鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話   作:ヤンデレになる過程を楽しむ人

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魔法使い達11

 バイクの音、贄沼のバイク。

 空を見上げる、ヘクスからの連絡は無し。予定通り。

 時間を確認する。予測通りの時刻、変化無し。

 次の煙草を取り出して火をつけふかす。完全に燃焼し始めた事を確認してからから近くのビルの中に投げ入れる。

 燃える場所、燃えない場所は事前に調べてある。燃える場合どれくらい時間が掛かるかも理解している。

 更に3本取り出して、火をつけてから違う建物内に投げ入れる。

 それを贄沼が到着するまで繰り返す。

 近くのエリアで投げ入れて無い建物が僅かになったぐらいで贄沼が到着した。

 ここからが本番、様々な要因が複雑に絡み合い予測することも不可能になっていく未知の領域。

 

「よう、来たぜ」

 

 贄沼はバイクのメットを外して顔をさらす。メットを片脇に抱えながら周囲を見渡した。

 大方何かをしていることは分かったがそれが何かはわからないと言ったところだろうか。

 無くなった一箱目を握り潰して投げて捨てて次の箱を取り出しながら贄沼に近付く。

 ある程度の距離まで近付いた所で贄沼が顔をしかめた。やっぱ臭いか? 

 

「くせぇ! 煙草くせぇ!!? お前マジで何してやがった!? さっきあった時煙草の臭いなんて欠片もしなかっただろ!」

 

 そうか、臭いか。なら最低限成功か。

 

「詳しい事は中で話そう。手間は出来るだけ短縮したいからバイクの武装も全部持ってきてくれ」

 

 新しく取り出した煙草に火を付けて贄沼に差し出す。

 

「……吸えってか?」

 

「俺が吐きかけても良いが自分でやった方がいいだろ?」

 

「そもそも何でこんな煙草臭くなったのか、ならなくてはいけないのか理由すら知らないんだが……何だよ、煙草臭くなるのは必須なのか?」

 

 贄沼は受け取った煙草を咥えながら装備を手際良く回収していく。何も聞かず言ったことをやってくれるのは有難い。

 俺は一足先に煙草の煙が充満しているビルの一階に入る。

 そこそこ広い通路とエレベーターしかないこの場所に俺の バイクと装備の全てが置いてある。

 装備の全てと言ってもボアダムぐらいしか置いていない。他にあるのは先程仕掛けをする時に見つけた連絡用のあるもの。本来はもっと別のものを使おうと思っていたのだが途中でこれが使えると気付いた。

 光の無い夜の空にこれは良く映える事だろう。

 贄沼が来るまでの時間で、スマホのライトで照らしパックから取り出して床に()()を並べていく。五つ並べ終わったところで贄沼が扉を開けて入ってくる。

 

「ここもクセェ……何だってこんなことしてんだよ」

 

 律儀に咥えた煙草が赤く光り、暗い屋内に浮き上がる。

 電灯はつけてない、何時始まるかわからないから。故に月明かりとスマホのライトの光だけで贄沼の装備を一目確認する。ライフル、拳銃、グレネード二つ、フラッシュバン一つにナイフ。

 それにあれは……まさかボディアーマーか? 確か最新式で数が少ない貴重品だった筈だ。良く良く見れば拳銃も俺のと違う型番だ。俺の方が古い。

 確認不足だったことを悔やむべきだがこれは幸運、作戦の成功率が上がったと考える。

 

「この臭いが俺達の生存率を引き上げる」

 

「生存率?」

 

 贄沼の声が強張る。だが気にせず続きを話す。これから俺達は何をするのか、何故武器を集めさせたのか、何故贄沼が必要だったのか。

 

「双子は空成ハクと合流した、それに奴らは感付いた。もうすぐ三人の魔法使いの元に怪人がやってくる」

 

 贄沼の視線が鋭くなりライフルを握る力が強くなる。

 分かる、分かるよ。今すぐにでも駆け付けたくなるその気持ちはよく分かる。

 だが行けない、俺が何を知っているか分からないから、それを聞かないことには行けないんだろう。そしてこうとも考えている筈だ(この情報を今聞かされた意味は?)と。

 お前は頭が良い、俺よりも断然。何回も見ていたらそれくらいはわかる。その頭の良さを今は説明の時間短縮に利用する。

 

「三人は戦う、だが空成ハクは既に満身創痍で戦える状態ではなく、双子はそれを気にして怪人を倒すことが出来ずその隙をつかれて敗北する」

 

 嘘を交わらせる。

 双子が万全でも勝てるかどうか怪しい相手だということは伏せる。今回の作戦の士気に関わる。

 

「だが大丈夫だ、手は打ってある。致命的な事にはならないだろう……ただし」

 

「ただし?」

 

「それは怪人が一人しかいない、その場合の話だ。もう一人と合流された場合その計算は崩れる」

 

「……その話だとあいつらが勝てないような化け物クセぇ奴が複数居る、しかもその内の二体が合流するように動いている……って聞こえるんだが?」

 

「その通りだ」

 

 大きくため息を吐き出してやると贄沼は片手で頭を抱える。実際に怪人を見ていない筈だが怪物は見ている贄沼はそれを倒す事の出来る双子が負ける化け物だと理解してくれたようだ。

 ……話が早いのは良い、良いのだが贄沼は俺の話を信じすぎじゃないだろうか。ここまでスムーズに話が出来るのは初めての事で戸惑いを覚える。

 

 疑問に思った俺の様子に気付いたのか、贄沼が苦笑しながら壁にもたれかかり話し出す。

 

「なんだよ、別に疑ってやしねぇよ。さっき言っただろ、お前を信じる事にしたって」

 

「それが分からない。俺はお前にとって急に現れた顔も分からない男だ、自分で言うのもなんだがもっと疑ってかかられるべきだ」

 

「そりゃぁなぁ……」

 

 贄沼は何かを言おうとして寸でのところで口をつぐんだ。

 

「……どうした?」

 

「何でもねぇ、それよりも続きを話せや。説明する時間はあるのかもしれねぇが有限なんだろ?」

 

 贄沼が何を思い、何を言おうとしたのかは分からない。推測を立てることは出来るが……今は置いておくべきか、贄沼の言う通りに説明を続けよう。

 

「俺の目的、俺達の役割はあるタイミングまで怪人を合流させないこと。それだけに尽きる」

 

「あるタイミング? いや、それよりも……今足止めするって言ったか?」

 

「安心しろ、五分間だけ……それもその内何分かは対話で動きを止めれるとにらんでいる」

 

「だとすると足止めって言っても絶対に戦うって訳じゃ無いのか」

 

「その考えはやめてくれ、絶対に戦闘は起こるという心づもりでいて欲しい。怪人の方もバカじゃない、時間稼ぎか何かを狙っていることくらいはバレるだろう。それまで稼げて何分か……二分は持たせれる自信はあるが、遭遇して直ぐに戦闘が起きても不思議じゃない」

 

 確かに理想で言えば五分を全て会話で済ませることが出来れば最高だ。でも無理だろう、贄沼に言っていないとある事情で必ずバレる。それが何時になるかが分からない。一度たりとも試せていない。

 ギアに出会った瞬間に殺されるかどうかが最初の難関、よしんば俺を覚えていなくても次に会話に乗ってくれるかどうかの関門が待ち構えている。

 

「手は尽くす、だが届くかどうかが分からない。補助が欲しい、僅かに時間を稼げるようなもう一人……彼女らに命を掛けれるような人手が欲しかった」

 

 それがここまでして贄沼を手引きしたかった理由。

 俺がしくじってもカバーをしてくれる人材、いざとなれば体を張って時間を稼ぐ事の出来る自分以外の誰かが欲しかった。

 戦闘が始まれば俺一人では一分稼ぐことすら至難の業で、この作戦は現実的に不可能だと分かっているが故に。

 

 ここだけがどうしても埋まらなかった。何をしても、どう計算し直しても、手を変えて品を変えて気が狂う程試行してもこの時間だけが、この運命だけは……安全地帯に居ては不可能だって分かってしまった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という運命(イベント)だけが越えられなかった。

 本当に良く出来た偶然(必然)だ。完璧すぎて吐き気がする。

 

「ここを越える、必ず越える。必ず、必ず防ぐ……だからお前の命を寄越せ。彼女達のために、魔法使いのために全身全霊を捧げろ。そうしてやっと……指先が届く、掠れる程にはな」

 

 ……少し熱が籠りすぎたか? 贄沼の反応がない。これは偽りざる本音、死亡する確率の方が高いのも本当の事だ。

 ここで嘘偽りは出来ない。

 贄沼の顔を見る。揺らぎは……見えない。

 

「元からそのつもりでこっちは来てるんだっての、死ぬ気はねぇが死ぬ事を恐れる事はねぇ、本当なら昼には死んでた身だ。それよりもとっとと概要を説明しやがれ」

 

「……ははっ」

 

「何笑ってんだよ」

 

「すまない」

 

 許してくれ、これは俺自身の愚かさを笑っているだけだ。

 そうだな、彼は何回も言ってたじゃないか。俺を信じることにした、と……大事であろう双子を置いて正体不明の俺の元に来た時点で、何をするにしても覚悟は決まってたんだ。

 

「手順を話そう。勿論贄沼にも容赦無く働いて貰うしその装備も幾つか分けて貰う。俺も死に物狂いで働く……じゃあ、始めよう」

 

 準備はこれで最期になるだろう。仕掛けた仕掛けは果たしてどこまで通じるか……

 

 

 

 ▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 偶然だった。嫌な予感がしていた為にジョイに忠告とプランの変更を伝えた後も周囲の封鎖地区で警戒をしていた。次の目的地が有ったためにそれは短時間、日付の変更まで続け、作戦行動中であるジョイの様子を確認してから向かう事にした。

 

 必然だった。誰も居ない、何も居ない筈の街で嗅ぐ筈の無い臭いがした。それも百メートル近く離れていても怪人の嗅覚なら察知できる程大きなもの、人為的でなければ煙草の匂いがするなどありえない。

 

 つまりそれを見つけたのは偶然であり必然だった。

 

 煙草の臭気それが少しの物ならば、あり得ない事だが偶然にも呪術の効果を受けない存在が街に残っていたのだろうと考える事が出来た。だがこれはそんな物ではない、むせかえる程の煙草の煙臭。それがビル街の一画全てから漂う。明らかな異常、そして同時に誘われていると剣の怪人であるギアは理解した。

 ギアは僅かに逡巡する、つい先ほど傷付いていたとはいえ仲間がただの人間に殺されたばかりなのだ。自分が二の舞にならないとは言い切れない。

 僅かに足を止めた後、自らに与えられた役割を果たすためにその誘いに乗ることにした。

 足を進める事に臭いは強く、きつくなっていく。無論外である為鼻がつぶれる様なことは無かったが目に見える程煙が籠っている屋内はどのようなことに成っているか想像に難くない。

 

 ギアは聴覚に意識を集中させる。嗅覚が使えない分そちらに力を回し、近くに誰かが居る事に気が付いた。

 足を進める。

 その誰かはライターを付けたり消したりとしておりギアはその音でその人物の元にたやすく辿りつけた。

 道路の真ん中、ボロボロの軍服を身に纏い顔を包帯で隠した男。

 

「お前がこれをやったのか」

 

「お気に召さなかったか?」

 

「お前自身もかなり匂うな、面倒な煙草の匂いだ」

 

「それは申し訳ないな……でもこうすれば来てくれると思ったんでね、実際に来てくれた」

 

 男はそうやって抑揚の無い笑い声を上げながら懐から煙草を一本取り出そうとする。

 

「止めろ」

 

「……こうしてアンタと対面してるだけで足が震えて倒れそうなんだよ、ちょっとぐらい良いじゃないか」

 

 ギアが煙草に対して嫌悪感を見せているのにも関わらず火を付けて煙草を咥えた男は、視線をギアから外さないまま煙草をふかす。

 

「こうして直ぐに殺しに来ない事から話に付き合ってくれると考えても?」

 

「お前を殺すのは草花を刈る様なものだ、何時でも出来るが面倒臭いことこの上無い。だが何故こんなところに居るのか、お前は何をしたいのかを聞き出してから決めるのは悪くないだろう」

 

「成る程……あんたら化け物ていうのは人間を見付け次第に殺す害虫程度にしか思っていないと思っていた」

 

 男は包帯の隙間から覗かせる瞳を大きく見開かせ、大袈裟な素振りで驚いたような素振りを見せる。

 ギアはそんな男の素振りを観察しながら中世の甲冑の様な兜の隙間から視線を動かして周囲に他の人間、魔法使いが居ないことを確信した。

 

(音は何も聞こえない、足音、心音、呼吸音。それぞれ目の前の人一人分しか聞こえない。()を集中させて使えば、何か居る程度には分かる……つまり本当に一人か?)

 

 ギアは疑いを深める。

 目の前の男の風貌は仲間の命を奪い、目の前で捕獲した『空』の魔法使いを連れ去った下手人に酷似している。

 しかしあの時も顔は隠れていたし声も僅かにしか聞いていない。格好などこの街で多く死んだ軍人の物と変わらない。

 故に決定的な要素を探す。

 

(特徴的なあのスナイパーライフルさえ見付かれば確定でなくても殺しておくべきだが……)

 

 周囲にそれらしき物は見付からない。

 警戒は解かず、片手は常に剣を抜けるように構えてギアは男の疑問に答える。

 

「別に好きで人間を殺し回っている訳でないのだがな」

 

「……これだけ人が死んでるのに何を言ってるんだ」

 

「それは目的の為の仕方無い犠牲と言うことだ。我々の目的以外での無駄な殺戮は許されていない」

 

 ギアの言葉は淡々としており、ただ事実を喋っているだけの様だった。

 

「おれは質問に答えた、次はこちらの質問に答えてもらう」

 

「…………」

 

 男は黙り込む。それをギアは無言の肯定と受け取り続ける。

 

「当初の質問に戻る。お前は何故ここに居る?」

 

 ギアは確実に気付かれるように剣を数センチだけ鞘から引き抜いた。言外に答えなければ殺す、という意思を男に伝えている。

 僅かに身動ぎし姿勢を正した男は視線を少しだけ下へと動かした。

 それに釣られてギアも視線を何もない地面へと落とす。

 だがそこには何も無く、ギアは男がただ動揺したのかと考えた。

 結果として三秒程、ギアの視線が下に向けられた。

 ギアに、正確にはギアの手にある剣に視線を戻し、何かを確認した男の口がゆっくりと開かれた。

 

「何故って言われたら……どう答えれば期待に答えられる?」

 

 ゆっくりとした、間を取り伺うような口調。

 

「真実を言え、余り時間を取りたくはない」

 

「それは……真実を言えば殺されないと?」

 

「殺されるような事をしていなければな」

 

 ギアの声に苛立ちが混ざる。そしてそれに男は目敏く気付き言葉を選びながら答えた。

 

「待っていた、お前を」

 

「先程も言っていたな? それはどういう意味だ」

 

「聞きたいことがあったんだ」

 

「……聞きたいこと、か」

 

「別におかしな事じゃ無いだろう? 今まで何もなかったのに、今日突然現れてこの街を無茶苦茶にしたんだ。大勢死んだ。何も知らない一般人としては自分が死んだ理由位は知りたいんだよ」

 

 ギアは僅かに違和感を感じた。

 僅かな、僅かな言葉の違和感。だがそれは確信に至るまでではなく、確かめるために首を動かして男の言葉を、続きを待った。

 

「……あんたら怪人は何で魔法使いを狙うんだ? 今の話じゃ俺ら人間に狙う価値は無く、疑わしいが……必要以上に殺す事もしない、という話だった」

 

「それを知ってどうする?」

 

「……」

 

「何を考えているかは知らないが貴様等人間に出来ること等何もありはしない」

 

 言外に言うつもりはない、とギアは男に伝える。だが男は食い下がり言葉を続けた。

 

「知りたい理由はさっき言っただろう? 知らずに死ぬのは真っ平御免なんだって」

 

「あぁ、それはさっき聞いた。しかしだな、おかしくはないか?」

 

「……何が?」

 

「何が、だと?」

 

 ギアが素早くしゃがみ地面のコンクリートを砕いてその破片を手に取る。

 

「自覚は無いようだから教えてやる──ッ!」

 

「クソッ!!」

 

 ギアは肘から先の動きだけでその破片を男に向かい投擲した。

 破片は────空気抵抗を受け、その破片故の軽さで()()に虚空を飛んでいった。

 

「知識が有りすぎる。何も知らない一般人ではあり得ない程にな……まぁここまでは疑念だけですんだが、反射的にかどうかは知らんがその行動は致命的だったな、男」

 

 男はギアがしゃがみ地面に手を当てた時点で全力で建物に飛び込んでいた。飛び込んだ体勢から受け身を取って直ぐに立ち上がり包帯越しに焦りの表情を浮かべている様に見える。

 

「これで確信だ。何を考えてのこのこと姿を現したかは知らんが……捕縛させて貰うぞ」

 

 ギアは完全に剣を抜き放ち構えを取る。

 建物に身を隠しながら男は拳銃を懐から取り出して、割れんばかりに叫んだ。

 

「いや、誰だってヤバそうな行動をバケモンがしたら逃げるだろう!?」

 

「反応が早すぎる。あれは一度ならず何度も見てきた者の反応速度だ」

 

 男は背中の裏地に隠してあった物を取り出してギアの居場所を確認しながら声を張り上げる。

 

「知識だって、魔法使いと遭遇したなら知っていてもおかしくないだろう!」

 

「生憎とその通りだが残念だったな、お前の行動が的確すぎたお陰でおれの疑念は確信へと変わった」

 

 小さな舌打ち。己のミスを自覚し、それは取り返しの付かない事を再確認した男は借りた腕時計で時刻を確認し拳銃の矛先を自分に向けるかギアに向けるかを考えた。

 そして、ため息一つと共に拳銃を自らの脳天から建物の外に居るギアへと僅かに向ける。覚悟を決めた。

 

「分かった、話し合いをしよう。戦うのはそれからでも遅くはない筈だ」

 

「話は聞こう、それはお前を抵抗できないまでに刻んで捕らえてからだ。拷問という形でな」

 

「俺は何も知らない」

 

「なら知っていることだけを話せ。何も知らないかどうかはおれが決める……向こうも直に決着が付く、遊べる時間は有限だ」

 

 ギアが跳躍し、恐ろしい速度で男に迫る。

 男は銃を速射しながら横に走ることでどうにかギアの進路上から離れようとする。

 放たれた弾丸が寸分違わずギアの兜のスリットへと迫り、それを剣を持たない片手で防いだ。

 視線が切れる。

 その僅かな隙をついて男はギアの真横を通り抜けて何とかすれ違う事に成功する。

 

「やはり、か」

 

 ギアが背後を見ること無く剣を振るう。

 振るわれた剣は見えていない筈の男の背中を捉え、真横一文字に、浅く切り裂いた。

 

 鮮血が噴き出す。空気の煙草の臭いと血液の臭いが混じり合い鼻が曲がる様な臭気が漂い始める。

 男は悲鳴をあげることもせずに外へと向けて体を飛び込ませて、着地時に前転で勢いを殺して体勢を崩さないまま立ち上がり振り向く。

 しかしギアの様子を確認する前に男の体が浮いた。いや吹き飛んだ。

 事態を理解するよりも早く男の体は吹き飛び向かいの建物に叩き付けられた。込み上がる吐き気を無理矢理に飲み込ませながら男は痛む胸と腹から小さな、小さな小石が地面に転がり落ちるのを見た。

 男の体にめり込んだ数粒の小石、それが通常では考えられない圧を持ってして男の体を持ち上げて吹き飛ばしたのだ。

 それを理解し、肉体のダメージが深刻なモノであると気付きながら男は素早く立ち上がり視線をギアへと向ける。その動作に淀みや苦しみから来る躊躇い、甘え等は一切見られない。

 

「……気持ちの悪い奴だ」

 

 ギアは追撃を掛けることもせず男が立ち上がり自らに銃を向ける姿を見届けていた。

 男はそれを疑問に思い、また観察されている事に気付いた上で口を開く。

 

「気持ち悪いは酷くないか……? というか今何故殺さなかった、お前らの投石なら俺程度直ぐにぶち殺せただろう、背中の傷もそうだ」

 

 僅かに息を乱しながら男は疑問をギアへとぶつけた。少しでも時間が延びるように、少しでも成功率が上がるように願いながら、祈りながらギアの言葉を待った。

 

「聞きたいことが有ると言った筈だ」

 

「……分かった何が聞きたいんだ? ちょっとこれは辛すぎる、今なら普段言わないことも喋ってしまうかもしれない」

 

 男は兜の奥に隠されたギアの視線が、すぅっと細められたような気がした。腰を落として、何が起きても瞬時に対応できるように準備をする。

 

「ならば聞こうか」

 

 まさか会話に乗ってくるとは思わなかった男は、しかし好都合である事には変わりはないのでギアの言葉の続きを待った。

 今また会話する気になった理由があるとすれば今の一瞬の交差、男が手加減をして貰った上でボロボロになりながら生き延びた数秒の間に何か気が変わる、もしくは何か元々確めようとしていたものが終わったということになると考えていた。

 そしてその考えは正しい。

 ギアはまた一つ確信へと至り、同時に理解できない不審点が、とある不明が沸き上がった。

 行動一つ、言葉一つ……その一つで得られる情報は溢した本人が思うよりも遥かに大きい。見るものが見ればそれだけで答えにたどり着いてしまう位に。

 

「男……いや、魔女の使い魔と言った方が良いか。何故、悪魔に授けられた力を使わない?」

 

 つまりこれは偶然であり必然の結果である。

 

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