鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
三者三様、魔力が見えない俺からしてみれば何をしているのか全く分からない魔法が次々と詠唱される。
「『ツチクレ』『カラツチ』『ツチガコイ』」
「『カイリュウ』……『ウミナリ』!」
「───」
ちこの周囲から大量の土が溢れ出す。
うみが細かくステップを刻みながら背後へ下がる。
ハクは……何かを呟いているみたいだがここでは聞き取れない。
うみが産み出したと思われる水面のように光を反射する半透明の何かの塊が上から下へ、右から左へと流れジョイの動きを制限しているように見える。
ジョイは煩わしそうにそれに触れないように動くと同時に三人との距離を詰めようとしたのか足に力を込めたのかコンクリがひび割れた。
魔法使いと怪人の距離は目測で十数メートルしかない。怪人の怪力を以てひと息でゼロになるだろう距離。
だが相対するは魔法使い。年若く、普通の感性を持つ少女だが振るうのは理外の力である魔法。
ジョイが動き出す刹那の合間に異変が起きた。
ジョイの進行方向、真っ正面に土の機雷とも言うべき塊が幾つも浮き上がった。ちこの周囲に湧き出した土が幾つか浮かんで出来上がったように見えるが……あれは一体?
俺には分からないが、それを見たジョイは正面に突き進むのを止めて真横に移動した。
相変わらず馬鹿げた膂力だ。踏み出した場所と着地した場所のコンクリがめくり上がる。
足を地面にめり込ませたジョイの右手が三人目掛けて突きだされた。脳裏にトラウマの様な形で深く刻み込まれた光景が甦る。石投げの呪術。
冷や汗が頬を垂れる。
いつの間にか無意識に拳銃を強く握り締めていた。
一瞬逡巡してしまった。身を乗り出して身体を晒し、銃をあの怪人に突き付けるべきか。何度も何度も考えたあの馬鹿げた思考が頭を過る。出ても意味はない、無駄でありむしろ足を引っ張ることになる。そんな正論な思考が俺を押し留めている。
だからこそ一手分の囮になるよりも有効的な命の使い方を考える。
あの石投げの呪術を一度見たハクが居るとはいえ、そのハクはかなり調子が悪そうだ。最悪の想定をし、拳銃を自分の顎もとに突き付ける。
ジョイから石投げの呪術が放たれる。高速の指弾、怪人の力から放たれた物だと考えたとしても速すぎるその速度で魔法使い達に迫る。
うみとちこは反応できていない。ただ眼を開いて驚く事しかできていない。
ここまでか? あれがこの場所に直撃すれば俺の居る場所も無事にはすまないだろうな、と冷静な思考が頭を過る。
引き金を引くのはもう間に合わない。あの飛び石は俺の指先よりも速く着弾するだろう。
衝撃に身構える俺の目に、双子の魔法使いの前に立ち塞がる為に躍り出たハクの姿が見えた。
「───故に我空より出でて空に還る者成、『空絶』」
全てが砕けて散る様な粉砕音が静寂の夜を切り裂いて響いた。
ただの余波にも関わらず吹き飛ばされ俺の体は宙を舞う。
全身で備え付けられたデスクに背中が叩き付けられ、鈍い痛みで息が止まりそうになる。
動かない、動けないではなく動かない。
たっぷり数秒何も起きないことを確認してから音を立てないように身体を起こした。
慎重に周囲を見渡して、出来る限りの声を押さえて呼び掛ける。
「無事か?」
返答はなく、代わりに優しく頬を撫でられる。
無事なら良かった、何かの拍子に怪我されたと思うと気が気でない。
様々な物が散乱する地面を気をつけて歩き、ゆっくりと窓から外を見下ろす。
────っ、これは思ったよりも……威力が高い?
半壊していた道路だったが、今のでもう完全に破壊され尽くしている。三人が居た付近は土煙が酷くまだ完全に視認は出来ないがこれは……
身を乗り出して探したい気持ちを押し殺し視線をジョイへ向ける。
生け捕りにするのが目的だと思っていたが違うのか?
目の前の惨状に驚いた様子は無い。計算通りなのか?
ジョイに大きな動きはない。逆に言うと警戒は解いていないという事でもある。
一際大きな風が吹き、土煙が晴れる。
結論から言うと三人は健在だった。
ハクが形成した魔法だろう、三人の居る場所を包むように半ドーム状に形成された何かの膜。それがあの怪人からの攻撃を防いだのだろう。
確か『空絶』、 と言ったか。ハクの魔法の中でも強力なものだったのだろうこの魔法、『クウヘキ』なら防ぎきれて無かったであろうあの威力の投石呪術を完全に防いだこの魔法の代償は……大きかったようだ。
魔法が解ける。
膜が空気にほどけて消えていく。同時に三人の姿が鮮明に見えるようになっていく。
尻餅をついて漠然としているうみとちこ、そして両手を地面に付き、激しく息を切らしたハクの姿があった。
ハク達の立つ地面に一切の損害は無い。双子も、その前に立つハクにも目に見える怪我は見受けられない事から完全に防ぎきったというのは疑いようはない。
ならば何故膝を付き息を切らしているのか……魔力切れ、という事になるのだろう。合計二回、その内一つは大技の様だったがそれだけで……
ジョイがゆっくりと距離を詰め始める。
ハクは立ち上がれない。
双子がようやく立ち直り、立ち上がる。
「まさかアレを防げる程の魔力を、空間の断絶を可能とする魔法をまだ捻り出せるとは」
ジョイは称賛とも取れる言葉をハクへ向けるがハクはそれに応えることは出来ない。
ハクはもう戦えない。それを理解したうみとちこが動いた。
「惜しむべくはそれを防御に転用してしまったことか、『海』と『大地』を守るためとはいえど非効率だな」
「近寄らせるか! 『カイバク』!」
「止まれ……っ! 『チガタメ』」
「慣れない術の最大行使は疲れるのでな、終わらせて貰うぞ」
うみの周囲に変化が起き、魔力の込められた空気が生き物のように動いてジョイへと迫る、が……全てを最小の動きで躱され、足を止める事すら出来ない……ジョイの足が止まった?
気のせいでなければだが、ジョイの足元が不意に沈んだように見えた。
「うみ!」
「うん! これで……『カイアツ』!」
動きを僅かに止めたジョイの周囲に、躱されて漂っていた、海』の魔法で作られた複数の魔力の塊が次々と襲いかかる。
ジョイは勢い良く、沈んだ足を巻き付く土ごと引き抜き、そのまま迫るうみの魔法へとその足を叩き付けた。
「───何?」
それは目を疑う光景だった。
『海』の魔法が砕け散ること無く、それどころかジョイの足を包み込んで圧迫している様に見える。
何故? どうして?
今までジョイが手間もかけず破壊していった『大地』の魔法を見てきたからか余計にそう思ってしまう。
「っぅ……! ここまでやってギリッギリッとか!」
「ハク姉さんは大丈夫! やって!」
「分かってるわよ! ───」
うみは余裕がない声をあげ、突き出した片手をもう片方の手で支えるようにしている。
そのまま突き出した方の手を握り締めると、残りの『海』魔力の塊も次々とジョイへと殺到しジョイを包み込んでいく。
ジョイは片足を取られた体勢のまま両腕をクロスさせ身体を丸め、防御体勢のようなものを取ると愉快そうに呟く。
「
続くジョイの言葉は顔の部分まで『海』の魔力に包まれる事で遮られる。ジョイはそのまま巨大な一つの水球に包まれたようになった。
「────潰れて弾けて消えろっ! 『ダイカイアッカイ』!」
「『ツチガマ』」
うみが突き出した腕とそれを支えていた腕の構えを解き、両腕を広げて勢い良く手を叩き、ちこが放った魔法はちこが抱えるハクごと三人を地面から盛り上がった土が包み込む。
嫌な予感がしたがもう遅すぎた。
巨大な水球が中心のジョイに目掛けて収縮、否圧縮される。
ビキ、ビキリと耳を塞ぎたくなるような不快な音を立ててどんどんと小さくなっていく。
ギチギチと不安になるような音を立てながらそして、ついにそれは……限界を迎え爆発した。
まず、何かが弾けた音が聞こえた。それは軽く、風船が破裂したような音だった。
同時に全身に痛みが走った。全身が何か鋭いものに貫かれたかのような痛みだ、不思議と衝撃は感じなかった。
何が起きたか理解できないまま、痛みで倒れそうになる身体を踏ん張って耐えて状況の把握を優先させる。
だが、どうやら不運なことに何かが目に入ったらしい。左目が真っ暗で、何をどうやっても視力が回復しない。
仕方ない、しばらくは片目でどうにかするしかない。
視線を窓の外に向けながら手探りで身体の状態を確認していく。
ふと、痛みが強い場所、右腕に手をやると固い何かが手に当たった。どうやら身体に何かが刺さっているみたいだ。
痛いのは痛いが死ぬ程ではない。掴んだそれを一息に抜き出す。
激痛が走り、声が漏れそうになるのを唇を噛んで耐える。
じんわりと染みだしてきた流血が服を赤く染めていく。
震える視界でそれを見る。
……氷?
それはガラスの破片のような形状をした氷だった。
冷たくない氷。やがて手の上で溶け出したそれは、冷たくない以外は紛れもなく氷と同じ性質を兼ね備えていた。
どろり
そんな感触が頬を伝う。
いや、まさか……そんな偶然があるわけ……
恐る恐る伸ばした手を、視界が消えた片目へと当てる。
……鋭利な物が刺さっている。
「運悪すぎだろ」
思わず漏れた悪態も仕方ないだろう。
確かに警戒はできてなかったが目に刺さるか? 普通。
どんな確率だ。
まぁ刺さったもんは仕方ない。左目は諦めよう。
生き残った右目を動かして外の様子を探る。
そこには俺が食らったような氷の破片が至るところに散らばり、それを土の壁で防いだであろう三人の魔法使いの姿と、全身がひび割れ、ボロボロになり、所々が凍りつきながらも確かな足取りで歩みを進めるジョイの姿があった。
無防備を晒しているように見えるジョイを何故追撃しないかと疑問に思い視線を双子に集中させる。
片目になったからか観察が難しくなった。視界が狭くなったこともそうだが単樹に焦点を合わせられなくなった分1ヵ所に集中しにくくなっている。
どくんどくんと無駄にはね上がる心臓と流れ出る血液も鬱陶しい。
たっぷり数秒かけて状況を把握した。
成る程、さっきの魔法はかなりの大技だったようだ。
うみが息を切らして倒れている。心なしか顔色も大分悪い。
ちこは戦うべきか、全員つれて逃げるべきか迷っているのか視線が右往左往している。
ハクは……あれは大丈夫か? ピクリともせず完全に気を失っている様に見えるが……
ジョイはダメージを受けているが損耗しているようには見えない。その足取りに不安な点はない。
ちこがようやく決意を固めた。
片手をジョイへと向けて、もう片方の手を地面に当てる。
戦うのか? それとも何か策があるのかは分からない。
ジョイが足を止めた。
「魔力を過剰に込めることで詠唱魔法一歩手前の威力を再現したのは素晴らしい。だがこれまでの消耗も考えず、仕留めきれなかった時の事も考えず後先放り投げたのは減点だ。まぁ、惜しかったのは確かか、あの魔法を知らなければ致命傷を負っていただろうからな……とするとプラスマイナスゼロ、といったところか」
ジョイは顎に手をやり、何かを見定めているように見える。そして、その頭部に当たる部分が動き、それは何となくだがニヤリと嗤ったような気がした。
「どうする、『大地』の魔法使い」
「どう、する……?」
「このまま貴様等を仕留め、『空』は殺し『海』と貴様は人形にし遊ぶのも良いと思うのだが……」
ちこが身構える。
ちこの周囲に複数の土の塊が浮かぶが……正直言って心許ない数だ。
「命だけなら、助けてやっても良いと思っている。条件があるがな」
「……?」
ジョイが大袈裟に手を広げ天を仰いだ。全身にひび割れが走りながらも唯一傷一つ無い胸部にあるハートマークがいやに目に付く。
「私に従え。『海』と貴様の二人で私の命令に従い戦え。術式に嵌めてしまうのは簡単だがそれでは面白くない、私は貴様等の意志で望まぬ戦いを繰り広げられるのが見たいのだ」
「そんなの、従うわけ……っ!」
「ふむ、ならば殺すしかないな?」
「……っ」
ちこが手を振るう。『ツチクレ』だろう魔法がいくつもジョイに襲いかかるがその全てを迎撃、または回避された。
ジョイがただの一歩でちことの距離も詰めきる。
目の前に立たれたちこはそれでも戦う意志を捨てずに抵抗しようとするが……その首をジョイに掴まれた。
「声が出せねば簡易詠唱もできまい?」
「……かっ! かはっ」
ちこの苦しげな声が聞こえる。
……行くべきか? 幸いジョイの体は傷付き、ひび割れている。
だが、可能性としてそもそも弾丸に当たってくれないだろう。不意打ちならともかくといったところだが……この距離は拳銃を必中させられる距離ではない。逆に
前のゴァは瀕死だったからこそ、正面からでもどうにか当てることができた。
その点さっきの動きからしてジョイにはまだ余力があるだろう。
更に、だ……俺は今片目を損失している。たとえ絶好の射撃タイミングだとしても命中させられる自信がない。視界を半分失うと言うのはそれまでの経験の全てに補正が必要になるということだ。
静かな夜に、ジョイの声が嫌でも耳に入り込む。
「どれを選んでも後悔はするだろう。だが、私の命令に従っている間は『空』を殺さない置いてやろう」
「っ!?」
「これは破格な条件だぞ? 魔核を抜くのは決定事項だがその後の魔法使いの運命は悲惨に尽きる。それを回避させてやろうというのだからな……私としては『空』を玩具に楽しんだ後、ペットのエサにしてやると言うのも中々に楽しみな案ではあるのだが……」
どうする?
そう問いかけるジョイの声は愉悦に満ちていた。