプキットの力を利用して、廃墟と化している旧王都を駆け回る。瓦礫の山を蹴って跳躍した直後、俺が居た場所に大剣が振り下ろされる。振り返れば、首の無い漆黒の騎士の魔物、デュラハンが俺を追いかけてきた。
今回の依頼は、こいつの討伐だ。だが周囲にエルゼやリンゼ、八重の姿は無い。今3人は、デュラハンと一緒にいた一角狼の群れと戦っている。3人にはそちらを任せ、俺はこいつとタイマン勝負をしていた。……いや、BTもいるから違うな。
等と考えながら、俺は攻撃を回避し手にしていた武器、『グラビティースター』を奴の足下に投げ込む。
グラビティースターは着弾と同時に重力を発生させ、周囲の物を引き寄せる手裏剣型の武器だ。前に踏み込もうとするデュラハン。だが、流石に奴でも重力には逆らえないようだ。宙に浮かび上がり、意味も無く大剣を振るだけだ。
それを見て、俺は柱の瓦礫の上に着地し、手首の端末から武装をコール。対タイタン用の武器である『チャージライフル』を取りだし、狙いを定める。こいつは、タイタンの装甲を貫いてダメージを与える。パイロットなんか一撃で消え去る威力だ。
「お前に、耐えられるか……!」
回転する加速器。そして、次の瞬間一条の閃光が放たれ、デュラハンの胴体を貫く。鋼鉄をも溶かし貫く閃光はデュラハンの胴体にいとも簡単に穴を開け、後ろへと抜ける。だが、それだけでは倒しきれなかった。グラビティースターの効果が切れて、爆発と同時にデュラハンを吹き飛ばす。それでも倒す事は出来なかったのか、ヨロヨロと奴が動き出す。どうやら倒す事は出来なかったがダメージはあるようだ。
と、その時。
「ぜりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
デュラハンを横合いから蹴飛ばす者がいた。エルゼだ。更に彼女に続いてリンゼと八重も戻ってくる。
「エルゼ!狼たちは!」
「ばっちし!しっかり倒してきたわよ!」
「よしっ!あとは、こいつだけだ!」
そう言って、俺は新たに、速射式ミサイルランチャー、『サイドワインダーSMR』を取り出した。
「食らえェッ!」
『ボボボボボボボボボッ!!!』
サイドワインダーから放たれるマイクロミサイルの雨が起き上がろうとしていたデュラハンに殺到し、その体をバラバラに吹き飛ばすのだった。鎧と中を満たしていた黒い闇のエネルギーも消え、粒子となって風に舞い、消えていく。
「ふぅ、終わったな」
それを確認すると、俺は構えていたサイドワインダーSMRの銃口を下げた。
「お疲れ様です、ジャックさん。ジャックさんがデュラハンの相手をしてくれたおかげで、楽に一角狼の群れを倒す事が出来ました」
「そうか。怪我とかは無いか?」
「えぇ。アンタがデュラハンを引き受けたおかげでね」
「と言うか、ジャック殿の方こそ大丈夫でござるか?あれほどの敵と、1対1だったのであろう?」
「あぁ、その辺りは気にしなくて良い。俺も怪我はしてない。……とは言え、
流石に疲れたがな」
そう言って、俺は近くの瓦礫に腰掛ける。
「そうね。ジャックのゲートもあるし、少しここで休んでいきましょう」
と言うエルゼの提案もあり、俺達は少しここで休憩していく事にした。
「しかし、旧王都と言っても何も無いんだな。ここは」
周囲に見えるのは、瓦礫ばかり。僅かに建物があった痕跡が残るばかりだ。ここは特に、かつての王城があった場所らしいが、やはり何も無い。
「王家の隠し財宝とかあれば面白いんだけどね~」
そう語るエルゼ。しかし、隠し財宝か。
「BT、念のため周囲をスキャン出来るか?」
「了解」
すると、BTが周辺をスキャンしていく。やがて……。
「解析完了。索敵範囲に未確認のエネルギー特性を検知しました」
「何?場所は?」
「地下です。通路入り口は瓦礫で埋没していますが、洞窟部分はほぼ無傷で残っています。その洞窟の最奥に、微弱ですが未確認のエネルギー特性を検知しました」
「そうか。……財宝かどうかは分からないが、何かあるのは間違い無い、か」
そう言い切って振り返ると。
後ろでは興味津々の3人娘が。
「ハァ。……探してみるか」
俺はそう呟き、BTの案内で俺達はまず埋没している、と言う入り口の所まで行ってみた。
確かに、そこには瓦礫の山があった。
「入り口はこの下です」
「そうか」
とは言え、瓦礫を俺達4人で退かすには時間が掛かりそうだ。BTをフォールさせるか、とも考えていると、何とリンゼが魔法で瓦礫を吹き飛ばしてしまった。
その事に驚きつつ、リンゼって意外と大胆なんだな、とも思いながら、俺達は瓦礫の下にあった扉を開けて、中へと進んだ。
中は照明一つ無い薄暗い洞窟で、光源としてリンゼの『ライト』の魔法と、俺の左手に持っている小さなライトがあった。右手にはハモンドP2016を構え、ライトを持った左手首と右手首で十字を描くようにしている。これで、銃口を向けた先にライトの光が当るのだ。
「さて、一応何も居ないと思うが、警戒はしておけよ?」
「ちょっ!?そんな幽霊が出そうみたいな事言わないでよ!」
そう言って顔を青くするエルゼ。八重もその隣で首を上下に振っている。
どうやら二人は、オカルトやホラーの類いが苦手なようだ。
「一応だって一応。つぅか、さっきのデュラハンだって幽霊みたいなもんだろ。出てきたとしても、所詮あんなのさ」
「だから出てくる前提で話しないでよぉ!」
悲鳴にも似た声を上げるエルゼ。俺はやれやれ、と思いながらも歩みを進めた。
俺とリンゼが先頭、その後ろに八重とエルゼがぴったり張り付いている。そして、進んでいくと……。
「ッ、何だこの扉は」
前方に巨大な扉が現れた。俺はライトでその扉を照らすが……。
「こいつは、文字か?」
扉にはびっしりと文字のような物が彫られていた。
「リンゼ、BT。この文字みたいなの、読めるか?」
「いえ。全く分かりません。古代魔法言語、でも無いですし」
「扉をスキャン中。……ネガティブ。私のデータベースにはない言語です。当該物体をスキャン中。……熱ルミネッセンスによる年代測定の結果、最低でも1000年以上前の物と推定されます」
リンゼ、BTの順に答えるが……。
「1000年以上前。王都の遷都時期よりも前にあったと言う事か」
しかし、となればデータが必要か。
「BT、扉の文字のデータをスキャンして保存出来るか?」
「はい。可能です。端末を扉の方向へ向けて下さい」
「分かった」
俺はBTに言われた通り、手首の端末を扉へ翳す。するとそこから青い光が溢れ出し、扉を左から右へとスキャンしていく。
「ジャックさん?何を?」
「少しな。念のため扉の事をBTに記憶させているんだ。今は翻訳できないとしても、記録が残っていれば、この扉が最悪破壊されても後で確認出来るからな」
そう話をしている内に、BTのスキャンが終了した。
念のため周囲を調べていると……。
「あ、ねぇみんな、こっちに来て」
エルゼが何かを見つけたようだ。
「ここ、何か埋まってるわ」
そう言って壁を指さすエルゼ。
「これ、土の魔石か?」
色合いが似ているから見分けづらいが、壁に土の魔石らしきものがはめ込まれていた。
これは、まるで開閉スイッチのようだった。
「BT、この魔石の辺りをスキャンできるか?」
「了解。対象をスキャン中。……完了。どうやらこれは、扉の一部を土砂へと変換しこの先へ進むためのスイッチと思われます」
「そうか。トラップの可能性は?」
「ネガティブ。周辺にトラップのような反応は確認できません。その可能性は著しく低いかと思われます」
「そうか」
となれば、やってみるか。
「エルゼ達は下がっててくれ。念のためにな」
「う、うん」
エルゼ達が下がるのを確認すると、俺は魔石に魔力を流し込んだ。すると直後、洞窟が振動。俺は咄嗟にP2016を構えながら周辺を警戒するが、その時、謎の文字の壁の一部が砂状に変化して開いた。
「成程。こいつは言わば、扉を開けるスイッチだったって訳か」
砂煙が収まると、俺を戦闘に全員が中へと進んでいった。
そして、一本道の終わりにあったのは、何かの像だった。ゆっくりと近づいて、像に触ってみる。どうやら埃を被っているようだ。それを払うと、下から現れたのはガラスか何かで出来た物体だった。
「BT。この物体の成分分析は出来るか?」
「スキャン中。……結果が出ました。しかし、私のデータベースにはない分子構造をしています。現在の強度などはガラスに近いようですが、分子構造が一致しません」
「そうか。ん?」
その時俺は、ガラスの中に何か、コアらしきものがあるのを見つけた。何だ?と思った直後、俺はリンゼのライトの光が薄くなっているのに気づいた。その時、俺は何か嫌な予感を感じた。
「リンゼ、君が維持出来るライトの時間は?」
「え?私の適性なら、2時間くらいは維持出来ますけど」
「そうか。じゃあなんで、ライトの球が小さくなってるんだ?」
「え?……あ、本当です」
リンゼがライトの光を見上げながら、光球が徐々に小さくなっている事に気づいた。
と、その時。
「警告!像内部のエネルギー値増大!魔法エネルギーを吸収している模様!」
BTの声が響いた。直後に、像の内部にあった赤いコアから光が漏れ始める。更に、直後から超音波のような不快な音が響き渡り、皆耳を押さえる。更にこの超音波のせいで周辺の壁に亀裂がっ!
「ッ!『ゲート』!」
俺は咄嗟に外へゲートを開いた。
「全員今すぐ飛び込め!」
俺が叫ぶと、エルゼ、八重、少し遅れてリンゼが飛び込んだ。最後に俺が飛び込んだ直後、轟音と共に洞窟が陥没した。
寸での所で最後に俺が飛び出す。が……。
「全員今すぐ戦闘に備えろ!」
俺は叫びながらアサルトライフルの『R-201』を取り出す。それに応じて、八重は剣を抜き、エルゼもガントレットを嵌める。
「BT!奴は!」
「目標、地表へと接近中!間もなく接敵します!」
BTが叫んだ直後、大地を割って現れたそれは、一言で表すならクリスタルで出来た車サイズの虫だ。アーモンド型の体から生えた3対6本の足。体の奥で怪しく光るコア。こんな奴は見た事が無い。
と、直後、奴は俺目がけて突進してきた。
「ちっ!?」
俺はそれを咄嗟に転がって避ける。
「『炎よ来たれ、赤き連弾、ファイアアロー』!」
リンゼが魔法を放った。しかし放たれた炎の矢は、直前で奴に吸収されるようにして消えてしまった。
「そ、そんなっ!?」
「奴に魔法は逆効果だっ!リンゼは下がってろ!」
俺は叫び、銃弾を放つ。しかし、アサルトライフルの弾は奴の体の、丸みを帯びた体のせいか大した傷を与える事無く、『チュインッ』という音を響かせながら逸らされる!
クソッ!奴の体をぶち抜くのなら、クレーバーかチャージライフル!あとは吸着爆弾式の『R-6Pソフトボール』でぶっ飛ばすか!
俺が思考を巡らせている間、八重が斬りかかり、エルゼが殴りかかる。しかし刀でも僅かに傷を作る事しか出来ず、エルゼのブーストありの拳でも砕けない。
「どうなってるんだBT!奴の強度は、明らかにガラスレベルじゃないぞ!」
「推測。どうやら復活後に全身に魔力を流す事で強度を格段に増しているようです」
クソッ!こいつは硬い上に魔法は効かないっ!近接も遠距離攻撃の魔法を効かない!いや効きにくいと言うべきかっ!だったらっ!
「こいつならどうだっ!」
俺は対物ライフルとも言うべき『クレーバーAPライフル』を取り出した。そして……。
『ドパァンッ!!』
盛大な発射音と共に放たれた銃弾が、奴の体に命中しその大半を粉砕した。だがコアが無事なのか、残った部分の足が痙攣するようにガクガクと動いている。
「こいつでトドメだっ!」
俺は即座にコッキングし、次弾を装填。2発目をぶっ放しコアを撃ち抜いた。すると、奴の体は粉々に崩れ去った。
俺はウィングマンを手に、粉々になった奴の近くに行き、試しに赤いコアの欠片目がけ、更に数発弾をぶち込んだ。……流石にもう動かないだろうが……。
「BT、どうだ?」
「エネルギー特性、消失。完全に機能を停止したようです」
「そうか」
俺はBTの言葉に安堵し、ウィングマンをホルスターに戻した。
そして俺は皆の方へと振り返った。
「皆、大丈夫か?」
「私達は大丈夫よ。ジャックは?」
「俺は大丈夫だ」
エルゼの言葉に俺はそう返す。
「しかし、何だったんだこいつは」
「普通の魔物、ではないでござるな」
「旧王都の地下にあったのも気になります」
俺の言葉に八重、リンゼの順に答える。
「にしても、流石はジャックね。結構簡単に倒してたし」
「いや。簡単じゃないさ。今回はこいつの、クレーバーの貫徹能力に救われた」
クレーバーは威力に全てをつぎ込んだような銃だ。それ以外を犠牲にして威力に特化した銃と言って良い。こいつが無ければ、BTに頼らざるを得なかっただろう。
「こいつが無ければ、もっと苦戦していた可能性だってあるしな。……とにかく、皆は今からゲートで送るから、銀月に戻って休んでてくれ」
「皆はって、ジャックは?」
「俺は念のためオルトリンデ公爵のところに行ってくる。旧王都のこんな怪物が居たんだ。一応報告しておいた方が良いだろ?公爵は王様とも繋がりがあるしな」
って事で、俺は3人を銀月に送った後、その足ですぐさま公爵のところへ向かった。幸いスゥは母親のエレンさんと出かけていて居ない。まぁ、話題が話題だ。その方が良かったかもな。
「そうか。旧王都の地下にそんな怪物が」
「えぇ。魔法を吸収し自らのエネルギーとし、生半可な攻撃では小さい傷を付けるのが関の山という、圧倒的な硬度を持つ外殻。そして肉体が破損しても数秒で再生する再生能力。唯一の救いは、透明な体なので外から弱点であるコアが見える事です。……最も、そのコアに攻撃を与えるまでが大変なのですが」
「むぅ。そのような怪物が居たとは。しかし、ジャック殿達は倒したのだろう?」
「えぇ。とは言え、俺が持つ武器の中でも最大級の威力を持つ奴を使ってやっとですが」
「成程。参考までに、その武器を見せて貰って良いかな?」
「え?まぁ構いませんが」
俺はそう言って長大なライフル、クレーバーを取り出す。
「おぉ。大きいな、これは」
「こいつはクレーバーAPライフル。威力のみに特化した武器で、重いために取り回しも悪く。まぁ、素人が振り回せる物ではないですね」
「威力のみに特化した武器、か。それでやっと貫けるレベルなのかね?」
「えぇ。それ以外の俺が持つ一般的な武器では、奴の体が曲線状だった事もあり逸らされてしまいました。他にもいくつか、奴の装甲をぶち抜けそうな武器はあるのですが、どれも癖の強い物で」
チャージライフルは発射までラグがあるし、ソフトボールは曲射。あと使えそうなのは、サイドワインダーSMRくらいか。アーチャーは対タイタン用だ。ロックオンシステムをいじれればいけるかもしれないが、生憎俺にそんなスキルはない。
「ともあれ、ありがとうジャック殿。君たちのおかげでその水晶の怪物は倒された訳だな。あとでこちらから旧王都に調査団を派遣するよう、兄上と相談しておこう」
「そうですか。ただ、奴が置かれていた遺跡は既に倒壊しているでしょう。残念ながら、今からでは調査としても有力な情報が得られる可能性は……」
「そうか。何か分かればと思って居たが……」
そう言って肩を落とすオルトリンデ公爵。
「ただ、念のためにBTに壁の文字などを記憶させていますので」
「何?本当かね?」
「えぇ。BT、あの文字データを空中に投影出来るか?」
「はい。表示します」
俺は手首の端末を前に出せば、そこから空中にあの壁に刻まれていた文字列が空中に表示される。
「これが、君たちが見つけた壁に書かれていた文字かね?」
「えぇ。ただ、この文字はBTのデータベースにはありませんでした。なので解読などは出来ていないのが現状です」
「そうか。……これを読み解ければ1000年前の遷都の謎が解けるかもしれぬが……」
ん?何だって?遷都の謎?
「失礼ですが、その謎とは?当時遷都された理由は、分かっていないのですか?」
「あぁ。実はそうなのだ。記録も残っていない状況でね。何故遷都したのか、今の私達はさっぱり分からないんだ」
「そうでしたか」
「そこで相談なのだが、そのデータを紙か何かに焼き付けてこちらへ提出して貰う事は可能だろうか?」
「分かりました。何とかしましょう。それと、BTに頼んでこちらでも解析をしてみます」
「ありがとうジャック殿。では、頼んだぞ」
「はい。では後日データを持ってくるので、今日はこれで」
俺はそう言って屋敷を後にした。
だが、その帰り道に、俺はちょっとした不安に駆られていた。あの怪物はどこから来たのか?もっと数が居るのか?謎という不安が、俺の肩にのし掛かったのだった。
第4話 END
感想や評価、お待ちしてます。