鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
『大目標:魔法使いの生存
第一目標:贄沼との接触
第二目標:双子とハクの合流
第三目標:避けられぬ三人の魔法使いと怪人の戦闘の引き延ばし
第四目標:時間稼ぎの完了
以上が今回の運命を変えられる
前提条件と言っても良いかもしれない
そして、巻き戻しの力があったとしても事前に調べ、対策を打つことは出来ない。ギアのあの言葉が引っ掛かる、つまり、出来るだけ遭遇を避けてきた怪人と面を向き合わせる事になる第四目標からは完全な一発勝負となる。
更に細かい条件としては
第一目標時に贄沼からフラッシュバンを盗み取ること。
第二目標が達成されるまでに抜き取ったフラッシュバンを使用した罠の完成。出来ることなら+αも作る。
第三目標進行中に僅かなミスがあった時の為の連絡役として、表向きそういう理由でヘクスを自分から隔離させる。
前に記述した考察が正解ならば問題は起きない筈だ。
最後に第四目標の時間稼ぎ。約十分強。
これは地図アプリで双子、贄沼が怪人に倒されるのをみすみす見過ごしながら調べたあの子達の情報から推測される時間から算出したが、その時の状況によりブレが生じる可能性がある。成功した場合ヘクスからの連絡またはそれ相応の事象により気付くことが出来るだろう。
また、途中空を見られたら気付かれる恐れがあるので視線を地面に向けさせるコントロールが必要。それがうまく行った場合でも、そしてどれだけギアの足止めが上手くいっていようと、ヘクスから連絡が来る様な状況になった時点で強行突破またはさっさと処分される恐れがある。それをあらゆる手段を尽くして、全霊をもってして止める。推定2分から5分程、完全な推測から導き出した数字だがそう的外れでは無い筈だ。
無理無謀に運任せを重ねた全てを成功させる。
ここまでして作戦成功である。運命を変えられる、結末を変えられる、筈。
追記
こんなやけくそみたいな作戦に命を掛けさせられる贄沼は本当に可哀想だと思っている。だが謝らない。
補足
第四目標遂行時にヘクスから連絡ないし状況に大きく変化があった時点で、運命が変わっている可能性が非常に高い。
そこから巻き戻しを使う必要性が無い。
命を駒として使え』
俺の人生に意味を与えてくれてありがとう
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男が背中を斬られ、怪人に投げられた問いにどう答えるか頭を回している最中、贄沼は少し離れた場所にある五階建てのビルの屋上からその様子を歯噛みしながら見守っていた。
「まだか……まだなのかよ!?」
手に持つは狙撃銃であり包帯を巻いた男から預けられた『エンドオブボアダム』がありその照準は剣を持つ怪人に向けられている。
だが引き金は引かない、引くなと今まさに絶体絶命である包帯を巻いた男から念入りに釘を刺されていた。
「誰にでも分かる合図……それまでは近付くことや干渉することは許さないって言われたが……これは」
贄沼の焦燥を他所に怪人と男は会話を続ける。
スコープのレンズ越しに映る男の姿は斬られて吹き飛ばされた人間の姿には到底見えない。
(何をされたのか全く分からなかったがあいつの体が吹き飛ぶ様な衝撃……軽く見積もっても骨にヒビくらいはイッてそうなんなんだが……)
それなのにも関わらず痛みに堪えるような仕草は一切見えない男の姿に異常性を贄沼は感じた。
感じたが贄沼は男が言う合図を待ち続けた。それは、男が狂っている様に見えたから死んでも良いと判断したからではなく、むしろ逆に男の意思を何がなんでも尊重するべきだと心情実利共にそう判断したからだった。
(こんな玩具を用意してしかもそれを使えってマジで言ってんのか? ってつっこんじまったが……マジなんだろうな。言われた場所に向ければ……何て言われたが信じてやるしかないか)
贄沼は足元に並べてある、何か紐のような物が極短く切られて飛び出た筒状の物を眺めながらため息を吐き、また現在状況の把握に戻った。
そもそも贄沼が男を信用しようとした理由は男の仕草、立ち振舞いからではない。
確かに男の言葉通りに行動したら双子と合流に成功し、その後伝えられた場所に半信半疑ながら向かうと双子が姉貴分である空成ハクの存在に気付き、合流できた。
(まさかこんな場末のソープに地下室があるとはな……問題はそこで寝かされていたハク嬢ちゃんの容態が想定していたよりも悪かった事か、一晩休めば良くなるとは聞いたがかなり衰弱していた)
これだけの事であるならば贄沼は男を信用しようとは考えなかった。
不気味であるし胡散臭い、ついでに声のトーンに一部を除いて感情が込められていなさすぎて本当に会話しているのかと不安になる程だった。
だが空成ハクが放った言葉が贄沼の考えを変えた。
「すみません、あなたと同じ軍服を纏った男性を知りませんか?」
「そうですか……私、その人に二回も助けられていて。少しでも何かが間違っていたら死ぬような状況だったのに……私まだ何も返せていないんです」
「えっと、風貌に関して特徴的な物は……名前も明らかに偽名でしたし……あっ! 目です、目が何というか……普段は燃え尽きた灰の様なんですが私達と話す時だけ、何というか火が灯って暖かいというか……ごめんなさい変なことを言いました、忘れてください」
その会話の後も空成ハクはその男の事を気にしている様だった。そして、贄沼はその男があの包帯を巻いた男だろうと確信した。
その理由は二つ、まず第一に空成ハクの居場所を知っていたこと。そしてもう一つが……
(それまで淡々と話していたくせに、あの子達の話になると目と口調に力が宿るんだから分かりやすい事この上無いな)
どうしてそこまであの三人を気にするのか贄沼はわからないがそこは気にする事ではない。そもそもそれを言うなら自分自身もそうなると苦笑する。
(ちことうみは訝しげな目で話を聞いてたから実際に会わすと過剰反応しそうだな……ん?)
贄沼は状況が動かない怪人と男を視界に納めながら思考の隅で違和感を覚えた。
それは空成ハクの言葉、当然のように言い切られていたためその時は何も感じなかったが、よくよく考えればおかしい一言。
(私……達?)
目に映る包帯男は一人、それは贄沼が最初から会った時から変わらない。
もしかしたら別人という可能性があるが、状況が状況の上贄沼自身それは有り得ないだろうと納得できる要素は揃っている。
(じゃああいつにはその協力者が居るとして……何で俺に頼った? そいつは今どこに───)
段々と深くなる疑問と思考の渦は、次の瞬間の出来事に全て塗り潰された。
爆音、そして微かな衝撃に地面が揺れた様な錯覚。
弾ける様に振り向いた贄沼の視線は
「火の、玉?」
空に浮かぶ明るく目立つ火の玉、それが複数個真っ暗な夜の帳を剥ぎ取りまるでここが真っ昼間であるかのように照らされている。
小さな小さな太陽とも思えるそれは……ゆっくりと、だが確実に地面へと落ち始めた。
贄沼が理解できないままに物語は動かされていく。
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「何だあれはっ! いや、まさか……有り得ない!」
夜空に浮かぶ複数の火の玉を見上げながら剣の怪人ギアは叫ぶ。予想外の出来事に戸惑い、その対処を迷っている。
ざまぁ見やがれ。
僅かな時間視線が完全に外れている内に弾倉を交換、次の手の用意をする。
まだ時間を稼ぐ、可能なら5分稼ぎたいがそれ以上でも無理なら1分1秒でも構わない。それがあの子達の命運を分ける。
「魔女の使い魔! 貴様何をした!?」
「何だよ、まだ話は終わってないだろ? それとも何か……あれを俺が引き起こしたとでも言いたいのか」
「瞬間移動……ではない? 未来知識……それでは変えられぬ……何だっ! 何を授かった!?」
「勝手に話を進めないでくれ、さっきも言ったが俺は何も聞かされていない」
「さっさと答えろ!
ギアが半狂乱に何ながらこちらに踏み込む。混乱しながらでもさっきと変わらない速度と精度、いや明らかに増している。
こちらも銃で迎撃するが豆鉄砲にしかならない。
どう考えても横飛びでは間に合わない。だから銃撃と同時に膝の力を完全に抜き去り、自由落下に任せて体を地面にペタリと沿わせる。
間に合った。
頭上を高速で通過するギアを見送り、全身のバネと筋肉を酷使し素早く跳ね起きる。
視線を一瞬ギアへと送れば片手を壁にめり込む勢いで叩き込む姿が見えた。捕まえようとしているのだろうがあんなことされては即死してしまう。
これで20秒。
「逃がしたか」
確実に捕らえられる自身があったのだろう。また少し動揺したギアを置き去りにしながら言葉だけは送り返す。
「対価って何だ? 魔女って言うのは悪魔との契約を取り持ってくれる存在なんだろ?」
「そうだ! そして悪魔から力を授かるには対価が必要。お前が何を魔女から吹き込まれたのかは知らんがそれを教えられていない時点でお前はただ利用されているだけだ」
「それはさっきも聞いたよ」
魔女に利用されている。それは話し始めてから最初にギアに伝えられた言葉。
曰く、魔女とは人を陥れる存在で何者かの味方ではない。
曰く、俺の様な使い魔の多くは真実を歪めて伝えられ騙されている。
曰く、悪魔の力を使うには
そして、契約不履行となった瞬間に悪魔は契約者である俺を取り込み利益を得る。
さっきの時間稼ぎの時の会話を纏めるとこうなる。
まぁ、これが事実だろうが俺を惑わす嘘だろうがやることは変わらないし、ヘクスが俺を救ってくれた事実は変わらない。
唯一契約不履行で取り込まれるというのは気には成ったが今のところそれらしき前兆はないのでこれも気にするに値しないだろう。
それよりも今だ。
まだ無事な煙草臭い建物内に逃げ込み、狭い階段で二階へと駆け上がる。
追いかけてこない……だとすると有り得るのは2つ。
それを絞り混む為にわざと独り言を出して音を立てる。
「与えられたその力の大きさに対して使用する際の罪の大きさは比例する……だっけか?」
「そうだ」
予想通りコンクリートの壁の向こうからギアの声。反射的に飛び上がり壁を蹴ってその場から即座に退避する。次の瞬間、強烈な衝撃と共に壁が破壊されギアが侵入する。
その姿に余裕等は感じられない。
「もう時間は掛けていられない」
体が宙に舞いながら、逆にその勢いを利用して予め開けておいた扉を潜りオフィスへと転がり込む。
即死は免れても破片や衝撃は殺しきれない、全身の痛みは加速度的に強くなっていく。
だが状況は待ってくれない、そのまま転がり今度は窓に向けて走り込みそのまま窓を突き破って外へ───
「逃がさん」
飛び込む寸前にギアに追い付かれ首を捕まれる。
だがそのまま握り潰されも外へ投げ捨てられもしない、逃げられないという事実を認識させられる。
これで1分。先は長い。
「これで最後だ、答えられるように質問を変えてやる。とぼければ殺すし間を置こうとしても殺す」
「本当に知らなかったら俺は死ぬってことか? ……っぅぐぁ!」
首を強く絞められ、頼りない首の骨から悲鳴の様な嫌な音が体内から響く。
息が、出来ない。
切迫する意識の中、どうにか拳銃を落とさないまま空いた右手を後ろに回し指で銃の形を作る。
頼む……伝わってくれ。
ギアは俺の行動に気付いているのか気付いていないのか、はたまた気付いた上でどうでも良いと切り捨てたのかは分からないがゆっくりと俺の首を締める力を弱めながら言葉を続ける。
「どうやって……
また一つ、空に大きな紅く燃える疑似太陽が産み出される。
それが与える影響は大きく、ここいら一帯全てを照らすだけではなく常夏のような気温へと変化させる。
成る程、確かにこれは『夏』と言うに相応しい力だ。
「有り得ん、相互の連絡手段は確実に切っていた。最後に確認した時には『夏』の魔法使いは学校に居た。魔法で来るにしても魔力で我々が探知できる! いや、それ以前にこの場所に急いで来る理由が存在しないっ!」
ギアの剣を持つ手が目に見えるくらいに強く握り締められている。俺を持つ手にその力が伝播しないようには気を付けているみたいだがそれも時間の問題か?
と、観察するのは良いが答えないと本当に殺されてしまう。
もう少しだけ時間を稼がせて欲しい、だから嘘は吐かずに答えは濁す。
「それは来る理由があれば来るってことだし、移動手段も別に魔法に拘る必要は無いだろう」
俺や贄沼だってこの街を魔法で移動してた訳じゃない。バイクという素晴らしい道具で短時間で遠距離を移動していた。
ここでもう一つ楔を打つべきだろう。怪人の早さで向かわれれば万が一が有り得る。
まだ『夏』の魔法使い
「お前ら怪人の都合の良い耳は……聞こうとすれば聞けるっていうものなんだろう? 呪術か何かで強化して初めて超常的な聴力を得る。……まぁ普段から俺らみたいな人間よりもよっぽど性能の良い耳をしてるみたいだけど」
限度がある。
意識の隙間がある。
どうしてもカバー出来ない箇所が出る。
「お前の通るルートから逆算して割り出したルートを彼女等に伝えてた上で急いで来ないと行けない理由を作ってやれば……まぁ、一人くらいなら
ギアの体が揺れる。
危険域をぶっちぎった感覚。
それよりも早く、予想していたからこそギアよりも先に指で作った銃の引き金を引いていた。
ここで俺が今まで怪人を観察し続けた結果出したそれぞれの違い、もっと言えば戦闘時に浮き上がる明確な違いを解説したいと思う。
まずゴア。あの傍若無人な性格の通り本能だけで動いている。力を思うがままに振るう姿は野生的にも見えるし、ただ恐怖を与える様に振る舞っている様にも見えた。
次にジョイ。コイツは力を思うがままに振るっている様に見えて全てが計算されている。効率的に、最小限で、冷静に……相手の動きを見てからそれに合わせるように動くタイプ。
そして、ギアは───
甲高くガラスの割れる音、ギアが剣を動かして何かを弾き少しだけ上体を反した、遅れてくる発砲音、離される手、解放される俺。
───反射的に動いてしまうタイプだ。
半ば以上に無意識に攻撃を最小限の動きで最低減に抑える。それを咄嗟に出来てしまい、してしまう。
今の銃弾に当たったとしても少し体が弾かれる程度で、傷は無かっただろう。
だが防御してしまう。万が一に備えて、そして恐らくは……
攻撃を受けたら呪力が消費されると言うのはただの推測だけどな。
咳き込みたくなる反射反応を意思の力と経験で無理矢理押さえ付けて左手と両足を動かして窓ガラスに飛び込みながら銃を速射する。狙いはもちろん唯一通じそうな兜スリット部分。
三発放ってその内一発が直撃ルート、それをギアは剣を盾に構える事で全ての弾丸を防いだ。
このままじゃ返す刃で真っ二つにされてしまう。
使うべきは前の再演。それのアレンジ。
グレネードを右手で抜いて足元に落とす。ただそれだけの行動にもう一つ付け加えて手に持った筒状の物をこれ見よがしに放り投げる。
「っ!」
そうだろうな。お前は逡巡する暇無く、体は反応するだろう。
何せその形は前に痛い目を見たフラッシュバンの構造に似ている。いや、良く見なくても結構違うがこの一瞬の出来事にこの逆光、暗闇、俺の撃った弾丸の対処に次弾の警戒、狙撃の警戒。それらが合わさり認識能力ががくりと落ちる。
体を一歩後ろに下げ空間を空けてから即座に剣の軌道を変え、剣の腹を使いその筒状の物を遠く弾き飛ばす。
そこまで動いてようやくギアは俺が投げた物の正体を把握した。
「打ち上げ、花火?」
そう、打ち上げ花火。しかも火も着いていないのでただの筒。
体が窓ガラスの破片と共に自由落下する。今回はヘクスの力もない。体勢も崩れているが体を反転させて足を下へ向けさせる。
逃げ切れた。この一瞬を作り出すことが出来た。
積んで積んで積んで積んで積んで───ようやく一手稼げた。
そう言えばさっきの打ち上げ花火、実は6個入りだったんだ。
それが二パック、いくらシーズンが近いとはいえ最近のコンビニは何でも置いてるもんだと感心してしまった。
それを一パックはヘクスに渡していざというときの緊急連絡用にした。
そしてもう一パックは俺が持ち運んで、その中の一番小さいやつは今吹き飛ばされた。
そして残りは全部贄沼に渡した。
少し離れた場所から爆発音、そして独特な風切り音が鳴り響く。
感心してしまうような最高のタイミング。
その音を響かせる光の筋は、白い煙をひきながら一瞬の合間にさっきまで俺が居たビルの二階へと到達し───轟音と閃光を響かせるのと俺が重力によって地面に叩き付けられるのはほぼ同時だった。