---何処いずこ
「どうかこの国を、守ってほしい。」
「くにをまもる?」
「ああ。これから暫くするとこの国に大いなる災いがやってくる。それを人の力のみでは乗り越えられないと判断した神々は、人々に神威を与える事にした。しかしそれでも足りないんだ。神々もそれは分かっている。しかし我々が直接手を出すと中津国、人の国にどのような影響が及ぶか分からないのでどうしても一手足りないんだ。」
あの頃は難しくて分からなかった。しかし学を学んだ今なら分かる。神々は直接手を出せない。だから天孫降臨を行い人に治めさせ、いつも間接的に助けていたんだ。神武天皇の東征の時は八咫烏を派遣し霊剣を与え、元寇の時には神風を起こしたように。
「なので神々は決めた。天孫降臨の再現、『古王再来』を。」
「こおうさいらい?」
「そう。天孫、『天の皇すめらぎ』の力だけでは国は災いから守れない。ならば古き王、『大地の王』の力を復活させ、『天地融合』をしようと。そしてその古王の力を授けられるのは……君しかいない。だから頼む。どうか王となってこの国を守ってくれ。」
神様はおれを見て頼んできた。多分あの時のおれは神様の言ってる事を全部は分ってなかったと思う。けど…
「うん分かった。まもるよ。」
迷い無く答えていた。この時の神様の驚いた顔は今でも鮮明に覚えている。
「…すまない。こんな危険で辛い事を頼んでしまって。」
「ううん、気にしないで。神様困ってるんでしょ。だったらおれが助けてやるよ。」
あの時の答えの理由はとても優しい神様を困らせたくない、ただそれだけだった。だって勝手に王にさせる事も出来たし隠しておく事も出来たはずだ。それでも教えてくれて、そして心配してくれたこの優しい神様を。
「だから安心しなよ。」
「……ありがとう。」
神様は嬉しそうに笑われた。気付いたら俺もつられて笑っていた。
「君に頼んで良かった。王になるのが楽しみだ。」
「へへ。」
「恐らく、いや必ず辛い時があると思う。その時これが少しでも役に立つと有難い。」
そう言うと神様は何か光るものをくれた。
「何これ?」
「君の力になるものだ。これが顕現した時君は、王になる。」
「へー、そうなんだ。ありがとう、神様!」
「……ああ」
あの光が何なのかは今でも分からない。でもあの時は神様がくれた、その事がとても嬉しかった。
「さて、もうそろそろ時間か。すまないがお別れだな。」
「え、もう……。」
「なんだ、寂しいのか?」
「うん。なんか神様、お父さんみたいだったから。」
「……そうか。」
「……だめだった?お父さんって。」
「いや、……息子が一人増えて嬉しいぐらいだ。」
「ほんと!?」
「ああ。だから安心しろ。私がいつでも見守っている。だから……頑張れ。」
「うん!」
「ではな。」
「……ねえ、神様?」
「何だ?」
「神様は、何て神様なの?」
そう聞くと神様はこっちを振り向いて
「我が名は『大国主』。国を造る神だ。」
そう言って消えていった。
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「その後は知っての通り森山家に住むようになり……って、どうした?」
ふと静香の方を見ると何かぽかんとしていた。
「おい、どうした?」
「ど、どうしたじゃないわよ!?そ、その話し本当なの!?」
「ん、本当の話だが。」
静香は何故か頭を抱えていた。
「どうした?」
「ちょっと混乱してるだけだから気にしないで。」
静香の整理がつくのを待ってから、おれはまた話し始めた。
「あの時、おれは大神に守るって言った。けど最近になって怖くなってな。」
「怖くなった?」
「ああ、分かるんだよな。もうすぐ来るって。でも怖いんだ。約束を守れるのかって。」
「……」
「もちろんおれが失敗したらこの国が滅ぶかもしれない、その事も怖い。その危機自体も怖い。……でも一番怖いのは、守れなかったら大神に嫌われてしまう、そしたらまた一人になってしまう事なんだ。」
そう、怖かったのは王になる事じゃない。この国を守る事じゃない。約束を破ってしまってあの頃のように暗闇の中で一人になるのが怖かった。
「それで最近ずっと考えてるんだ。おれなんかに守れるのか。おれで良いのかって。」
「良いんじゃない」
…このお嬢さんは何をあっけカランと
「良いんじゃないって…簡単に言ってくれるな…。」
「だって大神様が信弘を選んで、頼まれて信弘が自分で決めたんでしょ。大神様が、信弘なら任せられると思われたんだからきっと大丈夫よ。」
「そうは言ってもな…。」
「それに私も、信弘なら大丈夫だと思う。ずっと一緒の私が言うんだから間違いない。だから、」
その時の月明かりに照らされた静香は
「守って。」
とても綺麗だった…。
「…ああ」
静香の言葉に今までの悩みが晴れたような気がした。
何悩んでいたんだろうか。出来るか出来ないかなんかじゃない、やるんだ。だっておれは大神と約束したんだ。
(守るって)
そして今夜、その願いは静香の願いにもなった。まだ人のおれだけどこの願い、絶対守りたい。
「ありがとう静香。おれ、がんばるよ。」
おれの決意を静香は
「うん、がんばって。」
笑顔で応援してくれた。
それは春の満月の夜のこと。一人の少年の、人としての最後の夜だった。