ユミナから告白を受けた俺は、付いて来た彼女を冒険者としてパーティに加えた。その後、彼女から召喚魔法を教わっていた俺は最初にいきなり神獣の1匹である白帝と契約を交わす事に成功。俺は白帝にアルファの名前を贈るのだった。
それは、ある日の事だった。銀月でエルゼ、リンゼ、八重、ユミナの4人が集まって話をしていた。今、ジャックはいない。『俺とBTで依頼を受けてくる』と言ってギルドに行ってしまったのだ。ここ数日は依頼を受けてばかりだったので、女性陣はまぁまぁ疲れがたまっていたのだ。
「ホント、ジャックの体力って底なしよねぇ~」
呆れながらもお茶に口を付けるエルゼ。
「全くでござる。普段の身のこなしもそうでござるが、一体どれだけの鍛錬を積めばあそこまで強くなれるのか、拙者興味があるでござる」
「私は、いつもジャックさんが使ってる武器に興味があります。あれは一体どういう原理で動いているのでしょうか?ジャックさんによれば、魔法じゃないって行ってましたけど」
「確かに。私もリンゼさんに同意見です。それに、BTさんも不思議な存在ですよね」
ユミナはリンゼの言葉に頷く。
「ジャックって、色々謎よね~。どこから来たのとか、家族とか。な~んにも話そうとしないし」
「確かに」
エルゼの言葉に八重が頷く。その時、ユミナはリンゼが自分を見つめているのに気づいた。
「リンゼさん?私が何か?」
「あ、えっと、その……」
問いかけてみると、何やら戸惑った様子のリンゼ。
「何か気になる事があったら、遠慮無く言って下さいね?」
「そ、そうですか?じ、じゃあ。……ユミナさんは、どうしてジャックさんと結婚したいって思ったんですか?」
「そうですね。私がジャックさんに婚約を申し込んだ経緯は、前に話しましたよね?」
「あぁ。確か、父上である国王陛下の暗殺を阻止したと言うあれでござるな?」
「はい。そしてあの時、私は危うく逆上したバルサ伯爵の凶刃に貫かれそうになりました。それを、身を挺して、文字通り血を流して守ってくれたのがジャックさんでした」
ユミナは、顔を赤く染めながらあの時の事を思い出す。
「あそこまで強い男性を、私は見た事がありませんでした。お父様を助けてくれた事もそうですが、あの時。私自身も守られ、そして恐怖で震える私を宥めてくれたのもジャックさんでした。あんな風に強く、血を流して私を守ってくれた男性に、私は一目惚れしたのです」
頬を赤く染めながら語るユミナに、エルゼたちまで顔を赤くしていた。
「それに、理由はそれ以外にもあります」
「と言うと?」
先を促すように首をかしげる八重。
「私が『魔眼』の持ち主なのは、以前話しましたよね?」
魔眼。これは特殊な力が眼に宿った事を言う。例としてパラライズ、つまり相手を麻痺させる魔法が宿った魔眼なら相手を痺れさせる『硬直の魔眼』、と言う事になる。そしてユミナの魔眼は『相手の本質を見抜く魔眼』、『看破の魔眼』と言われている。彼女がオッドアイなのも、この魔眼があるからだ。
「私はジャックさんがお父様を助けた後、魔眼でジャックさんを見たのです。あの時、一国の王を助けたジャックさんでしたが、何か褒美を要求するわけでもなく。淡々とお父様を救って下さいました。ですが私は、それを『何か裏があるのでは?』と勘ぐってしまったのです」
「だから魔眼で?」
「はい」
ユミナの言葉にリンゼが問いかけ、彼女は頷いた。
「私はこの魔眼のため、幼い頃から人の清濁の両方の面を見てきました。心が澱んでいても、能力的には優秀な人を、何人も見てきました。幼いながらに私は『清濁併せのむ』という言葉を理解していました。でも、そんなある日私の前に現れたジャックさんは、違った。あの時ジャックさんを動かしていたのは『使命感』でした」
「使命感、ですか?」
「はい。『この場に居る1人として、最善を尽くす』。あの時のジャックさんはそれだけを考えていました。普通の人なら、王様を助けた事に対する褒美などを考えてもおかしくはありません。ですがジャックさんは違った。お父様を助けた後に考えていたのは、犯人をどう特定するか。そんな事だけでした。その後もバルサ伯爵を私から守ってくれたり。本当に、不思議な人です」
「だから、好きになったと?」
「はい。それも理由の1つです」
八重の言葉に頷くユミナ。
やがて……。
「それにしても、ジャックはホントに色々謎よね~。白帝、アルファと契約したり。変な武器使ったり、BTも凄いけど、変と言えば変だし」
「この前の依頼もそうでしたが、やはり自分で『兵士』を名乗るだけの事はありますね。高い指揮能力をお持ちのようでしたし」
エルゼ、ユミナと続いて思った事を口にしている。
「拙者、少し前にジャック殿に稽古をお願いしたのでござるが、全く相手にならなかったでござる」
「え?八重さんがですか?」
八重の言葉にユミナが驚いた様子だった。
「その時は素手だけの組み手でござったが、繰り出す拳や技を悉く逸らされ、返しの投げ技や絞め技で終わりでござる。拙者もそこそこ強い自信があったのでござるが、上には上が居る事をジャック殿から教わったでござる」
「ジャックさんは、自分の事を『ぱいろっと』って言ってますけど、何なんでしょうね?パイロットって」
リンゼの呟きに、他の3人はしばし何を言わずに考え込んでいたのだった。
彼女達が、パイロットについて知る由は無かった。今はまだ。
それから数日後。その日俺はアルファを連れてリフレットの町中を歩いていた。何でも町を散歩したいそうだ。男が子虎を連れて町中を歩くのは、やっぱり目立つのかあちこちから視線を感じる。と、歩いているときだった。
『主、あそこに居るのは八重殿では?』
「ん?あぁ。ホントだな」
見ると、街角で八重を偶然発見した。しかし、何か泣いてる子供と一緒にいるのか?気になった俺は近づいて声を掛けた。
「八重」
「あ、ジャック殿」
「偶々見かけたんだが、どうしたんだ?」
俺は八重から、蹲って泣いている少女の方に視線を向けた。
「実は迷子を見つけたのですが、名前や親の事を聞いても全く話してくれないのでござる」
「そうか」
八重でもダメとなると……。俺も転生で若くなったとは言え、少々強面だ。これ以上俺で怯えさせるのもなぁ。その時ふと、俺は足下を歩いていたアルファに気づいた。今のアルファは威圧感とは正反対の、俺が言うのも何だが可愛い見た目だ。これは生かせるか?って考えた俺はアルファに指示を出して女の子に色々聞かせてみた。すると女の子は何とか自分の名前や親の特徴を教えてくれた。
「BT。今の情報に該当する人物を町内で探索出来るか?」
「はい。上空よりサテライトスキャンを実行します。少々お待ち下さい」
その後、俺達はBTが探し出してくれた場所、町の守備をしている警備隊の詰め所だった。何とか無事に再会した親子を見送った後、俺は八重を連れて喫茶店パレントに入った。
「いやぁ、無事に母親と再会出来て何よりでござる」
「あぁ。無事で何よりだ」
食事をしながらしばし話をした後、俺は店を出たのだが……。
直後。
「ど、泥棒~~~~!」
歳の行った女性の叫び声が聞こえた。俺はすぐさま周囲に視線を巡らせる。すると、大きな鞄を抱えた男がこちらに走ってくる。その男の少し向こう、地面に倒れている女性がいる。あれが被害女性か。
俺は咄嗟に腰元の鞘からデータナイフを取り出し、男に向かって駆け出す。
「な、何だテメェっ!どけぇっ!」
俺に気づいた男が懐からナイフを取り出し突っ込んでくる。そしてあと少しで激突する、と言う所で俺は男のナイフを回避し、すれ違い様に奴の右足の付け根当りを深く斬り付けた。
『ズバッ!』
「ぎゃぁぁっ!?」
鮮血を散らしながら悲鳴を上げた男が倒れる。俺はナイフをケースに戻すと、這ってでも逃げようとしている男の背中を踏みつけ、首を締め上げて気絶させた。俺は男の落とした鞄を手に年配の女性の元へ行く。
「これ、アンタので良いのか?」
「あぁそうだよっ!ありがとうねぇ取り返してくれて!」
そう言って俺に頭を下げる女性。一方俺が気絶させた男は、八重が連れてきた警備隊の連中に応急手当をされた後、どこかへ運ばれていった。
それを見送っていると……。
「相変わらず、ジャック殿の手際というか動きは、本当に洗練されているでござるな。見ていた拙者からすれば、全く無駄が無かったでござる」
「まぁ、八重がどうかは知らないが俺のは実戦で鍛えられた方だからな。如何に相手の攻撃を避け、防ぎ、相手を的確に、素早く倒すか。そう言う事を実戦の中で学んだだけさ」
「むぅ。やはり実戦が何よりも、でござるか」
「あぁ。だがお勧めはしないな。あそこは命がけだ。一瞬の油断が死に繋がる場所だ。八重は俺からすれば、同世代の同性よりもかなり抜きん出て強い部類だ。強くなりたいって言う思いがあるみたいだが、あまり焦るな」
そう言って俺は八重の頭を撫でる。
「あっ」
「剣術はともかく、近接格闘術は俺が教えてやる。しごかれたくなったらいつでも声を掛けろよな」
そう言って俺は歩き出す。しかし数歩歩いて足を止め振り返ると、八重は顔を赤くしたまま立ち尽くしていた。
「どうした八重?帰るぞ?」
「あっ!は、はいでござるぅ!」
慌てた様子で俺に付いてくる八重に、俺は内心首をかしげながらも銀月に戻った。
更にある日。俺は自室で日課の筋トレをしていた。上着は脱ぎ、半裸で腕立て伏せをしていた。すると……。
『コンコンッ』
「ん?あぁ。誰だ?」
「あ、ジャックさん。リンゼです。今って大丈夫ですか?」
「あぁリンゼか。どうぞ。空いてるぞ」
「失礼しま~、すっ!?」
ドアを開けて入ってきたリンゼだが、彼女は俺を見るなりびっくりしていた。顔を真っ赤にして『ピシッ』って音が聞こえそうなくらい固まっている。
「ん?どうしたリンゼ?」
「どどどど、どうしたじゃないですよジャックさん!?な、なんではは、裸なんですかぁ!?」
「ん?あぁこれか。悪いな。ちょっとトレーニングをしてた。まぁ入れよ。何か話があるんだろ?ちょっとそこでも座って待っててくれ」
そう言って俺は彼女に、ベッドに座るように促した後、タオルで汗を拭い服を着始めた。しかしさっきから後ろのリンゼより視線を感じていた。こんな男の裸なんか見たいのか?まぁ良いか。
「それで、話って?」
俺はリンゼの隣に腰を下ろして話を聞いてみた。何でも、リンゼは先ほど骨董屋で魔法のスクロールを発見したのだが、内容が古代魔法言語で書かれているため一部しか分からないらしい。
成程ね。
「BT。スクロールの文章をスキャンして翻訳、それを空中に投影出来るか?」
「はい。可能です。端末をスクロールに近づけて下さい」
俺は早速BTの力を借りて文章を翻訳。内容は、水属性の魔法が1つあるだけだった。
そんでもって翌日。俺はリンゼの新しい魔法、『バブルボム』の修行に付き合う事にした。
リフレット郊外の森に来たゲートでやってきた俺達。
「『水よ来たれ、衝撃の泡沫、バブルボム』!」
リンゼが詠唱を詠うと、彼女の周囲にいくつもの水球が現れるが、すぐに弾けて地面に落ちてしまった。
その後もリンゼは魔法を繰り返していたが……。
「ハァ、ハァ、っ」
「ッ!?リンゼッ!」
俺はふらつき、倒れそうになったリンゼをすんでの所で抱き留めすぐに木陰へと行って休ませた。
「BT!リンゼが倒れたっ!理由は分かるか!?」
「恐らく、魔法を連続使用した事による魔力不足が原因かと思われます。魔力不足に陥ると、貧血のような立ちくらみを起こすことが報告されておりますので、恐らくそれかと」
「そうか。リンゼは大丈夫か?」
「魔力不足による立ちくらみと過度の倦怠感、体力の消費が顕著ですが、命に別状はありません。ですが、魔力が回復するまで現在の状況は続きますので、リンゼはかなり苦しい状況と思われます」
「そうか」
と、俺はBTと話した後、リンゼに目を向けた。彼女は今もハァハァと荒い呼吸を繰り返している。……潮時だな。
俺はリンゼをお姫様抱っこで抱きかかえた。
「え?じゃ、ジャック、さん?」
「ゲートで銀月に戻る。大人しくしていろ」
俺はゲートを開き、銀月へ戻るとリンゼを彼女の部屋に運び世話を姉のエルゼに任せた。流石に男の俺が何かをするわけにもいかんからな。
その後、出てきたエルゼに話を聞く。
「どうだ?リンゼは」
「今は休んでるわ。……あの子また無茶したの?」
「あぁ。……ん?また、って事は前にもあったのか?」
「まぁね。魔法の練習中に倒れた事なら、何度かあるわ。その度にリンゼったら、あんな辛そうにして……」
「……姉としては、やはり心配だな」
「まぁね。……たった1人の妹だもん」
たった1人の妹、か。
「しばらくリンゼの訓練には俺が同行しよう。俺がいればゲートですぐ帰ってこられるし、1人だと魔力切れで動けなくなった時に危険だからな」
「えぇ。悪いけどお願い」
と言う事で、翌日から再開された練習にも俺は同行した。しかし一向にバブルボムの習得は出来ていなかった。連日による練習だが、こいつは非効率的だ。
「リンゼ、そろそろ休め」
「い、いえ。まだ、出来ます」
「良いから休め。それに話がある」
「え?」
俺はリンゼを木陰に連れて行って、話をした。
「リンゼは、失敗の原因について何か心当たりはあるか?」
「原因、ですか?」
「そうだ。失敗には必ず理由が存在する。それを解明し、解決しない限り無為に時間を潰すだけだ。リンゼの努力は認める。繰り返しも大事だ。だが根本的な所を解決しないと無意味だぞ?」
「……すみません」
「謝らなくて良い。責めてるわけじゃない。……だが、今のままじゃリンゼにも負担がかかるだろう。だからそれを変えたいんだ」
「はい」
「じゃあ改めて聞くが、今のお前に足りないのは何だ?」
「それは、イメージです。魔法を使うにはイメージが大事です。でも、バブルボムのイメージが出来なくて」
「成程。イメージか」
俺はバブルボムのイメージをどう伝えるか考えていると……。
「せめて、バブルボムの意味が分かれば……」
………………。ん?リンゼは何と言った?『意味が分かれば』?
「なぁリンゼ。お前もしかして、バブルボムの意味が分からないのか?」
「え?はい。もしかしてジャックさんは、魔法の固有名に意味があるの知らないんですか?例えばファイアなら火の……」
「いや違う。そうじゃない。意味は分かってる。って言うか、バブルもボムも俺なら意味が分かるぞ?」
「えっ!?本当ですか!?」
俺の言葉に戸惑いながらも笑みを浮かべるリンゼ。しかしまさか、普段口にしていた単語の意味を知らないとはな。この世界じゃ時折英語が通じない事があったが、そう言う事か。言葉としての英単語などは知っていても、意味が分からないと言う事か。
「バブルは泡って意味だ。ボムの方は……。見せた方が早いか。ちょっと待ってくれ」
俺はパイロットの戦術アビリティの1つである『増幅壁』を展開する。
「これでよし。リンゼ、このシールドの前には出るなよ?あと念のため耳を塞いで口を開けておけ」
「え?こ、こう、ですか?」
俺が言ったとおりにしているのを確認すると、俺は手にしていたフラググレネードのピンを抜いて前方。大体10メートル以上先に投げた。すると数秒して……。
『ドォォォォォンッ!』
「きゃっ!?」
爆音が響きリンゼが咄嗟にその場で蹲ってしまった。
「悪い、大きな音が出るって先に言っておくべきだったな」
「じゃ、ジャックさん?今のは?」
「まぁ一言で言えばあれがボム。爆弾だ。バブルボムって言うのは、ああいう風に爆発する水球を創り出す魔法って事だ」
「あ、あれが、爆弾?」
「あぁ。それより、どうだ?イメージは出来たか?」
「はい。何となく、ですけど……」
そして……。
「『水よ来たれ、衝撃の泡沫、バブルボム』っ!」
リンゼが魔法を放つと、現れた巨大な水球が木に命中すると同時に爆発。爆音と共に木を粉々に吹き飛ばした。
「で、出来た」
そう驚きながらも喜んでいたリンゼ。やがて彼女は俺の方に駆け寄ってくる。
「あ、ありがとうございますジャックさん!ジャックさんのおかげで新しい魔法を習得出来ました!」
「いいや。礼なら不要だ。俺は精々アドバイスしたくらいだ。だから胸を張れ、その魔法を身につけたのは自分の努力のおかげだ、とな」
そう言って俺はリンゼの頭を撫でた。
「あっ」
「自分の功績を誇れ。だがそれを驕りにするな。驕りは時に命取りになる。これからも、魔法を勉強して強くなっていけば良い。リンゼのペースでな。そして俺は、俺に出来る事でサポートしてやる。分からない事や困った事があったら聞きに来い。良いな?」
「は、はいっ」
俺が撫でていた手を離すと、リンゼは顔を赤くしながら俺を見上げている。
「さぁ。銀月に戻るぞ。今日はもうゆっくり休め」
「はい。ジャックさん」
そんな会話をしながら俺達はゲートで銀月へと戻った。
それから数日後。
「う~ん、困ったわね~」
エルゼが破損したガントレットを前に困り顔を浮かべていた。理由は昨日の事だ。ギルドの依頼で盗賊一味と交戦したのだが、その中に石の怪物、ガーゴイルを召喚する奴がいて、そのガーゴイルに苦戦させられたのが原因だ。ガーゴイルは石の怪物だからか八重の刀は通りにくいし、魔法も効きにくい。何とか俺がクレーバーでぶち抜いて倒していたが、取り回しの悪いクレーバーでは倒すのに時間が掛かり、結果まともにガーゴイルとやり合えるエルゼに負担を強いてしまい、この結果という訳だ。
「どうやら買い換え時のようなだ」
「そうかな~。は~~。気に入ってたのにな~」
エルゼは俺の言葉に、ため息交じりで応える。
「どうする?町の武器屋にでも行って見るか?」
「もう行ったわ。同じタイプのガントレットが入るのは5日後だって」
「そうか」
どうやらこの世界でガントレット型の武装を好む人間は少数のようだ。
「となると、数や品質が良さそうなのは王都の高級店くらいか。一応俺達は公爵様から貰ったメダルがあるから入れるが、どうする?行ってみるか?」
「そうねっ!こうなったら行ってみるしかないわっ!って事で行くわよジャック!ゲートよろしくっ!」
「はいはい」
俺は考えるより先に行動、って感じのエルゼに苦笑しながらも彼女を伴って王都へ向かった。
で、王都の高級店を回った結果、エルゼは遠距離からの物理攻撃を逸らし、魔法耐性も強いメタリックグリーンのガントレットと、魔力蓄積による破壊力に優れた金と紅のガントレットを両方購入し、片方ずつ使うそうだ。残りは予備にするらしい。
これで無事買い物は終了。さて、戻るか。
ってなったのだが、隣を歩いていたエルゼがふと立ち止まった。
「エルゼ?」
俺も足を止めて振り返ると、彼女は何やらショーウィンドウの向こうを見つめていた。
俺も気になって中を覗いてみるが、そこにあったのは所謂『ゴスロリ』という類いの服装だった。黒と赤、白の三色を使ったドレス風の服をエルゼはじ~っと見つめていた。
「何だ?欲しいのか?」
「うぇっ!?」
俺が声を掛ければエルゼはビクッと体を震わせた。
「あっ!?いや、えっとそのっ!そ、そう!リンゼよ!リンゼに似合うかなぁって思ってただけよ!あの子こう言うの好きそうだし!」
エルゼは顔を真っ赤にしながら叫ぶが、さっきエルゼがこいつを見つめていた視線を考えれば嘘だって分かる。
ここは、一芝居打つか。
「リンゼなら似合いそうか。……ならちょうど良い。エルゼ、ちょっと付き合ってくれ」
「え?」
「この服、リンゼなら好きそうだし似合いそう何だろ?でも試着無しでプレゼントして、サイズが合いませんは洒落にならないからな。幸いエルゼなら身長とか殆ど同じだから問題無いだろう?」
「ッ!」
俺の言葉にエルゼは一瞬息を呑んだ。当然だ。俺が言ってるのは、リンゼにプレゼントするためのサイズ測定にエルゼを使おう、って言ってるようなものだ。
「わ、分かったわよ」
だからか、エルゼはどこか不機嫌そうに頷いた。
その後、店に入ったエルゼはあの服を試着した。
「ほら、私のサイズで入るんだから、これで良いでしょ?」
「あぁ。ちょうど良い。これなら……」
エルゼはぷいっとそっぽを向くが……。
「お前へのプレゼントにぴったりだ」
「……………。え?」
どうやら俺の言葉の意味が分かってないのか、エルゼは数秒首をかしげた後、顔を真っ赤にした。
「ちょっ!?ジャックっ!?これはリンゼにプレゼントするんじゃっ!?」
「ははっ、残念だが最初からそんなつもりは無いよ。エルゼは自分に自信が無いからな。あぁでもしないと、その服を諦めてただろうし。だからちょっとな」
俺はエルゼの肩に手を置き、彼女を近くの鏡の方ヘを向けさせた。
「安心しろ。それを来たお前は絶世の美女にだって負けない可愛らしさがある。だからその服は、俺からお前にプレゼントする」
「じゃ、ジャック」
エルゼは顔を赤くしながら俺を見上げている。
「自信を持て。お前は十分綺麗だよ」
俺は彼女にそれだけ言うと、店の人に言って会計をして貰った。さっきまでエルゼが来ていた服は袋に入れて貰い、このゴスロリ衣装のまま銀月へと戻った。
リンゼ達はエルゼの服を似合ってると言っていたが、何故か俺に買って貰ったって分かると全員複雑そうな表情を浮かべていた。そして、ユミナの提案で他の3人も俺から服を買って貰おうなんて言い出していた。……これは、依頼を受けて金を稼がないとな。
俺はそんなことを考えながら苦笑するのだった。
それから数日後。銀月に王都から早馬で手紙が届いた。
「お父様からです。これを読んだら王都へすぐに来て欲しいそうです」
「俺達にか?何だってまた?」
「手紙によると、例の事件を解決した褒美としてジャックさんに爵位を授与したいとの事です」
「「「爵位っ!?」」」
ユミナの言葉にエルゼ達3人が驚いている。しかし……。
「爵位ねぇ。なぁユミナ。それ断る出来るか?」
「「「断るっ!?!?」」」
すると今度は俺の言葉に3人が驚いている。
「ちょっとジャック!爵位よ爵位っ!なんで断るの!?」
「……俺はそんなものに興味は無い。金や権力にそこまでの執着も無い。それに。俺は貴族として土地を治めたり出来るような人間じゃないと思うがな」
俺はフロンティアで戦っていた。パイロット、兵士だ。人の上に立つ感覚など分からない。
「しかし、断るにしろ、どう言って断るつもりでござるか?」
「……自分に人の上に立つ資格や素養は無いって言って断るさ。それに、平民をいきなり貴族に取り立てたとあれば、保守派の貴族連中が黙っちゃ居ないだろう。それで陛下に迷惑を掛ける訳にも行かないからな」
それに、俺は既にこの体を人の血で汚している。その事実が周囲に広まれば、国王陛下は人殺しを貴族として取り立てた事になってしまう。敵となる連中からすれば、格好の批判材料だ。……だから俺は爵位を受け取る事を断る事にした。
その後、王城に向かった俺は陛下たちと話し、爵位授与を辞退する旨を伝えた。すると陛下たちは俺が断る事を分かっていたようだ。陛下の話に寄れば、陛下達の方も、恩人に報いる為に授与しようとした『形』が欲しいそうだ。
それに俺は成程、と納得しながらも、正式な授与式にて適当な事を言って断った。実際それは予定通りだったのだが……。
「だが、このまま帰すのには余の恩人に対して失礼だと思う」
ん?何だ。事前に聞かされていた手順と違うぞ?と、俺が思った時には遅かった。
「そこで、謝礼金と冒険の拠点となる屋敷を用意した。爵位の代わりに受け取ってくれ」
こうして、俺は屋敷を授かったのだった。
授与式の後、俺はエルゼ達を伴って早速屋敷とやらに行ってみたのだが……。
「屋敷ねぇ。俺の感覚からしたらもう豪邸レベルだぞ、ここ」
与えられた屋敷は、俺が見た事のあるオルトリンデ公爵家の屋敷ほど大きくは無い。しかしフロンティアでの前世がある俺にしてみれば、十分豪邸と呼べる屋敷だった。
貰った鍵で門を開け中へ。屋敷の中もこれまた豪勢な作りだ。
「5人で暮すにしても、こいつはデカすぎるなぁ」
俺が屋敷の中を見回しながら呟いていると……。
「「「え?」」」
エルゼ、リンゼ、八重の疑問符が聞こえてきた。
「あの、ジャック殿?拙者たちもここに住んで良いのでござるか?」
「ん?良いも何も、冒険の拠点とか言って貰ったんだ。良いんじゃ無いのか?」
「で、でも。この家はジャックさんとユミナが暮すための物じゃ?」
「え?……あぁ、そう言う事か」
俺はリンゼの言葉を聞いて理解した。この屋敷は、陛下が俺とユミナのために送った物。冒険の拠点ってのは方便みたいなものか。
「……最初に言っておくが、例え理由がそうだとしても。ここを俺達5人で使う事に俺から異論は無い。確かに俺はユミナと婚約した。だが今すぐ結婚するわけじゃないし、それに……」
「それに?」
俺の言葉にエルゼが反応する。
「俺としては、これからも皆と旅をしたいのが本音だ」
それが俺の本音だ。それに……。少し、俺について話すか。
「……以前の俺は、エルゼとリンゼに出会う前の俺は、ずっと戦場にいた」
俺の言葉に、皆驚いている。
「自分や仲間たちの、平和で豊かに暮らせる自由を勝ち取るために戦いに身を投じていた。そんな戦争で、俺は多くを失った。家、家族、仲間。そして、恩師を」
そう呟きながら、俺は左手首の端末に目を向ける。
そこにいるBTも、元々は俺の恩師の相棒だった。
最初から俺がこいつの相棒だった訳じゃない。
俺は、大尉からBTを託された。だが……。
「だが、戦いが終わって、俺はこの地にやってきた。……それでも俺は、これまで戦う事しか知らなかった。生活は貧しく、俺は俺達の自由のために兵士になった。……そこでの生活は、死と隣り合わせの生活だった。強くならなければ死ぬ。そんな環境で、俺は何人も仲間が死ぬのを目にしながら、何人も敵を殺してきた。……そんな生活にも終わりがやってきた。そして、お前達と出会った」
俺は4人へ目を向ける。
「戦う事ばかり考え、そして戦ってきた俺の生活はお前達と出会って変わった。何気ない会話。誰にも脅かされる事の無い日常。何より、お前達との日常が、俺は楽しかったんだ」
実際、彼女達と出会ってからの日々は、楽しかったんだ。一緒に町を歩いたり出来る『普通の日常』。それは、戦争真っ只中のフロンティアには無かったものだ。だからこそ……。
「……だからこそ、戦う事くらいしか知らない俺だが、お前達を守ると誓ったんだ」
「「「え?」」」
俺の言葉に、3人は疑問符を浮かべた直後、顔を真っ赤にしてしまう。理由は分からないが構わない。今はそんな事より、俺の本心を伝えたかった。
「お前達との日常が、一緒に笑ったりしてる日々が、俺は楽しかったんだ。それに、いつぞやBTに言われたんだ。戦いが終わって、生きる意味に迷っていた時。守るべき仲間が、エルゼや、リンゼ、八重が傍に居るだろうって。だから俺はこれからもお前達と旅を続ける。その中で、俺はお前達を必ず守る。……パイロットとして、1人の兵士として。エルゼ。リンゼ。八重。お前達の、パーティの仲間として」
それが俺の本心だった。なのだが……。
「あぁぁぁアタシっ!2階の方を見てくるっ!」
「わ、私は屋根裏部屋の方をぉっ!」
「拙者はキッチンが気になるでござるぅぅっ!」
3人とも、顔を赤くしたまま蜘蛛の子を散らすようにどこかへ行ってしまった。……まぁ良いか。あれは別に3人への問いかけとかじゃない。俺の認識を教えただけだ。俺の事を彼女達がどう思おうとも、俺にとって3人は守るべき大切な存在だ。それだけは変わらない。
「ユミナ」
「はい。何ですかジャックさん?」
「俺は君と婚約したが、俺はこれからも彼女達の事を守りたい。その事を、君は不快に思うか?」
「いいえ。皆さんは私にとっても大切な仲間でありお友達です。その事に異論はありません。それに、私もジャックさんを独占する気はありませんから」
「ん?独占?どう言う意味だ?」
「ふふっ。それは内緒です。私は皆さんと話してきますから、ジャックさんはどこかで待っていて下さい」
「あ、あぁ」
正直、独占って単語が気になるが、まぁ良い。俺はアルファと共に屋敷の中庭で横になり、青空を見上げる。と、そこへ。
「ジャックさん」
エルゼ達を連れたユミナが戻ってきた。
「あ、あの。ジャック。私達も、ここに住んで良いの?」
「あぁ。そのために貰ったし、一応持ち主は俺だ。その俺が良いと言ってるんだ。問題無い」
「後で出て行け、なんて言わないですよね?」
「俺がお前達を追い出すとでも?大切な仲間をか?」
「拙者たちも、ユミナ殿と同じ扱いをしてくれるでござるか?」
「同じ扱いって意味が良く分からないが、少なくともユミナを含めたお前達4人に対して、差を持って接したつもりは無いし、これからもそうだ」
俺は、エルゼ、リンゼ、八重の言葉に応えた。
そして俺の言葉を聞くと3人とも喜んだ様子だった。
「では皆さん。ここに一緒に住むと言う事で。急ぐことはありませんが、『あの話』の答えは気持ちが固まってからと言う事で」
するとユミナが3人にそんなことを言っているが……。
「お、おい?あの話とか気持ちって何の……」
「「「「秘密!」」」」
俺が聞こうとしても、そう言って結局誰も教えてくれなかった。
こうして、俺たちは新たに家を手に入れたのだった。
第7話 END
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