鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
マガジンを綺麗に並べて立てる。
ボアダムのマガジンが三つ、拳銃のマガジンが四つ。コンカッション式手榴弾が二つ。ナイフを直ぐに抜ける様に調整。
ボアダムのマガジンをバッグへ、拳銃のマガジンを差し込み手榴弾をぶら下げる。
持ち切れない予備の弾薬はバイクに積む。
食料は要らない。必要とする前には全てが終わるだろう。
使い終わった、もう必要の無いスマホを胸ポケットに入れてボタンでしっかりと蓋をする。
事前準備は怠らず、仕込みは上々。やれることは全てやった。俺程度に出来るのはこの程度だろう。
空間の揺らぎ、ただの勘。説明の出来ない感覚を元に視線を向けた先でヘクスが姿を表す。
「頼まれた事はやってきたよ」
「助かる、雑用を頼んだようで悪いな」
「いやいや、全くもって構わないさ」
構わないと言いながらその視線に不満を帯びているように見えるのは気のせいか?
いや、何が気に入らないかは分かっている。今回の作戦の全貌をヘクスに話
それにも関わらず頼んだことは必ずやってくれる優しさには本当に頭が上がらない。
信頼していない訳じゃない、信用していない訳じゃないんだ
むしろ逆だからこそ言えない事もある。
ギアに「次は無い」と宣告された時から既に百近くと繰り返している。
検証は終わった。ローリスクで試せる範囲での予行演習も終えた。
あの時考えた策が実現可能範囲内であることは立証できた。
その上で、俺はヘクスに作戦の内容を伝えないことをヘクスに伝えた。
当然ヘクスから疑問はあった。黙っていても意味はない、手助けが出来なくなるとは言われたが……そうした方が良いと判断した。
この判断が正しいのか正しくないのかはまだ分からない。
「置き手紙にアラームの設定、他にも慌ただしくメールを送っていたみたいだけど……送れたのかい?」
「あぁ、
「ふぅん……?」
「次に行こう」
予定通りは素晴らしい。
「残す文面……あれで良かったのかい? あれだと何の事か分からないだろうに」
「それで良いんだ。起きた時点では分からなくても記憶に残ってれば分かるだろう」
従業員用のスペースである部屋を通り過ぎて外への扉を目指す。逐一時間を確認して手帳に刻まれた予定と照らし合わせる。余裕はある、このまま双子との接触を図る積もりだったが少し小細工をしようか。
バイクを拾いに行く途中、少しコンビニに寄って煙草三箱、ライター、包帯をニセットとテープ、そしてワイヤレスイヤホンを拝借。
即座にイヤホンをスマホとペアリング、更にそこから包帯を一つ取り出して中身を手に取る。
「煙草……煙草ねぇ」
「何か不味かったか?」
「……いや、君にそこまでの意図はなさそうだし問題ないよ……それよりも」
俺は首をかしげながらもポーチに物を詰めていく。そしてヘクスの次の言葉を待った。
「何をする気だい?」
「万が一上手く行った時の為の予防策、かな」
「普通逆じゃないか?」
いや、上手く行かなかった場合なら逆に顔バレしても問題ない。巻き戻しをするか……死ぬかだ。
歩きながら包帯を右手に持ち、顔面にぐるぐると巻き付けていく。
二重、三重と巻き付けて口元と鼻、目と耳の部分だけを確保する。訓練中怪我した時などによく使っていたタイプの包帯で何となくでも結構簡単に巻き付けれた。
完全に使いきり、包帯の最後をテープでまた何重にも止める。
しっかりと止められているか確認していると、ヘクスが目が合った。完全に理解不能な事をしている変な奴を見る目だ。
「顔を隠すだけなら目出し帽とかでも良かったんじゃないか?」
我慢できなかったのか口も出してきた。
いや、気持ちは分かる。俺だってこんな変なことしたくない。
「近くにそれを売ってる店が無いんだよ」
「じゃあサングラスやらマスクやらで良かっただろう」
「無理だ、邪魔になる」
最後の最期の詰め、幾ら考えて試して試算してもどうにもなら無かった部分で、その時にそれは致命的になると考えた。
あの時の破片による負傷、目玉が貫かれたのはどうしようもないとしてその他の破片とかをある程度は防げるんじゃないかという考えもある。血とかも吸ってくれそうだし。
「こんなもんで良いだろう」
「……やっぱり聞きたいんだが、どうして顔を隠す必要がある? 前の周までそんなことは一回もしなかっただろう、どうして今回から必要なんだい」
軍用ヘルメットを被り直し、しっかりと固定する。ずっと使ってきたバイクのメット代わりでもあり急所である頭部を守る頼もしい盾。
「発電所に学校、病院……最後には軍事基地も行ったねぇ。何をしているかは別行動してたから把握出来なかったけどね、あの時は顔を隠していなかっただろう」
再度頭に作戦を入れ直す為に手帳を開きながら、言える範囲でヘクスの疑問を返す。
「ギアには顔を見られているだろう? 服装である程度のアタリは付けられるかもしれないが完全に顔を確認するまでは殺さず捕らえることを優先するかもしれない。軍用メットだし贄沼のように顔は隠れないからな」
「しかしだな、そんな顔を隠してますと言いふらす様な格好じゃ意味は無いんじゃないかい?」
当然の返答。
話している間にバイクの近くまで来れた。手帳を閉じて直ぐにエンジンをかける。
「だから先ずは……贄沼を回収しに行く」
「おっと、双子じゃないのかい?」
「双子はその後でも間に合う。贄沼の確保を優先したい。まぁ見ていてくれ、何の考えもなく何周もした訳じゃないんだ」
「……分かった」
そう言うとヘクスは目を閉じて、姿を消さずに俺の背後に回り胴に手を回す。ニケツ状態なのに重量は増えたように感じない、つまりはふりなのだろう。
信用してくれているのだろうか。ヘクスが姿を表している時間が増えたように感じる。
同時に、死んでしまうのではないかと心配してくれているのだろうとも思う。だがそれに……ヘクス自身は含まれていない。
バイクで無音の街を駆ける。
特に三ヶ所、俺は何十周もかけて調べて結論を出した。
前にも話をしたが運命とは確かに強制力だ。
だが理由も何も無いような理不尽ではない。
この
何故なら本来その
大きな力を持つものはそこに関わるという必然の元に巻き込まれ、運命に組み込まれる。
どんな知識を持っていてもどうしようもない。それを前提に運命は形を作り上げられた後なのだ。
そして……ヘクスもこれに組み込まれた。
未来知識があるのにも関わらず何も出来なかったというのはそう言うことだ。
なまじ影響力が有るばかりに必然として運命の流れに巻き込まれたのだと思う。
魔女という存在が特殊な存在じゃ無いとは思えない。
そして、そんな
そこ迄はヘクス自身も気が付いたのだろう。
だからこそ……
運命を変えられると睨んだ。
その他にも理由はあるのかもしれないが俺には分からない。
そこから三つ、俺は確信も持って結論を出した。
先ず一つ言えるのは運命を変える───それを成し遂げるのは俺じゃなくても良い、ということ。名前を失えばだが他の誰でも出来るかもしれないということ。
そして二つ目はヘクスは俺に────
イヤホンから耳に響く着信音。
直ぐにイヤホンを操作し通話モードに切り替える。
『お前は誰だ』
開口一番敵意剥き出しの挨拶。
送ったメールの文面が文面なので仕方ない。そうでもしないと反応を引き出せなかった。
「誰でも良いだろう、で……返答の方は?」
『……うみとちこがヤバイってのは本当か?』
「何もしなければ今日中に死ぬことになるだろうな」
心がな。
『……で? 何をしろって言うんだ、俺に。というか───』
「あぁノイズが酷いだろう、直接会って話す。そこを動くな」
『はぁ?』
有無を言わさず通話を終了させる。
実際あと数分も要らない距離だ。
再度着信音が鳴るが無視。これは贄沼がかけ直してきた物。
「鳴っているよ?」
ヘクスのからかうような声。分かっているくせにからかってくるのでこちらも確認で返すとしよう
「分かってる、どうせ直ぐだし出ても無駄だろ。それよりも手筈通り頼むぞ?」
「分かっているとも」
ヘクスが姿を消した。だが胴体に手を回されている感覚だけが残っている。
二回ほど着信音が鳴り響いてようやく近くに居ることに気が付いたののか音が消える。バイクのエンジン音が聞こえたのだろう。
更に走り街頭の下、ライフルを両手で持った贄沼の目の前でバイクを停止させる。
「マジで来やがった……てかなんだその面」
「気にするな、でだ。説明をするから良く聞いておけ、無理ならメモれ」
「待て、待てって……そもそもやるって言ってないだろ。まず話だけを聞かせろ」
目線、俺の目……を見るふりして周囲の警戒。俺の動き、全体を見ている。意識を手元のライフルから放していないし変なことすれば撃たれる。
だから贄沼を相手する時には警戒させないように前置きがいる。
「俺は魔法使いの敵ではない」
「言うことにかいて……テメェが送り付けてきた文面、どう見ても俺が従わなきゃ二人が死ぬって書いてあるんだが……脅迫にしか見えねぇぞ」
「事実だ」
「味方だ何だ抜かしておいて二人が危ねぇのが分かってて、お前自身は前に出ず俺に何かさせようって時点でもうお前の言葉は信用ならねぇよ」
贄沼は疑り深い、そして良く考えるタイプだ。
表面上チンピラみたいな発言をしているがそれで相手の言葉を引き出したり時間を稼ごうとしている、と思われる。
だがそれに付き合う必要はない。彼の二人を心配する気持ちは本物だ。
事前に紙に書いておいた、ハクが居る住所が書かれた紙を取り出して付き出す。
そして贄沼の反応を待たず一方的に捲し立てる。
「うみとちこの姉貴分である空成ハクの居場所だ。ここにある雑居ビルの地下で保護していて現在は眠っている」
「何っ!?」
スマホを取り出して一応の時間を確認する。
「そこに双子を連れていけ、合流させろ。今から言う場所に十五分以内にバイクで向かい降りて姿を隠せ。それで双子に会える」
「オイ! 待て! マジで待てッ!」
「双子が空成ハクと会えると確信した時点でまたメールを寄越せ、位置情報を送るからそこに向かってこい。その時点ではまだ魔法使いは助かっていない」
「分かった、分かったからこれだけは聞かせろ! 何でそんなこと知ってる!? 何故お前がやらない!」
ようやく焦りを引き出せた。
演技ではなく本当に考える時間を欲している。だが待たない。最低限だけ答える。
「俺じゃ無理だ。信用されない手間と時間が掛かる。だからお前を使うんだ贄沼宮護」
「……俺ならスムーズに二人に情報伝達、信用されるってか?」
「そうだ」
間髪を入れない。自信を持ってはっきりと告げる事で信じさせる。
「俺はやることがある。お前はお前のやることを果たせ……頼む」
バイクを発進させる。
背後から贄沼の叫ぶ声が聞こえるが無視する。まだここはギアの探知範囲じゃ無いため問題はない。
贄沼もぶつくさ言いながら行動してくれる。これで
残り時間はまだ残ってる。
俺はバイクで
途中で何度かメールの着信があったが全部を無視。これは贄沼からのではなくその他の人達からのもの。反応してはいけない。どうせ罵詈雑言の嵐だ、心が折れる。
道を半分くらい引き返したところでヘクスに確認を取る。
「首尾は?」
「完璧だよ、何回目だと思ってるんだい?」
「それでもミスはするだろ。俺はする」
視界の端からにゅっと伸びた手の先に捕まれている手のひらよりも大きな筒状の物……贄沼のフラッシュバンである。
初めて会った時から絶対に持ってるとふんでいた。前に怪人と捕まっていた時にごそごそしていたのも多分だが、これを出そうとしていたからだと思われる。
軍事基地から来たんだ、怪人に通じるなら怪物にも通じるだろうし、指揮系統が崩壊した今、僅かでも通じる手段を持ち歩いて無い方がおかしい。
ヘクスに頼んだのはこれだ。贄沼のフラッシュバンを回収してもらう。回収とは聞こえは良いが実際は盗みだ、贄沼の生存率を下げて俺が使う。屑の所業だ。
「変わらず2個もバイクに置いてあったよ」
「そうか、両方だと流石にバレるからな」
「1つでも普通に気付くと思うんだが……相当に焦っていたんだろうねぇ」
「当然だろ」
「ほう?」
「この状況になって命を救ってくれた恩人で保護対象、それらがヤバイっていう状況で現れた死ぬほど怪しい奴に渡された不明瞭な情報しか無いんだ」
そんなの焦らないわけが無いんだよ。
だから見落とすし気付いても気にする暇がない。
適切な所で情報を切って時間制限を付けてやればもう何も見えなくなる使い古された詐欺の手段、だが有効だ。
ヘクスは不思議そうに、だがある種の納得があったようで「そういうものか」と溢して話を終えた。
フラッシュバンは今しばらく持っていて貰おう。どうせ直ぐに使うことになる。
またあの場所に帰ってきた。
最短最速で移動をした為にまだ双子も双子を追いかけるジョイも辿り着いていない。
「大体後十五分くらいか」
「それくらいの猶予だろうね、前と一緒ならだけど」
「余裕はないな……ヘクス」
バイクから降りて名前を呼ぶ。
彼女はふわりと柔らかく空を舞いながらビルの一つの窓を開けてカーテンに触れる。
ほのかに発光したような錯覚。ヘクスがカーテンから手を離すとそれに付随するように糸がするすると抜けていく。
それを確認してからナイフを抜き、手帳を開いて場所を確認する。
「アレだけは先にやるとして……出来る限りの事はしておきたい。ヘクス、頼む手伝ってくれ」
「任せてくれたまえ。今私はそれだけのために存在しているのだからね」
ヘクスが引いてきた糸を指に絡めて、素早く作業に取り掛かる。
▲▼▲▼▲▼▲
これから誰がどう動き、何が起きるか。それを予め知れるというのは酷く有効的な事で、その上で自分の有利な事だけを仕込めるというのは破格の条件というよりもそれはもう残酷の域へと達する。
それ程の利点を得ながら出来たのはほんの僅かな手助けと時間稼ぎ、そして簡単なアドバイス程度だった。
無能である。無力である。無意味である。
そして、無価値だ。
そんなことは初めから分かっていた。運命に抗おうとする魔女に出会う前から分かっていた。
それでも何か出来ると聞いた。命を散らすだけで助けられるという甘言に乗った。
俺という人間は自分勝手で意気地無しで、自分の目的の為ならば人を騙すことも厭わない屑である。
それでいて何の力もないのだから救いようもない。
そんな俺に生きた意味をくれた彼女には感謝しかない。
そんな俺に生きる意味をくれた彼女には謝恩の念に満ち溢れる。
かなり前にはメールの着信が鳴り止んでいた。
送ったメールに添付されたものを見て狂乱していた相手方も落ち着きを取り戻したのだろう。
これで良い。これで条件は整った。
ヘクスとは既に別行動をしている。万が一『空』『海』『大地』の三人の方でアクシデントがあった場合俺に伝えて来るように頼んだからだ。
俺の
分かっていた事だが少々の恐怖を味わった。だがそれも過ぎた事だ。これで本当の意味でもう怖いものは無くなったのだから。
ライターで煙草に火をつける。
肺一杯に煙を吸い込んで、吐き出した。
全く何時ぶりの煙草だろうか。
体感ではもう一年は吸っていなかったような気がする。
普通それくらい期間が空いたらむせるなりするだろうが俺のこの体にしたら1日2日ぶりのようで全く問題なく味を楽しめた。
スマホの時計を確認する。時刻は2340。
全ての、始まりと終わりまで残り二十分といったところか。
吸い込んだ煙を今度は全身に吹き掛ける。何度も、何度も入念に吹き掛ける内に包帯や布に煙草の臭いが染み付いていく。
煙草の1本が完全に吸い終わるくらいで今度は電話の着信がある。この電話番号を知っているのは一人だけ、贄沼だ。
イヤホンを操作し応答する。
「メールじゃないんだな」
『…………一先ずは信じることにした、お前の話をじゃなくてお前を』
「それは良かった」
『あいつらからは一先ずは離れた。何処にいけば良い』
「位置情報を送る。直ぐに来てくれ」
通話が切れる。
直ぐに用意していたメールを送信する。
あそこからここまでの距離は、回り道をしないといけないからバイクで五分と言ったところだろう。
脳内でざっと計算を済ませた。ある程度の説明の時間は取れる筈だ。
これでキーは揃った。後は廻るだけ。