この前の暗殺未遂事件解決の褒美として屋敷を与えられた俺達。そんな俺達に、ミスミドへ行ってほしいと言う依頼が舞い込んだ。俺達はミスミドに戻るオリガとアルマに同行する形でミスミドを目指して出発した。だがその道中、俺達はドラゴンが村を襲う現場に遭遇。俺はBTと共にドラゴンに立ち向かうのだった。
『グルアァァァァァァッ!』
黒竜は咆哮を上げると口から火炎弾を放ってくる。だが、俺はそれを苦も無く回避する。そのままBTのスラスターを吹かして黒竜の横方向へ滑り込み、チェーンガンを放つ。
放たれた銃弾は黒竜の体を抉った。どうやらチェーンガンレベルでも、余裕で鱗を貫けるようだ。悲鳴を上げる黒竜。だが、手加減はしない。
『アコライトポッド起動。ロックオン。……ファイヤ』
BTの両肩のアコライトポッドが起立し、数秒のロックオンの後。無数のミサイルが放たれる。狙いは痛みに悶える黒竜の背中だ。
『『『ドドォォォォンッ!』』』
無数のロケットが黒竜の背中に命中する。煙が晴れると、黒竜の背中にあった翼はボロボロ。片方は半ばから折れてしまい、切断面から血が流れている。
ドラゴンという伝説の生物だから、どんな者かと思えば……。
「この程度かっ!」
俺は勝負を付けるために、飛び出した。黒竜はこちらを向き、炎を放ってくるが、それもBTのヴォーテックスシールドで防ぐ。そして、一瞬の隙を突いてもう一度チェーンガンの銃弾をたたき込む。
『ゴガァァァァッ!?』
すると黒竜は悲鳴を上げる。だが、チャンスっ!
「おぉぉぉぉぉっ!」
BTの左腕が黒竜の首を捉えた。そして、そのままタイタンのパワーを生かして黒竜を地べたに叩き付ける。そして……。
「くたばれっ!」
『ドドドドドッ!』
倒れた頭にゼロ距離からチェーンガンを見舞った。結果……。
『ドバッ!』
黒竜の頭は砕け散り、周囲やBTをその血と脳漿が汚す。
俺はBTを数歩下がらせるが、警戒は緩めない。万が一こいつが、頭が無くても動き出したら不味いからな。もっとも……。
「目標、生命反応消失。完全に沈黙しました。再生の兆し、無し」
「了解だBT」
完全な杞憂だったが。しかし呆気ないな。ドラゴンと言うからどの程度かと思えば。これなら惑星タイフォンで戦ったIMCのタイタン達の方がよっぽど強敵だ。
「ジャック~~!」
と、そこに村の方からエルゼ、リンゼ、八重が駆け寄ってくる。俺はBTのハッチを開き、そこから飛び降りた。更にそこへアルファも歩み寄ってくる。
「大丈夫!?黒竜は倒したの?」
「あぁ。ドラゴンだからどの程度かと思えば、俺とBTの敵じゃなかったな。それより村の方は?」
「とりあえず、主立った火は消し止めました」
「そうか。とりあえずこっちは片付いたし、なら次は瓦礫の……」
と言いかけた時、俺は耳に響く羽音に気づいた。咄嗟にクレーバーを召喚する。と、同時に……。
「接近警報っ!」
BTもチェーンガンを上空に向け構える。見ると、俺達の頭上に、もう一匹の竜が現れた。体表の色は赤、更に大きさなどからしても、恐らく黒竜よりも格上の存在だ。
「もう一匹っ!?」
「任せろっ!こいつで頭をぶち抜いてっ!」
驚く八重。俺がクレーバーの引き金を引こうとしたその時。
『待たれよ。こちらに戦闘の意思はない』
俺達全員の脳内に響く声。それを聞き、俺は咄嗟に、引き金に掛かっていた指を外した。
『我が同胞が迷惑をかけたようだ。謝罪する』
……どうやら敵意は無いようだが……。
「アンタは?何しにここへ?」
もし、こいつが同胞の仇討ちとして俺達に襲いかかって来る可能性もある。だからクレーバーは構えたままだ。
『我は聖域を統べる赤竜。暴走した者を連れ戻しに来たのだが、どうやら遅かったようだ』
そう言って、赤竜は頭の無くなかった黒竜の亡骸に目を向ける。
『赤竜よ。『蒼帝』に言っておけ。自分の眷属くらいちゃんと教育しとけとな』
『この気配っ!?まさか白帝様か!?道理で黒竜如きでは相手にも……』
『勘違いするな。黒竜を倒したのは我が主よ。愚かにも我が主を侮辱した挙げ句、易々と倒されておったわ』
『何と!?人間が白帝様の主ですと!?』
そう言うと、赤竜は俺を見つめ、すぐに地に降り立ち俺の前で頭を下げた。
『重ね重ねのご無礼、どうかご容赦いただきたく。今回の一件は黒竜1人の不始末。どうか我らには……』
「そっちの言い分は分かった。それにお前や他の竜たちをどうこうするつもりは無い。だが、今回のように人里を襲うところを目撃したり、俺や俺の仲間に襲いかかってくるのなら、容赦無く殺す。……それが嫌ならこういうことを控えろと、聖域の竜たちに言っておけ」
『はっ、必ずや伝えます。では、失礼致します』
そう言うと、赤竜は飛び去っていった。それを見送ると……。後ろで物音がした。振り返るとエルゼ達3人が地べたに座り込んでいた。
「ん?どうした?」
「ど、どうしたって、圧倒されてたのよ。あの赤竜に」
「は?あんなのでか?」
確かにプレッシャーは感じたが、腰を抜かすほどじゃないぞ?
「じゃ、ジャック殿は大丈夫だったのでござるか?」
「そりゃぁ、あんなプレッシャーよりもっと濃密な殺気と敵意に溢れる戦場で生き残ってきたからな」
「じゃ、ジャックさんって、どんな環境で育ったんですか」
……何か、3人から怪しい者でも見るような視線で見られてる気がするが、まぁ良い。
「俺は村の瓦礫撤去とかに行くからな?アルファ、お前は3人が動けるようになるまで傍に居てやってくれ。BT行くぞ」
「了解です」
その後、俺達は遅れて到着したリオンやガルンたちと共に負傷者の救助や治療などを行った。とりあえず怪我人の救助や、まだ燻っていた火の鎮火などをしていた。それが終わる頃には、既に東の空から太陽が昇りはじめていた。
俺は、馬車で眠っているエルゼ達の様子を確認すると村へ入っていった。彼女達に比べれば、徹夜などフロンティアで闘っていた時から日常茶飯事だ。……しかし、奇跡的に死者がいなかったとは言え、被害は甚大だ。元々家屋の数は多くない方だが、村にあった家屋の半数近くが倒壊。いくつかは完全に消失してしまっている。村の中では今もBTが瓦礫の撤去作業を手伝っている。こう言う状況は、人間の数十倍のパワーを発揮するタイタンの見せ所だ。
田畑の方も見て回ったが、かなりやられている。アイツの火炎のせいで農作物は殆ど灰になっている。これでは畑の再生にどれだけ掛かるか。村の修理もそうだが、家財と一緒に財産を失った奴らも少なからず居るだろう。夜中にドラゴンの、突然の空襲。金を持って家から逃げられた奴がどれだけ居るか。
そう言った村の状況を見て回ってから馬車の所に戻ると……。
「あぁ、ジャック殿。ちょうど良い所に」
リオンが俺に声を掛けた。
「どうしたリオン。何かあったのか?」
「はい。実はあの竜の骸のことで相談が」
「ん?あの死骸がどうかしたのか?」
「はい。竜の素材は、牙から鱗、果ては肉まで。全ては高価で取引される素材なんです。頭の部分が消し飛んでいるとは言え、体の半分以上はほぼ無傷で残っています。そして今の所有権はそれを討伐したジャック殿、あなたにある。しかしあれだけのサイズ。運ぶのは一苦労ですから、どうしたものかと」
「成程な」
ドラゴンの素材は良い資金源になるという事か。だったら……。
「なら、俺は爪数本と鱗を何枚か貰えればそれで良い。あとは全部この村の連中に寄付するように伝えてくれ」
「えっ!?よ、よろしいのですか!?これほどの量があれば、王金貨数枚分の価値はありますよ!?」
王金貨、と言うと白金貨より更に上の貨幣だ。滅多な事では市場に出回らない、大変価値のある金貨なのだが……。
「構わない。どうせ運ぶのにも苦労するデカブツだ。爪の一つだって高級品なんだろ?それを少し分けて貰えれば構わない。……それに」
俺は村の方に目を向けた。
「幸い死者は出なかったが村の被害は甚大だ。家一つ立て直すにしても、材料費に人を雇う金、家具なども1から揃え直すとなると金が掛かる。更に田畑も大ダメージを受けている。農作物を植え直したとしても、食えるようになるまで数ヶ月はかかる。その間は食料を外から買うしかない。大きくない村とは言え、数十人の大人と子供が数ヶ月は食える位の金となると、相当だろう?それに今回の襲撃で財産を失った者達も居るはずだ。そいつらの寄付金など諸々を考えると、ここで俺が少ないポケットマネーを開くより、この竜を寄付した方が良いだろう。家屋の修繕費、食料の調達費、更に被害者への支援金。……俺としてはそれをあのドラゴン1匹で賄えるか逆に心配な位だ」
「ほ、本当に良いのか?ジャック殿」
ガルンが確認するように聞いてくる。
「あぁ。俺にはそこまで金の執着は無い。自分の食い扶持は稼げるくらいには仕事をしているし、何も貰わないとは言ってない。少しでも素材を分けてくれれば十分だ。それより、俺はもう一度村に行ってBTの作業を手伝ってくる。瓦礫の撤去には人手が居るからな」
そう言うと俺は歩き出した。
「あっ!でしたら我々もっ!」
と言ってリオン達も付いてこようとするが……。
「お前達は大使の護衛だろ?もうある程度落ち着いたし、本来の目的を忘れるなよ」
そう言って足を止めさせ、俺は1人村へと戻った。
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そして、ジャックが去って行った後。残されたリオンとガルン。
「たった2人でドラゴンを討伐する戦闘能力。加えて村のために支援を惜しまないその姿勢。本当に頭が下がります」
「しかし、彼は一体何者なのですか?共に居るあの鋼の巨人も、不可解な存在だ」
と、そんな話をしているリオンとガルン。
「本当に。彼は一体、どこから来たのでしょうか」
そんな事を話しながら、2人は遠くに見えるジャックの背中を見つめていたのだった。
その後、ある程度作業も完了したので、俺達は村の人間に見送られながら出発した。そして馬車が走り出した頃。
「ジャックさん。眠らなくても大丈夫なんですか?」
リンゼが寝ずに動いている事を知ってか心配してくれた様子だ。
「大丈夫だ。徹夜の作業くらい慣れたもんだ。1日くらい寝なくても、何とかなる。それより、リンゼ達こそもう少し休んでおけ。道中の警戒は俺がしておくから」
俺はそう返し、馬車の屋根の上に登った。
そして道中。俺はアルファから気になる報告を貰っていた。
『我が主、念のためご報告しておきたい事が』
『何だ?』
『実は、あの黒竜と戦っている最中、近くの森に人の気配を感じておりました』
『何?村人じゃないのか?』
『私も最初はそれを疑いましたが、戦闘終了後に村から離れたため、恐らくは違うかと。加えて我が主を監視するような視線でした。ただ、妙な事に我が主に対する敵意や殺意などは全く感じませんでした』
『俺を監視、か』
まさか、ガウの大河を渡った直後に感じた視線の持ち主か?となると刺客が俺達を尾行している可能性があるな。加えて、この中で狙われる可能性が高いのは、ユミナか。ただ、殺気や敵意が無かったってのも気になるな。しかし一応。
『アルファ。お前は念のためユミナの傍に、可能な限り居てくれ。もし刺客が狙うとしたら、俺かユミナの可能性が高いからな』
『承知』
と、そんな話をしていると……。前方に都市が見えてきた。あれがミスミド王国の王都、『ベルジュ』か。
王都に到着した俺達は、早速オリガ、ガルン、リオンと共にミスミドの国王、雪豹の獣人である『ジャムカ・ブラウ・ミスミド』をはじめ、王国の重鎮達に謁見していた。
ミスミド王はオリガとリオン、ガルンを労った後、俺達がエルド村に現れた黒竜を倒した話題を俺達に投げかけてきた。
「そなた達がベルファスト王からの使いだな?なんでも道中、エルド村を襲った竜を倒したとか?事実か?」
「はい。その通りです」
ミスミド王の言葉にユミナが立ち上がって応える。
「ここにいる男性の、ジャック・クーパーさんがドラゴンを討伐いたしました」
「そなたは?」
「申し遅れました。ベルファスト王国国王、トリストウィン・エルネス・ベルファストが娘、ユミナ・エルネア・ベルファストでございます」
彼女はそう言って名乗るが、その所作が如何にも王族らしい。改めて、ユミナが王族なんだなぁ、と俺は実感していた。
「何と。ベルファストの姫君が何故我が国に?」
「ミスミドとの同盟はそれだけ我が国にとって重要という事です。父からも書状を預かっております。どうぞご確認を」
そう言ってユミナは懐から封筒を出し、側近の1人がそれを受け取り、ミスミド王へと渡す。
ミスミド王は、書状を読み終えると、俺達にしばらく王宮に滞在して良いと言ってくれた。
と、そこまでは良かったのだが……。
「しかし、竜を単独で倒す男か。……それは真か?ジャックとやら」
「いえ。正確に表現すれば、俺と俺の相棒の2人で倒しました」
「ほう?相棒とな?それは一体。報告によれば、貴殿は鉄の巨人を使役しているそうだが?」
「はい。その鉄の巨人こそが俺の相棒です」
「成程。時にその巨人とやらはどこに?姿が見えぬが?」
「相棒は今、こことは別の場所で待機しております。必要があれば、俺の呼び出しに応じて即座に現れる事が可能ですので」
「ほう?それを今ここで見せていただくことは可能かな?」
「ここで、ですか?」
俺はすぐに周囲を見回す。大きさ的に問題は無いが……。
「周囲のサイズは問題ありませんが、俺の相棒は巨大で、体重もかなりの物。ここで呼び出すのは些か危険かと」
「そうか。……であれば、闘技場に行くとしよう。そうだ。ジャック殿。折角だからワシと少し手合わせをお願い出来るかな?」
「は?」
突然の言葉に、俺は呆けた声を出してしまった。結局、そのまま闘技場にやってきた俺達。そこで俺はまず、BTをフォール無しで、光のゲートのような所から召喚した。
「ほぉっ!これがドラゴンを倒したと言う鉄の巨人かっ!」
ミスミド王は興味津々と言った様子でBTを見ている。周りにいる重鎮達も、驚いたり興味津々と言った様子だ。
「BT、一国の王の前だ。膝を突いて挨拶をしておけ」
「了解」
「むっ!?こやつ喋るのか!?」
BTが喋ると、ミスミド王や重鎮の面々が驚いている。そんな中でBTは片膝を突いて話し始めた。
「はじめまして。私はBT―7274。パイロット、ジャック・クーパーの相棒です。お初にお目に掛かります、ミスミド王」
そう言ってBTはお辞儀するように軽く頭を下げる。
「お、おぉ。……まさか、礼儀を知り、言葉を発する鉄の巨人とは。いやはや、ジャック殿、良い物を見せて貰った」
「ありがとうございます」
と、礼を言ったものの……。
「さてっ!次はワシとジャック殿の模擬戦だなっ!誰か木剣を持てっ!」
やっぱりやるのか、模擬戦。と、俺は内心ため息をついていた。
何でも、側近である重鎮達曰く、ミスミド王は強い奴と戦いたい、所謂闘争心の固まりみたいな存在なのだそうだ。そこにドラゴンを倒したと言う俺達が来て、その闘争心に火が付いたそうだ。側近の1人からは『ここはガツンと痛い目に!全力でやってくだされっ!』などと言われてしまった。全力で、ねぇ。
結局、模擬戦をする事になった。得物は、ミスミド王が木剣と木製の盾。俺はナイフサイズの小さい木剣だ。ちなみに俺はパイロットスーツにヘルメット、ジャンプキットを装着したフル装備状態だ。
試合のルールとして、致命傷になる打撃を受けるか、降参すればそれまで。魔法はOKだが、相手に直接攻撃する類いの魔法は使用禁止だそうだ。
「この戦い、実戦だと思って来るが良い。……しかし、貴殿の得物は本当にそれだけで構わぬのか?」
「えぇまぁ。これくらいのが、使い慣れてるので」
そう言って俺は逆手でナイフを構える。……そして、いつものようにスイッチを切り替える。パイロットとしての自分。修羅場を潜ってきた兵士の自分に。
「ッ!」
すると、俺のプレッシャーを受けてかミスミド王の表情が幾分か強ばる。
「成程。手加減無用はこちらの方かもしれぬな。これほどの殺気、ワシですら今にも武者震いしそうじゃ」
そう言って、ミスミド王は木剣を構える。
「それでは、模擬戦開始っ!」
審判役の男が叫び、手を振り下ろした直後。
「ッ」
俺は一息で飛び出した。リーチではこちらが不利。だからこそ、至近距離の格闘戦に持ち込む。
「っ!?」
これにはミスミド王も驚く。悪いが、こちらも実戦だと思って殺す気で行かせて貰う。
木剣を持ち替え、刺突を放つ。案の定、獣王はそれを盾で防いだ。そこからカウンターの、右手の木剣を振り下ろしてくる。
だが、木剣を持ったその右腕を俺の左手が弾く。
「うっ!?」
これには獣王もたまらず戸惑う。更に返す刀で左手の拳をリバーに突き刺そうとした。が……。
「『アクセル』ッ!」
ミスミド王が叫んだ直後、その体が消えた。それに俺は一瞬戸惑い、すぐに考えた。アクセルはつまり『加速』だ。つまり超スピードを手にしたって事か?
その直後、戦場で鍛えられた『第六感』が『逃げろ』と叫んだ。咄嗟に俺は転がってその場を離れた。直後、俺が立っていた場所の脇にミスミド王が現れ、俺の居た場所に木剣を振り下ろしていた。
「ほう?初見でワシのアクセルを避けるとは。中々の腕のようじゃな」
「そいつは、どうも」
「じゃが、ワシも少々冷や汗を掻いたぞ。ほんの数秒前の攻防。ワシにアクセルが無ければ、殴られ、痛みで硬直した所に、更なる連撃を叩き込まれ倒されていたであろう。だが……!『アクセル』ッ!」
ッ!?また消えたっ!直後、左脇から迫る風切り音に、俺は咄嗟に右に転がって攻撃を避ける。
「さて、どれほど避けられるかの。『アクセル』!」
再び襲いかかる攻撃を、音と第六感だけで回避する。だが、これだけじゃ限界が来る。何度か木剣が俺の体を掠る。それでも何とか避けるが、完全な防戦一方に追い込まれている。
「ハァ、ハァ、ハァ……!」
俺は息を荒らげながらも、木剣を構える。
「ふむ。中々にやりおる。ワシのアクセルをここで防いだ猛者はかつて1人も居らんかった。認めようジャックとやら。お主は強い。じゃが、ワシの方が強いと言う事を、その身に教えてやろうっ!『アクセル』っ!」
再びアクセルを発動するミスミド王。だが、数分の戦いで、少しだが目が慣れてきた。そして分かる。風の音、流れから、来るっ!正面からっ!そして、それに俺は『好都合だ』と内心笑みを浮かべた。
そして、直後、俺は『ホロパイロット』を起動する。すると、今正に俺と同じ姿形のホログラムが俺の数歩前に展開される。そして……。
「何っ!?」
『ブォンッ!』
突如現れた俺に驚いたミスミド王は、そのホログラムを木剣で切り裂いた。ホログラムは青い光になって消え、その後ろから、俺がジャンプキットを使って加速し、その懐に飛び込んだ。そして、俺は木剣をミスミド王の喉元近くで寸止めした。
「それまでっ!勝者、ジャック・クーパー!」
審判役の声が聞こえる。どうやら俺の一撃が有効と判断されたのだろう。
俺は上がっていた息を整える。
「……どうやらワシの負けじゃな。それにしても、今の技は一体?」
「あれは、相手を惑わす魔法のような技です。ミスミド王は初見でしたので、上手く隙を作れればと思い、使いました」
「成程。ワシはまんまとそれに引っかかったと言う訳か。……ワシのアクセルに対応できた相手は今まで1人として居らんかった。……その結果、ワシは『アクセル』の力を過信していたようだ。今後は戒めなければな」
「いえ。正直俺もギリギリでした。次、同じ条件で戦ったとして俺が勝てるかどうか」
「謙遜するなジャック殿。面白い技を持つ貴殿と戦えた事、嬉しく思うぞ」
そう言って木剣を置き、俺に右手を差し出すミスミド王。
「こちらこそ。ありがとうございました」
俺が握手に答えると、試合を見ていた重鎮達や側近達、エルゼ達から拍手が起こったのだった。
その日の夜。王宮では王族や側近達、大商人などを招いてオリガの帰還とユミナを歓迎するためのささやかなパーティーが催された。
その席に、ミスミドの正装に着替えてさせられて出席する俺。俺の近くにエルゼやリンゼ、八重やユミナ、それにオリガやミスミド王もいない。護衛にアルファを付けてあるし、彼女達の様子はBTがサテライトスキャンで逐次確認している。
おかげで安心して飲み食いが出来る。燕尾服姿のリオンと一緒にいると、俺の所にアルマと、アルマとオリガの父親である『オルバ・ストランド』が挨拶にきた。オルバは交易商の仕事をしているらしい。と、そんな話をしていると、会場全体がざわめき出した。
何だ?と入り口の方に目を向けると、正装のミスミド王と、パーティードレス姿のオリガ、それに、古い情報紙か何かで見た事ある、民族衣装のような物に身を包んだエルゼ達4人が入ってきたようだった。しかし、普段と違うその服装は新鮮だった。
俺が4人に『よく似合ってるぞ』と言うと、4人とも顔を紅くしていた。その後もパーティーは続いたのだが、慣れないパーティーに少し疲れた俺はユミナ達に一言言って、静かな廊下へと出た。そして少し休んでいると……。
「ん?」
俺は、廊下を歩く『熊のぬいぐるみ』に気づいた。これには俺も自分の目を疑って目頭を揉んだが、どうやら現実のようだ。
「ぬいぐるみが、歩いてるだと?」
と、声を出してしまった。するとぬいぐるみの方も俺に気づいたのかこっちに視線を向けてきた。そして数秒、俺達の視線が交差した後。
『くいくいっ』っと手を動かす熊のぬいぐるみ。まさか、付いてこい、とでも言ってるのか?仕方無く、俺は熊に導かれるまま、暗い廊下を歩いていく。そして一つの部屋に入ろうと熊が四苦八苦しながらドアを開けようとしているとき。
『BT、俺の前方の部屋の中に、生体反応は?』
『あります。一つだけですが』
『了解した』
と言う事は、万が一怪しい奴が居ても1人だけ。ただ不安なのは、相手がこの熊のぬいぐるみのように、無機物を操る力を持っていた場合だ。用心に越したことは無い。俺はそっと、服の下に隠してあるナイフホルスターを確認するように触った。
そしてドアが開くと、俺は慎重に中へと歩みを進めた。中は薄暗く、光源は奥の窓から差し込む月明かりだけ。部屋の中を素早く見回すが、見えるのは無数のぬいぐるみと装飾品や家具だけ。武器の類いは、今の所見えない。
すると……。
「あら?奇妙なお客さんを連れてきたわね、ポーラ」
部屋の奥にある椅子に腰掛けていた少女の声が聞こえた。俺は静かに警戒しながら、部屋のドアを閉める。
改めて少女の事を確認するが、俺は彼女がただの人間じゃない事に気づいた。『羽』だ。彼女の背中には羽がある。俺の前世のおとぎ話に出てくる『妖精』のような羽が。
つまり、彼女は恐らく『妖精族』なのだろう。俺も実物を見るのははじめてだ。
「それで、あなたはどなたかしら?」
「俺は、ジャック・クーパーだ」
「ジャック、クーパー?あぁ、あなたが噂の竜殺しね?」
「まぁ、そうだ。……所で、アンタは?」
「あら。ごめんなさい。私の名は『リーン』。妖精族の長よ」
「ッ!?長、なのか!?にしては若いように見えるが……」
ミスミドは複数の人種が住まう国だ。その中で長という事は、相当な立場のはずだが。しかし目の前の少女は、どう見ても転生前の俺よりも若い。
「ふふ、褒め言葉として受け取っておくわ。でも、私はあなたよりずっと年上よ?妖精族は長寿なの」
「成程。しかし、長寿と言うが、見た目は俺とさほど年が違わないように見えるが?」
「それはね、妖精族の成長に秘密があるの。私達妖精族は、ある一定の年齢になると、そこで成長がストップするの。大体が人間で言う10代後半から20代前半の頃にね」
「成程。だから見た目とは裏腹に年上、と言う事か」
と、俺が納得していると、俺の視界にあの熊のぬいぐるみが映った。
「なぁリーン。そのぬいぐるみは、生きてるのか?」
「いいえ。ポーラ自体は何の変哲も無い普通のぬいぐるみよ」
「そうなのか?にしては、生き物のような動きをしているが……」
「その理由は簡単。私の無属性魔法、『プログラム』が働いているからよ」
なんて言うか、前世の俺なら聞き慣れた単語が飛んできたな。
その後、リーンはそのプログラムを用いて、普通の椅子を動かして見せた。
「驚きだな。本来移動能力なんて無い椅子ですら動かすのか」
動く力など無い椅子が勝手に動いて前進した。動く足も、推進器も無いのにだ。
「無機物に命令を組み込み動かす、か」
正しくプログラムだ。俺の世界で言えば、PCなど無しでAIを組み立てるような物。ポーラ、あの熊のぬいぐるみなど、正にAIを搭載しているのではないかと思う程の動きだ。
しかし……。
「それにしても、何だってポーラは俺をここへ?」
「ポーラには、気に入った人が居たら連れてくるようにって言ってあったの。でも、まさか噂の竜殺しが来るなんて。私も想像してなかったけど」
「成程ね。……しかし無属性魔法も色々なのがあるんだな。獣王陛下のアクセルにリーンのプログラム、俺のパーティー仲間にもブーストってのを使える奴がいるが。アクセルやブーストは直接的に戦闘で使えるのに対して、プログラムは持ち主の発想力が問われそうだ」
「そうね。無属性魔法と一口に言っても、個人魔法と言われるくらい色々な物があるから、傍目には弱そうでも、使い人の創意工夫次第では大きな力を発揮するわね。……ところで、ジャックは魔法を使えるの?」
「まぁ一応は。と言っても、本職は近距離戦闘とか、特殊な武器を使ってるから、殆ど補助だがな」
「特殊な武器?」
「あぁ。簡単に言うと、爆発する粉で小さな鉄の塊を発射し、それで相手を射貫く武器だ。俺の知る限り、これを持っているのは今の所この世界で俺だけだ」
「へぇ。それは興味深いわね」
「興味があるなら、今度見せてやるさ」
「それは楽しみね。……そうだジャック、あなた、私の弟子になるつもりはない?」
「ん?弟子って、魔法のか?」
「えぇ。竜殺しと言われたほどの逸材。逃す手は無いわ。どうかしら?」
「う~ん。……確かに教えてくれるのなら俺としてもメリットがある。ただ、俺は冒険者としてあちこちを旅して回ってるからな。仮に弟子になったとしてもそこまで時間は割けないかもしれないぞ?」
「それでも構わないわ。どう?」
「……あぁなら、少しだけ時間をくれないか?返事は少し保留って事で」
「あらそう?まぁ良いわ。決心が付いたら返事を聞かせて頂戴ね?」
「あぁ。了解した」
その後、俺はリーンの部屋を後にして、パーティー会場へと戻った。で、そのパーティーも無事終了。俺は自分の部屋に戻ると、すぐに眠りに付いた。
しかし、リーンか。……そういやベルファストの宮廷魔術師のシャルロッテの師匠がそんな名前だったような。……恐らく同一人物だろうな。確か、彼女が言うには結構鬼な師匠だったらしいが。……まぁでも、パイロットや軍人として鍛えた俺からすればどうだか。
しかし、魔法の師匠か。こいつは前向きに検討しておくか。あらゆる状況に対応出来るように、扱える技や武器は多い方が良いからな。
そんな事を考えながら、俺は眠りに付いた。
第9話 END
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