異世界はBTとともに   作:ユウキ003

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楽しんでいただければ幸いです。


第8話 ミスミドへ

アルファと契約をした後、俺はエルゼやリンゼ、八重などとそれぞれの時間を過ごしていた。そんな中で、俺は暗殺未遂事件を解決した功労から爵位を賜る事になったがそれを拒否。代わりに屋敷を貰ってしまった。そして俺達5人とアルファは、この屋敷で暮す事になったのだった。

 

豪邸とも呼んで差し支えない屋敷を、俺達5人で管理するのは面倒だ。だからユミナの提案によって人を雇う事になった。管理する人間をまとめるのは、元陛下の執事であった『ライム』。彼は以前俺が矢傷から助けたスゥの執事、レイムの実兄だった。ライム曰く『残りの人生を弟の命の恩人に仕えるのも悪くは無い』だそうだ。

 

更にメイドギルドという所から派遣されてきた『セシル』と『ラピス』。

庭師の『フリオ』とその妻で調理師の『クレア』。

屋敷の警備を担当する元王国軍兵の『トマス』と『ハック』。

 

そこにライムを入れた7人が家の管理をしてくれる事になった。しかし……。

「旦那様。それでは早速仕事を始めさせていただきます」

「あ、あぁ。よろしく頼む」

 

ライム達は俺の事を『旦那様』と呼ぶのだ。正直、呼ばれ慣れない敬称にむず痒い感じなのだが、ライム曰く『仕えるからには主従関係をはっきりさせるべき』だそうだ。とりあえず、こう呼ばれるのには慣れるしかないのか、と俺は内心ため息をついた。

 

その後、俺は庭先にあるテラスでユミナ達とお茶をしていた。改めて屋敷や庭を見渡す。

「……まさか、俺がこんな屋敷を持つ事になろうとはな」

「気に入っていただけましたか?」

「あぁ」

俺はユミナの言葉に頷く。

「……平和だ」

 

俺はポツリと呟き、お茶に口を付ける。フロンティアとは大違いな平和に、俺たちはリラックスしていた。と、そこへ。

「旦那様」

「ん?どうしたライム?」

「ただいまオルトリンデ公爵殿下とスゥシィお嬢様がいらっしゃいました」

「2人が?分かった。ここへ通してくれ。あぁそれと、2人の分のお茶の用意を」

「かしこまりました」

 

 

数分して、ライムに案内された2人がテラスにやってきて、俺とユミナと同じテーブルに座り色々話し始めた。

 

「まさかユミナ姉様がジャックと婚約するとはのぉ。びっくりしたぞ」

「それは俺もだよ。いきなり一国のお姫様に告白されたんだ。あの時は一瞬悪い冗談かと疑ったくらいだ」

ホント、今思い返してみても俺は大した事をしてない気がするが。

 

「ジャック殿はスゥの婿にと考えていたのだがなぁ。ユミナも兄上も抜け目がない」

「そんな事を考えていたのか父上?ま、ジャックなら妾も大歓迎じゃが!」

おいおい。

 

「ユミナもそうですが、何故俺なんです?どこの馬の骨とも知れぬ相手に」

「うん?そんなに疑問かね」

「疑問というか、俺の認識の問題ですね。お偉方なんて、結婚とかするにしても同じ貴族とか、王族としかしないってイメージが俺の中にありましたからね」

「成程な。……しかしジャック殿はどこの馬の骨ではない。私の娘であるスゥや妻、ユミナにとっては自分や父親である兄上の恩人だ。……それに、極端な話ジャック殿は強い」

 

「……と言うと?」

「BT君を連れている事もそうだが、事件の際にユミナを、体を張って守った事やスゥを助けた事。はっきり言って、君ほど強い男は貴族連中には早々居らんよ。特に、貴族の長男など、良い生活などをし過ぎたせいで傲慢に育ったケースなど、枚挙にいとまが無い。そのせいで戦う力は無いくせに権威を笠に威張り散らすのが、よくある事だ。実際、騎士団の中にもそう言う問題があるとよく聞く。相手が上司なのに、貴族としての地位が低いから命令を聞かない、とかね。そのせいで練度が低い騎士がいるとも聞いた事があるが、対して、ジャック殿は単独でもかなりの強さを持っている。だからこそ、ユミナを守り切れると兄上も考えたのだろう」

 

「俺は強いから陛下に認められたと?」

「それだけではないかもしれぬが、理由の1つには為ろう。それに、あの時君はユミナを守って傷を負った。だがそれを歯牙に掛けた様子も無し。……誰かを守るために、自らが傷付く事を恐れない、と言うのは誰にでも出来る事ではない。そう言った所も、評価されていると私は思うがね」

「……そうですか」

 

俺は公爵様の言葉に頷く。

 

「と言うか、ジャックはあの時怪我をしたのか?大丈夫だったのか?」

「あぁ。スゥが心配する程の事じゃないよ。ただちょっと左手の平をナイフで貫かれたくらいだ」

「……うっ。ジャックよ。それは十分心配する事じゃと思うが」

そう言って眉をひそめるスゥ。

「安心しろって。すぐにナイフを引き抜いて傷は治癒魔法で治したから。傷跡も残ってないし後遺症も無い。心配無いって」

「むぅ、そう言う物なのかのぉ」

俺の言葉に首をかしげるスゥ。

「いやぁ、普通はあんな事は出来ないね」

「はい。出来ません」

すると公爵殿下とユミナがそんな事を言っている。

 

「でも、あの時、私のことを守ってくれたジャックさんの姿は、今でも私は覚えて居ますよ?」

そう言って、ユミナは頬を赤く染めながら隣の俺を見上げている。

「そ、そうか」

俺は少し恥ずかしくなって、茶に口を付けた。

 

「うぅむ。やはりジャック殿ほど強い男はそうそう居らんしなぁ。やはりジャック殿、ここはスゥも一緒に貰ってはくれぬかね?」

「俺の婚約者がいる前で何言ってるんですか殿下。……と言うか、今日はそんな事を言うためにここへ?」

 

「ん?あぁいや。実は君たちに依頼をしたくてね」

「ッ、依頼、ですか?」

唐突な単語に、俺は表情を引き締める。

 

「あぁ。例の事件が無事解決したこともあって、我が国はミスミド王国と正式に同盟を結ぶ事になった。そのための会談が行われる予定なのだが、問題があってね」

「と言うと?」

「会談をするとなれば、どちらかの国王が相手の王都へ行くべきなのだが、その道中は当然危険が付きまとう。魔物もそうだが、盗賊や同盟に反対する者達が放った刺客などに襲われる可能性もある」

「成程。確かに危険だ。……では、俺達にその護衛を?」

 

「いや。それよりももっと簡単な方法がある」

「簡単な方法?」

と俺が首をかしげると……。

「ジャックさんが使える無属性魔法のゲート、ですね?」

ユミナがそう呟いた。そしてその話を聞いて俺も理解した。

 

「成程。つまり俺達がミスミドの王都へ行き、ゲートを繋げられるようにして欲しい、と言う事ですね?」

「その通りだ。この依頼はギルドを通して君たちに直接依頼という形になる。報酬も出るし、どうだろうか?」

「それについては、まず彼女達の確認を取らないと」

って事でエルゼ達に聞いてみたが、全員OKだった。ただ……。

 

懸念事項として『俺がゲートを使える事』をミスミド側に知られないようにした方が良いとユミナたちに言われた。まぁ、俺1人敵地に侵入出来ればゲートで大軍を引き込む事は可能。そう言った事の対策に結界が張られている場合でも、俺が結界の中に入ってしまえば外から中に引き入れる事は可能だ。そして俺、パイロットは戦闘のプロであると同時に潜入や破壊工作のプロだ。確かに無闇やたらにゲートを使うと、警戒されそうだ。

 

どうしたもんか、と俺が考えていると……。

「パイロット。よろしければ提案があるのですが」

「ん?どうしたBT。提案って何だ?」

「はい。パイロットは無属性魔法の『エンチャント』が使えます。これを行かして物体、例えば大型の鏡などにゲートを『エンチャント』で付与するのは如何でしょうか?更に、その付与されたゲートとなる鏡を『アーティファクトの一種』だと言えば相手側の意識がパイロットに向く可能性は低下します」

 

「成程。しかしBT、そのアーティフアクトってのは?」

「『アーティファクト』とは、現代の技術では再現不可能な、古代の超文明が開発した特殊なアイテムの総称です」

「成程。そのアーティファクトだと偽ればいいわけか。よし。ならBTの提案を採用しよう。ユミナ達もそれで良いか?」

「はい。私達は何の問題もありません」

 

「ではジャック殿。依頼は……」

「あぁ。受けさせて貰う」

 

 

と、こうして俺達は、亜人の国、ミスミド王国の首都を目指す事になった。

 

 

俺達がミスミドに向かう依頼は、大使であるオリガとその妹のアルマがミスミドへ帰還する時に同行する形となった。俺達とオリガさん、アルマ。更にベルファストの護衛騎士とミスミドの戦士隊が護衛として同行している。

 

ミスミドの王都『ベルン』までは、まず二国間の国境にもなっている『ガウの大河』まで馬車で6日。そこから大河を渡り、更に馬車で4日という。合計10日に及ぶ移動になる。当然、その間は暇になる。なので、俺が持ち込んだ将棋やトランプなどで時間を潰すことが殆どだった。

 

ただ、俺は馬車の屋根の上に座り、フル装備で手にはR201カービンを手に周囲の警戒を続けていた。

 

公爵陛下から聞いていたが、両国には同盟に反対する勢力が存在する。そのどちらかが、俺達を警戒して刺客を送り込んでくる可能性がある事を警戒していた。特にこの一団の中には王女であるユミナがいる。万が一、ミスミドに向かう道中で彼女の身に何かあれば同盟に支障を来出す。最悪、二国間で戦争も考えられる。だからこそ、俺は警戒を続けていた。

 

そして、ある日の夜。皆がたき火を囲んで各々話し込んでいる中、俺は1人フル装備のまま周辺を警戒していたのだが……。

 

≪パイロット、接近警報です≫

「ッ!」

俺はBTからのニューラル通信を聞いてすぐに立ち上がった。

 

≪BT、数は?≫

≪敵影、確認出来るだけで28名。後続は確認出来ません。四方を囲みながらこちらへ接近中。間もなく会敵します≫

28人、数が多いな。俺はすぐさま端末から武装の『L-スター』を取り出した。こいつはオーバーヒートしない限り、連続で光弾をばらまけるマシンガンだ。数が多いからこいつで対応する。そして俺はすぐに近くにいた兵士に駆け寄る。

 

「敵だ。四方を囲まれてる」

 

その言葉を聞いただけで、獣人の兵士達も、ベルファストの騎士達も剣を抜いた。要人であるオリガ達を守るように展開する兵士達。

「敵の数は分かりますか?」

「相手の総数は28人。既に四方を囲まれている。一方向に最低7人前後はいる計算だ」

「厄介ですね。恐らく街道の盗賊団だと思われますが……」

俺は手短に狼の亜人の隊長と会話をする。が……。

 

「問題無い。俺と相棒で対処する。お前達は護衛対象を守れ」

「え?」

彼は俺の言葉に驚いた様子だが、時間が無い。先にこちらから仕掛ける。

 

≪BT、敵集団の北側にフォール出来るか?≫

≪はい、問題ありません≫

≪よし。だったらお前のフォールを合図に俺も南側へ仕掛ける。そこから俺は西側。お前が東側を殲滅しろ。……相手は人間だが、容赦はいらない≫

≪了解。敵性勢力の殲滅を優先します≫

 

そうして、俺は『兵士としての本質』を目覚めさせた。

 

≪ロードアウト選択、エクスペディション。準備完了。BT―7274、フォールします≫

 

数秒の合間を置き、空から落下するBT。それが、盗賊たちのいた、俺達から見て北側の林に落下する。爆音が響き渡り、直後に悲鳴と、何かが潰れる音が聞こえる。だが、俺は気にする事無く駆け出した。スライディングを生かして更に加速し、跳躍と共にグラップリングフックを使って木々の上に飛び乗る。そして、敵が居ると思われる付近にパルスブレードを投擲。……見つけた。南側には敵が8人。しかも固まっている。俺はすぐに梱包式爆弾『サッチェル』を奴らの元に投げ込んだ。

 

そして、木の根元に隠れた直後。

『カチカチッ!』

起爆装置のトリガーを引いた。

『ドォォォォォォォンッ!』

直後に爆音が響き渡る。

 

すぐさま木の陰から飛び出しL-スターを構えて足早に奴らの元に駆け寄る。だが奴らの大半は体を吹き飛ばされて息絶えていた。運良く生きていた奴らも、四肢のどれかを失う欠損具合だ。唸っている奴も居るから生きているのだろうが、俺は躊躇いなく、生きてる奴らをL-スターでなぎ払った。

 

全員の『死亡』を確認すると、俺は手筈通り西側方向へと駆け出す。そして物の数秒でたどり着けば、盗賊連中は混乱していた。好都合だ。

 

俺は連中の傍に『グラビティスター』を投げ込んだ。

「な、何だこりゃっ!?」

発生した重力に盗賊達が引き寄せられ、慌て出す。そんな奴らの傍に俺は『電気スモークグレネード』を投げ込んだ。広がる電気スモークに焼かれた盗賊達がバタバタと倒れていく。俺はスモークが切れると確認するが、どうやら全員死んだようだ。

 

俺はそれを確認すると、みんなの所へ戻った。それと同時に反対側の、東側からBTも戻ってきた。

「BT。敵の新手は?」

「ネガティヴ。周辺地域に敵性勢力の増援は確認出来ません」

「そうか。盗賊団連中は?」

「全て殲滅しました。生存反応は無し。殲滅完了しました」

「そうか。こちらも殲滅完了だ」

 

そう、お互いに報告し合っていると……。

「あ、あの……」

するとベルファストの騎士の1人が俺に声を掛けてきた。確か、リオン・ブリッツとか言ってたな。あのレオン将軍の息子の。

 

「まさか、盗賊団の連中を、その、皆殺しにしたんですか?」

「ん?不味かったか?相手は盗賊連中だから、手加減する必要は無いと思ったんだが」

「正直、やり過ぎな気もしますが……。済んだ事は仕方ありませんね。ハァ」

そう言ってリオンはため息をつく。

「念のため聞きますが、生存者は……」

「居ないだろう。俺もBTも、殲滅を前提に行動していた。それに生きていても、俺達がトドメを刺している」

すると、リオンは俺の言葉にもう一度ため息をついた。

 

「とりあえず、死体をそのままにはしておけないので、処理の兵を次の町へ早馬を出して寄越させます」

「あぁ。分かった」

 

その後、俺は周辺の警備を戻る。ちょうどその時だった。

「リオン殿、お手数をおかけします」

「い、いえっ!これが私の仕事ですからっ!」

たまたま近くにいたリオンとオリガの話を聞いてしまった。しかり、リオンはオリガを前にしてテンパり、顔を赤くしている。……そう言う事か、と俺が納得していると……。

 

「青春ね~」

「青春でござる~」

「青春、です」

「青春ですねぇ」

エルゼ、八重、リンゼ、ユミナが俺の傍に立ってあの2人の事をそう言って居た。

「オリガ殿はリオン殿の気持ちに気づいているのででござるかな?」

「気づいてると思うわよ~。どっかの誰かみたいに鈍くなさそうだし」

と、会話をしていたエルゼが何故か俺の方をジト眼で睨む。

 

「鈍いのもそうですけど、ジャックさんは周りの人に優しくし過ぎ、です」

「あ、それは私も思いました」

ユミナがリンゼの言葉に納得してるが、どういうことだ?

 

「思わせぶりな態度もどうかと思う出ござるよ」

「ちょっと分かってる!?そこに正座っ!」

「なんでだよ」

「「「「良いからっ!」」」」

……訳も分からず、俺は4人から説教を受ける事になった。しかし、話を聞いてると、俺に対して鈍感と彼女たちが怒っていた。まさか、と思うが……。

 

俺は周囲を見回して人が居ない事を確認すると……。

「まさか、エルゼ達も俺の事が好きなのか?」

確認半分、冗談半分で俺は聞いてみた。すると、3人とも顔を真っ赤にしてしまった。どうやら本当のようだが……。

 

「……3人の気持ちはまぁ分かった。だが、先に言っておきたい事がある」

「え?」

俺の言葉にリンゼが疑問符を浮かべた。

 

「……俺は今、BTと協力して28人の盗賊を『殺した』。つまり俺は人殺しだ。そして、俺は昔戦場にいた。そこでも、俺は多くの人間を殺した。これはユミナにも聞いた事だが……」

 

俺は、彼女達に向かって右手を差し出す。

 

「俺のこの手は、血で汚れている。お前達に、この汚れた手を取る覚悟はあるのか?」

 

その言葉に、3人は息を呑んだ。そして、あの時のユミナのようにすぐに俺の手を取る者はいなかった。……当然だ。俺は人殺し、パイロットだ。対して、彼女達は穢れを知らない少女達。俺とは文字通り、住んでいた世界が違う。……それに、俺の汚れた手で汚して良い存在ではないだろう。

 

「……答えを急かすつもりは無い」

そう言って俺は伸ばしていた手を下ろす。

「ただ、忘れないでくれ。俺は兵士として、数多くの戦場で戦ってきた。そして、多くの敵を葬ってきた人殺しだという事を」

 

俺はそれだけ言うと、傍で事の次第を見守っていたBTと共に、周辺の警戒に戻った。

その時。

 

『よろしかったのですか?』

『何がだ?BT』

『彼女達からパイロットに対する好意は、先ほどの会話からしても明確です。しかしパイロットはそれを拒んでいるようにも見えました』

『……彼女らは、今の俺にとって『仲間』だ。だが、それ以上の関係になろうと思った事は無い。俺にとって、今の彼女達は仲間でしかない。第一俺は今ユミナと婚約してる立場にあるんだぞ?他に女を作るなんて、ユミナが黙っては居ないだろう』

その言葉に、BTは何も言わなくなった。

 

 

それから数日後、俺達はようやくベルファスト最南端の町、『カナン』へと到着した。ここからはガウの大河を船で渡り、ミスミドの町『ラングレー』から再び馬車に乗り込む。大河を渡る船の用意をしている間、俺はユミナとアルマを連れて港近くの露天商を回っていた。その時、リオンが露天商でアクセサリーを吟味しているのに気づいて声を掛けた。本人は母親へのプレゼントだと言っていたが、それはまぁ嘘だな。恋愛経験の無い俺でも、オリガへのプレゼントを探していた事は分かった。なので、アルマに協力して貰いオリガの好きそうな物はどれかを聞き出すと、早々に俺達はその場を後にした。

 

その道中で……。

「ジャックさん」

「ん?」

「ジャックさんはエルゼさん達の事をどう思ってるんですか?お付き合いしたい、とは思わないんですか?」

「……彼女らは、俺にとっては大切な仲間だ。だが、今の所それだけだ。好意を持って貰えるのなら確かに嬉しい。だが俺は所詮パイロット。戦場で戦い、血で汚れた兵士だ。俺の傍に居る事は、それだけで血に汚れる可能性がある。……仮に付き合うとしても、まずはあの時、ユミナに問いかけたように彼女達の覚悟を聞いておきたかった。……と言うか、それ以前に俺はユミナと婚約した仲だろ?まして結婚したとして、ユミナ以外に4人の女性と関係を持っていたとなれば、外面的にあまりよろしくない。違うか?」

「う~ん。私は大丈夫だと思いますけど。王族や大商人ともなれば、妻が複数人居るのはよくある事ですし」

「そ、そうか。……だが、やはり彼女達の覚悟だけは聞いておきたいんだ。彼女らが、後悔しないようにな」

 

そう言って俺は先を歩く。が……。

「……後悔なんて、しないと思いますけど」

ユミナの呟きを、俺は聞こえないふりをした。

 

その後、船で大河を渡った俺達。ただ、2時間の船乗りの中で本を読んでいたリンゼは船酔いをしてしまった。仕方無く、接岸した後は俺が彼女をおぶって船を下りた。

「すみません、ジャックさん」

「これに懲りたら、もう船の上で本を読まない事だな」

「はい」

 

その後、馬車の準備が整い、最初はオリガが体調不良のリンゼを気遣って、出発を延ばすか提案してきたが、リンゼ本人が大丈夫、だと言うのですぐに出発することになった。

 

「あ、あの。ジャックさん。もう大丈夫ですから」

「そうか。じゃあ下ろすぞ?」

と、俺がリンゼを背中から下ろすと彼女の傍にエルゼが近づいてくる。

 

「もっとおんぶしてて貰っても良いのよ~リンゼ~」

「お、お姉ちゃんは何を言っているのかな!?言っているのかな!?」

するとエルゼの言葉に顔を赤くするリンゼ。俺はそれを見ていたが……。

「あ、あの。ジャックさん?お邪魔、でしたか?」

リンゼが顔を赤くしたまま問いかけてくる。

 

「……うん、まぁ。もう1人で動けるのならそうして貰えると俺も助かる」

とりあえず思った事を言うが、すると彼女はどこか悲しそうになる。しかし言葉には続きがある。

 

「流石の俺でも、両手が塞がった状態でお前達を守り切るのは無理だからな」

「へ?」

「……当然だろ?足だけで敵を倒せってか?」

「い、いえっ!そういうわけじゃっ!」

顔を赤くしながらパタパタと手を振って否定するリンゼ。まぁ良い。

「とにかく、もうすぐ出発だ。各自準備を……」

 

整えておけ、と言いかけた次の瞬間。俺は敵の視線を感じて即座にサプレッサー装備のB3ウィングマンを取り出す。流石にいきなり構えるような事はしないが、いつでも撃てるようにそれを握ったまま周囲を索敵する。が……。

 

「ジャック殿?どうしたでござるか?」

八重に声を掛けられ、一瞬そちらに視線を向けてしまう。慌てて視線を前に戻すが、既に視線を感じなくなった。

「……いや、何でも無い。気のせいだった」

そう言って俺はウィングマンをホルスターに戻した。だが……。

 

≪BT、さっき俺達を監視していた奴らがいたか、分かるか?≫

≪はい。レーダー範囲内にそれらしき人影を確認していました。ですが既にレーダー圏外に逃亡されていて、追跡は不可能です≫

≪そうか≫

 

ニューラル通信で聞くBTからの報告。逃げられたのは仕方無い。だが、警戒は続ける必要があるな。

『アルファ、今俺達を誰かが監視していたのに気づいたか?』

『はい主。我も感じておりました』

『そうか。なら、ユミナ達の護衛を頼む。相手の正体、数、目的が分からない以上、警戒を続けてくれ』 

『承知』

 

その後、ラングレーを出た馬車はジャングルのような森の中を走る荒い道の上を進んで居た。俺はやはり馬車の屋根の上に座り周囲を警戒している。そんな中で……。

 

≪BT、非致死性兵器を今俺が持ってる武器から創れるか?≫

≪可能です。L-スターの出力を調整すれば、相手を痺れさせる程度のエネルギー弾を発射出来るかと。しかし、何故ですか?≫

≪この前の盗賊を倒した事件の後、リオンに釘を刺されてな≫

 

あの時、俺は盗賊連中を皆殺しにした。その後の事だ。リオンに『出来れば相手を殺さずに倒して下さい』と釘を刺された。正直、まどろっこしい気がしていたが釘を刺された以上は仕方が無い。と言う事で殺さずに倒す事を考えた挙げ句、非致死性兵器を創れないかと考えた。

 

≪成程。では、こちらでL-スターの出力調整をしておきます。また、電気スモークグレネードも出力を調整した物を用意しておきます。加えて、スマートピストルの照準システムを再設定し、目標の肩をロックオン、撃ち抜くよう変更しておきます≫

≪あぁ。頼むぞ≫

 

そんなやり取りをしつつ、俺は周囲を警戒していた。やがて日も傾いてきた。本来ならば日暮れ前にエルドの村に着きたかったそうだが、これでは無理だな。仕方無く俺達は野営をする事になった。野営中は、俺もBTを召喚し護衛を任せた。もちろんリオンや獣人の兵士達のリーダーである『ガルン』達は驚いていた。とにかく、彼等にBTを紹介し、警備に加えさせた。

 

そして野営をする傍ら、俺は馬車の中からゲートでベルファストの屋敷にいる八重とエルゼを迎えに行った。

 

理由は簡単。彼女達が風呂に入りたがったからだ。しかしかといって大手を振ってゲートを使う訳にも行かず、馬車の中で湯浴みをしているように見せかけ、こうして俺がこっそりゲートで迎えに行ったりしているわけだ。

 

俺としては、めんどくさいから湯浴みで良いだろ?と思うのだが、女性陣は風呂に入りたいそうだ。やれやれ。

 

などとため息をつきつつも屋敷から八重とエルゼを連れ帰って見ると……。

俺の耳に動物たちの様々な鳴き声が響いてきた。

「ッ!BTっ!何があったっ!状況報告!」

「理由は不明ですが、突如として周辺に存在する野生生物たちの音紋を複数検知。現在戦闘態勢のまま待機中」

俺の言葉に応えるBTは、今もXO-16を構えたまま周辺を警戒している。くそっ、一体何が……。と、俺も周辺を警戒していた時。

 

「接近警報っ!上空より大型飛行物体接近中っ!」

BTの声を聞き、俺は咄嗟にスナイパーライフルの『D-2ダブルテイク』を取り出し構える。そして、直後俺達の頭上を黒い影が横切る。

 

それは、ファンタジーに対して細かい知識が無かった俺でも、フロンティアに居た時から知っていた存在。

 

空想の産物、空想の中の生物における頂点に立つ存在。

「ドラゴン、だと!?」

 

俺は、頭上を飛び去る漆黒のドラゴンを見送る事しか出来なかった。

「なんでこんな所に竜が……」

その時俺は、傍に居た震えるオリガの声が気になった。

「おいオリガ。こんな所にって、竜は普段この辺りには現れないのか?」

「は、はい。竜は本来、この国の中央にある聖域で暮しています。そこは、竜以外の立ち入りは許されて居らず、また竜もその聖域から滅多に出ることはありません。聖域に、侵入者でも無い限り、外に出て暴れるような事は……」

「まさか、その聖域に誰かが侵入したから、か?」

「い、いいえ。そうとは限りません。希に若い竜が人里に降りて暴れる事があるのです」

俺の言葉にオリガは首を振ってそう答えた。だが、人里、だと?まさか……。

 

「BT!奴の進路予想図を出せっ!それと周辺のマップもだっ!」

「了解」

 

直後、俺の端末から空中に周辺の地図が表示される。そしてその上を、黒竜と思われる点が移動しているのだが……。悪い予感はどうやら当ったようだっ!

「クソッ!奴は真っ直ぐエルド村の方向に向かって居るぞ!」

「な、何だって!?」

俺の言葉にガルンが戸惑う。

「エルドの村に、あれを撃退出来るだけの兵力は!?」

「む、無理です。竜1匹となれば、選りすぐりの兵士100人が居てどうにかなるレベル。とてもあの村の者達だけでは、撃退など……」

俺の言葉にガルンは表情を青くしながら語る。

 

「BT!奴の村までの到着予想時間は!?」

「先ほどの飛行速度と距離から考えて、恐らくあと30分以内には村に到達するでしょう」

「……タイタンであるBTの火力なら、奴を倒せるが……」

 

「待って下さい。我々の目的はあくまでも大使の護衛です。それに護衛を割くわけにも」

と、リオンの言葉が聞こえる。確かに大使であり、非戦闘員であるオリガやアルマを巻き込む訳には行かない。……ここは。

 

「やむを得ないか。オリガ、リオン、ガルン。これから俺とBTだけで先行しあのドラゴンを撃退する。お前達は大使達を護衛しながら、村へ向かえ」

「ッ、大丈夫なのですか!?」

「問題無いっ。BTと俺なら、あの1匹くらいどうにかなるっ!とにかく、お前達はオリガ達を頼むぞ。BTッ!」

ガルンの言葉に応え、相棒の名を叫ぶ。

 

「了解」

するとBTの手が俺を掴み、開いたコクピットへと俺を押し込んだ。

 

「操縦権をパイロットへ移行します」

「行くぞBT!」

 

そうして、俺達は駆け出した。村の位置は分かるし、馬車よりこっちの方が早い。と、俺とBTが走っていると……。

 

「我が主!」

「ッ!アルファ!」

後方からエルゼ、リンゼ、八重を乗せたアルファが追いついてきた。

 

「あたし達も行くわよ!」

「はいっ!」

「助太刀致すでござるっ!」

「お前等。……よしっ!お前達は村が襲われていた場合の避難指示や消火を頼むっ!アルファは念のため俺達のフォローをっ!」

 

俺は咄嗟に3人とアルファに指示を出す。

 

そして、走る事数十分後。俺達はエルドの村を視界に捉えた。だが既に、村のあちこちで火の手が上がっていた。

「村がっ!?」

「あっ!ジャックさんあそこっ!」

驚くエルゼに続いてリンゼが夜空を指さす。見ると、上空を泳ぐ黒竜の姿が見えた。そして奴は今も眼下の村に火炎弾を吐き出し、落としている。

「悠長に飛び回りやがってっ!エルゼ達はさっき言ったとおりだっ!住民の避難と、リンゼは魔法で消火活動をっ!アルファっ!俺のフォローを頼むっ!」

「OK!」

「はいっ!」

「承知したでござるっ!」

「お任せあれっ!」

 

エルゼ、リンゼ、八重、アルファの返事を聞くと、俺はBTを駆って走り出した。

「パイロット、村の南部に牧草地帯があります。そこへ目標を誘導する事を推奨します」

「了解したBT!行くぞっ!」

 

俺の意識した通りにBTが動く。BTの手にしたチェーンガンが火を噴き、銃弾が黒竜の傍を通過する。だが、これは当てるために狙った訳じゃない。注意を引くためだ。

『ゴガァァァァァァァッ!』

案の定、奴は俺達に注意を向け、火炎弾を連射してきた。それを回避しながらBTは南部の牧草地帯目がけて駆け抜ける。そして、林を抜け牧草地帯で反転し、チェーンガンを構えるBTの傍にアルファが現れる。と、その時。

 

『ゴガァァァァァァァッ!』

俺には黒竜が咆哮したように聞こえただけだったが……。

「貴様ぁっ!我が主を愚弄するかぁっ!」

「ッ、アルファ。お前あいつの言葉が理解出来るのか?」

「はっ。恐れ多くも、『我が享楽を邪魔した鋼の巨人よ。その体を引き裂き、我が炎で溶かし尽くしてくれる』などと申しておりますっ!人の言葉も話せぬはな垂れ小僧がぁッ!」

アルファは激昂した様子で黒竜に向かって叫ぶ。

 

「……落ち着けアルファ。俺はその程度の言葉、気にしない」

「しかし我が主っ!」

「良いから。……頭に血が上ってると、凡ミスをしかねないぞ?それにな」

 

俺は、頭の中でスイッチを切り替える。いつも以上に、強く。

 

1人の男から、1人の『パイロット』へ。

 

「……アイツはここで死ぬ。その程度の罵詈雑言、放っておけ」

「ッ!?……分かりました」

アルファの返事を聞くと、俺は真っ直ぐ黒竜を見つめる。

 

「……BT、ここで仕留めるぞ」

「了解」

 

短いやり取り。俺達にはそれだけで十分だ。

 

さて、目の前にはファンタジーの王道、ドラゴンが居る。お前が強いか、俺達が強いか。戦って白黒付けようじゃないかっ!

 

「行くぞぉっ!」

 

俺は相棒を駆って走り出す。目の前で咆哮する、黒竜を倒す為に。

 

     第8話 END

 




感想や評価、お待ちしています。

あと、補足ですがパイロットとして戦っていたクーパーにとって殺人行為は原作の冬夜よりも当たり前で、『敵を殺す事』に躊躇いはありません。
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