鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
ハクが飛び出した。
今の一瞬で分かるのはそれくらいだった。
「ヘクス!」
「
ヘクスの囁くような声が背後から聞こえ、直ぐ様上を見上げる。
……うっすらと、煙ではない半透明な何かが漂っているのがなんとか見えた。
あれか、あれを辿れば良いのか。
俺は直ぐにバイクを停めている場所に走り出し、チラリと贄沼の居る方へ振り向く。
丁度贄沼が立ち上がろうとして派手に転んでいた所だった。
贄沼が叫ぶ。
「悪い! 足をやっちまってて動けそうにねぇ!」
その声に悔しさが滲み出ている。
彼は本当に善性の持ち主なのだろう。
俺は片手を上げてそれに返事をし、止まらずに走り抜ける。
バイクに乗り込んで再度頭上を見上げる。
……まだ見えている、問題はない。
万が一に備えてグレネードを取り出しやすい位置に移動させておく。
バイクを走り出させると、姿を消していたヘクスが姿を現した。
何故姿を消していたのか。
とかどうして今姿をまた現したのかとか聞きたい事はあったが一先ず、一番最初に聞いておきたいことを聞く。
「
ヘクスはその問い掛けに無言で考え始めた。
そして、ほんの少しの間を空けて返答が帰ってくる。
「正確な時間帯は分からないが……君がこの
「……つまり?」
「手遅れにはならない程度には巻き戻される。が、それが何時の事かは私にも分からない……ここには本来居ない筈だった『空』の魔法使いが存在しているから尚更ね」
手遅れではない程度。
……確かに空成ハクを救えた時もギリギリだったが助けられる時間には戻ることが出来た。
だとするならば今回、巻き戻したとして何処まで戻ることが出来るのだろうか。
また空成ハクを救うところまで巻き戻されるのは勘弁して欲しいところだが……
その場合は仕方無い、また何度でも成功するまで挑戦するしかないだろう。
「そして……これは言えるか? うん、大丈夫そうだ……良いかい? 『空』はもうすぐ『海』と『大地』を見付けてその場に駆けつける、けれどムーヴ君はその場所についても絶対に駆けつけてはいけない」
「それは……その場所に行くな、という事か?」
「おしい、無作為に近寄るなという意味だ。その意味は自分で確かめて欲しい」
「嫌な予感が確信に変わったんだが!?」
何が起きてるんだよ……しかも今さらりと『海』と『大地』が生きているのを確信しているっぽい口調だったな。
それ自体は嬉しい事だが……
何が起きてもおかしくないんだ、気を引き締めよう。
バイクを走らせて、逐一頭上を見上げて
それを追い掛ける。
バイクを走らせている間何度か全身を撫でるような感触があったことからハクはあの探知魔法を何度も使っているものと思われる。
そして、ある瞬間にそれが止んだ。
見付けたのだ、おそらく……『海』と『大地』の魔法使いを。
追っている俺にも気が付いている筈だが、それどころではないのだろう。
大きな音がしてちょっとした風に煽られながら、ハクが向かったと思われるその方向へ向かう。
そして、遠目でだがそれらしき建物を見付けた。
バイクを停めてここからは足で行くことにする。
怪人が居たとしても気付かれないような距離からだ。
怪人の音が聞こえる範囲は前回でほぼほぼ理解した。
アイツ等は集中すればどんな音でも拾えるくせに、それをしなければ人の聴覚と何ら遜色がないのだ。
つまり、バイクの音が人間基準で聞こえなければ全くバレない。
逆に少しでも音に気付かれた場合俺の正確な位置が直ぐにバレる。
なんとまぁデタラメな生き物だと思う。
万が一に備えて装備は全て持っていく。
ここから先は情報が一切無い死地であると思った方がいい。
まだハクが入ったと思われる建物……廃れたボウリング場から音は聞こえない。
だが、誰も出てきては居ない。
つまり、何かがあるのは確定だ。
大きな音を立てないように、物音を最小限に抑える小走りで建物に近づく。
そして、もうすぐで入り口だというところで……大きな違和感を感じた。
それと同時にヘクスに肩を捕まれる。
「ムーヴ君」
「あぁ、分かってる……これは、何だ? 何かの膜が張ってあるように見えるんだが」
「……これは『海』の魔法使いが使う魔法の一つ。名前を『カイイキ』というものだよ。喜びたまえ、この中に少なくとも『海』の魔法使いが存在している事は確定したということだ」
それはとても良いことだ。
こんな魔法を使える位には元気で居るということである。
中に入ったであろうハクと無事合流していることだろう。
「で、魔法の効果は?」
「触れたものに海の中に居る時と同じ効力を与え、それと同時に激しい動きをするモノと魔法内に居る魔力、呪力を持つ存在を使用者に知らせるというものだ」
「詳しいんだな」
「双子の魔法は幾つかね……理由はこれから分かると思うよ」
冷や汗が止まらない。
嫌な予感が終わらない。
俺はパッと辺りを見渡して、ボウリング場の何処から何処までをその魔法が包んでいるかを確認する。
端から端まで全部、と言ったところか。
抜け道はなさそうだ。
「ヘクスは魔力とかって消せるんだっけ?」
「可能だね、姿を消したりしてもバレることはないよ」
「なら正面から入るから魔力とかを消してついてきてくれ。それで何かヤバかったら教えて欲しい」
「正面から行くのかい?」
「ここは行くべきだと思う。ご丁寧に外から何も見えないようにされているみたいだからな」
「了解した。何か気付いたことがあれば知らせるとしよう」
「頼んだ」
俺は拳銃を片手に持ち、ゆっくりとその魔法の膜に入っていく。
水の表面に体を入れていくような感覚。
空気とは思えない抵抗があってから俺はボウリング場に入り込んだ。
「……? 空気が、重い」
空気が体に纏わりつくような感触を感じながら更に歩を進めようとして、失敗する。
足が踏み出せない、というよりも踏み込めない。
なんだ、これは……まるで体が軽くなったような……まるでこれは……
「浮力?」
まるで海の中にいるような感覚。
息は……少しだけ苦しいができる、体も濡れはしない。
だがその他の特徴がそれに似通い過ぎている。
ちょっとした風の流れ──海流?──に体が浮きそうになってしまうのを腰を落とし、装備の重さで耐えながらゆっくりと足を進める。
大きな動き、おそらくこの空間の特徴を活かして泳いだり驚いて暴れてしまったりした場合
この空間、俺は大苦戦しているが先に行ったハクには全く問題ないのだろう。
風なら操れるみたいだしむしろ移動が普段より早くなってそうだ。
「……少しだけ慣れてきたな」
歩くのにようやく慣れて、少し位なら走ることも出来そうな位適応した所でヘクスに背中をチョンチョンとつつかれた。
「ムーヴ君」
「何だ? 何か見付けたのか?」
「あぁ、もうすぐ見つかる。そこの角の先で、ね……そして言っておく、そうすれば君は必ずそうしてくれると信じているから」
何が言いたいのか分からず思わず振り向く。
そして、うす緑色のローブを身に纏い、珍しく鋭い眼光をしたヘクスに驚きながらも目線を合わせる。
「飛び出すな、事態を見守るんだ。その角の先に何が見えても」
思わず息を飲む。
それ程の圧でヘクスは俺に向かって
命令と言っても良いかもしれない。
だが、思わず俺が飛び出すだろうと予想される光景がこの先に広がっているとヘクスは予想しているのだろう。そしてその無謀は即、命に関わるのだと。
「良いかい? 君が魔法使いを大事に思っているのは理解しているつもりだが、今はこれを守って欲しい」
「……分かった」
心配そうに更に念押しするヘクスに返事を返して俺は片手にグレネードを用意する。
そして、さっきよりもゆっくりと、慎重に歩みを進め……
その角、そこで魔法の膜が終わっており、そこから少しだけ顔を出してその先にある開かれた扉の先を覗いた。
そこにあったのは目を疑うような光景だった。
地に伏した空成ハク、目に光が灯っていない二人の双子。
その奥で嗤うハートの怪人。
それだけならばまだ他にも想像の働かせ様があった。
だが……双子の立ち位置は、ハクに対して、怪人を守るような立ち位置をしている。
今まで何も聞こえなかった音が聞こえてくる。
怪人の高笑い、ハクの血を吐くような嗚咽。
双子は何の言葉を発さずにじっと、光の伴わない瞳で、どこか遠いところを見ている。
何かを呟いているようにも見えるがここからでは何も聞こえない。
「ああああああ!!」
突如、ハクが咆哮と共に右手を突き出して風を巻き起こす。
古びた地面のタイルを引き剥がしながらその風の塊はハートの怪人へと向かっていく。
だが、それは何かの壁にぶつかり勢いを減衰し、突如床から盛り上がった様に見えた土の壁に防がれる。
そして次の瞬間ハクの周囲を包むように土塊が現れハクを拘束する。
その光景にまた、ハートの怪人が高らかに嘲笑う。
何が起きているかは明白だ。
双子の魔法使いはどういう理屈か怪人側に味方しており、その双子の手によってハクが追い詰められている。
成る程、成る程……
際限なく高くなる内なる熱が身を焦がしてしまいそうな程に沸き上がる。
今すぐに飛び出して、ハクを助けに向かいそうなこの衝動に体を委ねたくなってしまう。
そうすればどれ程スッキリするだろう。
そうすればこの命にどれだけの価値がうまれるのだろう。
だからこそ俺は……
その衝動の全てを黙殺した。
ヘクスがじっと此方を見ている。
飛び出そうとしたら取り押さえるつもりだったのだろうか。
だとしたら信用が無くて笑ってしまう。
確かにこの魔法使いの為にこの身を役立てたいという衝動は本物だが、それは
未だに此方をじっと監視するヘクスに一瞬だけ視線をあわせて大丈夫であることを伝える。
大丈夫、今突撃するほど堪え性がない訳ではない。
だがまぁ、この光景を作り出したと思われるあのハートの怪人には必ず死んで貰いたい所だが……今は無理だろう。
だから今は見に徹する。
この呪術とやらの条件と効果を見極めるために目を凝らして耳を研ぎ澄ます。
そして、怪人の声が、わざとらしく大声で話しているその声が聞こえてくる。
「無駄だ! 私への攻撃は全てこいつらが防ぐ!」
「──っ!」
「そうだ、貴様の声はもう届かない。だが嬉しいだろ? 愛する者の手で捕らえられるのだ!」
ハクが何と言っているかは声量が小さく聞き取れない。
だが双子に向けて必死に声をかけている事は分かる。
また、ハートの怪人が高らかに叫ぶ。
「苦痛とは自分を追い詰める存在、あの時こうすれば、ああしていれば、これをしなければ今頃……後悔こそが最大の苦痛。ならばそれを見なければ良い、それを見せる存在を消せば楽になれる。それこそが我が術式『
良く喋る怪人だ。
「予定では死んでいる筈の貴様が生きていると聞いたときには少々焦ったが……あの時来てくれたバカな男も使い、二重に術をかけておいて正解だった。他にも手段はあったがそちらは面倒だったからな!」
「──!」
「そう睨むなよ。あぁ、安心すると良い。貴様は必ず魔核を抜いてから殺せと言われている。この双子を使ってそれをやってやっても良いが……こいつらには他の魔法使い相手に暴れて貰う予定があるからなぁ! 特に『冬』や『炎』には消耗して貰わぬと困る」
ハートの怪人がハクに近付いていく。
興味深い話は聞けた。
こいつがお喋りなお陰でこいつの呪術にも何となくアタリがつけられた。
怪人がハクに完全に近付いてその手を触れる前に拳銃を顎に押し当てて引き金を絞る。
「……次は、いや、何度やり直してでも必ず、必ず防ぐ」
俺は、出来れば大きく世界が巻き戻ることを祈りながら引き金を引いた。
銃声が鳴り響いて、世界が巻き戻り始めた。