鬱エロゲみたいな世界観で悲惨な運命を辿る魔法使い(少女)を助ける話 作:ヤンデレになる過程を楽しむ人
『力が足りない知恵が足りない影響力が足りない、俺は特別な存在にはなれない
ヘクスから貰った力を使い続けてもそれは変わることの無い事実だ。
俺では運命を変えるきっかけ程度にしかなることは出来ない。
なら運命を変えるにはどうすればいいのだろう。
持ってくる、どこかから?
運命に定められた結末を変えることが出来る存在を、何かを動かすきっかけを作ればあるいは
これは本来俺何て存在が干渉出来る
巻き戻しが求める最善には程遠くても、次善の次善のそのまた次善位なら何とかなる筈だ。
先ずは運命に干渉出来る存在の候補探しから始める』
辿り着いた結論はやはり、この地獄は魔法使い達と怪人達の物語だったということだった
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四点着地で着地しようとした瞬間に意識が持っていかれそうな花火の爆発音が鼓膜をかち割らんばかりに叩き付ける。
想定していたよりもそれの威力が大きく一瞬だけ平衡感覚の一部が消えてしまったのだろう、不完全な着地となってしまい衝撃を逃し切れず膝に大きな負担が掛かる。
だが動く。
「ぬぅっ! ォォォオオオオ!!?」
少し離れた場所、開けた空間に居た俺ですらこうなのだからほとんど直撃、半密閉空間に居たギアに関しては……言うまでもないだろう。
そして数秒経たず
直撃ではないだろうがそれでも充分その威力は発揮されている筈。
ビルが震え倒壊の兆しが見え隠れし始める。構わず二発目の打ち上げ花火がビルの三階の窓ガラスをぶち抜いて炸裂する。
何度も入念に試して居た初弾と違い、花火弾の二発目以降は半分以上運任せになる。隣のビルに直撃していないだけかなり運が良い方だろう。
元々何かを狙うような物でもないから当然だ。
だが足りないだろう、足りる訳がない。
拳銃を握り締め体の感覚を確かめながら贄沼の居る方角へと走る。
数拍遅れて背中越しに何かが粉砕されるような音に続いてギアの声が未だに耳鳴りが止まない鼓膜に響く。
足を動かしながら背後を見ると、ギアがビルから飛び上がり煤だらけの体を疑似太陽に照らされながら目で俺を探していた。
目が合う。
ギアが腕を小さく振るった。来る。
体が悲鳴を上げるのにも構わず進行方向に対して逆の方向に身を屈めながらステップを踏む。
次の瞬間、頭上を何かが高速で通り抜け俺があのまま走っていたら居たであろう場所に直撃、粉砕して小さなクレーターを作る。
だがこれで確定した、ギアは耳を使えなくなった。少なくとも細かい音の聞き分けが出来ていない。外を走る俺の足音に気付けず目で俺を探していたのがその証拠だ。
策の一つが嵌まるもまだまだ息吐く暇は無い、次が来る。
目線を向けず、そこに居るだろうと予測した場所に弾丸を放つ。発射した四発の内二発分の弾かれる音を拾いながら建物内に滑り込む。
「逃げても無駄だ! お前はここで殺さねばなら……ぬっ!?」
拳銃とは違う銃撃音、贄沼の援護射撃に感謝しながらビルの中を通り抜け窓枠から外へ抜け出して隣のビルへ。
ここでようやく残り少ない弾倉を取り出して次の弾倉へと取り替える。
耳を澄ませて音を拾うことに集中しながら空いた弾倉に弾を込めていく。
「チッ! 何処に行った……?」
まだ稼げている。やはり呼吸音や心音、足音は拾えていない。
これで3分……まだだ、まだ終わっていない。
今使った弾倉の内一つ、再装填が完了したところで背筋が凍る様な予感。そして耳に届いた小さな声。
「炙り出すか」
反射的に壁から離れそのまま外に続く小さな窓へ跳ぶ。
小物を探すのに面倒臭くなった化け物がする行動なんて予想が付く。
問題はどれ程の範囲をといった所だが……
「ゥオオオオオ!!」
雄叫びと共に破壊音、鉄と硬い物がぶつかり、断ち斬られる音それらが連続して鳴り響き……大きな地鳴りが起きた。
翔んでいた体が窓ガラスを突き破って破片が刺さる、だが気にしている暇はなく素早く状況を確認する。
「マジかよ……」
そこにはビルの一面全てが破壊され、さっきの地鳴りがトドメになったのかゆっくりと倒壊を始めている姿があった。
このままじゃ巻き込まれる……だが次のビルに逃げても無事で済むか?
俺の方から見て壁が消滅していると確認できるのならこちらに倒れてくるんじゃないか?
迷っている暇は、無い。こうなるんならもっと離れるべきだったか? いや、状況把握出来ない方が不味い。
覚悟は決まらない、最善かどうかすらも分からないまま大通りへと身を乗り出させる。
次の瞬間、ビルが倒壊した。
ゆっくりと倒れこむビルが土煙を巻き上げながら隣のビルをドミノ式に押し倒し崩壊させていく。あの場に残っていたらどうなっていたかは明白だろう。
恐ろしい光景だが見とれている訳にはいかない、包帯のフィルターのおかげで呼吸に土煙が混じって咽るという事も防げている。
次の建物に身を隠そうと足を踏み出した瞬間、身の毛のよだつ寒気。慣れ親しんだ慣れない感覚。即死の気配。風切り音。
体を反転させる、体を引き締めて防御を固め膝を折って出来るだけ的を小さくする。無駄な抵抗。
次の瞬間、後ろの建物のガラスが一斉に砕け散り壁の表面が砕ける、同時に幾つもの鋭い何かが体を貫いた。小さく硬い何かが服を貫通して皮膚を引き裂き体にめり込んで行くのを感じる。
おそらく砂のような何か、
だが違和感がある。
威力が低すぎる。呪術や魔法とかに物理法則を求めていいのかは分からないが建物のコンクリを僅かながらでも砕く砂の散弾なら瀕死になる程度にはダメージが有ってもおかしくはない。だが大きな骨が折れた感触は無い、せいぜいが当たり所の悪かった指の骨に違和感が有る程度。
建物が崩壊する音にまぎれて、遠くから何か聞こえる。空が一瞬光った気がした。
目の前から足音が聞こえる。
ギアは、剣を構えながらゆっくりと視界を遮る程に舞い散る砂埃をものともしない様子で近づいて来る。距離はもう、十メートルと少しと言ったところか、この状況なら無いようなもんだな。
「我々怪人の能力の封印、この現代では珍しく手負いでも手慣れているようにも見える戦い方、極め付きは知っている者が少ないであろう魔力、呪力の軽減、簡易な魔除け……時間は無かった筈だ……どこかで漏れていた? ありえない、魔女の入れ知恵にしても悪魔の契約にしても……いや、もう済むことか」
動けない、動いたら死ぬ。だが動かなくても死ぬ。
詰みだ、ここが俺一人の限界。
時間は……6分ぐらいか? 当初の目標の半分くらいか……だが損耗させているのは確かだ、どれくらいの損耗率かは流石に想定できないが……ただの人一人には過剰な力の行使だっただろう。
稼げてあと数秒、まだ行けると発破を掛けたい所だが……正直全身いたるところからの出血と痛みで体がうまく動かない。背中からの出血も止まらないし血が足りない。
それにこの距離にギアに油断は無い。俺が何かしようと、自殺しようとする前にその剣で切り裂かれる未来がありありと見える。
なら可能性が低すぎるその未来より、数秒でも多く稼いで魔法使い達が助かる方が明らかに良い。
元より生きて帰れるなんて考えてなかったしな。
ふと空を見上げる。真っ暗な空には何も映し出されていない。
そう、あの魔法使いが作り出したであろう疑似太陽も、だ。
その視界の隅に、剣を弓の様に弾き絞るギアの姿が映る。
思考を切り替える。反射的に考える。今まで聞いた、見た、そして想定できる状況から答えを出す。
先ほどまでうち上がっていた消えた太陽、先ほど聞こえた遠くからの音。その後には何も続かない。遠くから聞こえた音を鮮明に思い出す。
あれは、あれは……花火の音。
俺がヘクスに預けていた花火の音、一瞬空が光ったように見えたのはその光。
何か想定外の事があったのか、もしくは俺が立てた予想が間違っていたのか、分からない。ただ想定外は良い事であることを祈るのみ。完全に失敗である場合は連続して放つ手はずだがそれも無い。
だからもう……
「確実に死ね」
怪人の凶刃が迫る。
もう逃げない。
もう意味は無いから。
最速最短で拳銃をギアに向けて速射する。
突然動き出し、あまつさえ攻撃してきた俺に驚愕した雰囲気を見せたギアはしかし、その剣技に曇りを見せないまま─────
─────俺の体を貫いた。
俺の勝ちだ。
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「ぬぅぅッ!!」
怪人ジョイが膝をつく。
既にその体はボロボロで、全身をくまなく焦げ付かせ至る所が凍りついている。
膝をついたジョイが見上げる先には5人の魔法使いが居た。
その内三人はハク、うみ、ちこだ。三人は残存魔力、またはその経験の不足による不安から後方に下がり万が一の援護役に徹している。
残りの二人、その内一人はフードを目深に被りその顔を窺わせない。だが周囲にまき散らされた溶けない氷片からジョイへの敵意を示している。
最後の一人は真逆、その赤く長い髪をたなびかせて少し強めの釣り目から強い怒りの感情を前面に表してジョイをにらみつけている。
ジョイに取って予想外も予想外の遭遇、戦闘。これだけの数の利を取られ、殺意を向けられながらも未だに殺されていないのはそれだけ魔法使いがジョイを警戒している証でもある。
そんな事情、ジョイからすればたまったものではないが。
(情報と違う……奴らは私の存在など知らなかったはず、なのに罠すら仕掛けられ吹き飛ばされた先でフラッシュバンに目を焼かれ時間を稼がれている間に仲間を呼ばれただと……? 情報封鎖、隔離は完璧だったはずだ。少なくともこの時間この場所に来られない様に
ジョイは地面の中から侵食する氷を跳躍する事で回避し、そのままビルの屋上へと壁を蹴って駆け上がる。
(極めつけに、極めつけにだ!)
「逃げんなこのクソロリコンが!!! あんな写真送ってきやがって!!!」
ジョイの上空に複数の疑似太陽が生み出される。
その内の幾つかが逃げ場を奪うように時間差でふりそそいだ。
(何を勘違いしているか知らんが『夏』のが猛烈に怒りを向けてきている! 写真だと? ええい全く何のことか分からんぞ!!)
落ちる疑似太陽をジョイが手に纏わせた呪力で最低限の労力を持って切り裂く。直撃では無いが近すぎる故に全身を焼かれるダメージを無視してそのままビルを蹴って高速で赤い髪の『夏』に接近した。
「っ! 『ナツカ————」
『夏』の魔法使いが咄嗟に対応しようとするが一手間に合わない。
ジョイの拳が直撃する寸前、その体の表面が凍りついていく。
「…………」
「罠を張っていたかッ!」
拳を当てる前に致命傷になりかねないと感じ取ったジョイは、途中で体を止めて改めて距離を取った。そして体の合った場所の地面から鋭くとがった土の塊が突き出していた。
「外した……」
「いいや『大地』の! カバー助かった! 『氷』のも」
『夏』が礼を言うと共に後ろに下がる。
『氷』と呼ばれた者も何かを気にしている様子を見せながら後退する。
距離が開く、と言っても魔法使いと怪人にとっては有ってないような距離。それでもその距離は心理的な問題として思考を巡らせる時間を与える。
(これは……勝てんな)
バレていた作戦、現れた『夏』の魔法使い。遅れてやってきたのか、もしくは潜伏していたのか唐突に奇襲を掛けてきた『氷』の魔法使い、未熟ながらも相応の魔力は持つ『海』と『大地』。
ジョイは油断無く、悲壮無くそう断言した。プライドも何も無くしてただ事実としてそれを受け入れた。
そして、策を脳内で組み立てていく。
作戦は失敗である。
ならば次策として、次善として何を成せるかを組み、積み上げていく。
準備したもの、事前情報、現在の状況。
その全てを噛み合わせ、一つの答えを出した。
ジョイの頭上から幾つもの疑似太陽が降る。
足元から捕らえんと氷結した地面が迫る。
周囲を魔力で作られた海流に囲まれる。
ジョイの目線は、最後尾、最も後ろで守られている空成ハクに向けられていた。