鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話   作:ヤンデレになる過程を楽しむ人

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魔法使い達

 世界が巻き戻り終わる。

 

 どうやら俺は目を瞑っていた様で、閉じた目蓋越しに淡い光を感じる。

 

 目を見開いて周囲を確認する。

 

 常夜灯、室内、座った体勢。

 ……どうやらここはあの地下室らしい。

 

 電灯が常夜灯に変わっている。

 既に夜の21時は越えているようだ。

 

 であれば――やはり体力の限界だったのか――部屋を暗くし直ぐに寝息を立て眠ったハクを起こさないように、出来るだけ小さく声を出す。

 

「ヘクス、今何時だ?」

 

「22時前、と言ったところだね」

 

 間髪いれずに返ってくる返事。

 少しの安心感を感じながら、音を出来るだけ立てずにこの地下室を出ていく。

 

 思ったよりも時間がない。

 また急いで行動しないと間に合わないだろう。

 

 ゆっくりと棚を動かして、出て、閉める。

 

 ハクを起こす。

 その選択肢もあるにはあった。

 だが、前の経験から理解した事の一つに、一周程度の情報量で、運命(ルート)に干渉できる程の最適な行動は取れないというものがある。

 

 何時何があっても直ぐに動けるように、主要な装備は常に体に身に付けていたのが幸いし準備に時間はかからない。

 

 食料品飲料類は無理だったがボアダムは掴めたので問題はない。

 

 出るのなら今すぐ出るべきだ。

 だが先ずは、手帳を開いて消えたであろう文章をまた書き足すことにしよう。

 

 俺の記憶も毎回完全に記憶できる訳じゃない。

 

 忘れることも勿論ある。

 

 それを極力減らす為にも手帳を開いて驚愕する。

 そしてそのまま顔を上げるとしてやったり顔のヘクスが未だにランジェリー姿のまま宙に浮かんで居た。

 

「驚いてくれたかい?」

 

「これは……巻き戻る前に俺が書いた文字だよな?」

 

 再び手帳に目を落とす。

 

 そこには巻き戻す前に書かれた、消えているはずの文がそのまま残っていた。

 

「ちょっとしたサプライズだ。君は何故か毎度懲りずに書こうとするからね、手帳に書かれた文字を引き継げるようにしておいたんだ」

 

「そんなことが出来たのか……!?」

 

 巻き戻しに物を引き継げる、もしそれが他に出来たのならば――

 

「君の考えていることは分かる。だけどね、残念だが無理なんだ。その手帳は()()()()()()事で中身を引き継げるようにしたが……それは手帳という媒介だから出来た事なんだ」

 

「……無謀特攻で基地から爆弾とか補充した後に死んで引き継ごうとか思ったりしたんだが、無理か」

 

「無理だねぇ」

 

 なら仕方無いか、諦めるとしよう。

 

 手帳に前の自殺する寸前に見た光景。

 その全てをその時自らが考察した考えも含めて記入していく。

 

 当然手は動かしながらもこれからどう動くべきかの考えは止めず、ヘクスに話し掛ける。

 

「ヘクス、考えを聞きたいんだが……ハクがあの双子に連絡を送ってないということはあり得ないと思うよな?」

 

「そうだね……『空』側から双子への思いは初めて見たが……あれだけ大事にしている存在だ、何かしらの手段で連絡は取ろうとしているだろう」

 

「だよな……」

 

 じゃあ、何をして連絡を取ろうとしていたのか。

 

 考えられるのは、まぁ携帯電話か。

 

 電話、メール……他にも色んな通信手段はあるが……普通に考えて先ずは電話か。

 

「ヘクス……いや、何でもない」

 

「なんだい? 話し相手くらいにしかならないのだから何でも言っておくれ」

 

「なら聞くが……というか頼みたいんだがハクの携帯電話を盗み見てどうやって連絡を取ろうとしたか調べられないか?」

 

「…………出来る、が。もしバレた時私の安否が保証されないだろうね、私と距離の近かった君も不審に思われることになるだろう」

 

「俺がやるよりも成功率は高いだろ、それにもしやらかしても俺が自殺すれば良いだけだ」

 

「──、分かった。一回で成功したら良いんだろう」

 

 すぅっと目を細めたヘクスが、少しだけ声を低くして姿を消す。

 ……失敗を俺が疑ったから怒ってしまったか? 

 

 それにしてはすんなり行ってくれたな。

 

 しかし姿を消したヘクスを追う手段が俺には何もない。

 せめて耳を澄まして、ヘクスが失敗しハクが何かしらをやらかす前に俺が死ねるように準備をしてから頭を動かす。

 

 まず、ハートの怪人の力の解明は急務だ。

 

 『海』『大地』の魔法使いを操る。

 洗脳するような力……呪術に俺が抵抗できる気がしない。

 

 黒の怪人の呪術っぽいのは喰らったが発動せずに終わり、良くわからない内に倒してしまったため情報はない。

 

 もう一つの前の人の真似をしてしまう、同じ行動をしてしまうという呪術のような条件に嵌まったら終わり系の術だろう。

 

 というか俺の場合何を喰らってもそのまま終わりそうな気がする……

 

 なので(ハートの怪人)の言動から少し推察してみる事にしよう。

 

 まずは贄沼が聞いたという言葉。

 『これも、お前達の罪だろう? 苦痛だろう?』だったか。

 

 罪、苦痛を主張しているように見える。

 そしてその時の双子は推定で精神崩壊状態にまで追い込まれていたようだったと。

 

 良く喋る怪人だったし、何かしら双子の罪の意識を肥大化させるような言葉攻めで心を折ったとかはどうだ?

 まだ子供だしあり得ない話では……さすがに無いか。

 

 次に行こう。

 

 奴が直接喋っていた話では苦痛、後悔を見ないふりをさせる、その原因を排除しようと動くようになる『Pleasure Principle(快楽原理)』という呪術の支配下に双子は置かれていた……と思われる。

 

 そして後悔を増幅し術に嵌めるという言葉。

 

 そのままの意味を取って予測を立てるとするならば、少しでも抱いた後悔の念を増幅させて苦痛を与える。

 その上でその原因を消し去りたいという欲求が沸いてくる、ということだろうか。

 

 想像に想像を重ねただけあり稚拙な推測だが、確実なのは……始動のキーは『苦痛』『後悔』にそれに類ずるもの、そしてそれらを『増幅』する。

 これは単純にこの怪人の話術かそれとも呪術の効力かは不明。

 そしていまいち不明な『快楽』という呪術の題名とも言える単語。

 

 おそらくこの呪術には段階があり、最後の一線を越えた場合のみあのような操り人形が出来るのだと思う。

 

 そして、一線を越えた後でも()()()()であるという可能性がまだ残っている。

 

 だが全てはあのハートの怪人の言動から考えられるものであり、奴が嘘をついていた場合、一から考え直さないといけないのも頭の隅に置いていく。

 

 思考の柔軟性は残しておくべきだ。

 

 そこまで一旦考え終えて、何もない空間に違和感を覚えた。

 

 透明で音もないその空間にじっと視線を送る。

 

 自分でもどうしてそうしているか分からなかったが、そこに何かが()()という何の確証も無い確信があった。

 

 数秒視線を送り続け、次の瞬間にそこにヘクスが現れた。

 

「ただいま戻ったよ……っと、うん?」

 

 言うなればただの勘。

 それだけの事で何事もなければそれだけで済んだ話だったのだが、そこに丁度ヘクスが現れるとなると少し驚いてしまう。

 

「あ、あぁ……バレずに行けたんだな?」

 

「勿論だとも、私だからという理由もあるが……『空』のは酷く疲れている様だからね、あれはちょっとやそっとじゃ起きないだろうさ」

 

「そうか、それは……」

 

 ちょっとだけ都合が良くて、都合が悪い。

 

 今回のこの情報を得るために関しては楽で良いのだが、次の機会に彼女を連れていくという選択肢を取るには少し考えた方が良さそうだ。

 

 さっきの何故かヘクスの出てくる場所を事前に分かったような感覚を不思議に思いながら、また頭の中でどうやって動くかの指針を組み立てていく。

 

「それで、どうだった?」

 

「うん、その事なんだがやはり電話を掛けてはいたみたいなんだがこの状況だ、回線がパンクしていたのか繋がらなかったみたいだ。そこでメールを何通か送信して、その内の一通が送信完了となって安心したみたいだね。『空』の受信メールにも一通双子から来ていたみたいだし」

 

「回線がパンク……? いや、その事より内容は?」

 

「手短に無事と知らせるような内容だったよ」

 

「双子からは?」

 

「同じ様な内容だね」

 

 うーん……?

 何か引っ掛かるが今はどうしようもないか。

 

 既に十五分くらいこうしている。

 今回は無理にしろ、そろそろ動かなければいけない。

 

 そうだな、先ずは……

 

「一先ず贄沼が屋上から突き落とされたビルに向かう事にしよう。バイクでそこそこに近寄ってから徒歩で向かう」

 

「了解だが……『空』のは連れていかなくて良いのかい? 順序良く事が運べれば怪人に見つかる前に双子を見付け合流する事も出来るだろうに」

 

 それはそう何なんだが、俺としては向こう側がハクの位置を正確に把握していないのにも関わらず、双子を嵌めるという手段に出たことが気になる。

 

 この三人はある程度近くに居ると分かっている筈なのに。

 戦闘が起きれば魔力等で探知されると分かっている筈なのに、だ。

 

 俺はハク達がどれくらい近くならば魔法などの魔力を感じる事が出来るかは知らないが、流石に目に見える範囲以下ということは無いだろう。

 

 ということは怪人側は必要ならば三人纏めて相手する準備があった、ということだ。

 

 これ絶対単独じゃ無いだろ。

 

 百何回と戦い感じた事だが、怪人と魔法使いのパワーバランスは基本的に1:1位だと推測できる。

 そこから個人の魔法や呪術の相性に依って上下するが……余程効果的に嵌まらない限り2:1、3:1は無理だろうと感じた。

 

 数は正義なんだなって。

 

 無論俺ごときが感じた感性からの推測なので全くの的外れであるという可能性はある、というか高い。

 

 だが既に一体の怪人が負けているというのに人数不利状態で何の策もなく仕掛けるか?

 

 という点に疑問が尽きないのだ。

 

 業務用の粘着テープを探して胴体にグレネード事巻き付ける。

 何かあればピンを抜くだけで自殺できるように整える。

 

 そして歩き出す。

 

 思考を過るのはもう一つ。

 

 あの怪人、ただの敵対者にしてはハク達の内情に詳しすぎた気がした。

 

 仲が良い事を知っているのはまぁ、あり得ないことではないので置いておこう。

 

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この建物から外に繋がる扉の前に立つ。

 

 音を確認して、最低限問題ないことを確認してからドアに手を掛ける。

 

 最後に、振り返りいつの間にかランジェリーの上からローブを羽織っているヘクスに目を合わせる。

 

「ヘクス、何か感じたら即座に教えてくれ。今回は出来るんだろ?」

 

「あぁ、縛りで言うならば七割解除といった所だ。未来情報に関してはまだ殆どが無理だが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()任せてくれたまえ」

 

「よろしく頼む」

 

 ゆっくりと扉を押して、真っ暗な夜の町へと飛び出した。

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