鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
俺は死んだ。
その筈だった。
自らの心臓を杭で貫き、血が溢れ、息もできなくなって死んだ。
実際に死んだ実感も鮮明に覚えている。
いや、鮮明に覚えているのに発狂せずこうして普通の思考ができている時点で、やはり死んでなかったのだろうか。
音が聞こえる。
警告音のような、どこかで聞いた事のある音。
それに紛れて、悲鳴のような怒声と、バタバタという複数の足音が聞こえてくる。
忘れもしない、忘れるわけもない。
これはあの時の……怪物が攻めてきた時の音だ。
ならばこれは夢なんだろうか。
死ぬ前にトラウマが夢に出てくるとか最悪すぎて何も言えない。
だがこの夢は体の自由が利くようでそれに気付いた俺はゆっくりと目を開ける。
「目は覚めたかい?」
「ぅおっ!?」
「えっ?」
目の前にあの魔女が居た。
馬鹿みたいに整った綺麗な顔と瞳で、こちらを覗き込んでいた。
驚きのあまり飛び起きてしまい、勢い良く激突してしまう。
激突した顔を押さえながら魔女……確かヘクスと名乗っていたはずの女を見る。
鼻っ面を思い切りぶつけてしまったからか、ヘクスは地面に伏せて静かに悶絶している。
なるほど、いくら魔女という存在でも物理的ダメージによる損害は普通の人間と同じらしい。
「おい待てよ! 普通女性の顔面に頭突きかましたのなら、観察よりも先に言うことがあるだろぉー!?」
それもそうか、確かに観察よりも先にしなければならないことがあった。
「ぶつかって悪かったな。ていうか何で俺の部屋にあんたが居るんだ? これは夢じゃないのか?」
「何だか謝罪よりも質問の方の比重が重い気がするんだが……まぁ良い」
ヘクスは赤くなった鼻を撫でながら呆れた風な表情をしてやれやれといった風に頭をふる。
「ついさっきの事すら忘れてしまったのかい? 君は私と契約した、その命を以ってしてね。それが真実、それさえ分かれば後の説明は要らないだろ?」
「俺は……死んだんじゃないのか」
「うん、死んだ、
――そして、君の自死を起点として世界が巻き戻ったんだ。
俺の、死が起点……?
なら俺が死ぬ度に世界が巻き戻る?
いや、違う、なにか違和感がある。
ヘクスはわざわざ自殺と言い換えた。
そして自死と言った。
ならキーは自殺。
細かい条件は分からないが俺が自分で自分を殺したとき、世界が巻き戻るということだろうか。
「さて、契約内容を詳しく説明したいところ何だが……その前に数点、注意事項がある」
「注意事項?」
「そう、まず一つ……君は世界を巻き戻す事ができる。だけどこれは無条件じゃないし好きな時に好きな時間へ戻せる訳じゃない。まぁ、これは気付いているみたいだから答え合わせみたいなものかな?」
つまりは
そしてヘクスが直ぐに答えを言わずこちらを眺めているのは……試されているのか?
「それはさっき何となくだが理解した。おそらく俺の自殺がトリガーだろ?」
「そうだ、素晴らしい理解力だね! それでもう一つの方は分かるかい?」
そんなの今俺がここにいる時点で決まっているようなものだろう。
「もう一つの
何か引っ掛かるものがあるとすればそれしか思い付かない。
だがそれが正解だっただろう、ヘクスは何度か頷きを繰り返している。
「素晴らしい、君に契約を持ちかけて良かったと思える点が増えたよ。だが八十点と言ったところかな?」
「何だか惜しいみたいに言われてるけどそれは普通に合格点じゃないか……合格点だろ?」
「そうだね、ただ一つ訂正させて貰いたいのがループできる始点は今この場所この時間だがこれから君次第で増える場合があると言う訳だね」
「……? それはどういう「さぁ、次に行こうか時間は有限だ」……」
増える?
条件は?
そう聞こうとしたところでヘクスが被せるように話し出す。
今は話す気がないと言うことだろうか。
無理に聞き出すほどの切羽詰まった情報ではない。
頭の隅に置いておくことにする。
「では二つ目、まぁ正直これはご褒美になると思うんだけど、これから君がどんな行動をするにしても私とは別れることが出来ない、といったものだ」
「別れる事が出来ない?」
「そう、物理的な話もそうだが精神、生命的な意味でも今、君と私は繋がっているんだ」
「は?」
全く以て理解できなかった。
いや、言葉自体は理解できるが……そんなことあり得るのか?
信じられないと言った方が正しいか。
「全く何を言っているか分からないんだが」
「しょうがないなぁ。簡単に言うとだね、君が何をするにしても私は君の側に居るし君は私だ。私が死ねば君も死ぬし、君の精神に異常が起これば少しばかり私にも不調が起きる。元のスペックが違うから死ぬこと以外の問題は無いに等しいと思ってくれて良いよ」
いや、やっぱり理解が難しいんだが……これから段々と分かる、ということで納得しておこう。
「さぁ、さて最後の注意事項だ。時に君は、自分が私に、契約に何を差し出したか思い出してみると良い」
「何をってそれは……」
自分の心臓、つまり命と……
「名前?」
「そうだ、君はそれを対価に差し出した。君は……自分の名前を思い出せるかい?」
「そりゃ俺の名前は……俺の、名前は…………」
思い出せない。
自分の生きてきた今までの記憶があるのにも関わらず、自分の名前だけが思い出せない。
違う、名前だけじゃない。
これは……まさか…………
「今までの出会ってきた人達の顔が思い出せないだろう?」
「何でだ……親の名前すら思い出せない……っ!?」
「それが名前が消滅する。この世界から消え去るという事さ」
ヘクスは……魔女は申し訳なさそうに、何か楽しいものを見るように俺を観る。
「君の成した事柄は残る、が君がやったという認識が消える。君が過ごした日々は消えないが、君と過ごしたという記憶が消える。君の成した結果だけはそのままに、君がやったという認識が消えた」
俺の、存在が消えた?
違う、俺がやってきたことは残っているのだからそれは正しくない。
俺を俺足らしめる記号が無くなった……という事だろう。
考え込む俺の様子を微笑を携えながら、眺めていたヘクスが動く。
宙に浮いたまま両手を広げ、これから起きる事を予測しているのか完全に力を抜いた状態で浮いている。
「さて、君の事を完全に騙すような形になったことは自覚がある。酷いことをした、という自覚もね。なればこそ私は君のやることを受け入れる用意がある」
ヘクスは穏やかな笑みを浮かべたまま。
「君の腰にあるその銃で撃ち抜くのも良い、私の体は柔らかく脆いし簡単に死ぬだろう」
あらゆる未来を受け入れるように。
「怒りのままに殴る蹴るを繰り返しても良い、少なくとも憂さ晴らしにはなるだろうからね」
言葉を紡ぐ。
「勿論、君が望むのなら
――さぁ、どうする?
そう聞こえた気がした。
おそらくヘクスの言っている事は事実だろう。
彼女は俺に撃たれれば抵抗無く受け入れ死に至るだろう。
その際繋がっているという生命で俺も死ぬだろうが……これも自殺の一つに入りまた世界が巻き戻されるのだろう。
他の言葉も事実で、上げられた例以外の事をしても彼女は受け入れるのだろう。
それを含めて俺の行動は……
「じゃあ早速俺が何をしたら良いか教えてくれ」
「……うん?」
「俺は最初にあの化け物に出会ってから直ぐに逃げ出した。それから外からの干渉の一切を絶ってたんだ。つまりこれから何が起きるっていう情報も一切持っていない。だからヘクス、君に頼るしかない」
「…………」
「だからこうしている間にも俺には何かするべき事があるとは思うんだが何からしたら良いんだか分からないんだ、だから水先案内人の役を果たして…………ヘクス?」
先程までずっと笑みを浮かべていたヘクスが今度は何か珍しいものを見た、というような何とも不思議な表情をしていた。
「いや、少々予想外でね。少なくともこの一週目は捨てていたんだが……」
「なんでそんなことしなくちゃいけないんだよ……」
あの死の感覚を毎回受けることになるのなら……無駄に死んでいては近い内に俺は廃人になる。
必要なら躊躇い無くやるが、余計な事をしてその回数を増やしたくない。
「……私の肉体はそれ程までに魅力が無かったかな?」
「そう言う訳じゃ無いんだけど、それ以上に今やるべき事があるって話じゃない?」
何故その方向に思考が飛躍するのか。
いや、確かに名残惜しいという感情はあると言えばあるが……無理矢理に
「むぅ……予測した結果と違うな」
「何でも良いが早く教えてくれ。俺はまず何をすれば良いんだ?」
とりあえずここで結構時間を掛けてしまったので、それを取り戻すために指示を仰ぐ。
「何か釈然としない……いや、私的にはとても良いことなんだが……」
だが何事かを唸るヘクスの再起動に少しの時間が要りそうだ。
その間に準備をすることにしよう。
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「さて、お待たせしたね」
「いや、本当にな」
ヘクスが再起動したのは俺が荷物の積み込みが終わってからだった。
こうして見てみると最初の威厳というかミステリアスたっぷりな雰囲気は全くどこに行ったのかと疑問になるレベルで霧散し、個人的に親しみやすさが多大に増えていた。
……もしかしてそれが目的か?
いや、無いな。
それにしても俺の存在が消えた、と言うのは本当らしい。
一抹の希望に掛けて誰か部屋に呼びに来ないかな?
そう思ったが、全員が全員スルーして部屋の前を通りすぎていった。
「では期待通り水先案内人の役割を果たすとしよう」
そう言ってヘクスは拳を握り締めて人差し指と親指を立てる……所謂銃の形を手で形作る。
「武器の調達だ」
自慢げにそう言うヘクスだが、俺には少し不安点があった。
「あいつらに銃はろくに効かないんだが」
「それはろくに、というだけで完全に効いてない訳じゃないだろ? その証拠に君はあの時ライフルを大事そうに持ち歩いていた」
確かにそうなんだが……
最初の会合、怪物に銃をぶっぱなした同僚が居た。
今は名前も顔も思い出せないが、その男は確かに銃弾を命中させ、怪物の体をよろけさせた。
そう、よろけさせただけだった。
その後他の隊員たちと一緒に銃撃し、その体にかすり傷程度しか負わすことが出来なかった。
鉄板をぶち抜くほどの集中砲火でさえその程度の傷しか負わす事が出来ない。
つまり怪物の耐久力は最低でも戦車並と俺は推測している。
おい、誰かRPG持ってこい。
まぁ、残念ながらそんなものこの軍事基地には俺の知る限り存在しない。
有ったとしても俺が取りに行ける場所なんかで保管していないだろう。
「まぁ、君の考えている事も分かる。人間が人間を殺すために作った武器ではあの怪物達には勝てない、勝負にすらならない。それは認めよう。だが嫌がらせには成るだろう?」
「確かに、体をよろけさせる位は出来ると思うがライフルの射程距離じゃその後逃げられずにぶち殺されるぞ」
それにもし自死以外で死んだ場合どうなるかすら聞いていないしな。
「それなら反撃されない距離から撃ち込めば良いだろう? それにちょっとした秘策もある。どうか騙されたと思って取りに行かないか?」
「反撃されない距離……それに秘策か、俺としてはヘクス、君に従うのが一番良いと思ってるから行くには行くが……」
ヘクスが、言っているのはスナイパーライフルの事だろう。
確かこの基地にもあるにはあるとは思うし俺も訓練で何回か触った事はあるが……
「それならば話は纏まったね。それじゃあ行くとしよう君……いや、毎回これは流石に呼びにくいな、何か仮の呼び名を付けようと思うんだがどう思う?」
「変なのじゃなければ何でも良いぞ」
命名権をヘクスへと譲渡する。
こういうのは自分で付けるものじゃ無いと思っているというのもある。
「じゃあ、こういうのはどうだろう。
……純日本人顔でその名前なのはどうかと思うが、折角付けて貰えた名前なので大事に使うとしよう。
こうして俺の呼び名はムーヴとなった。