鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話   作:ヤンデレになる過程を楽しむ人

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魔法使い達2

 暗闇をバイクで駆ける。

 

 あのビルの場所は覚えている。

 そのビルから離れたところにバイクを停め、そこから徒歩で移動する。

 

 今のところは怪人らしき存在も双子の魔法使いも確認することは出来ていない。

 

 だがここに来ることは分かっている。

 

 だからこのビルの一つ隣にある一階層分だけ高いビル。

 そこの最上階に侵入し窓を開けて目視だけでなく音も聞こえるようにしておく。

 

 ボアダムは……設置しなくても良いだろう。

 そもそもそんな距離もない。

 

 声が聞こえるだろうという距離だ。

 

 普通に見られてバレそうなので床にボアダムを置く。

 

 他にも音が立たないように細心の注意を払う。

 

 現在時刻は22:40。

 次からは無駄無く動いたとして、後十分は縮められるだろう。

 

 手帳を開く。

 問題のビルの屋上をちらちらと監察しながら、手帳に現在状況を記入していく。

 

 現在の気温、天気は勿論のこと、風の強さに肌で感じる湿度、静かなビル街にうっすらと響く風の音等々の必要ではないかもしれない情報も記入する。

 

 それをヘクスが呆れた表情で眺めてくる。

 

 ヘクスにも音を立てないように、声を出来るだけ出さないようにとお願いしている為に律儀に守ってくれているのだ。

 

 こんな俺の様な素人考えの作戦に付き合わせてしまい本当に申し訳なくなる。

 

 だが、俺にはこれしか思い付かなかったのだ。

 手っ取り早く、正確に何があったかを調べる方法を。

 

 盗聴機の様なものがあればここまで近寄らずに済んだのだが……

 正直何処に行けば手に入るか分からないのでただ渇望するだけになっている。

 

 その後も俺は周囲の状況を記録し続け、23:15。

 

 遂に動きがあった。

 

 それは偶然に近い直感。

 

 静かに流れるだけだった風の音が、ほんの少しだけおかしくなった。

 という疑問と何か来そう。

 という……何十と死んだ時にちょくちょく感じた俺の体が感じる違和感。

 

 故に、良く注視して監視していたビルの屋上の真ん中。

 空から一体の怪人が音もなく降り立ったのを見逃さなかった。

 

 光は満月ゆえに淡くも強く、その姿を鮮明に目に焼き付ける事が出来た。

 

 ハートの怪人。

 

 そいつが現れ、ビルの屋上で周囲を警戒しているのか見渡している。

 

 まだ双子の魔法使いの姿は見えない、気配も感じない。

 

 この時間からあの怪人があの場所に居るという事は……何か、仕掛けをするのか?

 それとも()()()()()()()()()()()()()()()()()待ち伏せしているのか? 

 

 こちらには気付いて居ないようだが俺が出来る事もない。

 

 息を殺して音を立てずに聞き耳を立てる。

 

 ヘクスも姿は消していないが窓から姿が見えない位置でじっとしている。

 

 斯く言う俺は背中を壁に押し付け、空いている窓ではなく閉まってる窓からほんの少しだけ顔を出して覗き、ハートの怪人が此方を見そうなタイミングで完全に隠れる。

 

 今のところはバレていない……と思う。泳がされているのではなければ、だが。

 

 心は静かに熱を放っている。

 このような状況でも何故か体が緊張しないのはありがたい。

 

 万全に行動できる。

 むしろ過集中で奴の足音まで聞こえてきそうだ。

 

 やがて、ハートの怪人は周囲を確認し終わったのか。

 屋上の中央へ歩くとしゃがみこんで片手を床に当てた。

 

 全くの無音の町で、静かに流れる風に乗って小さく奴の声が聞こえてくる。

 

Pleasure Principle (快楽原理)

 

 赤黒くも淡い光がハートの怪人を中心として広がる。

 

 その光はビル一つを呑み込んで、消えた。

 

 そしてもう何も見えないし、俺には何も感じない。

 

 一度ヘクスに視線を向ける。

 

 ヘクスなら何か感じるかと考えたのだが、ヘクスは俺の考えを読み取った上で首を横に振った。

 

 で、あるならば……あの怪人の呪術は発動の瞬間だけ感知が出来てその後は何処に何をしているかは魔力、呪術を感じ取れる魔法使い、魔女から見ても分からないということだ。

 

 そして、何時受けたか、何をされているかも分からずに術中に嵌まっていき……と言ったところか。

 

 成る程……魔法使いの魔法の方が汎用性があって便利だと思っていたが、これは方向性の違いにも感じられる。

 

 つまり……汎用と特化、何が出来るかと何をしたいかの違いだ。

 

 思考のギアが勢い良く回転していくのを感じる。

 

 あの時、ハクを救出した後から双子を見付け、自殺した後も……

 

 ずっとずっと俺の体は常にエンジンが掛かりっぱなしの自動車のように、今現在も暖まり続け一定以上のポテンシャルを発揮できているように感じる。

 

 前の周の時、ほんの少しの物音で目を覚ます位に眠りが浅かったのにも関わらず、だ。

 

 そして、今も……怪人を目の前にして体が精神が最高の状態を維持し、更にそれを練り上げて行っている……ような気がする。

 

 何故、この状態が維持され続けているのかは分からない。

 

 魔法か呪術かと疑いを持っていたが、それならばヘクスが気付くだろうと思っている。

 

 案外、これこそが人間に許されたポテンシャルの一部なのかもしれない。

 

 だが何とも健康には悪そうだ。

 

 思考が逸れた、十と数秒の時間を無駄にした。

 

 今、ハートの怪人がしたのは呪術の展開、であると予想できた。

 

 黒の怪人の呪術は、即座に効果が無いとおかしいものだとあの様子から分かる。

 

 多分、呪術にも種類がある。

 

 速効性の物と遅効性の物。

 

 黒の怪人は速効性、ハートの怪人は遅効性。

 

 投石呪術は……多分速効性だとは思うが……今のところこれは複数の怪人が使っているのを見たことがあるために、除外。

 

 どうやって分別されているのかは情報が少なすぎて判断はできない。

 

 未だにしゃがみこんで片手を床から離さないでいるあの怪人の様子も気になる。

 

 またしばらく監察していると、今度はビル下から飛び上がってくる影が見えた。

 

 月明かりに照らされ、姿を現したのは鎧の怪人。

 

 片手に剣を携えたままハートの怪人へと近づいていく。

 

 怪人が二人、何かの拍子で気付かれるかもしれないので一旦覗くことを辞めて音に集中する。

 

「誰かと思えばギアじゃないか」

 

 ハートの怪人だと思われる声が響く。

 

 ギア、剣の怪人の名前か? 

 

「ジョイ殿、緊急連絡だ。場合によっては作戦の変更もあり得る」

 

「何だ? ゴァの奴がやらかしたのか……それとも他の奴か? 何にしろ自分の仕事はキッチリやって欲しいものだ」

 

「ゴァが死んだ」

 

「なに?」

 

 空気が重苦しく感じる程の圧力が、目で見えていない筈なのに肌で、耳で感じる。

 

 剣の怪人が言うゴァは……あの黒の怪人の事か。

 

 目で確認したい気持ちを押さえ付け、一字一句を聞き逃さない為に更に意識を集中させる。

 

「ゴァが死に、『空』を仕留めきれなかった」

 

「……死んだか、『空』に負けたか?」

 

「いいや、『空』を捕まえるまでは成功した。おれも合流し、二人で監視しながら魔核を取り出す作業も順調に進んでいた」

 

「ならおかしいだろう、あそこの近くには魔法使いは存在しないように注意していた筈だ。それとも何か? 想定外の、マークもしていなかった魔法使いが存在し、救出にでも来たというのか?」

 

「その通りだ。但し、魔法使いではなく……ただの人間の男のようだった」

 

 俺か。

 

 であるならば、ゴァとか言うのはあの黒の怪人で確定か。

 死亡が確定したのを確認できたのは大きい。

 

 ヘクスが殺したと言及してくれていたのを信じていない訳では無かったが、敵からそれを聞けると言うのはまた一つ意味が違う。

 

「人間……それはおかしい、我々は呪力で守られている。物理的な攻撃しか出来ない人間等に殺れる筈はない」

 

「魔法でヒビを入れられた箇所を銃で撃ち抜かれた。その後、おれは恥ずかしながら不覚にもフラッシュバンを喰らってしまい無力化され、魔方陣を破壊されて連れていかれた。あの動きからアイツはおれ達がどういう存在かある程度の知識があったと思われる。一人で救出に来る程に、『空』の重要性を知っていたようにもな」

 

 呪力で守られている?

 

 だとすればあの異様な固さはそれのせいなのか? 

 

 そうだとしたら……いくら火力の高い装備を用意したところで無駄か。

 

 いや、物理的衝撃は喰らっているように見えたので動きの阻害等に関しては使えるか。

 

 それにしても『空』に怪人達は固執しているように見える。

 

 前の周の時のハートの怪人(ジョイ)の言動からしてもそうだ。

 

『空』を殺せば双子のメンタルは地の底に落ちるだろう。

 そうなればあのハートの怪人の呪術が推測通りならば……簡単に操れる。

 

 だが他に何か、他の魔法使いと比べても特別な何かがあるようにしか思えない。

 

 クソ!

 

 アイツ等分かったように話しやがって……肝心なところは想像で補うしかないのは痛すぎる。

 

「軍人、魔法使いの協力者か。分かった気を付けよう。アイツからの報告では『海』『大地』は『空』と合流出来て居ないようだ。メールは来ていたらしいが……それをあの双子が知ることはない」

 

 何?

 アイツ?

 

 何だ、密告者? 

 

 双子の情報が抜かれてる。

 ……だが手段に見当が付いたのは良い。

 

「そうか。だが、くれぐれも気を付けてくれ。『空』の居所が分からない今、当初のジョイ殿の呪術の掛け方では解かれる可能性が高い」

 

「当然だ、対処する。必要ならばあの軍事基地を……いや、それよりも簡単に一つ、ネタがあるからな」

 

「それならば良い。ジョイ殿の呪術は希少な魔法使いをも支配下に置くことの出来る呪術だ。ここでジョイ殿を失うのは厳しい」

 

「あぁ、それよりも早く次に行け。『海』『大地』が(じき)にここに来る」

 

 トン、と軽い音がした後会話が無くなる。

 

 風切り音が僅かに聞こえギアの方が居なくなったのだと推測出来た。

 

 それに呪術のネタ……これはあの時の会話からして恐らくは贄沼の事か。

 

 ゆっくりと、慎重に窓からジョイ(ハートの怪人)を覗く。

 

 見える範囲にはジョイ一体だけ。

 

 何処かに隠れている可能性もあるが……ギア(鎧の怪人)は他に行くところがあるようだった。

 

 ヘクスに相談することが出来ないのが辛い。

 

 聞きたいことが幾つかある会話だった。

 

 心なしかジョイの雰囲気もピリピリしているように感じる。

 

 余計な音を出せばすぐに気付かれるだろう。

 

 まだだ、せめてここで何があったのかを知るまでは動いては行けない。

 今の情報では不充分だ。

 

 更に動向を見守り23:30過ぎ、突如として空間に変化が起きる。

 

 体が浮きそうになり、空気が肌にへばりつく。

 

 これは知っている。『カイイキ』とヘクスが呼んでた『海』の魔法使いの魔法。

 

 腰を落として、体を浮かさない様に重心を操作しながらそれがどの方向から発生させられているかを確かめるために周囲を観察する。

 

 ……駄目だ、分からない。

 

 この空間が飲み込まれたのも一瞬の出来事でどの方向からと言うのも分からなかった。

 

 街明かりと満月の月光はあるがそれだけの光では周囲を満足に見ることはできない。

 

 これは、待つか……魔法使いの二人がどうやってあのジョイの前に現れるかその方法も知りたい。

 

 だから待った。

 

 微動だにせず、ジョイが魔法に気付いても余裕の状態で待ち構えている事を知りながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()を待ち続けた。

 

 魔法の発現から十分程、それくらいの時間経過の後、二人は現れた。

 

 その登場の仕方は劇的ではなくて、不可思議でもない。

 

 普通にビルの階段を駆け上がって、屋上の扉を開いて現れた。

 

 少し距離があるここからでも分かる青い髪と茶色の髪。

 

 間違いなく双子の魔法使い。

 

 そしてどうやら、二人の魔法使いに移動手段は無いらしい。

 

 あったとしても上に上がれる物では無いのか。

 

 息を切らせた二人の魔法使いはジョイの存在を黙視した後それぞれの戦闘態勢を取る。

 

 そして青い髪をした魔法使いの方が叫んだ。

 

「ハク姉さんは何処!」

 

 成る程、かなりややこしいことになっているようだな。

 

 様々な可能性が脳裏を過り、どれもこれも否定材料が無いばかりに頭を抱える。

 

 何故、ハクの居場所を怪人が知っていると思っている? 

 

 いや、俺が介入しない場合には間違いではないのだが。

 ……どうやってその結論に辿り着いた、いや辿り着かされた? 

 

「2対1なら私たちが勝つ。話せば見逃す」

 

 茶色の髪をした少女が、口数少なくジョイを脅しにかける。

 

 ジョイは答えない。

 

 ただ双子の魔法使いを見詰めるだけで……何かを待っている?

 

 それも定かではないまま双子とジョイのにらみ合いは続く。

 

 先に動いたのは魔法使いのうみ。

 

 単純にしびれを切らしたのか、それとも何か考えがあったのかは分からないが『カイイキ』を解くと同時に踏み込み、それが発動した。

 

 屋上の床が、見下ろす俺から辛うじて分かるレベルでほんのりと、赤く、紅く光った。

 

 これは『海』の魔法ではない。

 ジョイの呪術だ。

 

 うみが何かを放とうとして、出来ず膝を付いた。

 そして、苦しそうに胸を押さえている。

 

 ちこがそれに気付いてうみに駆け寄ろうとする、駆け寄ってしまう。

 また床が紅く、僅かに光った。

 

 そして、二人の魔法使いは……戦うこともなく怪人(ジョイ)の前に膝をつかされていた。

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