鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話   作:ヤンデレになる過程を楽しむ人

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魔法使い達3

 二人が膝をついたのを見届けてから、チラリと時間を確認する。

 

 23:46、まだ贄沼からの話にあった轟音とやらは鳴っていない。

 

 そして、ハートの怪人もずっとそこから動かずに二人を見下ろしている。

 

「ぁ、なに……これ」

 

 絞り出すような声でうみが言う。

 

 まだ少しの余裕があるのか。

 少しずつ立ち上がろうとしている。

 

 その隣で同じく、ちこもゆっくりと顔を上げて立ち上がろうとしていた。

 

 それを見てか、ハートの怪人が動いた。一歩だけ前に出た。

 

「一歩踏み入れるだけでそのようになるのは想定外だった……どうやら相当な焦りと心労で精神を摩耗しているようだな」

 

「くぅっ……」

 

 ふらふらとしながら、うみがハートの怪人を睨み付ける。

 

 その手には先程放とうとして放てなかった。

 おそらく魔力らしきものを溜めているように見える。

 

「止めておけ、今の貴様らでは話にならん」

 

「うるっさいっっ!」

 

 うみが手に持っていた何かを叩き付けようとして……出来ずにまた崩れ落ちた。

 

「ふ、む……精神が未熟に過ぎる。この様子だとすぐにでも仕上げに掛かれそうだな」

 

 ハートの怪人は視線を今度はちこに向ける。

 

 次の瞬間、ちこが少しだけ崩れそうになるが持ちこたえる。

 

「『海』のとは違い、よく耐えるな『大地』よ。それは貴様の精神が罪の意識に耐えきっているからか? それとも貴様にとって『空』の魔法使いはそれほど意識することのない、その程度の存在だったか?」

 

「そんな、訳……無いっっ!!」

 

 ちこが叫び、それに応じてビルの周囲の地面が振動する。

 

 アスファルトがひび割れ、その下から土らしきものが大量に浮かび上がり……大きな腕を模した……!?

 

 嘘だろ?

 空中に車くらいの大きさの拳腕が一瞬で作られた……

 

 だが、それを見てもハートの怪人は動揺を一切見せず、むしろつまらなそうにちこを見ている。

 

 つまり想定内、対処可能な範囲だということ。

 

 しかしちこはそれに気付かず、いや気付く余裕もないのだろう。

 

 力強く握り締めた拳を振り下ろすと共に空に浮かんでいた巨大な土の拳がそれに連動して落下していく。

 

「『ツチクレ』っ!」

 

 対するハートの怪人は、それに対して遠目からでも分かるほどに力強く拳を握り締め、

 

 ……その土の拳を、轟音を伴って打ち砕いた。

 

 衝撃が周囲を襲い、三人がいるビルに一番近い窓ガラスが壊れそうなほど振動する。

 

 巨大な土の拳による一撃。

 

 まさか同じく拳……しかも生身で撃退、一方的に破壊されたことに驚いているのか、ちこが大きく目を見開いて唖然としている。

 

「万全な状態でもない貴様ごときの簡易魔法で討てると思ったか? なめるなよ、詠唱も使えない魔法使いごときが」

 

 強い、明らかに……あの黒の怪人(ゴァ)よりも一段と。

 

 鎧の怪人と同じだ。

 

 出し抜いて出し抜いて策を練って、ようやく一手の邪魔を出来るような化け物。

 

 しかも、だ……あのちこの魔法を砕いた一撃、()()()()()()()()()()()()()()

 

 動きに無駄が少なく、打った後も戻りが早いし慣れがある。

 

 あの一瞬で確認出来たのはそれだけだが、本当に勘弁してほしい。

 

 化け物が人間の技術を使うなよ。

 

 それに今チラリと聞こえた「簡易魔法」と「詠唱」という言葉。

 

 初めて聞く単語だが……ゲームで言う呪文のようなものが存在するのか?

 

 今まで集中と一単語だけで魔法が発現していたことを考えると……それらが簡易魔法?

 

 まぁいい、これで()()が確認できた。

 ()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 ならばもうすぐ贄沼がこちらに来る。

 

 そして考える、いつ俺は自殺するかを。

 

 そのタイミングを考える。

 

 深入りすればするほど事故の可能性が高まり、失敗率も上がる。

 

 だが、その分情報を手に入れられるかもしれない。

 

 贄沼が突き落とされたタイミング……ひとまずはそこを区切りに考えよう。

 

 その後怪人がどう動くかによって行動を変えることにする。

 

 ハートの怪人の声が聞こえ、意識をそちらに戻す。

 

「さて、そろそろ時間だ」

 

 その宣言と同時に二人の様子が激変した。

 

 見た目からして何が起きたのかが分かったわけではない。

 

 ただ、今までハートの怪人の隙をうかがおうとしていたその戦意が消え、何かに耐えきれなくなったように顔を下げてうずくまった。

 

 そして、小さな声で何かに対する謝罪と後悔を吐き出していく。

 

 ハートの怪人はそこまで見届けた後、またフェンスにもたれ掛かる。

 

「自らの心の重荷を自覚しただろう。今貴様らが感じているのはその罪の重みだ。貴様らが貴様ら自身で自らを追い込んでいるのだ」

 

「ハク姉さん……っ」

 

「ごめんなさい……すぐに探しにいけなくてごめんなさい……」

 

 うみとちこがぽろぽろと涙を流しながら懺悔する。

 

 ハートの怪人は仕上げとばかりに大きく両手を広げ、高らかに言った。

 

「その苦しみを消し去りたいだろう?

 後悔など感じたくないだろう?

 苦痛を消す手段は簡単だ。

 その原因を……それを生み出す全てを消せば良い。

 さすれば貴様らは快楽(安心)を得られる

 ……さぁ、その身を委ねろ……邪魔な理性など捨てろ……所詮はそのようなものは邪魔に――ふむ?」

 

 ハートの怪人の演説が止まる。

 

 そして、それと同時に俺の耳にも小さくバイクのエンジン音が聞こえてくる。

 

 贄沼だ。

 

 少々不味い、怪人が音に集中しだした。

 

 息を止めて音を完全に殺すように努力する。

 

 この距離、そしてバイクの音がする方向から逆の位置に居る俺に気付かない事を祈りながら俺は経過を見守った。

 

 それしか出来なかった。

 

「これは……例の人間か? いや、魔力反応は無い……だとすればどちらでも構わんが、貴様等、喜べ……誰かが助けに来てくれている様だ」

 

「……え?」

 

「魔力もないただの人間のようだがな」

 

「クーゴ……?」

 

「やはり知り合いか……残念だったな、どうやらそやつは何の策もなくここに来るようだ。あぁ、全く可哀想だが……来てしまえば殺すしかないなぁ……」

 

「ぁぁあぁ……ぁああ!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()。貴様等には心当たりがあるんだろう?」

 

「やめ――」

 

「だから、もしその人間が来てしまえば……その人間が死んだならば……一体、誰のせいになるのだろうな?」

 

 ハートの怪人は嘲るように言った。

 

 ただ事実を述べるように、双子の罪悪感を煽るように……

 成る程、これが二つ目の罪悪感か。

 

 確かに贄沼は二人を止めるために基地を出ていき、ここに辿り着き……双子を助けるために飛び出して死んだ……あの二人視点では。

 

 成る程、それで持たなくても良い罪悪感を持ってしまったのか。

 二つ、別の罪の意識……心に重くのし掛かる苦痛をあの怪人は利用した。

 

 いや、『空』の方はともかく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……贄沼は()()()()()自分の意思で助けようと考えて無謀にも行動に移した身勝手な人間なのだ。

 

 どうしようもない馬鹿なんだ。

 

 とまぁ、双子に伝えてやりたいが今声を出せば俺は確実に死ぬだろう。

 

 自殺する暇があるかすら怪しい。

 

 というか伝えた所でそれを納得してくれるかどうかは、たぶん無理。

 そう考えてくれるのならばハートの怪人の術中に掛かりすらしないだろう。

 

「ほぅら……今階段を上ってきている所だ」

 

 罪の意識から解放される快楽には誰しもが抗いがたい。

 

 ハートの怪人はそういう呪術を使っている。

 

 うみとちこが既にもう何の反応も返せないほどに取り乱している。

 

 屋上の扉が開かれ、贄沼が必死な形相で叫びながら銃を乱射した。

 

 後はもう聞いた話と同じ、捕まった贄沼が屋上から投げ捨てられた。

 

 重く鈍い音が耳に残る。

 

 そして、絶叫が響き渡る。

 

 それと同時に屋上の床が紅く、これまでよりも強く、輝き……目を再び開いた時には、うみとちこが光を失った瞳でハートの怪人を見ていた。

 

「術は成った。さて……では、初めの仕事だ着いてこい、あの男が居た場所を消しに行こう」

 

「……」

 

「歩いていくのも面倒だな……仕方無い、魔法()の使い方が未熟な貴様等に少し使い方を教えてやる」

 

 次の瞬間、肌に空気が纏わりつく感覚がありうみが『カイイキ』を使った事が分かる。

 

 無言での意志疎通……というよりは指示伝達? 

 

 そして、先程破壊されて散らばった土が動き出し空中に小さな幾つもの固まりとなって固定される。

 

 ハートの怪人が跳び、それに続いて双子がジャンプする。

 

 空を泳ぐように三つの影は空を飛び、脚力の足りない双子は空中に固定された土の足場でもう一度踏み込んで跳躍する。

 

 しばらくそれを見守り、怪人の聴覚にも察知されない距離まで待った後、大きく息を吐き出す。

 

 若干の疲れはあるが問題ない。

 

 ただ気になったのは先程怪人達が向かったのは()()()()がある方向だったと言うことだ。

 

「嫌な予感しかねぇ……」

 

「うん、そうだね。軍事基地は使い物にならなくなった、そう思っても良いだろう」

 

 どうする?

 

 追うか? 

 

 いや、無理だ気付かれる。

 

 それにあのハートの怪人は何故か双子よりも双子の魔法に熟知していたように思える。

 

 先程の魔法と魔法の組み合わせなど魔法の詳細を知っていなければ不可能だ。

 

()()()とかいう奴が伝えたか? 

 

 わからない、断言はしてはいけないだろう。

 

「なぁ、あの呪術はどういうものか分かるか? じゃないな、言えるか?」

 

「感情をキーに、一定のラインを越えると次の段階へ進む。最後のラインを踏み越えると意識が朦朧とし、正常な判断が出来なくなる……までは私として推測できる」

 

 トリップ状態……という奴なのか? 

 

 苦しみから逃れるためにとか麻薬か何かかアイツの呪術は……

 

 手帳を取り出して、今あったことを書き始める。

 

「ハクが特別扱いされていた、その理由は?」

 

「んー、少なくともあの双子よりも強いという理由があるのは確かだね」

 

「うみとちこについて情報を流していたアイツについては?」

 

「今のところは見当もつかないが……どういう手段か人間のグループに紛れている様だ、だが人間であるか怪人であるかはわからない」

 

「それは、そうだな」

 

 何度か操られている人間や、そうでなくとも怪人に従っていた奴らを思い出す。

 

「最後に、『空』の魔法使いをこの場に連れてきた場合……あのハートの怪人に勝てると思うか?」

 

 一抹の希望を持ってヘクスの方へ振り向く。

 

 だがヘクスは首を横に振る。

 

「多分、勝てない。彼女は今、途轍もなく消耗している。様々な要因を排除し、戦える場を整えたとしても……ハートの怪人、ジョイは『空』との戦い方を知っている。今戦えば勝率はかなり低いだろう」

 

 戦い方を、知ってる? 

 

 何処かで見ていた、もしくはこれまでで戦った事があるのか。

 

 疑問は尽きない、そもそも怪人とは魔法使いとは何なのか。

 

 今考えても無駄か、ヘクスもその事を言えるのなら初めに言っているだろう。

 

 では、次は双子が何処にいたのかを調べる事にしよう。

 

 俺は拳銃をこめかみに押し当てた。

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