鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
シャワーを浴びた俺は持ってきた荷物から下着だけを着替えて、一応大丈夫だとは思うが棚を動かしてしっかりと地下への扉を隠してから階段を下る。
シャワーを浴びながらこれからの事を考えていたが特に何も思い付かないこの凡人頭が憎らしい。
ヘクスと相談するしかないと結論に至った。
剣の怪人から逃げ出して結構経つがここに来る様子はないから付けられている可能性も低いだろうし、こんな
そう頭では分かっているが拳銃を手放せないのは俺がかなりの心配性でネガティブ気質だからなのだろうか。
階段を一歩下り、頬を風がなぞる。
ん?
風?
振り返りしっかりと扉が閉まっていることを確認する。
では何故風を感じたのか、その答えは一つしかない。
だがそれ以上の物音も感じないので特に焦る事無く階段を下りていく。
そして部屋に入ろうとして──何か風に拘束されてだらんと空中で宙ぶらりんになってるヘクスの姿と、顔を真っ赤にした空成ハクが居た。
ヘクスが攻撃されてるのかと思い一瞬拳銃に手が延びかけてしまったが、それならばこの状況、既にヘクスが殺されてないとおかしいし下手人っぽいハクもそこまで敵意が有るようには見えない。
取り敢えず状況を探るべく俺は声をかけることにした。
「何これどういう状況?」
「やぁ、ムーヴ君。どうもこうも見たまんまだよ。いやぁ、昨今の魔法使いは凶暴で困るね」
「貴女がっ! おちょくるような! 言い方をするから!」
成る程、魔法使い殿は大変興奮しておられるように見える。
これは何かの拍子に間違って銃を抜いた瞬間、俺が吹き飛ばされる流れじゃな?
いや死ぬわ。
「ヘクス、何て言ったんだ?」
「別に普通だよ。私達の事を聞かれたからね、ちゃんと答えただけさ。ただそれだけ、だよね? 魔法使いさん」
「それは…………っ、ええ、そうです。ただ言い方がまともに答えていると思えずに暴走しました。申し訳ございません」
なんだ?
一瞬ハクが何かを言おうとした様に見えたけど……気のせいか?
「よし、私は気にしていないよ。だから下ろしてくれないかな? この体勢は中々来るものがあるんだ」
「自分で簡単に解けるでしょうに…………えぇ、分かりました、今解除しますよ」
「ふぅ、やっと解放された」
「何をやってこうなったかは知らんが自業自得な気がする」
よよよ、と明らかに分かる嘘泣きをしながら浮かび上がって俺の背後に回り込むヘクスを横目に、俺は思ったよりも元気そうなハクへ向かい合う。
表情に疲れは見えるが衰弱やどこか痛むような仕草は見えない、なら……
「初めまして、君の名前は知っているが君の口から自己紹介をして貰っても良いかな?」
自己紹介からしていこう。
そう思ったのだが……どうやら様子がおかしい。
「……それは既にそこの魔女と名乗る奴に済ましています」
「俺とはしてないじゃないか、手間だとは思うがよろしく頼むよ」
ハクがどう思っているかはわからない。
だが気を失う最後に忠告してくれた事もある、マイナスという感情だけではない筈だ。
俺としても力の有る魔法使いとは友好を築きたいから俺から言うことにしよう。
「俺はムーヴって名前を貰っている、顔に合わないのは分かってるから突っ込むならコイツにしてやってくれ」
ソファーの肘置き部分に腰掛けながら両手を頭の後ろで組んで、危害を加えない事を示す。
というか彼女からしてみたら俺等は突然現れた知らない大人の不審者だろう。
見た目的にまだ成人していないであろう彼女からしてみれば不安点しかないのは理解できる。
「…………はぁ、何だか貴方に警戒している私が馬鹿みたいですね。貴方自身からは改めて見ても何の魔力も呪力も感じられませんし」
緊張した雰囲気を完全には解かないものの、へたりとベッドの上で腰を下ろすハク。
突き出していた腕も今は下ろしている。
だが視線だけは常にこちらを、というよりもヘクスを見ているようだ。
先程、魔女と名乗る……と言っていた所から魔女とは魔法使いの一般的な知識には無いのか?
だから魔女であるヘクスに警戒を?
何か魔法を使える者だけに通じる感覚があるのか?
いや、考察は後にしよう。
ともかくやっと話が出来そうな状態になったのを無駄にはしたくない。
「では、何故か知っている魔女から聞いているとは思いますが、私は『空』の魔法使いの空成ハクと申します」
そして視線をヘクスから外して俺の方へ向ける。
「大変遅くなりましたが……危ない所を二度も助けていただきありがとうございました」
深々と頭を下げて、先程までの勢いは完全に鳴りを潜めて
……いや、元々彼女の気質はこちらの方かも知れない。
ずっと頭を下げて上げる様子の無いハクにどう声を掛けるものか……
ヘクスをちらりと見るも俺がどうするかを興味深そうに見るだけで助け船は出してくれそうもない。
適当に誤魔化すのも違う気がするし何かを要求するつもりはない、強いて言えば情報が欲しいがそれも無理して聞くことではない。
ある程度本音で喋った方が良いかな。
「それは良いんだ、俺は大した事も出来てないしな」
「は?」
「ん?」
何か今ヘクスから聞いたこともないような声が聞こえたような……
「いや、何でもないよ……君がそう言うならね」
「うん……? ま、まぁ君達が居なきゃ俺達はあいつらには絶対に勝てないんだ。あの時あの怪人を殺れたのも君が奴に致命傷に近い傷を付けてくれていたからだし、おそらくあれがなければ俺は
だから助けたんだ、だから礼を言う必要はない、と言うのはおかしいかもしれないが既に俺達は助けて貰ってる側なんだよ」
「…………いや、それでも」
「それに最後のあの反撃は君の忠告と力が無ければ俺は確実に死んでいたしなぁ……あれは完全に死んだと思った……」
「……」
「だから礼の言い合いはここまでにしよう。それよりもこの先どうするか、それは決まっているのかい?」
これが本題、俺が話したかった事だ。
既に分かっている事だが魔法使いは複数いる。
ならばそれぞれでも全員にそれぞれの連絡網、コミュニティがあると推測した。
もし、彼女にそれがあるのならばそこに戻るものだとも。
ようやく頭を上げてくれたハクはじっと俺の顔を見る。
俺を見ている……俺の何かを見ている?
そこら辺は考えても無駄だと理解しているので俺は続けて提案をする。
「もし、君に帰る場所や行かなければ行けない場所があるのならば俺はそこに送っていこうかと考えているんだけど……どうかな? あいつらの事を知っていたみたいだし、ずっと多分一人で居る訳じゃ無いんだろう?」
「それは……そうですね、確かに今私達が集まっている建物があります。作戦通りに進んでいたのならそこには沢山の一般人も居る筈ですし」
ハクは少し考え込んで、少ししてから何かを頷く。
「それでは、お願いして良いですか? 私も消耗した魔力の回復に時間がかかりそうですし、しばらく単独行動は控えようと思っています」
「わかった。場所はどこか教えて貰えるか?」
「はい、私達がもしもの時そこに集まろうと話していた場所……そこはこの町にある軍事基地です」
軍事基地、その名前を聞いて思わず天井を仰ぎ見る。
…………マジかぁ、俺って多分武器諸々を火事場泥棒した完全犯罪者だよな?
ていうか軍事基地まともに機能しているのか?
あれだけ人が消えていた上に怪獣とやらに大部分が蹴散らされた筈だ。
そっちの方面は一切関われていないから俺の知る限りだとすると、幾らかは生き残っていてもまともな分隊運用は不可能だと思われる。
だがハクがそう言うのだ、一度は行ってみた方が良いだろう。
俺はそこに居座るつもりは毛頭無いとしてもそこがどんな状況かを知る必要がある。
他の生き残りグループがどこに居るかを知ることが出来ればバンバンザイだ。
「軍事基地だな、
ここから行くにはバイクで……一時間はかからない筈だ。
しかし一つ問題点がある。
現在時刻、18:00過ぎ。
ここに来るまでの時間と彼女が起きるまでの時間でもう夕方、もうすぐ暗くなってしまう。
夜目が効かないのに戦闘になるとかなった場合逃げ切れる気がしない。
精神的な体力も限界だ。
気合いで幾分かは誤魔化せるがシャワーを浴びたからだろうか、疲労感がどっと押し寄せてきている。
だから色々と考えて……
「では、明日の早朝に出発するとしよう」
「今からじゃ……?」
疑問に思ったハクが可愛らしく小首をかしげる。
「そうしたいのは山々なんだけど時間的にすぐに暗くなってしまう。魔法使いはどうか知らないが俺は夜目が効かないからな……」
「私は問題ないけどね」
「ヘクスはそうだろうと思っていたよ」
何せ百メートル以上ある距離でも正確に、全てを見通すような情報をくれたほどだからな。
「君はどうなんだい? 『空』の魔法使いさん」
「ハクで良いですよ。私は……夜目は効きませんが他の手段で探知は出来ます。けど昼よりも弱くなることは確かです」
「なら決定だな、ハクも上でシャワーを浴びてくると良い。そこの階段を上がって出た部屋の次の部屋の左手にある。着替えは……うん、無いけど探したら女性もののはあるかもしれないしタオルくらいならそこに置いてあるよ」
「ありがとうございます」
「あれ? 私が付いていかなくてもいいのかい?」
「来なくて良いです」
「そうかい、なら迷子にならないようにね? もし迷ったらビックリしてしまうだろうからね」
「迷子になんてなるわけ無いでしょう」
ちょっとした言い争いをしている二人を横目に、俺は壁に備え付けられている棚の一つの食料棚を開いて中身を確認する。
ハクには……桃缶かな? 女の子だし好きだろう、多分。
俺は……サバで良いや。ヘクスもサバで良いだろ。
そこそこ大量にある缶詰の中からお目当ての物を取り出して振り返る。
「そこに食料が詰め込まれてあるんだね、水も置いてあるのか」
「コップを出すからそのまま飲むなよ。唾液が入ると品質が一気に落ちて日持ちしなくなるからな」
「そこは間接キスが恥ずかしいとかそういう理由を述べていた方が可愛げがあるんだぜ?」
訳のわからん事をのたまうヘクスを放っておいて俺はサバ缶をヘクスへと投げ渡す。
「……サバ缶?」
「嫌いだったか?」
「そういう訳じゃないんだが……そっちの手に持っているのは」
「俺用のサバ缶とハクの桃缶」
「そこは私も桃缶だろう!?」
サバ缶を放り投げ、食料棚に桃缶を取りに行くヘクス。
そんなに桃缶が好きだったのだろうか。
旨いんだけどな、サバ缶。
俺は桃缶を探すヘクスを見ながらサバ缶を開封した。