鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
『ずっと思っていることが幾つかある。いや、引っ掛かっていると言った方が正しいか。
その内の一つが魔法少女とは何なのか、怪人とは何なのか、何処から来たのか、魔法少女と怪人はこの状況になる前から俺達の知らないところで戦っていたのかというもの。
空成ハクの言動から怪人に関しての知識は有り、戦闘経験もあるように見えた。あの二人、うみとちこのあの未熟とも言えるような魔法の使い方、迂闊な行動がそれを更に浮き上がらせている。経験値が違う……というのが一番しっくり来る例えになる。
ただ単に穿ち過ぎかもしれないが気になったのでヘクスに聞いたところ「思い出した記憶が多いのだろうね」とお答えをいただいた。
思い出した? 魔法使いたちは何かを忘れているのか?
それ以上は言わないと断られたので一旦推測は置いておく。
次に怪人、怪人は呪力とかいう訳のわからん力と呪術とかいう反則臭い力を使う。
精神に干渉するものが殆どで、それらは全てその怪人固有の能力だと思われるが詳細は不明。
唯一例外的に石投げの呪術だけは共通して使用可能か───』
「無事あの二人は地下室への道を見つけたようだね」
ヘクスの声に顔を上げ、手帳の見直しと新たな記入をいったん中断する。
今現在俺たちはハクの眠る地下室のあるビルの正面に位置するテナントビルの最上階……ではなくその一つ下にある何かの事務所から様子を見ている。今から10分ほど前に双子があのビルに入って行った。それを追いかけた場合どうしても逃げ切れないし、何かあればそれを直ぐに把握できる場所に居たかったこともありこの場所を選んだ。今のところ怪人が近づいて居てくる気配もないし静かなものだが……ヘクスには何故か双子が地下室への扉を見つけたのが分かったみたいだ。
今は怪人の姿は見えないが、近くに来ている事も一応考慮して声を最小限まで絞ってヘクスに問いかける。
「どうしてそんなことがわかるんだ」
「なに、簡単な事……といっても魔力が感じ取れないムーヴ君では分からないか。魔力が少し揺らいだからね、何か大きな発見をしたと考えるのが妥当だと思ったんだ。もしかしたら『空」の魔法使いを見つけたのかもね」
「魔力が、揺らぐ……」
「魔法使い等にとって魔力は人間にとっての血液みたいなものだ、興奮すれば血の巡りが強くなるのと同じで魔法使いが強い感情を持てば魔力の流れに乱れが生じるんだよ」
「……魔力が感じ取れる、っていうのはそういうのも全部わかるのか? たとえ直接見てなくても、近くに居たらそれだけでそんな風にわかるものなのか?」
「んー……そうだねぇ、何を懸念しているかは分からないけれど、見てもいない相手の魔力、そしてその流れを感知できるのは私……と、私の知る限りは後一人くらいしかできないだろうから安心すると良い。その後一人も魔法使いだし、今はここに来ることはないだろうからね」
「そうか」
話を切り上げて、何時でも拳銃を取り出せるように意識しながらじっとビルの出入り口を見つめる。
果たして無事に出てくるのか、もしくはあの地下室で一晩を過ごすのか。
現在の時刻は2340、もうそろそろ日付が変わろうとしている。
そして……もうすぐで双子が完全に怪人の手に堕ちた時刻となる。警戒をしていて損はない。
音が聞こえるように少しだけ開けた窓からは、今も風の音しか聞こえない。
このまま何事もなく朝になる事を祈りながら、出来るだけ音を立てない様に潜伏する。
十分、二十分……ビルの中からは人が出てこず、周囲から誰かが近づいて来るような気配もない。少し前に日付変更線は越え、もしかしたら大丈夫なんじゃないかという期待がほんの少し顔を出しそうになった瞬間だった。ヘクスが俺の耳元で小さく囁いた。
「来たよ」
原理は分からない。俺には聞こえもせず、見えもしない。ましてや魔力なんてものを感じ取れない俺には何も分からない。
だがヘクスが忠告してくれたその事実だけで俺の肉体が程よい緊張状態を迎え、安心しかけていた全神経が覚醒する。
次の瞬間、頭上から小さな音が聞こえた。
その音が何か理解するよりも早く、息を殺し、できうる限りの気配を消した。そして少し遅れて怪人がこの建物の屋上に降り立ったのだと理解した。この状況、人間はおろか鳥もいないこの町に突如屋上に降り立てる存在を俺はそれ以外に知らない。
視線だけを動かしてヘクスを見てみれば、既に姿を消していた。気づかなかったが、俺に忠告した時にはもう姿を消していたのかもしれない。
「ここか」
僅かに開いた窓から風と共に音が入り込む。ハートの怪人の声……?
続いてトンッ、という軽い音と風切り音、一瞬月明りが遮られたと思ったら下の方から僅かな着地音が聞こえた。
ぶわっと冷汗と脂汗が混ざり合った気持ちの悪い感触が全身に吹き上がる。ほんの少し、あの怪人が飛び降り中に後ろを気にしたりしていたら終わっていた。
当然今までそんな事は何度もあったが、肉体の生理現象は抑えられない、全身に気持ち悪さを感じ、息を荒らげそうになるがそちらは何とか抑えきる。音を立てればそれこそ終わってしまう。
地面に降り立ったハートの怪人は周囲を見渡す。俺はハートの怪人が体を動かそうとした時点で体を隠した。
ハートの怪人が何をしているか気にはなるが今はまだリスクを冒す場面ではない。
音だけだが警戒と情報収集は怠らず、思考を回す。
先ほど「ここか」と聞こえたのは聞き間違いじゃない筈、だとするとハートの怪人は……やはり双子の居場所を何らかの手段で認識しているようだ。だがそれはリアルタイムで認識している訳では無いのかもしれない。ここに来るまで結構な時間があったからな、ただ単純にあの呪術を設置したあの場所を捨てがたかっただけかもしれないが……
音が聞こえない。風の音だけしか聞こえない。ハートの怪人が移動したかどうか、周囲を見渡すのをやめたかどうかの確信が取れない。
……何でだ? 何でハートの怪人は周囲を見渡す必要がある?
何らかの手段で位置を特定しているのならその場に直行しても良い筈だし、分からなくなったのならもう一度確認すればいいだろう。なぜなら魔法使いからしたらハートの怪人が自分の位置を知られているなんて夢にも思わないだろう。常に位置を把握されているとか悪夢か? 怖すぎる。
今の状況、今ある情報か推理するのなら……双子の位置を確認する手段は呪術で、この距離で使えば逆に位置を知らせることに成るから……もしくは今確認できない、か?
最後に確認した時もある程度の位置情報くらいしかなくて、だから正確な場所を図り損ねている……のかもしれない。
確定情報じゃない、思考の隅に置いておく。だが決して忘れない様に、必要な時何時でも引っ張り出せるようにしておく。双子の位置が特定される謎の判断材料なのは間違いない。
様子を窺いたい欲を押さえて隠密に徹していると、耳元でヘクスの声に囁かれる。
「備えてっ」
急を要するのか焦りが滲んだその声に反射的に従って、音を立てず腰を落とし壁に体を押し付け固定する。
それから一瞬遅れて強烈な、地震と見間違うような振動と耳がつぶれたかと思うような爆砕音が全身に叩きつけられる。
備えてはいたつもりだったが予想の上を行く衝撃にしたたかに腰を打ち付けたがどうにか手をついて転ぶことだけは防ぐが……振動に耐えられなかった窓ガラスが砕けたのか甲高い音共に全身に破片が降り注ぐ。
一体、何が…?
疑問には思ったが窓から覗くのはNGだろう、見られているかもしれない。
まだ微量な揺れは継続している、ヘクスは……空中に浮いているから大丈夫だとは思うが怪我はないだろうか。
現状の確認も満足にできないまま全身を撫でるような感触の後、何度も味わった空気がまとわりつく感触『カイイキ』だ。
あぶりだされた?
何の根拠もない直感的な考えだったが間違いではないだろう。『カイイキ』は使用者を中心として球場に広がっていく、何の力もない俺の視界でもそう捉えられるのだ怪人が分からないわけがない。
こうなっては身を徹底して隠す意味も薄いか。
音を立てない様に慎重に徹しながらゆっくりと体を立ち上がらせていく。体中がチクチクするが気にしている余裕はない、今の振動で砕け散った随分と風通しの良くなった窓枠から外を覗く。
……見て後悔した。
あの怪人、地面に何か叩き付けでもしたのかクレーターが出来てやがる。舗装されたアスファルトはめくりあがり、地面に走るひび割れは二つ隣のビル前まで伸びている。バカげたパワーだ。
ハートの怪人は何でもない様に三人が居るビルに視線を向けている……丁度俺に背を向けている形になる。
ふわりと、背中に気配を感じる。おそらくヘクスだろう、姿を消しながら後ろに浮かんでいると思われる。
「あの怪人ジョイは地面に強烈な踏み込み……確か震脚と言われる技術だったか、それを使って周囲の建物内に居るであろう魔法使いに揺さぶりを掛けたみたいだね」
片手で口元覆い声が出来るだけ響かない様にしてヘクスに返事をする。
「しん、きゃく……? それでこんなことに成るのか?」
「事実なってるだろう? あのジョイとかいう怪人は物好き……いや、真面目なんだろうねぇ」
「……真面目かどうかなんてどうでもいいが、どうなると思う?」
このまま双子と損耗したソラがあの怪人と戦えば勝てるのか、という意味合いを込めた問いにヘクスの声色は難色を示しめしていた。
「難しい……だろう」
「二人掛かりでも?」
「『空』が万全なら三人が勝つだろう」
「それって二人じゃ無理ってことだよな……」
ヘクスの返事は無い……つまりヘクスの見立てでは、そう言う事なのだろう。
拳銃の安全装置を外す、薄く、深く呼吸して覚悟を決める。
無理かどうかは見てから決めよう。今回、怪人がこの場に現れた時点で巻き戻しはほぼほぼ確定したような物だけどな。
じっと怪人の動向を見守る。
あのゴァとかいうやつのような傲慢さは無い。魔法少女に傷つけられた明確な弱点も無い。化け物のくせに人間の武術のようなものを操り、怪人の理外の膂力をより効率的に運用してくる。その破壊力は目の前のクレーターからよくわかる。直撃は以ての外、粉砕された破片ですら命を容易に奪う……って考えてみればゴァの時と一緒じゃないか、過剰火力だ。そこまでされなくても人間は死ぬ。
じゃあ何で武術を収めた……? 魔法使いを倒すため……まぁ、納得できるが……誰に教えてもらった? こんな独学、か?
状況が動いた。今は置いておくべきだ。
「待ちくたびれたぞ」
ハートの怪人ジョイの足元から土があふれて盛り上がる。ジョイは予備動作も無しに背後にステップを踏んでそれを回避し、盛り上がった土が変形し形成された拳が迫りそれを一挙動で粉砕し————その陰から飛来した
吹き飛ばされたジョイが俺たちの居るビルの一階に激突し、建物がわずかに揺れる。今僅かにだが吹き飛ぶ速度が遅く見えたのはこの『カイイキ』のこの空気のせいだろう、衝撃が逃がしにくく体に染み渡る。
ビルの入り口から三人が出てくる。空気の塊を放ったであろうハクは遠目から見るだけでも体調が悪そうで、双子はジョイが目の前に居るのにも関わらず時折心配そうに視線を向けている。
先制攻撃には成功したが、それで仕留めたとは全く思っていないのだろうハクが手に空気を集めているのを見てから双子はそれぞれの構えを取る。
「やはり、ゴァは最低限の仕事をしていてくれたように見える……」
痛みを感じている様には見えないジョイの声。
この場所からジョイの姿は見えないが……想像通り、大きな傷を負ったという事はないだろう。
「『空』も今はこの程度、残りの二人も……問題はなさそうだ。半殺しにしてから連れて行けばプランの変更も必要はない」
ジョイの弾むような声が音の無いビル街に反響する。
「ハク姉さん……!」
「ハク姉、こいついつもの怪物と違う……」
双子の少し不安げな声に鼓舞するように『空』の魔法使いハクが答えた。
「大丈夫、いつも通りやれば勝てるわ」
「う、うん!」
「……分かった」
三人の魔法使いたちが三者三様の魔法を放った。