鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
二十四時間営業のコンビニエンスストアから漏れる光を避けて、街灯や月明かりが当たりにくい暗闇の中を歩く。
足音を殺し───物音がする装備は全て置いて来た───周囲を警戒しているちこの背後を取る為に足を進める。
ヘクスにはちこやうみが攻撃の意思を向けてきた場合俺が逃げるのを補助する為に姿を現してくれている。本人には言っていないが、初見でヘクスを見た場合の魔法使いの反応が知りたい、というのもある。
前回のハクの反応が
ヘクス……というより魔女という存在、それを端から見た場合の反応が知りたい。
ハクの対応からして即敵対、ということは無いと思うが……これからの組み立てにはその個人が示す正確な反応が必要になる。
無論、ヘクス側の反応も。
闇から闇へ、影から影へ、息を殺し音を消す。
怪人に肉薄するために使っていた技術を魔法使いへと近付くために使う。
うみからも視線は通っていない、絶妙な位置取り。距離からして大きな声を出さなければうみには気付かれないだろう。まぁ、気付かれてもそれ程問題ではないが。
息を整えて、予め手帳を破き、ハクが居る場所と『叫ばず静かに声のする方へ振り向け』と書いておいた紙切れを丸め、中に小石を積めたものを投げる。二重の保険、叫ばずの部分は最悪無視されても良い。住所に興味を示せば万々歳だ。
コン、と軽い音が小さく響き、ちこがそれに気付く。
ちこは周囲を確認しながらゆっくりと近付いていき、拾って読んだ。
「っ!」
息を整える。
彼女の反応一つで見逃せない。
では、始めよう。
「初めまして、『大地』の魔法使い」
「……っ、誰?」
第一関門である初手攻撃は無かった、セーフ。
「俺達に敵意も、危害を加える気も無い。話をしたいだけだ」
両手を上げて、ちこだけに見えるように位置取りを変える。
背俺の背後、触れるような距離にヘクスが居る。
当然ちこからヘクスは見える、ちことヘクスの一挙手一投足すら見逃さない聞き逃さないように集中力を振り分ける。
「怪人……違う、魔法使いでもない……何も感じない? そんな生き物が居るわけが……」
小さく溢したちこの言葉を拾い上げる。
俺の事……ではなさそうだ、僅かだが視線はヘクスに向いている様に見える。
警戒心が高まっている様な気配。
気にはなるが気付かないふりをしてこちらの用件を伝えよう。
「君達が探している『空』はその場所に居る」
「……は?」
ピクリと身体を動かすがそれだけ、こちらを拘束するかどうか迷っているのだろうか。ヘクスは何も言わない、なら大丈夫だろう。
「無事かどうかは……君達が自分の目で見ると良いだろう」
最低限、伝えることは伝えた。
後はちこがどう動くかでこちらの動き方が変わってくる。
うみを呼ぶ? 俺が嘘を付いたと考え俺を拘束する? はたまた攻撃してくるか。
だが予想に反し、ちこは頭を悩まして深く考え込んでいる。
「ハク姉さんは怪人に捕まったって……」
「……」
やはり、どこからか誤った情報を教えられていたようだ。
いや、俺の介入が無かった
しかし、それを知ることは殆ど不可能な筈だ。
軍は殆ど機能停止しているし、こうなれば警察機構も良くて半壊と言ったところだろう。言っては悪いがまだ重要性も分かっていないであろう少女を監視するような事が出来る余裕がある筈無い。
偶然それを見ていたとしても、だ……それを知ることが出来てそれをその知り合いに話すなんて確率どれ程低いのだろうか。
全てを知っている存在を除いて、だが。
更に言葉を重ねようとして、ヘクスが少しだけ前に出た。
「別に信じても信じなくても良い。何ならその場所に案内しても良い。ただ私達は事実を言っているだけだからね……だから私達を捕らえてどうこうなんて考えない方が良いよ?」
ヘクスが小さく「下だ」と呟いた。
何かあるのだろうと、目線だけを下に向けると……先程まで無かった土が足元近くまで近付いてきていた。
成る程、喋って時間稼ぎをしている間に足元を固めようとしていたのか。
別に驚きも怒りもない、むしろ当然だという気持ちと関心が心の底から沸き上がる。
だからこそ……気付いていたと、外見を装いながら小さく笑ってやる。
誤魔化しやはったりで迂闊に攻撃できない、という警戒心を植え付けれるのならいくらでもやろう、ちょっと手を下されるだけで何も出来なくなるのだから。
「やっぱり……怪人?」
「そう見えるか?」
「見えない、けど……」
ちこの視線がヘクスの方へ向く。
やはり、魔女という存在はイレギュラーなのか、判断が仕切れていないようだ。
これで大体の反応は分かったな。
だが、聞いておきたいことがある。
「君達は誰から『空』の魔法使いが捕らえられたと聞いたんだ?」
「……基地に居た親切な人から」
「親切?」
「落とした携帯を拾ってくれた」
「男か、女か?」
「言う必要は無い、少なくともハク姉さんの無事が確かか確かめるまで」
「そうか」
基地内部に居たという情報だけで充分か。
これ以上はうみにも怪しまれるだろう、この場から早々に撤退しよう。
「君達がどうするか決めるのは自由だが……決断は早くした方が良い」
「……それはどういう───」
「俺が何を言っても信じるに値しないだろう」
ヘクスが俺の背中に腕を回す。それと同時に俺の身体が軽くなり、普通では考えられない跳躍で闇夜の路地裏に飛び込む。
「待ってっ! 『ツチクレ』!」
「ちこ!?」
周囲に集まっていた魔法の土が一斉に飛び込んでくるが、予想済みだ。
ここは原始的な手段で身を隠す。即ち……ゴミ箱の中に、だ。
通じるわけがない、必ずバレる。
そう思ってしまうのは当然で俺も半信半疑だが……大丈夫だと思う根拠がある。
予め中身を抜いておいたそこそこの
次の瞬間、周囲に軽い何かが勢い良く当たる音……ちこの魔法であるだろうものとうみの『カイイキ』が展開される。
そして数秒、数十秒立ってもこのゴミ箱の蓋を開けられる気配はない。つまり、賭けには勝った。
俺はちこの『大地』の探知魔法は、必ず土に触れないと反応しないとふんでいた。つまり、そこにあるのが不自然では無いもので中に入れるものでありその上で土が中に侵入しない程度に密封されていればバレないと考えた。
うみの魔法は俺とヘクスにとっては動かなければ問題はないからバレる心配はない。
そして双子にとってもあれ程意味深なムーブをした俺達を深追いなどしないだろう。何時もならやるとしても今はハクを探すという重要な目的がある。
とまぁ、予測は立てたもののその通りになる確率の方が低いだろうから自殺の準備は完璧にしていたのだが……使わなくて良かった。
余裕を持って『カイイキ』が解除された後更に3分程待ち、完全に気配が無くなったと判断し
「ふぅ……当たり前だが、ちょっと臭かったね」
直ぐにヘクスが浮かび上がり、そのローブに付いた汚れを払っていく。
「悪かったな、あそこからここまで一足で来るには俺の素の力じゃ間に合わないからな……助かったが嫌だと言ってくれれば他の手段でも考えたぞ?」
「嫌ではないよ、ムーヴ君が魔法使いを助けるための手助けだからね。それよりも……早く追わなくて良いのかい?」
そうなんだが……俺はあまり不快感とかを感じなかったから気を付けないとな、これからも手助けして貰う機会は増えるだろうし。
音を立てないように気を付けながらバイクを停めている場所まで何事もなく戻り、空を見渡す。
『カイイキ』を使っているなら直ぐに場所を確認できるんだが……再度使われた様な形跡は見えない。
手帳を開いて今あった事を書きなぐりながら思考を回す。
「遠くで使われていたら見えないが……今までの使用感覚からして……移動ルートは……」
「何か分かりそうかい?」
ヘクスが興味深そうに手帳を覗いてくる。
大体方針が決まったので説明する事にしよう。
「間違ってたらあれなんだが……あの双子はおそらくハクの居場所に移動していると思う」
「根拠は?」
有るんだろう? と言うように空中に浮かびながら器用に頬杖をつくヘクスを見上げる。
試行回数が少なすぎる、断定して良い情報はあの
だがたった一回でも情報は情報だ。
まずはそこから移動ルートと地図から予測される場所を考え休憩地点を推理した。
そして『カイイキ』の効果範囲からして、俺の話を無視して進んだ場合、ここから見える筈。
だがそれは見えなかった。
当然、俺が干渉した事により移動ルートが変わった可能性も残るが……ヘクスが言っていた運命、というものの干渉があり、それを振りほどけていないのならば、あの双子はあのビルに向かうことになる筈だ。
ここからビルに向かい、あの時間に着くとしたらこのルートしかない。
と、言うことで双子はハクの元に向かった可能性が高いと言うことをヘクスに話す。
「ふむ、そうだね……的外れではないし可能性は高そうだ」
「じゃあ今からバイクで向こうに向かおう。近くのビルに路駐してその屋上から監視する感じで」
「隠し扉を見付けられない可能性はどうするんだい?」
「うみの魔法は魔法使いを探知できるんだろう? なら近くに行けば分かるし地下なら……ちこがどうにかしそうではある」
取り敢えず移動しないことには始まらないのでバイクにまたがり、来た道を戻った。