鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話   作:ヤンデレになる過程を楽しむ人

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一日目の夜更け

 俺がサバ缶を食い終わったくらいのタイミング。

 シャワーを浴びたと思われるハクが戻ってくる。

 

 やはり服は先程着ていたものと同じ長袖シャツとショートパンツだ、着替えは見付からなかったのだろうか。

 

 シャワーの熱で上気したのか、顔を少し赤くさせて一瞬こちらをちらりと見た後にそそくさとベッドの隅に行ってしまう。

 

 何だ……?

 

 分からんが戻ってきたということは多分問題はない筈だと考えて、桃缶をハクへ持っていく。

 

「っ!」

 

「…………」

 

 やはり様子がおかしい……が理由がさっぱり分からない。

 

 とりあえず近づかないように、ベッドの上に持ってきた物を置いていく。

 

「これ食事とこっちが水だから食べておいてくれ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 おかしいのはおかしいが……何かを気にしている?

 

 俺と目線を合わせないし……

 

 何だ、何かをもう少しで思い付きそうな気がするがその少しが出てこない……

 

 この場所、シャワー室に行った、帰ってきた……何かを見た?

 

 …………あっ

 

 よし!

 俺は何も気付かなかった!

 

 いくら休憩を挟んだとしても疲れた頭では限界があるし、これ以上悩んでも仕方がないな!

 

 俺は逃げるように先程中断した装備の点検の続きをしていく。

 

 いや、さっき思い付いた事が事実でないことを祈る。

 

 さもなくば俺は女子学生を泡なんとかの場所に連れ込んで一晩泊まらせるヤベェヤツになってしまう……っ!

 

 それは事実なんですけどね? それを向こう側に理解されるというのはまた厳しいものがある……

 

 弾丸を一つ一つ並べてマガジンに詰めて横に置いておく。

 

 マガジンに弾を詰めっぱなしにしていると余り良くないのだが

 ……そんなこと言っている場合じゃ無いからな。

 

 正直ここもいつ襲われるかは分からないというのが本音だ。

 

 さっき、ハクが魔力や呪力を俺から感じないと言っていたように、魔法使いにはそういう超常的なものを感じ取れる力があるのは確実だろう。

 ならばそれがあの怪人連中にも備わっていないと考えるのは少し楽観的に過ぎると俺は思う。

 

 当然その探知にも限界距離があるとは思うが……偶々、偶然にもここの近くを通り過ぎて気付かれる。

 なんて事もありえるだろう。

 

 考えすぎてビビり過ぎても問題だろうがやれるだけの対策、そして備えはやっておいて損はない。

 

 この後に拳銃のメンテナンスとナイフや手榴弾の再チェックにその他諸々

 ……睡眠時間を考えて後二時間以内には終わらせたいところだ。

 

 そう考えて更に作業に集中しようとした所でヘクスが視界一杯に入り込んできた。

 

「何だよ? 今結構忙しいんだけど……」

 

「いやぁ、君達はシャワーを浴びたみたいだけど私はいつ行ったら良いのかと思ってね」

 

「えっ? あー……そうだな、普通にいつでも行って貰っても良かったんだが……」

 

「んー、そうかい。じゃあ私もさっぱりしてくるとしようか」

 

「おう、一応気を付けてな」

 

 本当にいいのかい?

 というような視線を投げ掛けられたが……逆に何が駄目なのかよく分からん。

 

 というか本音を言うとヘクスってシャワーとか浴びるんだなとかそんな感想の方が強かった。

 

 出会いからして余りにも超常的な存在だったものでそこら辺の認識がおかしくなってるのだろうか。

 

 ヘクスが部屋を出ていく、ふよふよと空を飛びながら。

 

 着替えも持っていなかったが大丈夫なのだろうか。

 

 まぁ、彼女の事だし何て事無い顔して同じ服を何着も持ってたりするのだろう。

 

「……あ、え? あの魔女は何処に?」

 

「ヘクスならシャワーに行ったよ」

 

「そ、そうですか」

 

「何か用事でもあったか?」

 

「いえ、そういう訳では……気にしないでください」

 

「おう?」

 

 そして無言、気まずい沈黙が支配する。

 

 男の俺と二人きりで怖がっているのか?

 あれだけ警戒していたがヘクスは女性だし、居るだけでも安心感があったのかもしれない。

 

 まぁ、俺はそんな事する気もないし出来る気もしないんだけどな!

 

 というか万全の魔法使いを襲うとか死ぬしかないじゃない。

 

 銃持ってても無理だわ。

 

 場所が場所だし、気にするのは仕方ないだろう。

 俺は諦めてメンテナンスを続ける。

 

バレてないはず、バレてないはず……

 

「……?」

 

 お互いに無言のまま十分程経過して、ようやくヘクスが帰って来たのだろう気配がする。

 

 ようやくかと心の中で悲鳴を上げながらヘクスの方へと顔を向ける。

 

 ヘクスは空中に浮いたまま何やら楽しそうな表情で俺とハクを見下ろしていた。

 

 ローブではない姿で。

 

 ちょっとした予想外に少し動きが固まってしまう。

 

 これは多分ネグリジェと呼ばれる寝間着だと思われる。

 俺の知識が確かなら。

 

 薄い緑の色をした、柔らかく肌触りが良さそうな薄い布地は少し透けそうな気がしてしまいそうだ。

 

 俺は出来るだけ意識を逸らすために拳銃を現在の道具で出来る限りの分解をしながら、ヘクスを手振りで呼び寄せる。

 

 宙をゆったりと浮かびながら、ヘクスが前のローブの服の距離感のまま距離を詰めてくる。

 

 ふわりと、嗅いだことの無いような花の香りの様なものが鼻腔をくすぐる。

 

「なんだい?」

 

「いや、幾つか聞きたいことはあるんだけど……まず、ヘクスって手ぶらでシャワー行ったよな?」

 

「行ったね」

 

「その服どうしたんだよ」

 

「これかい? 作ったんだよ、似合うかい?」

 

「作ったぁ!?」

 

「っ!?」

 

 思わず大きな声を出してしまい、ハクを驚かせてしまった。

 

 ハクにすまないと謝罪をしてからヘクスに詳細を聞くことにした。

 

「なぁ、作ったってどういうことだ?」

 

「はぁ……ムーヴ君、君は一日中着けていた服を、特に下着を、身体を綺麗にしたのにもう一度履きたいと思うかい?」

 

 ヘクスがそう言いながらハクの方を見る。

 

 ハクがピクリと反応してヘクスの目線から逃げるように視線を逸らした。

 

「いや、答えになってない気がするんだが」

 

「ある意味答えを伝えたつもりだったんだが……まぁ、いいか」

 

 ヘクスは両手の人差し指と親指同士で円を作る。

 

 そして、今度は俺だけに届く声で囁く。

 

私の魔法は少し特殊でね、普通よりも汎用性がかなり高いと自負している。その中の一つにこういうものがあるんだ

 

 ぼんやりと何をしているのかが、()()()()()()()()

 

 繊維だ、今ソファーの繊維を少しずつ取り出しているのが分かる。

 

「これを編んで作るというわけさ」

 

 見たところこの魔法は糸状の繊維があるものならばそれを取り出し、それを編み込む事が出来るのだろう。

 

「勿論対象にとれるのは動かない、魔力がない、生きてない物だけだ。さて、これで疑問は解けたかな?」

 

「一つは、な……」

 

 もし時間があればあのボロボロになった戦闘服を縫い直せるのかもしれないがそれを頼んでみる事にしよう。

 そして二つ目の用件を伝えようとするとヘクスはその内容を先読みしていたようで人差し指を自らの口に当てて「静かに」のポーズを取るとその視線をハクの方へと向けた。

 

「大丈夫、分かっているよ」

 

「あぁ、俺ではちょっとな」

 

「うん、確かに君では難しいね。私の思っていることと君の思っていることが違うとしてもそこは一致している」

 

 俺の予想とヘクスの予想が違うにしろ何にしろ、ヘクスに頼むしかない用件なのだ。

 俺は一言「助かる」とだけ伝えて作業に没頭する。

 

 だがしばらくしても、ヘクスの動くような気配は無い。

 

 何故かと思い俺はヘクスをもう一度見上げる。

 

 そこには何か、微妙に複雑そうな表情のヘクスがいた。

 

「……行かなくていいのか?」

 

「大丈夫だろう、あの娘の()()はむしろ放っておいた方があの娘の為だからね」

 

「じゃあ何でそんな顔をして俺をじっと見てるんだ」

 

 ふと浮かんだ素朴な疑問。

 そのつもりだったがヘクスは呆れたように溜め息を吐いてしまった。

 

「それはね……いや、やっぱり何でもないよ」

 

「何だよそれ」

 

「いや本当にしょーもない事さ、気にする必要もない」

 

「そうか……?」

 

「あぁ、そうさ」

 

 どこかでヘクスの地雷を踏んでしまったらしい。

 

 明らかに落胆したような様子でヘクスはまた俺の隣に腰かける。

 

 何がまずったのか分からないまま俺は拳銃を再度組み立て直してからしっかりと薬室に弾が送り込まれているかを確認する。

 

 ちょっとした沈黙が気まずくて、言おうと思っていたことがあるのをポロリと口に出してしまう。

 

「ヘクス」

 

「なんだい?」

 

「その服、凄い綺麗だよな、似合ってる──」

 

 ──そこで相談なんだが俺の戦闘用の服を……と、続けようとして言えなかった。

 

 ヘクスが酷く驚いた表情で俺を見ていたからだ。

 

 それで言葉につまり黙ってしまったのを言葉が終わったと思ったのだろう。

 ヘクスが小さく笑顔をほころばせる。

 

「そうかい、別に嬉しくも何ともないけど……そういうのはもっと早く言った方がいいよ」

 

 そう言ったヘクスの姿が印象的で、俺は遂に服の事を切り出せなかった。

 

 

 

 ▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

 暗い夜の最中。

 薄暗い蛍光灯の光だけが辺りを照らす中で三人の人影が言い争いをしていた。

 

「だから危険だと言っているだろう! せめて朝になるまで待ってくれ!」

 

 一人は成人した男。全身を軍服で包み、その肩にはアサルトライフルが繋いであるベルト(スリング)がかかってある。

 胸元にぶら下がってあるそのアサルトライフルには一切手を掛けられておらず、男は非常に冷静な状態だが非常に緊張した面持ちで対面する二人を宥めようとしていた。

 

「いいえ、探しに行かせて貰うわ」

 

「クーゴは邪魔しないで」

 

 その対面するのは少女が二人。

 

 片方は深い青色の髪をした幼さが強い印象のある少女。

 

 もう片方は茶色い髪をした大人しそうな印象を受ける少女。

 

 二人の容姿は、髪色以外で瓜二つと言うべく程に似通っていたが、纏う空気が違った。

 

「だから! いくら君達と言えどこんな時間からこの状況で人を探しにいくなんて、大人として許可できるかよ! て言うか他の皆は何で起きてこないんだ!?」

 

 男は焦る、時間さえ稼げば仲間が来てこの子達を抑える手助けをしてくれると思っていたからだ。

 

「いくら待っても誰も来ないわよ」

 

「うみが音を、ちこが振動を止めてる」

 

「なぁ!?」

 

 男が驚き怯んだ隙に二人の少女が男の脇をすり抜けていく。

 

 男が舌打ちすると同時に仲間が居る建物に目を向けて

 ……二人の少女を追い掛けることを選んだ。

 

「糞がっ! 厄日だぜこんちくしょうが!」

 

 男は傍に立て掛けてあったバイクで夜の闇へと、二人の少女を追い掛けて駆けていった。

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