八雲立つ   作:ギンケン

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序章

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「……昔、昔。時の帝は朝廷を呪っていた大怨霊『崇徳院』様を討伐なされた。」

 

儂はただのしがない話し人。名前は…まあ、こんな老いぼれの名前なんて別によいじゃろ。

 

「ある時『崇徳院』様という方が讃岐の国で暴れ出して人々を不幸にしておった。『崇徳院』様は自身が大天狗で在られ、さらにその地方の祟り神の力も使っておって、それは大層恐ろしかったそうじゃ。それに対してその時の幕府は何万もの軍を送って戦ったのだ。」

 

儂は旅をしながら子ども達に歴史を教えている。今宵もある村で子ども達に話をしている。

 

「しかし『崇徳院』様は多数の天狗を率いておられたのじゃ。この天狗は人の何倍も長く生きておって様々な妖術を使えての。」

 

儂の話を子ども達は熱心に聞いておった。どうやら楽しんでもらえとるようじゃの。

 

「天狗の妖術はすごいのじゃぞ。一つ扇を仰げば嵐が起き、二回仰げば竜巻が起きるという、それはそれは恐ろしい物だったそうじゃ。天狗の妖術に武士は苦しめられ、人々も多勢死んだそうじゃ。」

 

今儂が話しているのは『日本ひのもとの武帝』と言われる話じゃ。

 

「その時の将軍はどうしようもなくなって、帝に助けを求めた。それを聞かれた帝は手に神器『草薙剣』を持ち、自ら戦いに向かわれた。更に各地より何人もの現人神あらひとがみ様が集まり天狗の妖術に対抗したのじゃ。

それは大層壮大だったらしく、『香取』、『鹿島』、『諏訪』の三大軍神様の力も揃ったというぞ。そして帝はそれを上手く纏めれら、自信も勇ましく戦われて見事『崇徳院』様を倒された。この戦いを『讃岐の戦い』というのじゃ。」

 

この『讃岐の戦い』は当時の朝廷権威を復活させることになる。また現人神の参戦から別名『神の戦い』とも呼ばれている。そしてこの戦いにより日本の運命は大きく変わっていった。

 

「その後『崇徳院』様は都に祭られて朝廷の長年の呪いが解けたのじゃ。又、帝の手腕の見事さに人々は世の中を帝に治めてもらいたくての。幕府も朝廷の力を認めざるを得ず、戦より3年後、大政奉還が実現したのじゃ。

これにより数百年続いた武士の時代は終わりを告げ、神様による時代が戻ったのじゃ。」

 

「何か変わったの?」

 

ここまで静かに聞いていた子供の一人が質問をしてきた。

 

「そうじゃの~。それまでは殿様、武士が治めておったじゃろ。しかし帝はそれをやめられて、国造こくそう様、つまりその国でもっとも偉い神社に治めさせられたのじゃ。これにより武士は国造様の護衛など軍事の中のかなり限定されたものになったという。とはいっても実際は政まつりごとを結構まかせているがな。」

 

「じゃあ、何も変わらないじゃん。」

 

「いやいやお主ら、大事なことを忘れておるぞ。」

 

「?」

 

「現人神様じゃ。『讃岐の戦い』頃より人に神威しんい、簡単に言えば、神様の力が授けられての。帝を始め、各地の現人神様が復活したのじゃ。色々な神威の方がおられた。穢れから守られたり、農作物を育てるのを助けたりとな。ちなみに軍神の方々はそれぞれ『剣』、『雷』、『風』の神威で戦いでは大いに活躍したそうじゃ。そうして現人神様達はその神威をもって人々を救われたのじゃ。」

 

「ヘ~。」

 

「ただし現人神様の神威には人々の信仰がかかせぬでの、そのために国造様に国を治めさせられ、神社に人々を集められたのじゃ。そしてその考えは見事に成功し、現人神様のお力により世の中は平和になったのじゃ。」

 

「けどわたし、現人神様見たことないよ。」

 

「わたしも」

 

「おれも」

 

「それはの、後の『大戦』により現人神様の神威が弱っていったのじゃ。それにより神威を持った現人神様は、今は殆どおられぬ。それにな、神威は神様より授けられるもの。じゃからきっと平和になって人々が幸せになったから神様が必要ないと考えられたのじゃろ。その証拠にお主ら幸せじゃろ?」

 

そう聞くと子ども達は大きく「うん」と言ってくれて儂は嬉しくなった。まあ、いなくなったとは言っても数が減っただけでおられる事はおられるのじゃがな。

 

「その現人神様が讃岐で戦われたんだよね?」

 

そう思っていると一人が聞いてきた。

 

「そうじゃよ。」

 

「出雲の現人神様も?」

 

その質問に儂は少し躊躇してしまった。

 

「…いや、出雲の現人神様は向かわれなかった。」

 

「え~!なんで~!?」

 

子ども達の落胆した声が聞こえてくる。

 

「その頃、出雲に現人神様はおられなかったのじゃ。」

 

いや、

 

「正確には現れなかったのじゃ。出雲の現人神様方が現れたのは戦いより数十年してからなのじゃ。」

 

「なんで?」

 

「まだ、時ではなかったのじゃ。」

 

「?」

 

子ども達は不思議そうにしている。

まあ、そうじゃわな。あの頃もほとんどの者が、あの『讃岐の戦い』がまだ始まりだとは思っていなかったじゃろう。

 

「どういう意味?」

 

うーむ、そうじゃのう。

 

「全ては『大戦おおいくさ』のためじゃったのじゃ。」

 

「?」

 

子ども達はさらに不思議そうにしている。

 

「ふむ、そうじゃの……では話してやろうか。

神国『アシハラ』について。」

 

子ども達は楽しそうに頷いてきた。

さて、これを思い出すのは何年振りか。

 

「『讃岐の戦い』から約五十年後、出雲にある少年が登場した。その少年はかの大英雄より力を授けられ、日本の運命を変えていく事になる。」

 

舞台はあの時代へと……

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