鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
何秒そうしていただろうか、ジョイは息ができずに苦しむちこからのリアクションを待っている。
ちこは必死にジョイの腕を掴んだり殴ったりしているが……効果は無さそうで、むしろ皮膚が裂けて血が流れて自らの手を痛める結果に終わっている。
ジョイはその様子をじっと眺めていたが、段々と抵抗が弱くなっていくちこから唐突に目を離して空を見た。
「時間切れだな」
そう聞こえた次の瞬間、風切り音と共に一つの影が現れた。いや影ではない、あの姿は
何か大きな物を片手に持っているようで、それを引き釣りながらジョイへとゆっくり足を進めている。
「終わったか?」
「いや、もうすぐ……と言ったところかな。それよりもギアこそそいつは何だ? 死にかけのようだが」
死にかけ……
暗くて確証は持てないが……あいつか? あの双子を止めようとして追いかけてきた軍人。
名前は……何だったか。思い出せな……いやそうだ贄沼、贄沼だ。この時間帯にこの街に居る人物で爆音が鳴っていたのに、今回だけ来なかった事を考えみるに間違ってはいないだろう。
だが何でここに連れてこられた?
そもそも何故剣の怪人が、ギアがここに来た?
ズキズキ所ではない位に痛み出した眼球に幾らか意識を取られて集中できない。
「この区域内をバイクで走り回っていた様でな、例の男かと思い捕縛した」
「殺さなかったのか?」
「聞きたいことがあるからな、それに……余計な力を振るえば疲れる。呪力の温存も必要だろう。ジョイ殿は……」
「言わなくていい、理解している置いておけ。ところで聞きたい話とやらは聞けたのか? それとも今からか? だがその様子だと……」
「ハズレ、だった。だがジョイ殿なら有効活用出来ると思い連れてきた次第だ」
ギアが推定贄沼の体を投げた。
贄沼らしき影は月光の良く当たる場所に落ちて、小さく呻き声を上げる。顔は……認識できない。バイクのヘルメットを着けたままで、バイザーは酷く破損しているが、それ自体が影になっている。だが服装から確定で良いだろう。
ジョイは手を離し、支えを失ってちこは落ちた。酸欠だろうか、意識が朦朧とした様子でろくに動かず地面へと崩れるちこを無視して言葉を放つ。
「ギア、こいつは私にとってのアタリだ」
「それは良かった」
「余計な真似をされては面倒だな、意識のある『海』を寝かしつけといてくれ」
「『空』は?」
「分かってるだろう? 魔法の過剰行使で既に意識はない。詠唱魔法に加えてもう一度使ったのが致命的だったようだな」
ギアがゆっくりとうみに近づいていく。
うみの目の前で足を止めて
目だけで睨み付けるうみへ向けて足を上げた。
「かはぁっ……やめっ」
ちこの声
止められない。
肉を踏む低く鈍い音が響く。
なにも出来ない。
「あっ……」
踏み抜かれ、動かなくなった自らの片割れに何を思うのだろう。それを見てちこの見えない位置で少々不満げにだが深く頷いたジョイは何を考えているのだろう。
うみを踏みつけた姿勢のまま、ギアが顔だけをちこへと向けた。
「殺してはいない。利用価値があるからな」
その言葉の通り、うみの体は怪人に踏みつけられたのにも関わらずちぎれ飛ばず五体満足のままだった。
肉体の強さをある程度コントロールしている? もしくは……
ジョイの鼻で嗤ったような声で意識を戻す。
「ゴァの奴も貴様くらい肉体を重視していれればな」
「ジョイ殿」
「分かっている……さて」
ジョイが唖然とうみを見詰めるちこへしゃがみこみ頭を掴んだ。
コンクリートを簡単に破壊できるパワーを持った怪人の手に頭を掴まれるということは何時殺されてもおかしくないという事。
それに気付いたのだろうちこの体が、ここからでも分かるくらいに確かに揺れた。
「見ての通り私は貴様に対し最大限の譲歩をしている。見えるか? ……ふむ、体が動かないのなら手伝ってやろう」
ジョイは頭を掴んだ手で、無理矢理ちこの視線を贄沼へと向けさせる。
痛みからか、ちこから小さくない悲鳴が漏れる。
ジョイは関せずに話を続ける。
「先程時間切れと言ったな? 言葉通り、もう私には遊んでいる時間が余り無い。抵抗は考えない方がいい、ギアが来たことで万一の勝機も消え失せた。そんなことよりも前を見ろ、何が見える? わざわざ明るい場所に投げ捨ててくれたのだ、良く見えるだろう? 愚かな男の末路が」
「……っ」
「おぉ! 無視されるものだと思っていたぞ! これは嬉しい誤算だ。たった1日過ごしただけの存在に何かを思ったのか?」
ジョイのわざとらしい声が耳に障る。
心臓が早く、熱く、黒く高鳴る。
この感情は敗れた魔法使いに向けたものではなく、また怪人に向けたものではない。
ただ身を焦がす熱が体を巡っている。
銃口は自らを示している。
何時でも終わらせられるように。
「……その人は、関係無いでしょう」
掠れきったようなちこの声。未だに息切れはしているがどうやら意識はハッキリとしているようだ。
ジョイは明確な反応を示したちこにひどくご機嫌な様子で嗤っている。
「関係無い、関係無いか! そんなわけ無いだろう! クハハハハ!! 全人類関係が無い奴など存在しないわッ!」
何を言っている? どういう意味だ。
「ジョイ殿っ! 何時まで遊んでいるつもりだ」
「これが笑わずにいられるものかッ! ギア! そいつを起こせ、話をさせろ! きっともっと愉快になるぞ!」
「分かっているのか? 今おれ達は……」
「分かっているとも……どのみち必要な過程なのだ、成功すれば手に入れられる魔核が増えるかもしれんぞ?」
「……了承した、但し手短に済ませてくれ」
ジョイの狂笑が終わる。
ちこはジョイを睨み付けながらも時折意識の無い贄沼へと視線を送っている。
ギアは心底面倒そうに、いや何かを気にしている……?
その様子のまま、トドメをささないよう贄沼を叩き起こした。
「がぁっっ!?」
いや、そこそこ雑に起こされたようだ。
血を吐くような声と共に贄沼が目を覚ます。
「なん、だよ……イッテェ、なァ……」
だが様子がおかしい。怪人に囲まれているのにそれに気付いた様子がない。取り乱さない。
「クーゴ……」
「んだぁ? そこにいるのかちこ、わりぃな……何でか前が見えにくくてな……姉貴とやらは見付かったのか?」
周りの異常に気付けない。
怪人達も何を考えているのか音を立てず、不気味に見守っている。
不気味な雰囲気の中、会話は続く。
「……見付かったよ」
「そりゃ結構だ、こっちは情けないことにお前ら追っ掛けていつの間にか気を失ってたわ……だっさい事に運転ミスっちまったか。ちょっと痛みも半端ねぇし救助を呼びに行ってくれないか?」
「それ、は……」
「…………どうした? 何か様子が───オイ、他に誰が居る?」
贄沼が周囲の異常に気付いた。
ギアが即座に剣を抜き、音も無く奇麗な動作で贄沼の首に刃を当てた。
「誰だ」
ギアは無言、いや……視線の動きからジョイが話し出すのを待ってるのか。
ちこが何かを伝えようとするのをジョイが手で口を多い封じ、視線を贄沼へと向ける。
「初めまして、名も知れぬ男。唐突で申し訳なく思うのだが……貴様と魔法使い等の命は私が握っていると理解して話を聞いていて欲しい」
「何だこの声……人じゃない? いや、そんなことよりも魔法使い等? 待ってくれよ状況が飲み込めねぇよ」
「待たない、必要性を感じない。私は今、ここで貴様等を始末……しても良いと考えている。だが『海』と『大地』──おおっと、貴様には双子と言った方が良いか? その二人が私の想定を少し上回っていてな、もしかすれば私達の目的に届き得るかもしれんと思い協力、をして貰いたいのだが……貴様からも言ってはくれんか?」
空白は数秒、少し息を整えた贄沼が言葉を返す。おどけた口調で、体を捩り、首に食い込む刃を気にせずに、出来る限り体を起こそうとする。
「待て、待てって……こっちは気絶からの病み上がりなんだよ。魔法使いやら命を握られてるやら何やら言われても頭が回らねぇよ」
刃が食い込んだ首からの出血がヤバくなる前にギアが剣を少しずつずらして行く。贄沼はその状況のまま体を何とか動かしてうずくまる体勢にまで体を持っていった。腹部が痛むのかそれとも別の理由か右手で腹の部分を押さえて左手を地面に付く事で体を支えている。
かく言う俺も流血が止まらず足元にでかい血溜まりが出来てきた。
「止まれ」
「っ」
「道化のふりは止めろ、何をする気かは知らんが理解出来ないふりは見苦しい……それに」
ジョイの言葉の途中でギアが動く。
ギリギリ目に追える速度で首筋に当てていた剣を動かして反転させて真下……贄沼の足を容赦なく貫いた。
舞う鮮血。
ただでさえ血の気が少なそうな贄沼の体が悲鳴をあげることも出来ずに横たわる。
「止めて!」
「ならば私達に協力すると誓え」
「……っ」
「やれやれ……これは善意だぞ? そこの男だからぼろ雑巾で済んでいるが……貴様の姉貴分はあの程度では済まされん。確実にこの世の生き地獄を味わうことになるだろうな? 何せ、獣はともかくゴァを殺したのだ」
それは違うだろ。
「あなた達が殺しに来たのでしょうっ!」
「感情の問題ではなく補充の問題なのだが……っと止めておこう」
不自然に言葉を切った? 違和感がある。
考えが纏まるよりも先にギアがジョイへと言葉を放つ。
「まだなのか?」
「駄目だ、釣れん。まだだ」
「時間はないぞ」
「粘ることも必要だとも」
「……払いにも限界がある。最後だ」
それだけを言い残しギアはまた視線を贄沼へと向ける。一足一挙の全てを見逃さないと言った風だ。
「ギアも釣れれば良いな?」
寒気がする。
不意に視界が狭まった気がした。
体もふらつく。この体の限界が近い。
ちこは揺れている。その感情の動きは遠目から見る俺からでも充分に分かった。
元々ハクが人質に捕られた時点で詰みだったのだろう。贄沼はその決断を早めただけに過ぎない。
「聞いたか? これが最後だ、最後の勧誘だ。安心しろ、どちらに選ぶにしても貴様と片割れの命だけは保証してやるとも。男は死に、『空』は魔核を抜いた後玩具にして殺す。それだけの事だ」
「わ、わたしは…………」
膝の力が抜けていく、立っているのも限界に近い。どっちかと言うと意識の問題か? 気合だけで意識を持たせる。
「貴様が思うがままにしろ、どうせ後一週間もすれば──中が墜ちる。貴様等はなるがままやりたいように動い、世界を──してきたのだろう? なら───」
視界の脱落が酷い。
耳も余り聞こえなくなってきた。
ヤバそうな事を言っているがどうにも頭が回らない。
「そうか、それは良かった」
っ! 聞き逃した? いや、意識が飛んでた!?
ちこは何て答えた? もう一周するか? ここまで理想的な状況を再現できるか?
様々な思考が脳裏を過る。心なしか冷たい血液が全身を巡る。意識が少しだけ明瞭になる。
「この男も不憫な──、人の──を被った──に命をかけるとは」
重要な部分だけ聞こえねぇ! わざとかよ!?
思わず身を乗り出して窓から覗いて、次の瞬間自らの焦りと頭の回らなさに絶望した。
「釣れた」
「そうか、そこそこ重大な情報をぶちまけた甲斐、はあったな」
目があった。確信があった。
絶不調を下方向に突き抜けた体調でも魂にまで染み付いた動作は淀み無い。右手に握る銃を顎に突き付け、左手を後ろ手に回し両足で思い切り後ろに飛ぶ。
ギアが剣を投げた。寸分違わず俺を狙った剣は俺が後ろに飛び切るよりも早く襲来し───回避できな 死 終
首もとを掴まれた感触と共に後ろに飛ぶ速度が上がった。
済んでのところ、鼻先を削ぎ落とされながらも剣を回避、空振りに終わった剣は天井を破壊しもう一つ上のフロアまで突き刺さる。
ヘクスに内心礼を言いながら引き金を引こうとするが今の衝撃で銃口が自らを外している。瞬時に修正、自らへと銃口を向けた時、ギアと再度目があった。ギアがこのフロアまで飛び上がって来ていた。
剣を失ったとしても怪人は俺の事を虫けらのように殺せるだろう。
だが、この状況なら俺の方が早い。
銃口を自らに突き付けて自害しようとしている俺に視線を向け、それを理解したギアが叫んだ。
「やはり
困惑よりも先に引き金を引く。
何時もの顔の骨が砕け散る感覚、死の感覚。
意識が消え失せ、世界が巻き戻る寸前こ死にきるまでに最後まで活動していた聴覚機関が音を拾った
「使い魔よ、次はないと思え」
世界が巻き戻る。