鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話   作:ヤンデレになる過程を楽しむ人

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魔法使い達9

 薄暗い部屋にカツカツと硬質的な音が響く。

 既に何時間経過したか分からない、足元に散乱している紙は今もなお紙に文字を書き続けている男であるムーヴがこの風俗店からかき集めてきたものだ。

 世界が巻き戻ってすぐにムーヴは繰り返して情報の収集を始めるのではなくて情報の整理を始めた。

 今も地下室へと繋がる扉がある部屋で机に座り紙に文字を書き連ね続けている。

 その後ろ姿をヘクスは目を瞑り、喋る事無く見つめていた。珍しく宙に浮かぶこともせず、地べたに腰を下ろしている。

 ムーヴはヘクスへと何度目かの質問をする。

 

「本当に、魔法使いの魔力を回復させる手段はないんだよな?」

 

「あるにはあるが、現実的では無いと伝えておこう」

 

「一応聞いておきたいんだけどどんな方法だ?」

 

「……魔法使いそれぞれ別個に存在するからね、私では『空』に対応する手段を思いつけない」

 

「そうか……」

 

 ムーヴはまた一枚紙をくしゃくしゃに丸めて投げ捨てる。

 幾度と行われた行動、いつも使っていた手帳を時折見直しながらムーヴは時間をたっぷり使って策を組み立てていく。

 ムーヴは既に「近くに居たのがバレていた理由」と「うみとちこを洗脳ではない手段で支配しようとした」こと、「詠唱魔法」「うみとちこを追跡出来た理由」について質問を終えている。それぞれ返答として「おそらく経験則と勘」「想像は出来るが重要ではない」「自らの存在を思い出す術」「呪力魔力共に使われた形跡がない」と答えられている。

 自らの存在を思い出す術、についてはそれ以上は答えないと事前に質問を止められた。

 答えられない、答えないという返答は今までにもあった。ムーヴはそれにただ頷いて自らに出来る、分かる範囲から突破口を見つけ出そうともがく。

 

 また一枚、丸められた紙が宙を舞い地面に落ちる。それとほぼ同時にヘクスが自ら口を開いた。

 

「日付が変わった」

 

「…………分かった」

 

 ムーヴは手帳から目を離す事なく、短く静かに返事を返した。

 今の今まで巻き戻しから一秒たりとも動きを止めなかったムーヴが僅かに、一瞬だけ手を止めた。背中越しにヘクスが僅かに身を正したのを感じ取ったからだ。意識の何割かがヘクスへと割かれる。

 

「何かあったか?」

 

「……聞かないのか、と思ってね」

 

「気になった事は全部聞いているけど?」

 

 本気でそう思っている。ヘクスはムーヴの声の調子と態度からそう理解した。

 想定外に困惑する。

 ここで切り上げるべきかそれとも聞いておくべきか。

 ヘクスの思考が揺れる。

 

 ムーヴはそんなヘクスの様子をおかしいと思い、手を止めてゆっくりと振り向いた。

 ムーヴはそこで、巻き戻りから初めてヘクスの顔を正面から見た。困惑、迷い、不安のそれらが入り交じったような表情に驚愕する。

 

「えっ? どうしたんだ」

 

「何でもないよ、君がなにもないと言うのならね」

 

 今度はムーヴが困惑する番だった。

 ムーヴは必死に頭を動かして何か心当たりがないか記憶を探る。そして何となく、これかな? というものにたどり着いた。

 それは怪人が前の周の最後に放った言葉。

『垣根の上の者』『使い魔』

 その二つの単語に関してはヘクスに聞いていない。何となくヘクスに関わりのある事なんだろうという事と、その後に続いた「次は無い」という言葉。

 それに関してヘクスに聞くべきか否かというのはムーヴの頭の中にあった。

 

「最後に怪人が言ってた言葉か?」

 

「…………」

 

 無言の肯定。

 そう感じ取ったムーヴは席を立ち、ヘクスの隣へと腰を下ろした。

 

「何というか……質問とは違うんだけどちょっと良いか?」

 

 ヘクスの顔が向けられるのを確認してからムーヴは、言葉を続けた。その内容は怪人の言葉には触れないヘクスの予想の外から来たものだった。

 

「なぁ、今回の運命を……結末を変えたとして。あの紫髪の魔法使いが助かる可能性はどれくらいになる? 少なくとも確定では無くなるのか?」

 

 ふられた話は怪人の言葉ではなくもっと別、根本的な当初の目的。今の会話の流れからは関係の無い、だが大事な話なのだと、ムーヴのその疲れ果てた笑み、目だけが笑っていなかった。

 ヘクスは困惑を滲ませながらそっと自らの体験と知識、経験を組み合わせシミュレートしていく。紫髪の魔法使いの立場、どうしてああなったかの原因、能力を考え『空』の魔法使いが生き残った場合の影響力を計算する。

 そして結果が口に出そうとしたその時、どうしてそんなことを聞くのかという疑問が生まれ、直ぐにこれはムーヴがその事に関して聞く気がない、という意思表示だと考えた。

 だからそれ程気にする事無く、言葉選びだけに気を遣う。

 

「『空』が生きて双子が敵の手に墜ちないだけでかなり変わるだろう。敵が魔法使いだったからこそ手が出なかった魔法使いも居ただろうしね」

 

 ヘクスはようやくここで自らの様子がおかしかったことを自覚した。質問があればそれに答える。たとえ自身の真実にたどり着くような問いでも出来うる限り、解釈を交えたりもするが答える。そういう契約だ。

 いずれ来るであろう自らの真実を答える事に悩んでいた、その事実に内心で首をかしげながら体を宙にゆっくりと浮かせていく。そんなことは当初から想定の範囲内だったのに。

 

 宙に浮かんでいくヘクスを首を動かして追うムーヴ。

 

「なら……どうなる?」

 

「半々、と言ったところだろう。そこからは私の知らない、予想の着かない状況に陥る可能性がある」

 

「ヘクスの予想が着かない、か……そうなったらお手上げだな。俺程度じゃどうにもなら無さそうだ」

 

「いやいや、君は常に私の予想を裏切ってきてくれた。これからもそうあってくれるだろう?」

 

 ヘクスはにこりと笑う。薄い緑色の髪がやわらかに舞う。

 その表情には先程の不安などという感情は写し出されていなかった。

 それにひと安心したムーヴはヘクスを見上げた姿勢のまま困ったように笑う。

 

「期待されても困るんだが……そうか、やって来たことに意味はあるか、なら大丈夫か」

 

 ムーヴはひび割れたスマホを取り出してマップアプリを開けた。

 

 

 ▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 終わりは近い。

 前のハクを助けた時と比べて今回は試行錯誤出来る回数が少ない。というよりも少なくしなければならない。

 

 ハクを回復させる策……不可

 

 三人をどうにか逃げさせる策……追跡の方法にアタリは付いたが防げない。不可

 

 贄沼や他の軍人を集め戦闘補助……確実に死人が出る上それに動揺されてしまうのは不味い。そもそも効果があるかどうか。保留

 

 そもそも戦闘後数分すればギアが加勢に来るというのが酷すぎる。ギアは俺に対して過剰とも思えるくらいの警戒心を抱いているから下手に姿は出せない。

 ……呪力で守られているとか言っていたからもしかしたら、もしかしたら弾丸などで相手の呪力は削れるかもしれないな。身体能力の強化も呪力が関係しているようだ。

 しかし怪人の身体能力はそれを抜いたとしても余裕で死ねるから酷い話だ。

 

 戦力が……戦力が足りてない……っ! 

 

 ……やるしかないだろう。

 試行にはあと何十回か巻き戻しをしなければならない。たとえギアに感付かれたとしてもやらなければ最低限の確率すら残せない。

 どうせ最後には出たとこ勝負になるのが辛いところだな。

 

 扉を開けて外に出る。

 

 電波が生きていて本当に助かった。どこでも調べ物が出来るというのは利点が多すぎる。お陰で何十という回数のリスクを犯さずに済んだ。

 朝の9時までならば時間がある。ヘクスには姿を消して貰っている。幾つかの確認、そして必要な情報収集。全てをこなして、利用して……必ず。

 

 バイクに跨がる。

 ルートは頭に叩き込んだ、確認も済んだ、後は直接調べるだけ。自分の無能に腹が立つ。こうまでしなければ助けられない。ここまでしても助けられるかどうかの保証はない。

 全部だ、全部を利用するしか道はない。

 見えている駒、見えてない駒、見えている道筋、見えない道筋。

 利用して、騙して、備えてそれでも最後には運勝負。

 

 思わず笑ってしまいそうだ。

 

 落ち込むのは最期にしよう。それまで止まらず進み続ける。でないと指の先にすら掛けれない、運命に抗うというのはそういうことなのだろう。

 

 最初に目指すのは発電所、次に学校、最後に病院。

 この世界の運命(シナリオ)というものが存在するのなら()()()()()()()()()()()()()

 

 願わくば、

 願わくば……死後地獄に墜ちますように。

 

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