鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話   作:ヤンデレになる過程を楽しむ人

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序章
始まりにして死ぬ俺


 ある日、突如現れた化け物によって世界が終ってしまったとして。

 そしてそれが覆る可能性があると分かっていて、そのために不思議な力を持つ子供たちが戦っているとしよう。

 

 それを聞いた俺たち一般人には、何ができるのだろう。

 

 一緒に戦う?

 せめて生活面をサポートする?

 頑張れと応援する?

 

 きっと、色んな道があったのだろう。

 俺には選択肢があったのだろう。

 

 ほんの少しの勇気があれば、何かが変わっていたかもしれないし、変わらなかったかもしれない。

 

 けれど、それを否定して……俺は地下に閉じ籠もることを決めた。

 決めてしまった。

 

 初めてあの化け物を見た時、体が動かなかった。

 

 軍人として支給されたライフルを手に持っていたにもかかわらず、何もせず、十代であろう少女たちの戦いを見守っていた。

 

 ただの人間が積んだ訓練など意味がない。

 そう思わせられるような戦いだった。

 

 戦いの余波に巻き込まれ、近くのビルに吹き飛ばされた俺は――逃げ出したのだ。

 

 それは恐怖だったのか。

 絶望だったのか。

 それとも己への失望だったのか。

 

 それすら分からないまま逃げ出し、この地下へと逃げ込んだ。

 

 それからは、端から見れば死人のような生活を送っていただろう。

 

 寝て、起きて、食べて、寝る。

 たまに銃の整備をしたり、何を思ったか射撃の真似事をしたりして時間を潰した。

 

 そんな生活を二週間続け、ついに食料が切れた時。

 そのまま死んでしまえば良かったのに、少し興味が湧いてしまって――あの日以来、初めて外に出た。

 

 出てしまった。

 

 そして、見付けてしまったんだ。

 

 

 

 ▼▲▼▲▼▲

 

 

 

「何だよ、これ……」

 

 二週間ぶりに地下シェルターから這い出てきてみればそこは人っ子一人いない冗談のような風景だった。

 

 道路があるのに車が通っていない。

 ビル街なのに人が一人もいない。

 空を見ても鳥の一羽も飛んでいない。

 

「は、はは……頭がおかしくなりそうだ」

 

 ここが更地なら、瓦礫の山と化していたのなら、まだ心の整理がついただろう。

 

 だが形はそのままで、戦闘の痕跡すらなく、人だけが……いや、生物がいないこの街を見て、脳が激しい違和感と嫌悪感を吐き出している。

 

 ぐぅ、とお腹が鳴る。

 

 何はともあれ食料だ。

 それさえ見付ければ、こんな気持ち悪い所からおさらばできる。

 

 幸い食料はすぐに見つかった。

 コンビニに行ってみれば、手付かずの商品が山のように置いてあったからだ。

 

 大きな違和感と気持ち悪さを押さえ込みながら、持ってきたリュックに詰めていく。

 

 疑問はいくらでも湧いてくる。

 

 なぜ商品が無事なのか。

 なぜ誰も回収しに来ないのか。

 なぜ誰一人としていないのか。

 

 自分が地下に籠もり、外と完全に遮断している間に、大規模な避難があったのだろうか。

 

 浮かんでは否定されていく疑問と推察を繰り返し、ようやく目当ての物を詰め終えたその時、遠くから悲鳴のようなものが聞こえた気がした。

 

 ここが分岐点だったのだろう。

 

 ここで好奇心を出さなければ、どうなっていたのだろう。

 

 そんな「もしも」は無意味で、俺は声の元へと歩き出した。

 

 断続的に聞こえる鈍い音と、少女らしき苦しそうな声のおかげで、居場所の特定は簡単だった。

 

 当然、ただそこで少女が遊んでいるなどという楽観的な考えはない。

 

 怪物に襲われているのだろうか。

 傷を負っているのだろうか。

 

 色んなことを考えながら、忍び足でその場所を覗き込む。

 

 そして後悔した。

 

 いや、違う。

 後悔することは分かっていた。

 

 正確には、その光景に拒絶反応を起こした。

 

 路地裏の一角で倒れている、紫がかった髪の少女。

 

 そして、それを取り囲み、今もなお執拗に蹴りを入れる……三人の人間。

 

 あの少女は知っている。

 忘れるわけがない。あの怪物に立ち向かった子供たちの一人だ。

 

 それが倒れてうずくまっていることは理解できる。したくはないが、理解してしまう。

 

 負けたのだ。

 

 人類の希望が、負けたのだ。

 

 それは分かる。

 

 だが、分からない。

 

 それを取り囲むお前ら三人は、何をしている?

 

 お前らは人間じゃないのか?

 その少女たちに助けてもらったんじゃないのか?

 

 少なくとも、あの子供たちがいなければ、こうして俺が屑のような生活を送ることすら出来なかっただろう。

 

 いや、もしかしたら人間の形をした、あの化け物なのかもしれない。

 

 そうに決まっている。

 

 化け物に負けたのなら仕方がない。

 人類が負けたのなら仕方がない。

 

 だから、化け物に勝てるはずもない普通の人間が、銃を持った程度で、あの子を見捨てて逃げても、それは仕方のない――

 

「クックック……ハハハハ! これがあの魔法使いサマの姿だぜ!」

 

「オイ、声を落とせ。周りに他の魔法使いがいたらどうする」

 

「っと悪い悪い。せっかく怪人様に魔力を封印するコレを貰ったってぇのに、無駄にするところだった」

 

 逃げろ。

 逃げるのは恥じゃない。

 

 相手は化け物だ。

 銃なんか、ものともしない化け物なんだ。

 

「っぁ……」

 

「いやぁ、前から思ってたんだよね。なんでこいつらばっか良い生活してるのか」

 

「そうだよな。ガキなんぞ適当なメシでも食わせときゃ良いのによ! おかげで俺らに回ってくるメシが少なくて、物足りねぇ!」

 

「……ぇ」

 

「どうする? 魔力ってヤツを封印しちまえば、ただのガキなんだろ?」

 

「あぁ? そりゃここまで来たら、やることは一つしかねぇだろ」

 

「だれ、かぁ……」

 

「まっ、それも怪人様からの条件だしなぁ。俺らのような人間でも言うこと聞いていれば生かしてくれるらしいし、言われた通り()()は抜き取ったから後はせいぜい楽しませて貰うか──「頼むから黙って死んでくれ」ぁっ!?」

 

「ぇ?」

 

 体が勝手に動いていた――というには、今の俺には殺意が漲りすぎていた。

 

 訓練で繰り返された動きをなぞりながら引き金を引く。

 

 突然飛び出した俺の存在に驚き、動きを止めた三人……いや、三匹のナニカに、回避する余裕を与えず弾丸を叩き込んでいく。

 

 肉が抉られ、骨が弾け飛ぶ。

 

 血が吹き出し、鉛が飛び込む。

 

 殺すことしか頭になく、たっぷり数秒をかけて、マガジンに入っている弾を全て撃ち込んだ。

 

「っはぁ……はぁ……はぁ……」

 

 マガジンが空になり、銃声が止んだ。

 

 辺り一面に広がる血飛沫と、さっきまで言葉を喋っていたナニカの肉片。

 

 空になったマガジンを外し、腰のポーチに差し込む。

 そして予備の――最後の――マガジンを取り出して装填する。

 

 息を整え、少女の方へ歩き出そうとして……まだ息があるナニカに気づく。

 

「て、テメェ……こんなことして──」

 

 気分が悪くなる音が聞こえそうだったから、その頭部を撃ち抜いた。

 

 ようやく静かになった。

 

 ふと視線を下ろす。

 

 少女と目が合った。

 

 その瞳には、不安と困惑、わずかな希望と……それを塗りつぶす俺への恐怖があった。

 

 それに気付きながらも、少女に近づき体を起こさせる。

 

「怪我は……致命的なものは無さそうだな。特に痛む箇所はあるか?」

 

「ぁなたは……?」

 

 か細く、小さな声で少女が言う。

 

 俺はその言葉を無視し、少女を抱き上げた。

 

 かなり派手に音を立てた。

 化け物にしても、この子の仲間にしても、ここに留まるのは危険だ。

 

 少女は無言のまま、抵抗もせず運ばれていった。

 

 近くのドラッグストアに運び込み、包帯などで治療していく。

 

 応急処置の知識は軍で叩き込まれた。まだ覚えている。

 

 当然、四肢に触れることになるため許可を取ろうとしたが、少女は無言で頷くだけだった。

 同意と解釈し、治療を続ける。

 

 仮に問題になったとしても、どうでもいい。

 

 先程、心の中に灯りかけた何かは、また小さくなって消えそうになっている。

 

 それで良い。

 

 俺ごときが何かを成せるなどと思い上がってはいけない。

 

 軽く見ただけだが、体の内部には深刻なダメージはなさそうだ。

 骨もヒビ程度は入っているかもしれないが、明確に折れている箇所はない。

 

 それを伝えても、少女は何の反応も示さない。

 

 流石におかしいと思い、様子をよく観察すると――なぜか衰弱していっていた。

 

 急いで、避けていた胴体の触診を始める。

 

 やはり骨や内臓に致命的な損傷は見当たらない。

 だが呼吸音がどんどん弱くなっていく。

 

「何でだよ……」

 

 医学を学んでいれば原因が分かったのだろうか。

 

 それとも元から俺には無理な話だったのだろうか。

 

 誰かを……いや、特別な存在である彼女を助けるなどという、おこがましい真似は。

 

 成す統べなく、弱っていく彼女を見続けることしか出来ない。

 

 こんな役立たずの俺なんか消えてしまおうか、立て掛けてあったライフルに手を伸ばす。

 

「折角面白そうなのを見付けたんだ。そういうのはよくないぜ?」

 

 ライフルを掴む手を、誰かの華奢な手が押さえていた。

 

 どこから?

 女の声?

 いつからいた?

 

 音は無かった。

 そこには誰もいなかったはずだ。

 

 反射的に大きく飛び退く。

 

 勢いのまま床を転がり、体勢を立て直して顔を上げる。

 

 そこには――宙に腰掛ける女がいた。

 

「あんた、誰だ」

 

 腰にあるナイフに意識を向け、彼女の正体を探ろうと声を振り絞る。

 

「私かい? ただの魔女さ」

 

「魔女? 魔法使いとは違うのか?」

 

「少しだけ違う存在だね。もちろん、歳を取った魔法使いって意味でもないよ」

 

 そう言ってクスクスと笑う魔女と名乗る女。

 

 薄く緑がかった長い髪をふわりとたなびかせながら、宙を移動し俺の目の前に来た。

 

 目が合う。

 

 何かを見透かされるような感覚。

 

「その子を助ける方法を教えてあげようか?」

 

 魔女が微笑む。

 

「その子は魔核を抜かれたことで魔力欠乏症になっている。末期症状だ」

 

 魔核?

 魔力欠乏症? 

 

 知らない言葉が並ぶ。

 

「結論から言おう。魔核を抜かれた魔法使いを助ける術はない」

 

「……は?」

 

「だが、例外が一つある」

 

 ――彼女は魔核を抜かれていなかった。そういうことにしてしまえばいい。

 

 何を言っているのか理解できなかった。

 

 ふざけてるのかと思い数秒考え込んで、やはり答えはでなかった。

 

 そもそもどうやって宙に浮いているかもわからない相手が言い出したことだ。

 俺が理解できる筈がない。

 

「ふふ、魔法や何やらを知らない君には難しかったかな?」

 

「……」

 

「簡潔に言おうか。 過去に遡り彼女がこうなってしまった原因を排除する。 それが彼女の症状を治す唯一の手段だということさ」

 

「過去に、遡る?」

 

 ドクン

 

 心臓が跳び跳ねる。

 

「正確にはループする、というやつかな? しかもこれは君だけを過去に飛ばす等というちゃっちな魔法じゃない、この世界ごと時間の流れを巻き戻すんだ」

 

 脳の一部が燃えるように熱い。

 

「詳しい原理は説明してもわからないだろう、だからやり方だけ教えよう」

 

「やり、かた」

 

 体の芯の部分、その奥にある冷たく冷えきったなにかに火が付いたような感覚。

 

「君がやることは簡単」

 

 魔女が何処からともなく取り出した杭のような物を俺に差し出す。

 

「それで自分の心臓を貫け、心臓を差し出せ、それが私との契約。 君の名前も消滅するが……得る対価と天秤にかけてみると良い」

 

 ──簡単だろ?

 言わんばかりに微笑む魔女を呆然と見詰めることしか出来ない。

 

 心臓を貫く?

 体に刺せってことか?

 というか名前が消滅するって何だ? 

 

 そんなの死ぬに決まってるだろう何を言っているんだ。

 

「おい、何でそんなことをしなきゃ──」

 

「良いのかい? もたもたしていると……その子、手遅れになっちまうぜ?」

 

 魔女に示唆されて即座に少女の様子を見る。

 

 既に呼吸がほぼ止まっており顔が青白い。

 これは知識の浅い俺でもよく分かる。

 

 彼女はあと2、3分もしない内に死ぬ。

 

「俺が死んだら、あんたがこの子を助けてくれるんだよな?」

 

「それは違う、君が自分の意思で、自分の力でその行為を成すんだ」

 

「何で俺なんだよ」

 

「偶々そこに居たから、誰にも見初められず道端の石ころのように存在していたから」

 

「ははっ! ……訳が分からん」

 

 質問しても真面目に答えてるのか答えていないのかそれすらもわからない。

 

「あぁ、分かった。やってやる」

 

 魔女から渡された杭のような物を逆手に持ち胸に押し当てる。

 

 覚悟は出来ていない。

 だけどそれで良いのかもしれない。

 

 所詮俺は何にもなれず逃げ出した糞野郎で、目の前で誰かが死んでしまうとなってしまったからようやく足を踏み出せた程度の人間。

 

 その行動すらもその場の勢いで、覚悟を決める暇すらなかった。

 

 ならこれも同じで良いだろう。

 

「これで死んだら……一生恨むぜ」

 

「君は死にはしないよ」

 

 魔女の呟いた戯れ言を耳に、一息で己の心臓のあるべき場所へ杭を突き立てる。

 

 激痛。

 意思と反し思わず膝を付く。

 

 鉄の味。

 口から血液が逆流し、どばどばとだらしなく吐血する。

 

 これは、死ぬな……やっぱ騙されてたのか。

 

 恨み半分とまだ残る希望が半分混じる視線で魔女を見上げる。

 

 そこには慈愛に満ちたような表情と満足しきったような表情が織り混ぜられた……端的に言うなら変な顔をした魔女がいた。

 

 魔女が俺の視線に気付き空を降りる。

 

「さて、君はもうすぐ死ぬ」

 

 やっぱりか。

 

 あれ程あった痛みが段々と消え、今度は眠気と冷たさが体を支配していっている。

 

 これが、死の感覚か。

 

「だが君のそれは終わりではない、始まりだ。……もっとも今何を言っても信じることは出来ないだろうがね」

 

 段々と意識が保てなくなる。

 

 ひどく、眠い。

 

「さて、長い付き合いになるだろうからね。今更だが自己紹介をしておこうか」

 

 音も……段々と、聞こえにくくなっているのに……魔女の声だけが鮮明に頭の中に響く。

 

「私の名前はヘクス。君の名前は消えてしまうが……折角の契約だ、聞いておきたい」

 

 おれ、の……名前は…………

 

「あぁ、私だけは覚えておこう。では向こうで会おう、おやすみ──」

 

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